コードギアス -覇道のセリエル-   作:夏期の種

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TURN21「孤立無援のシンデレラ(上)」

「駆け足でもジヴォン家で見るべき物を見て、得るべき物も得られましたが、自業自得のタイムアップにより不完全燃焼。実戦テストも絶好調と聞くβ版のギャラハッド、稼動している姿が見られず無念でした……」

「それは残念だったね」

「ですが、時間を大きく割いたシュタイナーの研究所は大満足。ウチの工廠でのガウェイン試乗も控えていますし、明日も慌しくなりそうです」

「喜んで貰えたなら、私も骨を折った甲斐があった。ちなみに ”例の件” についての根回しも完了しているから、好きなタイミングで仕掛けると良いんじゃないかな?」

「助かります」

「ははは、二人きりの兄弟に他人行儀は不要だよ」

 

 話に花を咲かせていた兄弟の現在地は、皇帝が座するペンドラゴン宮殿にほど近いエル家の本拠地ジェミニ宮。

 久方ぶりに再会した弟の近況を聞いたシュナイゼルはセリエルの肩に手を乗せ、貴公子の微笑を浮かべながら続ける。

 

「君の望みは私の望み。昔も、今も、これからも、それだけは変わらない。だから遠慮などせず、無制限に頼ってくれる方が私は嬉しい」

「今に始まったことじゃありませんが、兄上は控えめに言って僕の願望機ですよね」

「万能の聖杯に及ばない欠陥品でよければ、好きに使って構わないよ?」

「残念ながら僕は結果に至る過程を楽しむ主義。貴重な聖遺物は大切に棚へ仕舞い込み、要所要所で程度に使わせて貰います」

「君の意思は尊重するけど、エル家から次期皇帝を輩出したいと言う願いについては受理済みでキャンセルも出来ない。それは理解しているね?」

「はい」

「先を見据え実績を積み重ねてきた私達は、確かに有力候補として先頭集団を形成しているのかもしれない。しかし築いたリードが、一度の転倒で詰められるのも世の常だよ」

 

 機械仕掛けのシュナイゼルの辞書に慢心の二文字は無い。

 むしろ敗北、失敗を意味する単語一式も記載されていないと確信しているセリエルである。

 

「例えば帝国の重鎮が列席する式典への遅参は、後方集団が付け入る絶好の口実になる。小石に躓かない為にも、余裕を持ってそろそろ会場へ向かおうか」

「はい、兄上」

「カノン、車の準備は出来ているね?」

「カボチャの馬車は、暖機運転も万全で御座います」

「その例えは問題だね。何故なら私達はガラスの靴と言う物証を残す愚を犯さない。これでは物語が破綻し、王子と平民の娘が不幸になってしまう」

 

 式典用の正装と馬車を用意したカノンが魔女なら、シュナイゼルはさしずめ王様か。

 しかし、不遇の灰かぶりを娶る予定の王子も舌戦は得意分野だ。

 

「大丈夫です。何故なら我らが祖国は王国にあらず。王子ならぬ皇子の僕は、過去の判例を踏襲する必要性ゼロですし、未来の皇妃も正式な客として入城済み。そんな原作崩壊の二次創作世界に居る以上、エンディングは主役の匙加減一つだと思いませんか?」

「これは一本取られた。今回の言葉遊びは君の勝ちだね。その調子で他の有象無象にも土をつけ、白星を稼ぐことを期待しているよ」

「頑張ります」

 

 いざ、魑魅魍魎蠢く政争の場へ。

 顔を技術屋から政治家に切り替えたセリエルは己の覇道の橋頭堡を築くべく、一歩も二歩も先を行く偉大な兄の背を追うのだった。

 

 

 

 

 

 第二十一話「孤立無援のシンデレラ」

 

 

 

 

 

「最近は十代でラウンズ入りも当たり前かぁ。マイロードも若手の筈なのに、年齢層的には中間世代ってのが不思議よね」

「確か最年少のアールストレイム卿がわたしと同い年。最年長のヴァルトシュタイン卿が四十前である事を踏まえると、確かに二十台の兄さんは平均値っぽいですね」

「それはつまり上からは若手の面倒を見ろと丸投げされ、下からは面倒ごとの責任を取らされると言う最悪の中間管理職ポジってやつじゃ……」

「ラ、ラウンズは横連携の薄い独立独歩じゃないですか。大丈夫ですよ……多分」

「ちなみに同期で顔馴染みらしいファンナちゃん的に、新規ラウンズの人柄ってどんな感じかしら? マイロードと上手くやれそう?」

 

 傍らに立つアンヌの視線の先には、眩いライトを浴びて壇上に立つ青年が二人居た。

 彼らこそ今宵の宴の主役にして、栄光の円卓入りを許された当代最高の騎士。

 一人はモデル顔負けの容姿を持つ金髪の青年で、名をジノ・ヴァインベルグ。

 一人は髪を逆立て獣の気配を漂わせる青年で、名をルキアーノ・ブラッドリー。

 容姿端麗で品格を兼ね備えたジノの立ち姿に対し、シニカルな笑みを浮かべて斜に構えるルキアーノは悪い意味で人の目を集めている感が否めない。

 

「えっと、ヴァインベルグ卿は大丈夫かと。彼は自由人でルールを無視する性質ですが、最低限の節度は守れる貴族の子弟。最大の特徴は、好きか嫌いでしか人を見ないリベラルなところ。性格も人懐っこく、兄さんとも上手くやれる筈です」

「ふむふむ。で、含みを持たせた片割れは?」

「オブラートに包んで評した方が?」

「どうせ嫌でも顔を合わせる相手だし、包み隠さず直球で宜しく」

 

 未来の義姉が言うとおり、同じ職場、同じ部署に属する以上、中途半端に隠していてもすぐにボロが出る案件だ。

 例え目を逸らしたくなる情報だろうと、ここは真実を告げる方が相手のため。

 そう判断したファンナは、躊躇いを捨ててアンヌへと告げることにした。

 

「ヴラッドリー卿……もといあの変態吸血鬼はですね、協調性無し、馴れ合い大嫌い、人殺しが三度の食事より大好き、と三拍子揃った完全無欠の狂人です。軍に入った理由も合法的に人を蹂躙出来て、しかも賞賛されるという安直さ。簡潔に纏めるなら、控えめに言って人間の屑が妥当な表現だと思います」

「う、噂より酷くて嫌な汗が!」

「と言うことで、交流するならジノをお勧めします!」

「生の情報ありがと。人間関係もあたしが対処する案件だし、参考にさせてもらうわ……」

 

 急激に声のトーンを落とすアンヌを見てファンナが感じたのは、意外にも同情や哀れみの感情ではなかった。

 将来的にセリエル親衛隊の団長席に座るファンナは、テファルと同じく戦闘に特化したATK全振りの騎士である。

 政治やら根回しや書類仕事も苦手で、物理的な暴力で解決できない業務は概ねぽんこつと言う体たらく。

 遠くない未来の昇格で倍増する雑務対策として ”全幅の信頼が置ける” 且つ ”無茶振りも対応可能” な右腕が欲しいと常々願っているファンナさん。

 故に胸中に浮かぶのは、アンヌと言う理想形を囲うテファルへの羨望だった。

 何が美人で、聡明で、気立ても良い副官だ。

 これが実の兄の話でなければ、爆発しろと怨嗟のエールを送っていただろう。

 

「っと、そろそろマイロードに同伴して挨拶回りの時間ね。ゴメン、もう行かないと」

「十分助かりました。気にせず、兄のお守りをお願いします」

「じゃあ、最後にもう一度だけ念を押すわよ?」

「はい」

「今日のファンナちゃんはセリエル殿下とは無関係。あくまでもナイトオブファイブの縁者として祝賀会に参加してるってことを、ぜーったい忘れちゃダメ。おーけー?」

「おーけー、です」

 

 そう、少女の隣に愛する少年の姿は無い。

 何故別行動を取らざるを得なかったかと言うと、結局のところファンナ最大のネックである地位の低さが諸悪の根源だった。

 何せ兄がラウンズだろうと皇族の選任騎士が内定止まりのファンナの肩書きは、特派所属の最底辺騎士公。お偉方が集まる催しへの参加は不可能な身分であり、皇子と共に登城するなど許されるはずも無いのである。

 

「常識的に考えればマイロード同席の場で妹を挑発する馬鹿は居ないけど、意外と世の中って不合理に満ち溢れているから侮れないわ。万が一の場合、申し訳ないけど我慢して。必ず後日に日を改めて合法的にやり返すからね?」

「サンドバックどんと来いです。苛めもぼっちも慣れてます」

「それはそれでキツイなぁ……ま、どうせ殿下も目を光らせているだろうし、気楽にいこ」

「はいっ!」

 

 手を振って未来の義姉を送り出したファンナは、人目を避けるように壁際へ。

 どうせ黄色人種丸出しの自分へ、好んで寄って来る貴族は居ない。

 侮蔑の目で避けられるくらいならば、最初から壁の花として気配を消していたほうが幾らかマシである。

 

「さすがと言うべきか、シュナイゼル殿下の警備体制は完璧ですね……」

 

 瞳に写すのは、連れ立って大名行列を続けるエル家兄弟の姿。

 今は見守ることしか出来ないが、せめて凶兆のサインを見逃すまいと周囲を俯瞰するように注視する。

 最初から洋の東西を問わずに集められた美食にも、魂を蕩かすような美酒にも興味は無い。

 何故なら少女は最初から客ではなく、護衛の騎士として参加しているつもりなのだ。

 主を思う心だけは他の選任騎士に絶対負けない。負けたくない。

 そんな思いを乗せて拳をギュっと握り締ていると、視界の端に知った顔が現れた。

 

「……ああ、ついに来るべき時が」

 

 出来れば面倒事はもう少し心の準備が出来てから、と思わず目を逸らすも時遅し。

 何と言うか露骨に目があってしまった。

 こうなった以上はもう逃げられない。

 ファンナはぐんぐん近づいてくるから憂鬱の種と向き合う覚悟を決め、むしろこちらから歩み寄ることにした。

 

「お約束どおり、レオンハルト・シュタイナー参上致しました。こちらは僕の婚約者のマリーカ・ソレイシィ嬢ですが、説明は必要ですか?」

「いいえ、友人なので結構です」

「だそうですよ、マリーカさん」

 

 にこやかな笑顔で握手を交わした相手は、ファンナにとって鬼門のつがいだ。

 エスコート役は巨乳淑やか原理主義者であることを、貧乳活発系婚約者に知られているとは夢にも思わないレオンハルト。

 

「お疲れ様です、レストレス卿……だとナイトオブファイブと被っちゃいますか」

「何時も通りファンナで結構ですよ?」

「では失礼ながらファンナさん、と呼ばせて貰いますね」

「それでお願いします、ソレイシィ卿」

 

 手を引かれる淑女は、愛する夫に全否定された事実を知らない様に振舞うマリーカ。

 しかし短いながらも密度の濃い時間を共にしてきたファンナには、友人が浮かべる笑顔が作り物であることが本能的に分かってしまった。

 もしも自分が恋する男性に見た目も中身も全否定され、それでも義務として寄り添わなければならない状況に置かれたなら発狂しかねない。

 さすがは生まれ付いての名門貴族。外面を取り繕える分、平民上がりとは有様が違う。

 

「さて、ご挨拶が済んだところでお時間を頂いても?」

「約束ですからね。時間の許す限り、反省会でも何でもお付き合いします」

 

 本来であれば護衛対象から目を離すことはご法度だが、所詮今日のファンナは警備にカウントされていない自称護衛である。

 故に自己満足の騎士ごっこはこれでお仕舞い。

 主の身はシュナイゼルの手の者に任せ、先立ってセリエルに命じられていた人脈作りに注力することにする。

 何せ目の前の少年は軍需産業に一定のシェアを持ち、名門貴族ヴァインベルグ家の重鎮として知られるシュタイナー家の御曹司。

 せっかく向こうから好意的に接近してくれた好機を逃しては、主に合わせる顔がない。

 

「それは有難い。実は勝負の中で次世代機に生かせそうな新発見がありまして―――」

 

 それにしても、と話を合わせながらファンナは思った。

 剣を合わせる中で薄々感づいてはいたが、やはりレオンハルトはジノと同じ人種だ。

 人を見る際には、血筋よりも能力と人格。

 歳も性別も無関係に畏敬の念を持てるか否かだけ。

 つまり彼の見せる友好性の正体は、ファンナの力量を知ったが故の行動なのだろう。

 

「そろそろ口に湿り気が欲しいですね。何か飲み物を取ってきますが、お二方は何かリクエストがあります?」

「では、オレンジジュースをお願いします」

「私も同じものを」

「了解です、お嬢様。僕ばかりが話をしていましたし、しばし女の子同士のご歓談を」

 

 そして話し過ぎて喉が渇いてきた、と思った矢先にこの反応である。

 なるほど、この出来る感じは少女趣味のマリーカが好みそうな王子様だ。

 ファンナ的には土壇場で心が折れそうな線の細さが気になるが、人の趣味はそれぞれ違うもの。

 半端な指摘はヤボだろうと口を噤んでおく。

 

「……ねぇ、ファンナちゃん」

「な、何でしょうか」

「……頑張って平静を保ってきたけど、そろそろ限界かも」

「一段落ついたら一緒に何らかの抜本的対策を考えるから、せめてお祭りが終るまで我慢して! ここで関係を悪化させると取り返しがつきませんよ!?」

「……結婚前から愛のない仮面夫婦ルートまっしぐらな未来が頭の中でずーっとループする絶望の淵に居るけど、ファンナちゃんがそう言うならもう少しだけ耐えてみます」

 

 レオンハルトが姿を消した瞬間に変化した何の色も浮かばない深遠を思わせる虚瞳に見つめられ、思わず半歩下がってしまった。

 これは対処をミスった瞬間、取り返しの付かなくなる爆発寸前の病ンデレ核地雷だ。

 しかし、ファンナは報われる初恋だけを追いかけてきた箱入り娘である。

 幼少期から両思いで、さりとて恋愛面で苦労知らず。

 果たして縺れた糸を華麗に解けるかと問われると、匙を投げる未通女なのもまた現実だった。

 

「事情を知る殿下にも相談して、とにかく手を打ちましょう」

「……うん、人心掌握とか得意分野っぽいもんね」

 

 逃げは騎士として褒められた行為ではないが、報告、連絡、相談は大人の義務だ。

 正直に言えば、セリエルに何が出来るのかはファンナも分からない。

 しかし、マリーカは王にとって使い潰すには惜しい大駒。

 一度懐に入れた小鳥へ甘い性格も踏まえれば、何とかしてくれる筈だ、多分。

 

「大丈夫、きっと何とかな―――」

 

 思わず言葉に力の入ったファンナだが、気休めの言葉を最後まで言い終えることが出来なかった。

 始めに感じたのは浮遊感。

 次に強かに打った尻餅による痛み。

 最後に頭から水気が降りかかり、やっと状況を理解する。

 迂闊にも注意力散漫だった自分は、明確な攻撃を許してしまったと言うことを。

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