優秀な成績で士官学校を卒業後、徹底的なストイックさで軍務に打ち込み早数年。
直近の所属先である聖ラファエル騎士団においてもトップエースとして君臨し、勝手にライバル認定した聖ミカエル騎士団の日系人に負けじとユーロピア製KMFを狩り続けていた私……テファル・レストレスの元に届いたのは、一通の召喚状だった。
内容はシンプル。やんごとなき御方がお待ちだから、さっさと本国に戻れとのこと。
あ、ついにその時が来た。
少し前にセリエル殿下より親衛隊の設立準備に取り掛かる旨の連絡を受けていた為、そう思い込んだ私を誰も責められないと思う。
しかし喜び勇んで帝都に戻ってみれば、実は呼び出したのが陛下という罠。
正直、謁見の間に入ってから先の記憶が曖昧だ。
覚えているのはパニックった頭を外見だけ誤魔化し、何を言っているかも分からない問いかけに対して、全てYESと答えたことのみ。
意識を取り戻したのはまさに今。見知らぬ部屋で肩を叩かれたこの瞬間である。
「ナイトオブファイブへの就任、おめでとさん!」
「誰が?」
「は?」
疑問符を浮かべて沈黙したのは中堅貴族の次女で、士官学校時代の後輩でもある副官のアンヌ・レスキュール。
向日葵のように明るい彼女はざっくばらんな性格で周囲の受けも良く、愛想を振りまくのが苦手な私に代わり様々な雑事を片付けてくれる替えの利かない右腕である。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まさか、この大舞台でいつもの病気?」
「……うむ」
「見た目だけなら、何事にも動じそうにないクールガイの癖に」
「五月蠅い」
よく言われる事だが、自分はどうやらスポーツの出来るインテリに見えるらしい。
例えるならアメフトのクォーターバック。単独でも試合を決定づけられ、それでいて冷静沈着に味方を導きゲームを作り上げられる司令塔ポジションのイメージだそうな。
しかし、本当の私は違う。殿下に相応しい騎士としての外面を取り繕っているだけで、突発的な事態に極めて弱いハマーD枠こそが素の私なのだよ……。
いつもはテンパって無意識にやらかしても事後のリカバリーで乗り切って来られたが、今回ばかりはもう手遅れ。
何せ何時着替えたのやら、纏うのは円卓の騎士のみに許される白の騎士服と真紅のマント。
ブリタニアの軍人として最高の栄誉、理由もなく返上出来る訳が……。
私が脇目も振らずに目指したのは “セリエル・エル・ブリタニア” の騎士。
いくら世界最高の権力者だろうと、くるくる巻き毛のアナゴ君に剣は捧げられない。
「えっと、殿下からの一報も届いてるから読むわよ?」
「頼む」
「『親愛なるテファル・レストレス。ラウンズへの加入、我が事のように嬉しく思う』って、いつもながらフランクな方よね」
「下々への温情だ、光栄と思え」
「『君を手元に置けないことは非常に残念ではあるが、これでファンナもラウンズの妹という立派な箔が付いた。予定を変更しても、後は本人の努力次第で何とでもなるだろう』あれ、妹いるの?」
「言わなかったか?」
「初耳」
「まぁ、私も年に一度手紙をやり取りするかしないかの間柄だ。いずれ顔を見るついでに紹介しよう。それで許せ」
「てきとーだなぁ。ええと、続けるよ?」
「うむ」
「『僕も何れは兄上に頼み、実績を付けるべく何処かのエリアへ派遣して貰う予定だ。その際には陛下に頼み、君を借りられるよう打診しようと思う。共に轡を並べられる日を楽しみに待っているぞ』だそうです。ある意味結果オーライ?」
「前向きに考えれば、な」
ま、まあ、ラウンズが殿下を支持可能になったと前向きに考えよう。
どうせ血の紋章事件を例に上げるまでもなく、円卓は腹に一物抱えた集団だ。
表向きだけ陛下に忠誠を誓い、権威だけを有効活用しても罰は当たるまい。
「じゃあ悩むのはこれで終わり。それよりも明後日に控えた “卓上の相克” の準備を急がないと。よりによって相手は最強のナイトオブワンに試作専用機の組み合わせで、こっちは新米ラウンズと対ユーロピア仕様のサザーランド。勝てとは言わないけど、善戦はデフォルトよ?」
「えっ?」
卓上の相克?
陛下やら有力貴族やらが集まった中、ラウンズ同士の一騎打ちを披露するアレ?
「……ホント手間がかかるんだから。引き返せなくなる前に、ぼちぼち転属しても構わないかしら」
「ラウンズは自前の部隊を持てる。栄えある初代隊長の席を与えよう」
「えー」
「破格の条件じゃないか。感謝の言葉はいらない、安心してついて来い」
「うっし、除隊して実家のオレンジ畑でも手伝……あーもう、雨の日の捨て犬っぽい目は止めなさいって。子供の憧れで、帝国の誉れたるラウンズでしょ! びしっとしなさい、びしっと!」
理詰めは得意でも機微には疎く、素顔を晒せる相手を作れなかった戦闘マシーンが私だ。
ここまで来られたのも、足りない部分を補ってくれたアンヌあってこそ。
失敗を引きずった時には叱咤激励。
言葉に出さずとも、いち早く異変に気づいてフォローしてくれる最高の副官である。
身柄を確保する為なら、義母に教わった究極の誠意 “DOGEZA” すら辞さない。
むしろ体がそのモーションに入っている。我ながらレスポンスの良い体だ。
「ちょ、冗談、冗談だって。なにそのプライド木端微塵なポーズ。一般兵がラウンズにこんな真似させてるって知られたら死刑よ! やめなさい!」
「最高の待遇を保証する。だから、死ぬまで支えてくれないか?」
「する、します、守ります! ヤバイの、今扉を開かれたらクリティカルなの! だから起きて!」
「二言は無いと約束してくれるなら」
「この状況で念を押すあたり、何だかんだと腹黒よね……」
「お前を失わない為なら、何だってするとも」
盛大に溜息を吐き、しょうがないなぁと告げてくる瞳を見上げて一安心。
ポニーテールが似合う面倒見の良い年下姉御は、もう慣れたとばかりに苦笑している。
これなら安心。どれ、今後のスケジュールを確認しようとした瞬間だった。
「レスキュール卿、ご依頼されていたサザーランドの改修プランで……すけ、失礼しました。私は何も見ていません、後でまた参ります」
ブリキのようにぎこちない動きの技術士官が、ぱたんと締めた扉を見て思う。
さすがアンヌ、未来予測は完璧だ。
それでこそ私の副官。今後も如何なく能力を発揮して頂きたい。
「終わった、いろんな意味で人生終わっちゃった……」
「いまいち何が問題なのか分からない。気持ちを全身で表していただけなのだが」
「もぅ……どうでもいいや。あたしは誤解を解くのと、勝率をコンマ幾つでも上げられるように機体を調整しなきゃなの。お願いだから心労を増やさないで」
「いつも済まん。ならば労いの意味も込めて食事へ行こう。怪我で除隊した同期が開いた店が評判が良くてな? きっと君のお気に召すと思う」
「仕事がひと段落いたら付き合ってあげる。だからマイロードもコレ片付けちゃて」
テーブルに積まれたのは紙の束。
それも尋常じゃない厚さだ。
「昇格に伴う権限の一覧、専属開発チームの予算・人材の確保依頼書、その他諸々の “ナイトオブファイブ” 様のサインが必要な書類よ。後でまた戻るから、それまでに出来る限り宜しくっ!」
「善処する」
私が苦虫を潰したような顔で頷くのを見ると、少女は人差し指を立てる。
そして部屋の隅に置かれた書類入れを引っ掴み、脱兎の勢いで部屋を飛び出していった。
「そう言えば、ここは一体どこなのだろうか?」
悩みは増えるばかりで、一向に減る気配がなかった。
ちなみに後日行われた卓上の相克は、文字通り一矢報いるので精一杯。
容赦なく ”エクスカリバァァァッー!” されてしまったのはまた別の話である。
TURN03「真珠の乙女」
青々と茂る緑、満ちた空気は水分を含み清浄で甘い。
長く過ごした砂の世界では味わえない、あまりに甘露な味に顔が綻ぶファンナだった。
「過ごし易そうな土地です」
飛行機を乗り継ぎ、やってきたのはエリア11。
呼び出したのは少女の思い人にして、将来の主たるセリエル・エル・ブリタニアその人だ。
この突然の召集は、ラウンズの件が噂話で済まなかった何よりの証し。
かつて何も出来ずに臍を噛んだ無力な少年が、同じ轍を踏まぬよう先手を打った結果だった。
「護衛で兄さんも同伴しているとか。立派になった妹を見て、どう評するのか楽しみ」
ラウンズとして世界を転戦する兄の華々しい姿はメディアの配信でこそ見ているが、直接顔を合わせるのは家が取り潰されて以来初めてのこと。
忙しさのあまり疎遠気味でも、昔から血縁が無い割に兄妹仲は良好だ。
最低でも年に一度は連絡も取り合っているし、きっとぎくしゃくはすまい。
そんな期待に胸を膨らませて迎えの車に身を委ねていると、外を流れる景色に目を奪われる。
さすがは極東の拠点、ブリタニア本国にも劣らない大都会である。
半面、面倒な土地だとも思う。
車中から眺めるだけでも潜伏に向いた地形は多く、主戦場になるであろうゲットーは戦争が出来るほどに広い。何処に潜むか分からない油虫の駆除、その大変さが地形を見るだけで分かる。
「ゼロ、かぁ」
それはつい先日、完全ガードの皇族を討つと言う大金星を挙げた男の名。
不可能を可能にした世紀の暗殺者こそ、世界で話題沸騰中のゼロである。
その正体は謎に包まれているが、総督のクロヴィスを討てた時点で実力は確か。
私人としてのファンナは、良くぞ主のライバル候補を処分してくれたと喝采を送りたい。
しかし、軍人としては絶対に分かり合えない敵である。
これが正規軍なら本拠地ごと踏み潰せばいい。しかし、相手はゲリラ屋だ。
果たして根絶は可能なのか。少なくとも気の遠くなる作業のように思える。
そんな事を考えていると、気が付けば目的地。
やけに厳重な警備に目的と身分を告れば、大型トレーラーへ行けと言う。
燻がみつつ指定された場所へ向かうと同型車両が二台並んでいて、どちらが正解かわからない。どうしたものかと悩んでいると救いの声が聞こえてきた。
「君は……日本人? どうしてこんな場所へ?」
「いえいえ、わたしはブリタニア人。しかも本日付で佐官ですよ。というか、貴方こそ露骨に日本人じゃないですか。パイロットスーツを着て何を? とりあえず名乗りなさい」
ファンナを呼び止めたのは線の細い、しかし猫科の猛獣のように引き締まった体を持つ茶髪の少年だった。
「失礼致しました。自分は特別派遣嚮導部隊所属、枢木スザク准尉であります。現在は試作KMF “ランスロット” のテスト待ちです」
「そのネーミングルール、やっぱりナンバーズですか。ちなみにわたしは本日付でこのエリアに配属となった、ファンナ・レストレス少佐。こちらにセリエル殿下がお見えとのことですけど、どちらの車か分かります?」
「右です。左はロイドさん……僕の上司が詰めるランスロット専用のトレーラーになります」
「そうですか、ご自分の任務に戻って結構」
「はっ」
よくぞ機密情報の塊にイレブンが乗れたものだ。
そもそもナンバーズと呼ばれる植民地の人間は、反乱の芽を摘むためにもナイトメアへ乗せない事が絶対のルール。
まぁ、それはファンナの知ったことではない。
あまり厳密にされると自分も微妙にグレーゾーンに引っかかるし、能力が高ければ決まり事を無視して上り詰められるのもブリタニア的原則でもある。
「さて、久しぶりの再会です。昔のような粗相は絶対にしない、しませんとも」
スザクと名乗った少年の示したトレーラーへ乗り込むと、そこには巨人が眠っていた。
パールホワイトを基本色として、金色のラインが鮮やかに彩りを与える。
形状は騎士を思わせる姿。しかし背には一対の翼が備えられる等、武骨とは程遠い優雅な機体だ。
「試作嚮導兵器 “Z-02 アグレスティア” 。それがこの機体の名前さ」
聞こえてきたのは懐かしい、恋い焦がれた声だ。
「開発中のナイトオブファイブ専用KMF “ラモラック” のテスト機名目で作られた第七世代にして、冒険心溢れる最先端の名馬。未完成の今は原型機のランスロットには劣るけど、現時点でもグロースターすら足元に及ばないハイスペック機であることは保障するよ」
整備班が作業する騒音の中でも聞き違える事のない呼びかけ。
声の主である少年は記憶の中の姿よりも精悍さを増し、立派に成長を遂げていた。
対して自分はどうだろう。
彼に負けない成長を遂げられたのか不安で堪らない。
昨日も一昨日も一年前も、ずっと出来る限りの努力を続けてきたとの自負はある。
しかし、積み上げてきた物を判断するのはファンナではない。
目の前にまで近づいて来た少年、セリエル・エル・ブリタニアが鍵を握っている。
「ファンナ・レストレス、お役目御苦労」
穏やかな表情を浮かべる主の手が伸び、ファンナは四肢を固くする。
しかし、待っていたのは優しく頭を撫でられる心地よさ。
まるで手触りを楽しむような仕草は、懐かしさへと通じる。
無邪気な頃は、これがご褒美だった。
それは今も変わらない感じで、顔がにやけてしまうのを抑えきれない自分が居る。
「ででで、でんかっしゃまっ! わにゃしなどにそのような真似をされてはまずいかとっ!」
「噛むな噛むな。ここのスタッフは僕のお抱えだから安心していい。ほら、皆もニヤニヤと生暖かい目だろう?」
「それはそれで問題ですよっ!?」
「いやね、コレを開発する為に君のデータを皆で調べ尽くしたわけだ。お陰でコクピットもジャストサイズ! 最新のスリーサイズまで反映した調整済み!」
「個人情報が赤裸々と暴かれてる!?」
「小さな体で大の男たちと渡り合い、常に結果を出し続けてきた騎士少女。物語のヒロインを地で行く君は神輿にピッタリでね。後は僕が未来の嫁候補だと、つい口を滑らせてしまったことが原因かな」
「ちゃんとお嫁さん候補に残れていることが嬉しいのに、それ以上の恥ずかしさがっ!」
「その辺はおいおいとして、実務に話を戻そう」
「は、はい」
「何はともあれこの新型は、皆で作り上げた君へのプレゼントなんだ。危うくテファルの二の舞にさせかけた侘びとして、是非とも受け取って欲しい」
まさかのサプライズだった。
望んで止まなかったサザーランドを飛び越え、与えられたのはまさかの最新鋭機。
名馬を賜ったファンナは幸福ゲージが天元突破。テンションがおかしいことになっていた。
「ああああありがとうございます! さっそく租界の連中を皆殺し、ゼロの首を持ち帰って見せましょう!」
「安価な労働力は幾らあっても足りないのだから、資源の無駄遣いは止めなさい」
「では、どうすれば殿下への感謝を示せますか!?」
「昔のように、隣で笑ってくれるだけで十分さ。最高の笑顔を頼むよ?」
「はいっ、でんかさま!」
普通なら照れるところだが、多感な時期を軍務に捧げたファンナは世事に疎い。
銃の組み立て、KMF操縦、体術etc。軍人としては一流でも、その精神はまだまだ子供。
遠まわしの好意を察することは出来ず、兄にも劣らぬ朴念仁なのだった。
「ちなみに君の兄は、専用機の調整が難航していて未だ本国。感動の再会はもう少し先かな」
「そうですか……」
「それはそれとして、一つ謝らなければならないことが」
「はい?」
「選任騎士への任命、アレ無理」
「殿下ーっ!?」
これでは何の為に呼び戻されたのやら。
本巣から厄介払いをされた身としては、寝耳に水の話だった。
「人格や能力的な問題じゃないんだ。ラウンズは無制限なのに、選任騎士には年齢制限がある。正直、僕も知らなかった。最低でも16歳だそうな」
「そ、そう来ましたか」
選任騎士とは、公務の代理まで務めることが可能な重要役職である。
そりゃ法的責任も負えない未成年に就かせられないのも当たり前だ。
「なので暫くは、僕の直轄する特別派遣嚮導技術部で身柄を預かる。構わないね?」
「……何をすれば宜しいのでしょうか?」
「僕の専属護衛。ま、隣に居てもらうことに変わりはないから安心して」
「イエス、ユア・ハイネス!」
少しだけ落胆したが、名目はともかく事実上の選任であることに変わりはないらしい。
なら、夢は叶ったようなもの。嬉しくない筈がない。
「さて、僕は少々姉上と面倒な話をしなければならない。後の事は隣のトレーラーに居る筈のロイド伯爵へ一任してあるので、彼の指示に従うように。癖のある人物だが、優秀な技術屋だ。君の専用機を完璧に仕上げる為にも、円滑な関係を築いて欲しく思う」
「はい、殿下」
「積もる話は今晩の楽しみに取っておこう。後で迎えを寄越すから、職務を果たしていなさい」
セリエルにそっと近づいてきた男が時計を気にしている事に気づき、自分の為に貴重な時間を割いてくれたことをファンナは悟る。
部下を従え立ち去っていく姿を見送りながら、喜びのあまりガッツポーズ。
全身から幸せオーラを垂れ流し、お嫁さん候補、お嫁さん候補と口ずさみながら隣のトレーラーへ向うのだった。
「君が殿下の秘蔵っ子だね。さっそくで悪いけど、シュミレーター空いてるよ~?」
トレーラーへ乗り込むいやいなや、声をかけてきたのはメガネに白衣の男だった。
見るからに頭脳労働専門といった外見で、万が一不審者だった場合は瞬殺出来そうである。
「う?」
「二号機の設計に携わった身としては、デバイサーの能力がどのレベルにあるのか知りたいのさ、僕は」
「ええと、貴方は? デバイサーってなんでしょう?」
「僕は研究員のロイド。デバイサーはパイロットの事だよ」
「失礼しました、殿下より伯爵に指示を仰ぐよう言いつけられております」
「敬語はいらないから。僕はセリエル殿下寄りで、堅苦しい事は嫌いなんだよね。悪いと思うなら、ファンナ君にはスザク君に負けないデータを頼みたいねぇ」
「スザク……ひょっとして、茶髪でいかにもモテそうなイレブンの子供ですか?」
「おっめでとう、大正解。あっれ、彼ってば意外と有名人?」
「いえ、さっき少しだけ話をしましたので」
「そりゃすごい偶然だ」
「あんな子供に私は負けません。その証拠を存分にご覧に入れましょう!」
「君の方が年下じゃ……まあいいや。そこの機械に乗ってくれれば後の操作はこっちで勝手にやるから、ざっくりよろしく。期待してるよ~」
いまいち人柄の掴めない上司に困惑するファンナだが、求められているのが腕前だと分かればこっちのもの。
シートの位置を調整し、操縦桿の固さをチェック。
特に説明はなかったが、グラスゴーと基本操作に変わりは無さそうで一安心。
いつでもどうぞ、と声をかければシュミレーターが動き出した。
『使用する機体は、アグレスティアの兄弟機となるランスロット。不慣れな機体だろうし、好きに動いて敵を倒してみて』
「イエス、マイ・ロード」
スロットルを握って驚いた。
かつての愛機が玩具に思える加速性能と敏捷性、そして一番の不満だったレスポンスが格段に良い。
思い通りに機械が反応を返すことが、こんなにも素晴らしいことだとファンナは初めて知った。
しかも武器がまた凄い。
試しに撃ってみた “ヴァリス” とか言う銃もインチキくさい威力で、何故か仮想敵にされているグロースターが一発で木端微塵の有様である。
「これはルキアーノも頷くハイスペックですね。私のもコレと同等なのでしょうか?」
『残念でした、二号機は浪漫装備のせいで挙動が重たい感じ~』
「追従性は?」
『同じだね』
「なら大丈夫です。さーて、そろそろこの子の特性も掴めました。本番いっきまーす!」
超振動による圧倒的な切断力を発揮する “MVS” を肩から引き抜き、ビルを蹴って三角跳び。
敵機を移動のついでに両断すると、減速することなくスラッシュハーケンを発射して方向転換を行う。
常に動きを止めない流水のような機動を続け、狙うは無傷の完全勝利だ。
「まだまだ、これからっ♪」
楽しくなってきたファンナは鼻歌交じりにグラスゴーでは思っても出来なかった動きを試し始め、段々と曲芸的な遊びを始めていた。
三回転半捻りのスピンからの連射、空中で縦回転しての踵落としと、やりたい放題である。
『すっばらしい、真面目なスザク君じゃ取れなかったデータばかりだ。個人的にはまだまだ続けて欲しいけど、これって燃費も計測しているんだよね。ぼちぼちエナジー切れじゃない?』
「うーん、継戦能力の低さは使う側の不安要素ですね。改善は可能ですか?」
『対応策は検討中だよ。ま、アグレスティアは君好みに仕上がってるから大丈夫じゃないかな』
「了解です」
試験プログラムを終了させたロイドは、スキップしながら奥のコンソールへと移動する。
そこに待つのは知的な美人はロイドの補佐を務める大学時代からの後輩、セシルだ。
今はデータ解析の真っ最中で、手が空いていないのか足音を立てても振り向きもしない。
しかし、声をかければ話は別である。
「いやー、化物だねえ。まだ育ち盛りだし、末恐ろしいデバイサーだ」
「あれだけのマニューバーを繰り返して、へっちゃらな顔でしたからね。それにこの数値を見て下さい。機体への負荷が無茶な動きに比べて驚くほど小さい。この調子だと限界領域を探ってる感じでしょう。まだ余裕ありますよ、彼女」
「適合率は?」
「90とスザク君には劣りますけど、なかなか見られる数字じゃありません。これが開発中の専用機になれば、ロールアウト間近と噂の “ギャラハッド” にも劣らないのではないかと」
「ま、僕らはランスロットを完璧にするだけさ。政治はシュナイゼル殿下、現場はセリエル殿下が面倒を見てくれるはずだし、向こうに負けないインパクトのあるネタ装備を作らないとね~」
「あまり適当な事を繰り返すのであれば、私が怒りますよ?」
「ぜ、善処します」
後輩で部下ながら、ロイドはセシルに頭が上がらない。
まるでどこぞの円卓の騎士と副官のようである。
「いやはや、明日からが楽しみだねぇ」
ランスロットをキラキラした目で眺めるファンナを横目に、ロイドは誰にともなく呟くのだった。