何のことだかさっぱりでry
「先輩、これは現実ですよね?」
「実は隣に座るお姉さんは、マリーが脳内で産み出した仮想人格かもよ? だってほら、常識的に考えて、こんなにも美人で聡明な女騎士が現実にいるわけがっ」
「その面白くない冗談のお陰で、幻覚の類ではないことを確信出来ました。だから頬を引っ張るのは止めて下さいっ!」
「ノリ悪いわねぇ」
初仕事を終えた私とリーライナ先輩がじゃれあうのは、命令とは言え同胞に銃口を向けた日陰者に相応しい、暗く深い海の底。
殿下が謎のルートで調達して来た、ブリタニア軍主流の葉巻型とは似ても似つかないイルカを思わせる流線型潜水艦の格納庫の一角だったりします。
今後の拠点として運用予定のこの船には、VTOLや少なくない数のKMFに加え、ミサイルを含めた通常兵器が満載。おそらく個人が所有する戦力として、世界でも五指の指に入る規模だと思う私です。
ちなみに艦名はアーサー王の逸話にあやかり ”ペレスヴォー” ですって。
唸りを上げて水中を進む怪物には、ぴったりではないでしょうか。
「しっかしバーランドと比べちゃうと、サザーランドも過去のKMFだよねー」
私たちの視線の先、そこには共に初陣を飾った愛馬が整備を受けていた。
白騎士団暫定採用KMF ”バーランド” はベースこそサザーランドですが、何と言っても全面改修を受け持ったのが特派&マンチェスタと言うドリームチーム。
機体の各所に第七世代KMFで培ってきた基幹技術がフィードバックされ、原型機とは比べ物にならないハイスペック機へと変貌を遂げたカスタム機だったりします。
外観から素性を推測されてはマズイと、外装をエリア11伝統の鎧武者風にデザインした点は個人的にNGですが、偽装の副次効果で得た重装甲はパイロット心理として頼もしい限り。
ほんとマシンガン一発で沈むことも多い現行機と比べれば、騎乗時の安心感が違います。
私個人の主観でバーランドを総評しますと、打たれ強く、それでいて足回りは良好。しかも癖も無くて扱い易い傑作ですね。
これぞ王道を行く次世代機。例え博士たちが―――
”見た目以外は面白くない、素人発想の駄作だよねぇ~”
やら
”完全新規フレームの新型が完成するまでの手慰み”
などと酷評しようと、私は気にしません。
革新よりも保守。現場の大多数は、安定性こそ最優先なのですから。
「それでもカタログ上のキルレシオは3:1。単機で戦略を引っくり返す活躍を可能とするランスロット系列と比べれば、可愛いものじゃないですか」
「だけどアレって私たち凡人が乗った瞬間、ころっと落馬して踏み殺される暴れ馬よ? ブリタニア無双出演者限定の決戦兵器と、普通の騎士が安心して乗れる通常兵器を同列に扱うのはどうなのさ」
「冗談です」
「少し前の宣言は何処に消えた」
「……実は初出撃の勝利に気分が高揚しています。少しくらいテンションがおかしくても、見逃してください」
「そっか、初陣だったかー。そりゃ仕方ないわね」
敵は最強の誉れも高い、ブリタニアの女騎士が総じて憧れるコーネリア殿下が率いる近衛軍。
幾ら居るだけで勝利フラグの立つラウンズが随伴し、KMFの性能で圧倒していても、士官学校を出たての新兵が初手で相対するには難易度が高すぎです。
今回の作戦、白騎士団の全力を投入したといえば聞こえは良いかもですが、そもそも所属する騎士の数は私を含めてたったの六人しかいません。
しかも主力のファンナちゃんは、殿下の護衛を優先して不在。実際に参加した人数は五人ですよ?
ブリーフィングの時に楽観的な先輩は鼻歌交じりで余裕の表情でしたけど、基本的に悲観的な私がどれ程のプレッシャーを感じていたのか分かりますか?
多分、先輩が思っている以上のストレスと戦っていた私です。
全ての重圧から解放されたなら、そりゃ軽く軽くナチュラルハイにもなりますよ。
「マリーは、恵まれた環境で戦争処女を捨てられたことに感謝しないとね」
「……捕まれば終わり。イリーガルな潜入捜査官ポジなのにですか?」
「だってさ、ファンナちゃんなんてぽんこつグラスゴーでいきなり最前線送り。分からず屋の上司に適当な命令を下された挙句、捕まれば慰み者コース確定な無法者の勢力圏に一人で置き去りの初出撃らしいわよ?」
「うわぁ」
「まぁ、聞きかじりがとやかく言えた義理じゃないけど、テロとして捕まろうが所詮相手は言葉の通じる同胞じゃない。身柄は殿下が保証してくれる約束だし、ヌルゲーもいいところだと思う」
「ちなみに先輩の初陣は?」
「実は負けず劣らずのぬるま湯育ち。学校を出てから速攻でテファル様の親衛隊入りだから、キツイ、辛いと感じたことはあっても、勝算の無い無謀な戦場は未経験。そういった意味だと、苦労らしい苦労って知らないにゃー」
「普通はそうですよね」
「ま、機材は最新で人も物もカネも豊富。直属も暑苦しさに目を瞑れば頼れる上司と環境は最高。今の立場こそ微妙でも、最終的には勝ち組派閥に拾われたのがわたしたち。このまま活躍を続けて、目指せ安定の大出世! ここまで来ちゃったら覚悟を決めるわよ!」
「お、おーっ!」
ですがお忘れなく。
スタート地点が公式にセリエル殿下シンパのナイトオブファイブ派閥だった先輩と違って、私は何処の色にも染まっていない真っ白な状態からの直接雇用です。
しかも後に聞いたスカウト理由の大半は、私が内定済みの先輩と相性の良い間柄だったからとか。
どう考えても、完全なるとばっちりです。本当に有難う御座います。
今更とやかくは言いませんが、望んで殿下に忠誠を誓った訳じゃありませんからね?
本当は普通の騎士として、普通の軍務に携わたかったんですからね?
「さーて、後輩のメンタルケアも終った終った。次は面倒くさいレポートに取り掛かるけど、一緒にやる?」
「是非、お願いします」
ああ、そうでした。出撃前にセシルさんから、百を超えるチェック項目を持つバーランドの評価報告書の作成と提出を義務付けられていましたね……。
中にはフィーリングを文字で表現する欄もありますし、どうせなら同じ経験を積んだ先輩と相談しつつ書き上げる方が効率も良いでしょう。
「うわ、この ”冒険心が足りないと思いますか? 思いますよね?”って、絶対にロイドさんが混入させた設問だよね……」
「先輩、こっちには ”量産するならランスロットと、ランスロット、どちらが相応しいと感じましたか?”なんてのも」
ロッカーから書類を回収し、腰を据えた場所は食堂の隅っこ。
たまに見つかるネタ項目を肴に会話を弾ませ、悪くないペースで仕事を片付けていく。
騎士として命を奪う行為への負い目はありませんが、やはり心の何処かで罪悪感を抱いていたのかも。
体は疲れているはずなのに、候補生時代の試験シーズンを彷彿させるこの状況が懐かしくて、心地よくて、強張っていた心が解けて行くのを実感します。
雑談に始まる一連の流れがアフターケアだとすれば、私はあの人に頭が上がりません。
「向こうは、どんな塩梅だと思う?」
「そろそろゼロと直接対決を始めた頃合ですね。成り行きに任せると殿下は仰ってましたが、果たして共闘の道なのか、それとも第三勢力の道を進むことになるのか……」
私たち下っ端が知るリスティス白騎士団の設立目的は、軍部が抱くコーネリア殿下の信用を失墜させる為べく一時的にゼロへ助力すると言うことだけ。
他にも政治的な理由が色々とあるとは思いますが、騎士は王の言葉を疑わず従うことがお仕事。長期戦略は上層部に任せ、余計な詮索は控える方が無難です。
「案外、同席するオレンジ卿が発作的にゼロを殺してゲームセットかもにゃー」
「完全にネタですけど、十分に考えられる結末なのがまた」
狐と狸の化かし合いを、空気の読めない猟師が鉄砲でズドン。
軍略家の積み上げた策を台無しにするのは、何時の時代も計算不能な人の感情なのです。
「こりゃ考えても無駄だねぇ」
「同感です」
どうせ白騎士団を ”ブリタニア軍を外部から評価し、中からでは見えない諸々の弱点を洗い出す為のアグレッサー部隊”として宰相閣下の公的認証を得ている殿下のことです。
過程はどうであれ、負けない試合運びは得意分野でしょう。
「私たちは私たちで頑張りましょうか、先輩」
剣をペンに持ち替えて、私は騎士の務めに全力を尽くすのだった。
第十六話「黒狐と白狸」
『先に宣言しておくけど、インフェルのべース機はジェレミアが手土産代わりに奪い取ってきた献上品。返却するつもりは無いのであしからず』
『……事情はともかく、紅蓮はナリタに投棄した廃品だ。今更、所有権を主張するつもりは無いさ』
当たり障りの無い問答を繰り返した後に切り出されたのは、必ず切らなければならないカードの一枚である紅蓮の処遇についてだった。
インドの鬼才が苦心の末に産み出した紅蓮は、なまじの技術者では手を入れることも出来ないピーキーで完璧な芸術品だ。
しかし聞きなれない稼動音から察するに、インフェルは外観に留まらず内部のモーターの果てまで手が入れられていることは確定。
どの程度の改造を行ったのかは不明だが、問題なく稼動している時点で世界的な天才に匹敵するスタッフを囲い込んでいることは疑いようの無い事実である。
そして紅蓮に搭載された輻射波動機構からラクシャータの関与が露見するように、おそらく同等のオンリーワン技術を満載したインフェルノも機密の塊なのだろう。
例えるなら実戦データ収集を目的として、海賊にF97をXナンバーとして提供したサナリィ。
黒幕の身元バレに繋がる物証を、第三者に手放すとはルルーシュも思っていない。
『次は私の手番だな。率直に聞くが、お前たちは何を最終目標に設定している?』
『当然、打倒ブリタニア。その第一歩としての日本独立さ』
『それはつまり、最大勢力を誇る我が麾下に加わりたいと言うことかね?』
『少し違う』
『その心は?』
『余は王。つまり、誰かに膝を着くことは許されないのだよ』
『重要な点はそこなのか!?』
『キャラ付けは大切だろ?』
『……私も人のことを笑えない立場。それを言われると弱い』
互いに仮面の下へ素顔を隠し、王を気取る者同士。
あまり追求すれば、鏡の前の自分にブーメランなのである。
『そんな訳で力は貸すけど、それは連合軍のような対等の寄り合い所帯でのこと。黒と白の騎士団は互いに独立独歩。目的を共有出来る場合にのみ行動を共にする、十字軍スタイルを目指したいのさ』
『前提条件を踏まえれば、妥当な条件ではある』
『君が余を軽んじないと約束してくれるなら、対外的にはウチを黒騎士団の一部門として喧伝してくれて結構。これが余の出来る最大限の譲歩かな』
『……それを見越した上での反転カラーだったとはな』
『視覚的にも分かりやすいだろ?』
確かに色だけの差異であれば、ゼロの関係者と誰もが一目で分かる。
しかしそれは、手柄を全て放棄すると宣言するに等しい暴挙だ。
この発言を受けてルルーシュが推測した白騎士団の正体は、パンツァーフンメルが主力の後進国でありながら、独自思想を用いた第七世代級KMFを投入間近と聞くEUの試験部隊と言うものだった。
何せランスロットやグロースターと言った最新鋭機を保有するコーネリア軍と、世界で唯一ブリタニアと同等の自国製KMFを開発するに至った日本が争いを繰り返すエリア11は、さしずめ古今東西のKMFが揃う見本市。
実戦データの収集が目的だとすれば、これ以上に適した土地をルルーシュは他に知らない。
そう考えれば名声を必要としない意味と、正規軍真っ青の装備についても一応の説明は付く。
『スポンサーの意向かね?』
『ご想像にお任せします』
しかし素性が怪しいならば、ギアスを用いて従順な奴隷に変えてやれば良いと考えるのも早計だ。
どうも脳に干渉するプロセスがマズイのか、短期的な
”~をしろ”
なら都合のよい記憶障害だけで済むのに対し
”我に仕えよ”
のような恒常的に自己判断が必要となる命令を与えた場合は対象の精神に負荷がかかるのか、全般的な能力の低下が発生してしまう弊害が確認されている。
時に当たり前の判断が出来ず、しかも本人はその異常に気づけないこともザラ。
これでは仕事を任せることが出来ない。
つまり永続的なギアスは、使い捨てを覚悟した最終手段。
共同戦線を張らなければならない白王の様な人間に対し、安易な気持ちで使ってはならないのである。
『……分かった、その条件を飲もう』
『それでこそ救世主。予想に違わぬ器の大きさで安心したよ』
『投げ込まれた巨石を受け止める水深があるのか、少々不安だがね』
『だけど残念ながら、今の器には水が足りない』
『その通り。悪いが水汲みに同伴して貰おうか』
『お勧めは名水と名高いチョウフだね』
『私の目的地も最初からそこだ。日取りは追って知らせるが、今後の連絡手段は?』
『このPCに登録されているアドレスに宜しく』
『了解した』
『じゃあ、名残惜しいけど今日はこの辺で。そろそろ動き出さないと、夜が明ける前に君たちをシンジュクゲットーに戻せなくなってしまう』
『次は生身の君と会いたいものだ』
『前向きに善処するとも。あ、ジェレミアの土産は車に積んである。道中の暇つぶしにでも役立ててやって欲しい』
『彼の感性に期待だな』
精神論を重視して情報戦を軽んじる体質は、日本解放戦線、蒼天党、扇グループ、その他諸々の日本を母体とする組織に根強く残る悪習だろう。
その点で言えばペリノアは合格。キョウトから情報を得ているにしても、切るべきタイミングで札を出す準備を整えていることが確認できた。
何故ならやり取りの中で出て来た ”水” の正体は直近でブリタニアに身柄を押さえられた藤堂の暗喩であり、チョウフとは収監された収容所の所在地だ。
全て理解した上で言葉遊びに興じる姿勢は、自軍の幹部にも見習って欲しいとさえ思うルルーシュだった。
『これは倉庫の肥やしにしている玩具があるなら、さっさと出してデータを取らせろと言われているに等しい。いよいよ私の読みに信憑性が帯びて来たか……?』
ペリノアの言に従い黒の騎士団を率いて千葉を発ったルルーシュだったが、心を休める時間は一秒たりとも与えられなかった。
新たな悩みの種は、積み込まれていた想定外の贈り物。
”アッシュフォード” の制服でラッピングされた自称体の弱い深層の令嬢にして、実際はレジスタンスとして大活躍中の紅月カレンの身柄にある。
まさかの再会に古参メンバーは喜んでいたが、ルルーシュはそうも行かない。
カレンの話では逮捕後も調書はおろか身柄の確認さえされずに留置され、外部から隔離された部屋に監禁される日々を送ること数週間。もう無理かと諦めた矢先、何故か突然ジェレミアにより救出されたとのこと。
カレンの処遇も怪しさ満点だが、それ以上に白王が不気味だ。
オレンジを操ったペリノアの手腕は、余りにも手際が良すぎる。
「ゼロ、申し訳ありませんでした」
『ナリタの件はこちらのミスだ。謝罪するべきは私だよ』
「いえ、ナイトオブラウンズの加勢は誰にも読めないイレギュラーです。それに敗北はゼロの親衛隊隊長としての力が足りなかっただけのこと。悪いのは全てあたしにあります」
『……そうか、ならば次に期待している』
「はいっ!」
忠犬を思わせる級友の姿を見て、ルルーシュは苦笑を浮かべた。
他者より優れた操縦技術を持つ故にワンオフ機を与えられ、ゼロへと絶対の忠義を尽くすからこそ重用されるカレン。
より強く、より高みへ。成果を上げなければ意味が無いと宣言する彼女は、果たして気づいているのだろうか?
結果を重視するカレンの姿勢は、彼女が忌み嫌うブリタニアが掲げる思想そのもの。
間接的にせよ、敵の主義主張の正しさを証明していることを……。
『秋に向けての組織再編で、対白騎士団対策も含めた情報機関の強化が必要だな。上にはディートハルトを据えるにしても、諜報員をどう調達するかが悩ましい』
ペリノアは灰色の蝙蝠。しかし、黒ではないことも事実。
情報不足により今はこの判断で精一杯だが、敵対と言う選択肢だけは無い。
エリア全体が混迷する状況下、自称でもキョウトの紐付きがいきなり裏切るということもあるまい。
『中核メンバーにギアスを仕込む機会を待つとしよう』
彼らは味方なのか、それとも羊の皮を被った狼なのか。
その答えは、次の作戦の働き次第で嫌でも分かる。
先を見据えて苦悩するルルーシュは、ずぶずぶと思考の海に沈んでいくのだった。