『お前が知る白騎士団の全容を端的に話せ』
「……分かりました」
ギアス発動時特有の瞳に赤いリングを浮かべたリーライナを見て、俺はこの状況を作るために費やした手間暇がついに報われたことを実感する。
思えば長い道のりだった。
練度で劣る黒の騎士団を見かねたペリノアの計らいで派遣されてきたインストラクター役の騎士……ジェレミアと、うっかり名前バレしたリーライナから、これ幸いと情報を引き出そうとしたのが全ての発端。
当初は手馴れた感もあるギアスで口を割らせるだけと高を括っていたところ、普段相手にしている連中と違って存外隙がない。
最大のネックは、ギアス使用済みのジェレミアと常に行動を共にしていること。
おまけに連中の制服はバイザーが標準装備だ。これでは難癖をつけて短期的に分断しても無意味。仮に力に訴た場合、モヤシっ子の俺では返り討ちが関の山だからな……。
そんな難攻不落の騎士に対し、俺が選んだのは北風と太陽作戦。無理に脱がせようとせず、自主的に脱いでもらう穏便な手段である。
あえて詳細は省くが、大切なことは一時的にせよオレンジを玉城に押し付け、素顔のリーライナと二人きりの状況を作り出すことに成功した一点のみ。
ゼロの流儀は過程より結果主義。たとえC.C.に虫けらを見る目で見られたとしても、俺は俺の主義を貫き通しただけ。何ら恥じる行為はしていないっ!
苦肉の策で薄めたリフレインを酒に混ぜて飲ませる程度、後遺症も残らないだろうが!
「……リスティス白騎士団の設立目的は、コーネリア殿下の失脚です」
『は?』
いきなりの爆弾発言に、思わず声が上ずった俺である。
「黒の騎士団に加担する理由も同じ。テロリズムを増長させることでエリア11総督としての責任を問われるように仕向け、ついでに軍部が持つ常勝無敗の戦女神像を失墜させます」
『何故にコーネリアを貶める?』
「……主観の混じる推測は可能ですが、知っている情報にはなりません。直接聞いていない事柄に関しては回答不能」
『融通が利かないギアスの弊害か。次は主要構成員について答えろ』
「……総帥はペリノア王で、本名をセリエル・エル・ブリタニア」
「何っ!?」
正直に言えば独立の気運が高まりつつあるユーロ・ブリタニアが、本国の力を削ぐべく亜細亜方面の混乱を増長させる火付け役として送り込んだ戦力との結論を出していただけに、まさかのカミングアウトを聞いて開いた口が塞がらなかった。
いや……そのなんだ。使っているKMFがサザーランドのカスタム機だったことからEUの実験部隊でないことは薄々感づいてはいたが、さすがにこれは予想の斜め上過ぎやしないか?
確かにセリエルが本気で皇帝の椅子を狙っているなら、本国で女神扱いのコーネリアは目の上のたんこぶ。黒の騎士団と言う第三者の刺客を育て上げ、自分の手を汚さずに排除させようと考えていても何ら不思議ではない。
どうせ抜け目のない奴のことだ。
ゼロに加担するのも目的を果たすまで。最終的には掌を返して黒の騎士団に牙を向き、皇族殺しの大罪人を討ち果たした英雄として名声を得るまでがワンセットの計画と考えて間違いないだろう。
「……団長はジェレミア・ゴットバルトが勤め、実働のメインとなる小隊にはわたしことリーライナ・ヴェルガモン。マリーカ・ソレイシィ。ファンナ・レストレスが所属」
『待て、インフェルノの騎士はジェレミア以外の男だったが?』
「……あの方は正規パイロットであるファンナ・レストレスが事情により不在だったため、一時的に代理を務めたリザーバーです。名はテファル・レストレス。わたしとマリーカの上司にして、状況が許される場合に限り力を貸して頂ける助っ人赤騎士小隊のリーダーとなります」
あ、うん。セリエルが黒幕なら、忠犬兄妹が加担しているのも当然か。
そりゃラウンズなら紅蓮だろうと乗りこなせるし、地方の基地の一つや二つを単機で落とせて当たり前。チョウフで見せた獅子奮迅の活躍にも納得できる。
ついでに偽名だと決め付け容姿と性別だけを条件に進めてきたリーライナ、マリーカに対する内偵が不発に終った理由も氷解したぞ。
ラウンズの親衛隊とは、軍とは別の指揮系統に属する私兵。俺が情報源として活用している政庁に潜り込ませたスパイが手を出せる相手ではない。
となれば、同じく幾ら探りを入れても正体の掴めない白兜の騎士も同系統と見た。
あの腕前からして匿名希望のラウンズだったと暴露されても驚かないが、遠からず貴様の尻尾も掴んでやるから覚悟しておけ。
「……主なメンバーは以上」
『本拠地は?』
「……政庁ですが、装備関係の保管先は東京湾秘密ドックの潜水艦です」
『分かった。質問は以上とする』
まだまだ聞き出したい情報は山積みだが、そろそろ時間切れだ。
前にカレンに対して ”質問に答えろ” とギアスを使用した際に会話の途中で効力が失われてしまった失敗から、安全マージンは多めに取ると決めている。
株式の世界の格言を借りるなら、頭と尻尾は他の誰かにくれてやれ。欲張ってリスクを犯さず、油の乗った腹の身だけで満足するほうが効率的だと俺は思う。
「あ、あれ? わたしは何を? ここは?」
『私の執務室だ。君は酔った勢いで足でも滑らせて頭を打ったのか、廊下で意識を失って倒れていたのだよ。覚えていないのかね?』
「それは失礼を。時にミラーシェードを取った意図をお聞かせ願えますか?」
『これは推測になってしまうが、不幸な事故が起きてしまったが故に発生した事例だろう。決して私が何らかの悪意をもって仕組んだ事象ではない』
「疑わしいですね」
『やれやれ、これでも私とて仮面で素顔を隠している男。無粋な真似は不本意であり、その証拠は君の目の前にある。見たまえ、倒れた際に止め具が壊れてしまったことが原因だ。君の素顔に興味がなかったと言えば嘘になるが、そこは察して欲しく思う』
「……うーん?」
偶然バイザーが壊れた風に細工したのは俺だがな。
『口の軽い一般団員に素顔を見られるよりは、まだ口の堅い私の方がマシだったはず。急ぎ部屋に運び込んだことも含め、全ては善意なのだよ』
「……お手数をおかけしました」
『君はペリノアから預かった大切な客将だ。私には彼との共闘が続く限り、白騎士卿に不利益が生じないよう尽力する義務がある。気になさらず結構』
「感謝致します」
『しかしながら、私とて若い男。そちらも外様がゼロにハニートラップを仕掛けたと思われても不本意でしょうし、口うるさい部下が怒り出す頃合でしてね。麗しの白騎士卿との逢瀬もここまでとして、お先に失礼させてもらおう』
仮面の下でほくそ笑みつつ、俺は紳士的な礼を返して踵を返す。
例え歩き去る背中から
”おっかしーな。確か井上ちゃんの愚痴を聞きながら飲んでた気が。そもそも前後不覚になるほどの摂取量じゃなかったし、中座したとして何もない廊下で転ぶわたしかなぁ?”
と、首を傾げるリーライナの呟きが聞こえようとギアスの力は絶対だ。
過去に繰り返した検証実験でも、直近の記憶を取り戻せた者は一人も居ない。
空白の時間が永遠に闇の中である以上、条件は全てクリアされている。
『ふははは、ついに尻尾を捕まえたぞペリノア……いや、セリエル。お前はゼロを掌の上で転がす腹だろうが、最後に笑うのは裏の裏を見通すこの俺だ。お前の企みを逆に利用し、我が覇道の礎として使い潰してやるから首を洗って待っていろ』
先ずは後ろ盾として名前を使った、キョウトとセリエルの接点の洗い出しからだ。
常識的に考えて不倶戴天のブリタニアの皇子と、日本再興を目指すお偉方が手を組む可能性は皆無だが、現場レベルでの癒着はクロヴィス統治時代からのお家芸でもある。
果たしてセリエルが白騎士団の為に作り出したアンダーカバーが優秀なのか、それとも背後関係を見抜けなかった老人共が無能なのか。
優先すべきはキョウトが白騎士団を手駒にした経緯と思惑についての情報。誰と誰がどう繋がり、どんなビジョンを抱いているのか至急調査しなければ命取りになりかねん。
「こんなところに居たのか、探したぞゼロ。諜報員からの緊急連絡だ」
『報告を聞こう』
せわしない様子で駆けて来たのは、年功序列で副指令に納まった扇だった。
何事かは分からんが、独断専行大好きな玉城と違って何事も自分で判断しない……決められない優柔不断は実に日本人。
正直に言って駒としては使いやすいが、騎士団の№3を任せるには物足りない。
一皮向けてくれれば権限の委譲も考えるのだが……まぁ、性格的に無理か。
「あのシュナイゼルが数日中に式根島を訪れるらしい。これはチャンスじゃないか?」
『裏は取れているのかね?』
「ディートハルトが別ルートで確認済みだ。あいつのことは嫌いだが、悔しいことに能力は俺も認めている。客観的に見て信憑性の高い情報だと思う」
複数のルートから同じ情報を得られたのであれば一考の余地はある。
さすがに唐突なシュナイゼル来訪からは罠の匂いが濃厚に漂うが、普段は本国の最奥から出てこない最上位の大物をみすみす見逃すわけにもいかん。
幸いにも既に組織の再編成はほぼ終わり、有事に備えた即応部隊についても編成済み。
真実であれば襲撃はデフォルトとして、直ぐにでも作戦の立案を急がなければ。
『直ぐに対応する。藤堂、杉山、オレンジを30分後に作戦会議室へ寄越してくれ』
「分かった……って、オレンジも呼ぶのか!?」
『何だ扇、今更ジェレミアが裏切るとでも?』
「これは……理性では抑えきれない感情の問題だ」
『今後は他国の人間、例えばブリタニア人と見た目の変わらないユーロピア人を仲間に加えることもあるだろう。仲間意識は美徳かもしれないが、過度の感情論はナショナリズムへ直結する危険思想だぞ?』
「……すまない」
『黒の騎士団は人種、性別を問わない正義の味方であることを忘れるな。日本を取り戻す戦いも、手段であり目的ではない。目の前の虐げられる弱者が日本人だからこそ、私は全力で手を差し伸べているだけなのだから』
そう、俺は日本人がどうなろうが知ったことではない。
お前達がゼロを祖国を救う救世主と思い込むのは勝手だが、俺にとっての貴様らはあくまでも駒。いずれ他国を騎士団に取り込んだ暁には、古参なだけで幹部顔をしている玉城や南のような無能どもを放逐することは規定路線だからな。
大事なことなので何度でも言うが、ゼロが求めるものは能力と忠誠心のみ。
感情に引きずられるのであれば、扇……お前もここで終わりだぞ?
『この続きはまた後日。それまでに胸の内を整理し、今一度己に問うておけ』
「……俺も君のようなリアリストになりたいよ」
ここまで言っても、何処か他人事のように語る扇の未来は暗い。
『話は後だと言っている。扇、くだを撒く前にC.C.を私の部屋に至急連れて来い』
「す、すまない。直ぐに探してくる!」
規模こそ黒の騎士団が圧倒しているが、質で白の騎士団の足元に及ばない空しさ。
やはりもう一人、藤堂クラスが是が非にも必要だ。
遠からず空く副指令のポストに相応しく大局を見通せて、自分で最善を見出せる頭脳の持ち主。三顧の礼で迎え入れるから、在野に転がっていないものか……。
『本人は嫌がるかもしれないが、いっそ仙波あたりを昇格させるのもアリかもしれない』
おっと、急を要するのに取らぬ狸の皮算用をしていてどうする。
この場で考えるべきはオレンジの使い方。
奴にどの情報をリークさせ、シュナイゼルに繋がるセリエルを欺くべきか。
ジェレミアに宰相襲撃を踏み絵と錯覚させ、しかし最大の山場の為にも奴が越えられない一線をギリギリのところで守らせるプランが必要だろう。
『白騎士団を切り捨てるタイミングは、最大の山場となる政庁奪還作戦発動の直前。後ろで糸を引くセリエルに致命的な情報齟齬を与えてからだ。今はまだ切り札は温存し、表向きの協調関係を維持するのがベターか』
さあ……巻き返しの始まりだ。