他は全てオリジナルですが、何らかの資料があってもご愛嬌ということで一つ。
「不安定なハドロン砲は分かる。フロートシステム前提で空が主戦場と割り切れば、十歩譲ってサザーランドにも劣るランドスピナーも諦めよう」
古巣の特派研究所を訪れたセリエルはハンガーに固定されたKMFを見上げ、盛大なため息を一つ。
「そして百歩譲れば十連装指型スラッシュハーケンも隠し武器と賞賛し、極めて遺憾ながら強度不足で武器も持てないマニピュレーターとして受け入れる」
踵を起点に半回転して振り向き、主任を務める男へと半眼で呆れ気味に言った。
「しかし、一人では手が回らないレベルにまで複雑化したOSはナンセンス。そもそも古代文字解析やら遺伝子調査にまで用いることの出来る超演算システムを、何故軍用に転用してKMFへ積もうと思った?」
「ど、どうせなら最高の物をと思いまして……」
「発想は理解できるけど、電子戦は機能を絞った特化型で十分。何でも出来る代わりに万人に一人とも言われるレアな適性がないと扱えない ”ドルイドシステム” は役不足過ぎる。これ、フルスペック運用不可能だろ? 持て余したんじゃないの?」
「……ぐぅの音も出ません。実はテストパイロットも誰一人として満足に使いこなせず、正に殿下が仰られた機能限定型 ”ウァテスシステム” の開発が始まっております」
「なら良し。問題を洗い出すことも試作機の役目だし、次の新型でこの迷走を活かして欲しいね。但しネタと挑戦は紙一重と言うことだけは覚えておいて」
「イエス、ユア・ハイネス」
セリエルが酷評したのは、新技術検証用の第六世代KMF ”ガウェイン” 。
ランスロット系列を担当するロイドとは別に、本国で最先端の技術を開発・検証するチームが生み出した実験機である。
特徴は本体一体型のフロートシステムと、両肩に内蔵されたハドロン砲。それにスパコンをも凌駕する圧倒的な情報処理能力を備えたドルイドシステムだろう。
完成の暁には空を自在に飛び、後方から粒子砲で敵をなぎ払いつつ電子戦で戦場を支配する悪夢のようなKMFになる筈だが、残念ながら現時点では全てが未完成だ。
フロートシステムは燃費の問題を解決できず、ハドロン砲は狙った場所に飛ばない。目玉のドルイドシステムなど高性能過ぎて天才にしか扱えない情けなさ。
これでは幾ら先端技術のテストベットいえど、さすがのセリエルも匙を投げる出来栄えである。
「ま、それでもドルイドシステムが正常稼動するなら最低限は合格。兄上に頼まれたエリア11の遺跡調査で僕が頑張って使うから、今日中にロンゴミアドファクトリーに運んでおいて」
「畏まりました」
「それと主任、僕は君の才能を買っている。だからロイドがZナンバーで華々しい活躍をしているからと言って、そんなに焦るな」
「……」
「そもそもランスロット系列はピーキー過ぎる。仮に正式採用されてもエース専用機としての少数生産に留まるだろうけど、君の推し進めるガウェインは違うだろ?」
「はい、最初から量産前提です」
「所詮世の中を回すのは芸術品のようなF1マシンではなく、高性能で安定した大衆車さ。誰でも扱えるハドロン砲を標準装備した中・遠距離対応の砲撃型KMFを目指す主任こそ王道であると、このセリエル・エル・ブリタニアが保障しよう。だから胸を張りたまえ。堅実でありながらも、しかし冒険心を忘れない何時もの君に戻って欲しい」
「……殿下」
「先ずは頭を冷やして冷静になろう。早く調子を取り戻してくれないと ”エナジーソード” に続く僕の思い付きを任せられなくて困る。いいね?」
「イエス、ユア・ハイネス!」
特別派遣嚮導技術部KMF開発二課主任、ストラ・ラッドは目が覚めた想いだった。
同僚が最強の頂に手をかける中でフロートシステムの開発に行き詰まり、ハドロン砲の収束率も上がなかったことで追い詰められていた自分は霧の中に居た。
ついつい目新しさ重視で奇天烈さに走り、素面では直視できない機能だらけ。
実はアンテナでさえないガウェインの猫耳などその典型だ。
中でも飛行時の両手を広げて足を締めるTのポーズをデフォルトで設定した理由が、何度考えても分からない。空力的にも無意味なのに、アレは本当に何がしたかったのだろうか?
もう二度とこんな作品は作らない。作ってたまるか。
信頼には対価を。次世代機のコンセプトがセリエルとの会話で固まりつつあったストラは目に光を宿し、首が折れんばかりの全力敬礼で忠誠心を示すのだった。
「おっと、言い忘れていた。悪いけど、至急で頼みたい仕事があるんだった」
「はて?」
「ラウンズに就任したブラッドリー卿を知ってるよね?」
「当然ですとも」
「彼の専用機、ウチで作ることになったから」
「え」
「工期短縮の為、ベースはZ-01の予備機を流用。詳しくはナイトオブテンと相談し、ラウンズに相応しい最強クラスのKMFを突貫工事で建造して欲しい」
「わ、私がラウンズの専用機を!?」
「技術屋として光栄だろ?」
「そりゃもう。正直、手の震えが止まりませんね!」
ラウンズとは帝国臣民にとって、国民的アイドルにも近しい天上人である。
そんな彼らの専用機をデザインすることは、自分の作った曲が世界中の戦場で響き渡り、大よそ考えうる全ての媒体に未来永劫名が残る偉業に等しい。
しかも本来その栄誉を受けられるのは、個々のラウンズが抱える専属チームのみ。
如何に帝国最先端の研究所に在籍していようと、こんな機会は人生を百回やり直しても二度と訪れない奇跡だ。名誉欲のないロイドならともかく、この仕事を喜ばない技術屋が居るわけがない。
「これは僕の右腕としてアグレスティアの図面を引き、扱いの難しいガウェインを仕上げた君へのご褒美兼、口だけでなく君を評価している証拠かな」
「この御恩、生涯忘れません。必ずやラモラック、アグレスティアを超える最強にして無敵のKMFを生み出して見せましょう!」
「その調子だ。遠く異国から成功を祈っているよ」
がっちり握手を交わしたセリエルは、部下のメンタルケアはこれで十分と判断。
冷めかけていた珈琲を口に運び、次は何をすべきかと思案を始めたときだった。
「歓談中に申し訳ありません。宜しいでしょうか?」
「アグレスティアの再調整で何か不備でも?」
「特には。政庁より設備が充実している分、むしろスムーズに終りました。これなら帰還時にエリア11で有事が起きていても、兄さんのように颯爽登場可能です」
「操縦に違和感は?」
「システム周りをアップデートしたと聞きましたが、さすがはわたしのパーソナルデータを用いた専用機。感覚的にも違和感はなく、強いていえば気持ちレスポンスが良くなった気がします」
駆け寄ってきたのは、愛しい少女だ。
ブラッドフォードとの戦いで傷ついたアグレスティアの調整を行うべく席を外していたファンナだが、身振り手振りを加えて愛機の全快を伝えようとする姿は実に可愛らしい。
思えば本国に戻ってからは人の目と忙しさで、すれ違いの毎日だった。
ここは予定よりも早く仕上がった隙間時間を使い、タンデムシートのガウェインを彼女と二人で試乗しよう。
さすがにKMFのコクピットなら邪魔は入らない筈。たまには恋人と二人だけの時間を送っても罰は当たるまい。
しかし、ふと気付く。普段は天真爛漫な笑顔を向けてくるファンナの表情が、報告を終えるにつれ曇りだしていることに。
「アグレスティアが万全なら、まさか別件?」
「はい、殿下にお客様です。アポイントメントは無く、しかし諸事情から無碍にも出来ない方でして、わたしには判断が付きません」
「相手の素性は?」
「名前はリリーシャ。ゴットバルト辺境伯家長女にして、ジェレミア卿の妹だそうです」
TURN24「オレンジ畑で捕まえて」
「オール・ハイル・ブリタニアァァァァ!」
汚れ仕事を受け持つジェレミアへの義理もあり、とりあえず会おうと決断。
貴賓室へ移動し来客を待ち受けるセリエルの前に現れたのは、年端もいかない可憐な少女だった。
彼女は開口一番で元気いっぱいの万歳斉唱。祖国への忠誠をアピールすると、きちんと教育を受けた貴族の姫らしい完璧な所作ではきはきと喋りだした。
「この度はセリエル・エル・ブリタニア殿下のご尊顔を拝す名誉をお許しいただき、このリリーシャ・ゴットバルト歓喜の極みっ!」
「御託は結構、先ずは僕の質問に答えてもらうよ」
「何なりと」
「どうやって僕がここに居ることを知った? スケジュールは非公開のはずだけど?」
「宰相閣下から、こちらへ向かうよう指示されました」
「兄上の差し金か。で、目的は?」
「リリーシャの望みはクロヴィス殿下への不義理に始まり、愚かしくもセリエル殿下、コーネリア殿下にまで弓引いた一族の恥の討伐なのです」
生真面目さの象徴として引き結ばれた唇に、忠義の炎が燃える瞳は兄譲りなのだろう。
ジェレミアと同じカデットブルーの長い髪をハーフアップで飾る清潔感溢れたワンピースのお嬢様には、見ていて飽きない凛とした一本気がある。
これは面白い、先ずは話を聞いてみよう。
そう判断したセリエルは、口を挟まず聞き手に徹することにした。
「聞けばエリア11で辣腕を振るうセリエル殿下は、手足となる親衛隊の騎士を集めているとのこと。リリーシャは若輩者でありますが、全盛期の兄に負けず劣らずの忠誠心と実力を兼ね備えた騎士と自負しております。どうか親衛隊の末席として、槍働きにて家名の泥を雪ぐ機会をいただけないでしょうか」
「ふむ」
「無礼は承知。不快であれば、この場で腹を切ることも辞さない覚悟ですっ!」
「そのジェレミアを髣髴とさせる暑苦しさ、僕は嫌いじゃない。ここは君の熱意に免じてチャンスを与えよう。試験を受けてみる気はあるかな?」
「是非にっ!」
「良い返事だ。ならば騎士の本分から見せて貰うよ。僕が最も信頼するファンナとKMFシミュレーターで勝負し、勝てれば即合格。負けても内容次第で考えようじゃないか」
「でしたら内定を得たようなもの。イレブン如きに負けるリリーシャではありません!」
少し頭が回るなら、試験官が心を許していると宣言した騎士に別称は使わない。
しかし、この裏表のなさがゴットバルト家の持ち味。
かつてのジェレミアがスザクを危険視したのと同様に、リリーシャもまたイレブンにしか見えないファンナの裏切りを警戒していると思えば可愛く思えてしまうから不思議だ。
「……殿下、本気を出しても?」
「実力を見たいから、瞬殺は許可しない。適当に遊んでやりなさい」
「……全力で嬲り殺します」
もっとも自分をブリタニア人と定義している少女の感想は間逆で、謙る必要の無い格下に主の前で馬鹿にされたファンナの目は笑っていない。
スイッチの入った少女を止められるのは、最強クラスのエースだけ。
善戦で及第点。万に一つの奇跡が起きれば、満場一致で合格だ。
「……こっちです。早く来なさい小娘」
「同年代っぽいナンバーズに小娘余話張りされても、何も響きませんね」
「……わたしは14歳」
「ほら、やっぱり同い年。むしろリリーシャは来月で15になるので、小娘はそっちじゃないですか!」
「……くっ」
「ラウンズの妹だろうと、友人だろうと、リリーシャには関係ありません。実力社会のブリタニアらしく、あなたを倒して席を奪い取ってやるのです!」
「……吐いた唾は飲ませませんよ」
何の因果か揃って容姿の整ったローティーンで、低レベルの言い争いは子供の喧嘩。
傍から眺めるセリエルからすれば二人の諍いはじゃれあいにしか見えず、癒しでさえあった。
「兄上がわざわざ送り込んできた以上、彼女は僕のお眼鏡に叶うことは確定。配属はジェレミア小隊が妥当なんだろうけど、熟成の進んだリーライナとマリーカのコンビを崩すのも勿体無い。やはり二人の為に新規小隊を作り、新たに数人採用することで複数小隊体制を検討すべきか?」
珍しく歳相応の素顔を見せて猛るファンナに驚きつつも、決して勝利は疑わない。
故に思案すべきは今後の白騎士団の運営だ。
動かせる駒不足は明白なので、これを機にルルーシュを見習い再編を進めるべきだろう。
「ここはマリーカの将来の為にも、手始めとして彼に声をかけてみよう」
脳裏に浮かんだのは、シュタイナーの御曹司の顔。
彼ならばリーダーとしての素質も十分。派閥的にも裏切られる可能性が極めて低く、しかも引き取ったサマセットの運用要因として最適な人材だ。
先方としても政治的なメリットは大きいだろうし、先ず断られまい。
「わ、わたしの方が髪の毛サラサラで背が高いもん!」
「でも、リリーシャの方が胸は圧倒的に大きいですけどねっ!」
「「ぐぬぬぬ」」
実はこの二人、馬が合うのではないだろうか。
離れていく少女たちの声に耳を傾けるセリエルは、いっそ同じ隊にするべきか真剣に悩み始めるのだった。