「今回の一件、残念ながら完全に姉上の失態です。客分のウチは巻き込まれただけの被害者。あえて言わせて貰いますが、この不始末をどう処理なさるのでしょう?」
「証拠不十分で野放しにしていたジェレミアが私不在の政庁で特派を襲い、研究中の鹵獲機と捕虜を奪取して逃走……か」
「しかも狙ったのか、偶然なのか、紅蓮と共にランスロットの予備部品まで盗み出されました。もうこれは内々で処理するには不可能な案件です。遠からずシュナイゼル兄上のお耳に入ることもお覚悟を」
「おまけに私はその足で黒の騎士団へ合流し、即座に牙を剥いた裏切り者に危うく首を取られる始末。ふっ、ナリタから続く失態記録更新か。いよいよ笑えん」
時系列的には、正にその通り。
姉上が出撃した隙を突き反旗を翻したジェレミアが、特派を武力制圧して紅蓮他諸々を纏めて強奪。身柄を拘束され閉じ込められていた僕らが異常に気づいた騎士に発見されるまでの間に悠々と逃げていった姿は、ばっちりカメラに収められている。
但し、その映像は僕らが少し前に撮ったもの。
アリバイ作りの為に監視カメラの映像を差し替えた、自作自演の三流寸劇だけどね。
ちなみにカレンは最初から死亡扱いで、姉上は存在そのものを知らない。
だって彼女は、名門のシュタッフフェルト家の令嬢で顔見知りのクラスメートだよ?
アッシュフォードがルルーシュを匿っていたことを黙殺する代わりにガニメデをプレゼントしてくれたなら、あちらの家は娘がテロの主犯格と言う御取潰し級のスキャンダルの代価として何をしてくれるのやら。
本来はルルーシュのエースを守る手段の筈が、思わぬ儲け物だと思うよホント。
「部下の管理不行き届きに伴う秘匿技術の流出。自業自得とは言え、さすがにやるせないな。所詮私は武人であり、政治には向いていない証拠なのかもしれん」
「確かに姉上は、戦場を駆け巡る方が本業に思えます」
「……どうだセリエル。試しに総督を代行してみないか?」
「残念ながら、僕の居場所は帝都です。中途半端にエリアの運営に携わり、ズブズブと戻れなくなることだけは避けたい。それに副総督はユフィですよ? こちらも兄弟仲良く仕事に励みますので、そちらも姉妹水入らずで頑張っては?」
「冗談だ」
「その割に真顔だったような」
「冗・談・だ」
「異論は御座いません、姉上」
「ふん、弟は弟らしく姉をからかうな。罰……もとい迷惑を掛けた侘びとして、久方ぶりに稽古をつけてやる。よく回るようになった口と比べて、騎士としての腕前がどの程度成長したのか見せてみよ」
あ、うっかりトラの尾を踏んだ。
「姉上、僕は作る側でし―――」
「明朝0400に第五練兵場で待っている。なーに、朝食前の軽い運動だ。まさか嫌とは言わぬよなぁ?」
「わーい、姉上のご指導楽しみ……」
度重なる不運(必然)に見舞われた被害者の様子を探るべく、帰還した姉上と接触を持ってみればこれだよ。どうしてこうなった。
稀に性能試験の一貫としてKMFに跨る程度の素人が、暇を見つけては愛機を乗り回す戦闘のプロ相手に何を見せろと言うのやら。
まさか僕が加害者だと知った上での意趣返しではないと思うけど、腹いせを的確に首謀者へとぶつけてくるあたりが因果応報。神様の策謀を感じてしまう。
「それでこそ我が弟。ちなみに本国への報告は状況の精査と書類が纏まり次第、私が直接行う。仮にも学生として余暇を過ごすお前は、余計なことに気を回さず勉学に励んで居るがよい」
「お気遣い、痛み入ります。ですが、必要な場合は何時でもお声を掛けてください。河口湖のように危険な公務でなければ喜んで受け持ちますので」
「あれは例外だ。忘れろ」
「では、今宵はこれにて失礼。明日を万全に迎える為にも、早く眠らせてもらいます」
「うむ、我が槍から何か一つでも吸収することを期待しているぞ」
「御意に」
「……一つ忘れていた」
「はい?」
「河口湖ではユフィとお前を。ナリタと今回の一件では、私自身も枢木に危ういところを助けられている。立場上表立っては言えんが、奴の忠義は認めてやりたい。私の代理として、何か褒美を授けてやってくれぬか?」
「分かりました。僕も他人事ではありませんし、こちらで手を回しておきましょう」
「任せる」
さすが体育会系の面目躍如。体を張って結果を出した人間には寛大ですね。
しかし褒美ですか。
皇族三人を救った活躍に見合う代価となれば、これは金銭に換えられない働き。
僕としても不本意ですが、彼には出世と言う形で支払いたいと思います。
具体的には枢木の皇族選任騎士任命とか如何でしょうか?
姉上は遺憾でしょうけど、実はユフィって枢木に恋する乙女でしてね。
出来れば彼を自分の騎士に取り立てたいと、相談を受けていた僕です。
「念の為の確認ですが、僕の判断で妥当なラインを設定しますからね?」
「折衝はお前の本分。後で文句は言わぬ」
はい、言質を頂きました。これで何を言われても怖くない。
僕とファンナのテストケースとして、身分違いの恋が引き起こす化学反応をこれ幸いとこの目で確かめさせて貰いますよ。
「それはさておき、問題は目の前のKMF戦だ……」
本当にどうしたものか。
もう逃げられない以上、せめて一矢報いる手段を検討してみよう。
ハード面で圧倒する?
駄目だ。第七世代を持ち出しても、どうせ僕が扱いきれない。
ソフト面で優位を作るのは?
一晩でOSを僕に最適化するチューニングは不可能だ。
替え玉を用いて大勝利?
うん、一歩動いた瞬間にバレる。そもそもそれは、僕の力じゃない。
つまり結論は、姑息な手段を用いず正面から当たって砕けろ……か。
「……よし、一夜漬けで足掻こう」
せっかく僕の側には最強の騎士が控えている。
インフェルノの性能評価報告を受けるついでに、教導経験もあると言っていたテファルへインストラクターを頼むのが吉とみた。
「殿下、独り言なんて珍しいですよ? 何か問題でも起きましたか?」
「ちょっとね」
「何でも仰ってください。力の限りお役に立ちます!」
「今回は気持ちだけ受け取っておくさ」
普段から守られる立場の僕が今更何を、とは自分でも思う。
しかし、好きな女の子の前で良い格好を見せたいのは男子の意地だ。
その為の手段に、ファンナを頼るなど本末転倒。
絶対に選べる選択肢ではない。
「残念です」
「それはそれとして、僕は急用を思い出した。これから先の警護はテファルに引き継いで貰うから、ファンナは予定通りロイドのところでアグレスティアの再調整に参加を」
「本当はお供させて頂きたいところですが、確かにユグドラシルドライブ神経接続テストだけはわたしが居ないと始まりません。えっと、このままラボに直行で宜しいのでしょうか?」
「良い子だ。今月中には出番が来る見込みだから、スケジュール通りに機体を仕上げないと間に合わない。これは重要な案件だ。僕に代わり、ロイドの尻を叩く仕事を任せたよ?」
「はいっ!」
かくして覚悟を決めた僕は剣と別れ、盾の元へと向かう。
しかし、さすがはラウンズ。一戦交えた直後だと言うのに疲れた様子も無く、僕の頼みを快諾してくれて大助かり。
もっとも ”そこはズガァっと” だの ”ランドスピナーはキュットしてカッ” などと分かりにくい教導しか出来ない感覚派はあまり役に立たず、見かねて教鞭を奪い取ったアンヌの理路騒然とした授業の方が余程役に立ったのはご愛嬌か。
「付け焼刃で倒せるほど、コーネリア殿下は甘くはありません。狙いは敵の気が緩む中盤以降のカウンター一本勝負だけ。チャンスが来るまでひたすら耐え忍ぶ亀作戦ですよ、殿下」
「なら武器はランスより小回りの利く、ソードをチョイスするのはどうだろう?」
「大正解かと。どうせなら軍標準タイプより、設計者の殿下が隅々まで知るランスロット型MVSの方が扱い易いですよね? あたしの方で模擬戦仕様のを準備しましょうか?」
「助かるよ。重量バランス、刃渡り、諸々を完全に理解する獲物を用いられるなら、僅かなりとも勝率は上がるだろう。君が居てくれて本当に助かるなぁ」
「そう言って頂けると、あたしとしても光栄です。後は反復練習あるのみ。ここからはシミュレーションの数をこなすことに集中です、集中っ!」
「努力するよ」
「マイロードも、仮想コーネリア殿下役くらいは出来るわよね?」
「私の役割が…奪われた……」
「その反応を見る限り、話だけは聞いていると判断するわ。対戦相手の確保も出来たところで、早速亀作戦の実地研修からスタート。最後までカリキュラムをこなせれば、ワンチャンが訪れることをあたしが保障します。だから―――」
「泣き言を言わず、君たちの王として担がれるに相応しい気概は見せるとも」
「それが分かっているなら、あたしから言うことはもうありません。ですが、あえて一言だけ。頑張れ、男の子! ファンナちゃんに、殿下ってステキと言わせてやりましょうね!」
二人のサポートを受ける僕は、彼らの助力を無駄にしない為にも必死に頑張ったさ。
朝日が昇る寸前。約束の時間ギリギリまで粘って、いざ決戦の地へ。
だけど、やはり現実は甘くは無くて
”小細工に頼るな! 鍛え方が足りん!”
と、心配そうに見守るファンナの前で鎧袖一触。
アンヌの保障した一度の好機を物に出来なかった僕は、為す術も無くボッコボコの目に。
普通ならこの結果を受け、訓練に励もうとでも思うのだろう。
しかし、僕の考えは違う。
自分で言うのもアレだが、僕には騎士としての才能が無い。
仮にこれから生涯を一心不乱に修練へ打ち込もうと、おそらく一流半が限界。無意味に時間を費やすだけとの自負がある。
どうせ磨くのであれば、得意分野が効率的だ。
姉上に技量で及ばないなら、勝てる機体を用意しよう。僕の、僕による、僕の為だけの、三流が一流に比肩し得るKMFをこの手で産み出してやる。
「となれば、ランスシリーズはピーキー過ぎて僕に向かない。ジヴォン家が売り出し中の大型KMFのフレームを素体に防御力と火力に特化した……あれ、確かそんな設計思想の機体を本国でロイドが発注を受けていたような?」
IFX-V301 ”ガウェイン”。
僕が彼の実験機の存在を知るのは、もう少し先の話だった。
第十七話「モノクロームの幻想」
天気は晴れ。この日の為に用意した弁当を片手に、本来の意味とは間逆の意味で気の置けない友人を大勢引き連れてチョウフへとピクニックへ来たルルーシュ。
藤堂の身柄がチョウフ基地にあることを、簡単に掴めた時点で罠であることは確実。
処刑の期日迄に嫌でも救出に来ざるを得ないテロリストを配備済みの警備隊で足止めし、稼いだ時間を使って近くの第十九駐屯地から軍を広域に展界。周辺の幹線道路を封鎖して逃げ道を塞ぎながら、内と外からの挟撃を仕掛けると言う戦略は、読めていても手堅過ぎて対策が難しい。
『白騎士小隊、退路の制圧を完了したぞ。さあゼロよ、ペリノア陛下に成り代わり次のオーダーをっ!』
「念の為、増援対策に駐屯地の航空輸送―――」
『赤騎士01より報告。想定よりもエナジーに余裕が産まれた為、輻射波動による滑走路及びKMF用VTOL機の排除も完遂した。以降は予定通り混乱に乗じて撤退を開始したい。構わないな?』
「……基地を単機で潰したか。宜しい、ルートA3を使いたまえ」
『赤騎士01、了解』
『ゼロ、早く指示を!』
「オレンジ卿は、ルート2上の敵を陽動の為に掃除して頂きたい」
『心得た。行くぞ、リーライナ、マリーカ!』
『『実名は止めてっ!』』
『失敬。白騎士03、04、我に続けぇぇぇっ!』
但しそれも、攻略に挑むのが黒の騎士団のみだったならの話だ。ルルーシュの手札に白騎士団の早期合流と言うジョーカーが配られた時点で、戦力を見誤ったコーネリアの策は破綻していたりする。
そもそも黒の騎士団の泣き所は、動かせる実働戦力が一つしかない点にある。
指揮官としては有能だが、決定力の足りないゼロ。
最強を誇りながら、将としての器を持たないワンマンアーミーのカレン。
どちらも替えが効かず、片方が欠けた部隊は酷く脆い。
お陰で多面作戦など夢のまた夢。今回も基地と駐屯地へ同時多面攻勢を仕掛けられれば裏をかけると分かっていたのに、単独では行動に移せなかった理由はここにあった。
「一から十までこと細かく命令して、始めて及第点を満たすウチの連中とはさすがに違う。やはり民兵上がりは錬度が浅い。全体的な質はまだまだ足りないな……」
たった一機で拠点を無力化するインフェルノに始まり、ペリノアの正体に繋がりそうな糸口をポロっと零すジェレミアでさえ、戦場を見渡し能動的に命令を果たす目や、部下を手足のように扱える器を持つ一流の騎士だ。
随伴する少女たちも力量は十分。陣形を組むことさえ覚束ない黒騎士達とは、そもそものモノが違う。
しかも埠頭で取得した音紋を解析したラクシャータ曰く、白騎士が駆るKMFは黒の騎士団のエース用新型機 ”月下” にも勝る高性能機とのこと。
人材、装備、錬度。下手をすれば組織の規模でさえ劣る支配の及ばない私兵集団は、頼り過ぎれば我が身を滅ぼす猛毒だとルルーシュは理解している。
だが、今回だけは存分に活用しなければ損だ。
何せ元々この共闘には、将来的に袂を分かつ敵の陣容を図る意味合いも込めている。
敵を知り、己を知れば百戦危うからず。
しかし、その発想は白も黒も同じらしい。
ルルーシュが騎士の駒の性能を確かめるなら、当人は不参加で戦力だけを送りつけてきたペリノアもまた、ゼロが優秀な駒を所有した際の打ち筋を見定めたいのだろう。
果たして、最終的にどちらの損得が上回るのか。
こればかりは、知略に絶対の自信を持つルルーシュでさえ断言は出来ない。
『卜部、朝比奈、これはお前たちの上官を救う作戦だ。側面の守備隊を抑えて、我々の突入をサポートしろ。やれるな?』
『『承知』』
目標ポイントの守りは堅いが、白騎士団により後顧の憂いを取り除かれ、しかも藤堂の危機に馳せ参じた四聖剣を加えた全戦力を基地側に投入出来たお陰で突破は可能だ。
そして予め道を切り開くように指示していた紅蓮により、ルルーシュはさしたる抵抗も無く無頼を独房の外周へ取り付かせることに成功。ここからが本当の勝負と、コクピットを解放して最後の指示を赤鬼へと告げる。
『カレン、壁面を破壊しろ。私が直接藤堂を救出する!』
『はいっ』
紅蓮一式の拳で砕かれたコンクリート壁の中に見えたのは、拘束具を着てじっと動かぬ男の姿。
鷹のような眼を見開き、見下ろすルルーシュに注がれる眼光の何と鋭いことか。
これぞ奇跡の藤堂。精神論が蔓延する日本軍の中で唯一人、綿密な情報収集と下準備を以ってブリタニアの侵攻を退けた現実主義者の軍人と、ようやくのご対面である。
この男を口説けるか否かで、黒の騎士団の明日は大きく変わる。
ギアスを用いずこの男の心を掌握しない限り、日本解放は夢のまた夢だ。
『藤堂鏡志郎だな?』
口説き落とすための急所は分かっている。
本土への侵攻が各地で始まった本土決戦でさえ劣勢な最中、厳島でブリタニア相手に圧倒的大勝利を果たした藤堂は、軍神のレッテルを得てしまった。
本人が望もうと望ままいと、神風、奇跡、幾多の虚飾に辛め取られた英雄は、敗戦を迎えた今だからこそ理想を求める人々に縋り付かれてしまう。
生きていれば夢の続きを迫られ、死ねば神格化されて抵抗の旗頭へ。
奇跡の常態化を求められるゼロのを演手としては、これがどれだけの重圧か嫌と言うほど分かるのだ。
まして藤堂は超常の力を持たない一般人。
よくぞ最後まで重荷を投げ出さず、必然の奇跡を求め続けたと賞賛を送りたいルルーシュである。
「……そうだ」
『お前には死を受けれるよりも先に、日本人へ見せた夢の始末をつけて貰う』
クロヴィスを討ち、コーネリアを苦しめ、厳島の奇跡に勝るとも劣らぬ成果を出し続けるゼロ以外に、この男のバトンを受け取る資格を持つ者は居ない。
過去の英雄が蔓延させてしまった幻想を新たな救世主が引継ぎ、夢想しか許されない未来を現実に変える覚悟を持っていることを理解させれば、藤堂鏡志郎と言う志は必ず着いて来る。
「私に責任を取れと言うのか……?」
『全ては民衆の為。覚めれば誇りを失う夢を―――』
短い時間でも思いの丈をぶつけ、見せるべきものは見せ、描くものは描いた。
全てを聞き終えた藤堂は黙考。
僅かな逡巡の後に出した結論は、ゼロの旗の下で新たな夢に挑むと言う忠誠の言葉である。
こうして念願の将兵の心を手に入れたルルーシュは、即座に撤退を開始。
別の駐屯地から空挺部隊が訪れるよりも早く、一兵も損なうことなく脱出を成功させるのだった。