コードギアス -覇道のセリエル-   作:夏期の種

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本当は別クラス、別学年にセリエルを配置したかったアッシュフォード首脳陣。
しかし、彼の護衛兼手駒となるスザクはルルさんのクラスの罠。
どうせいつかは顔を合わせるだろうし、どーにでもなーれと成り行きに任せました(


TURN04「チェックメイト」

 昔から同年代が集まって優劣を競い、社会で必要となるコミュニケーション能力を磨いていく学校と言う場所には興味があった。

 何せ僕の世界と来たら、親族とレストレス兄妹以外は全て使用人と言う狭さ。

 これでは内弁慶と謗られても仕方のない引き篭もりっぷりではなかろうか。

 だからエリア11への旅を望んだ。

 ゼロと言う格好の遊び相手が居て且つ、没落しようと名門の名に相応しい貴族が運営する教育機関が置かれたこの土地を。

 

「兄上、僕はエリア11へ行こうと思います」

 

 仕事の合間を縫って訪れたのは宰相の執務室。

 国の運営を全て放棄した陛下に代わり、ブリタニアを実質的に切り盛りするシュナイゼル兄上のお膝元である。

 

「おや、私の補佐に飽きたかな? それともゼロを見て血が騒いだのかい?」

「強いて言うなら後者ですね。兄上の尽力により新型のロールアウトも間近、乗り手も十分な資質を見せてくれました。格好の獲物が跋扈する彼のエリアは手ごろな物件ですからね」

「ふむ」

「それに向こうでは、エル家直轄の特派も肩身の狭い思いをしているとの事。宰相補佐官の僕が陣頭に立てば姉上もとやかく言えないでしょうし、一石二鳥かと。これは正式な許可があれば、の話ですけど」

 

 他の兄や姉が各エリアの総督として赴任する中、僕のお仕事は本国で国政の一端を担うこと。

 と言っても、所詮は兄上のお手伝い要員レベルなのはご愛嬌。

 恥ずかしながら重要度の低い案件を処理し、時に大使として他国を行脚する宰相見習いが僕の役割だ。

 故に宰相 ”補佐官” 。

 未来の大黒柱としてお勉強中の、モラトリアムと言ったところか。

 

「それだけかい?」

「実はもう一つ理由が。アッシュフォードに秘蔵されている歴史の闇に葬り去られた第三世代型KMFの現物を一度見てみたいのです。アレの特性をほんの一部取り入れただけのランスロットであの性能。開発畑に関わる身としては興味が尽きません」

「君は本当にKMFに傾倒しているねぇ」

 

 僕のKMF好きの発端は、幼い頃に見た試作型ガニメデの雄姿にあるのだと思う。

 果たしてテストパイロットを勤めたマリアンヌ様の腕なのか、それともガニメデのポテンシャルなのか。

 見学した演習で当時のMBT一個中隊をたった一機で鎧袖一触に切り捨て、しかも本人は無傷という驚異の結末。

 アレは本当に格好良かった。

 記憶が美化されているにしても、僕と言う人間に大きな影響を与えたことだけは確かだろう。

 お陰で気づけば趣味がKMF開発と言う不思議。

 徹底的に勉強して、眺める側から作る側へ華麗に転職さ。

 暇を見つけては特派のラボに入り浸り、図面を引くこともしばしば。

 ロイドやセシル君には才能で及ばないけど、これでも研究者の端くれ。

 MVSの基礎設計を筆頭に、それなりの成果は残せていると思う。

 

「後はまあ、見物ついでに学生生活とやらをエンジョイして羽を休めるのも一興かなと」

「君がハイスクールに? 確かにそれは面白いね」

「では?」

 

 顎に指を添え思案する兄上は実にエレガント。

 我が兄ながら、まさに貴公子と表すに相応しい容姿と所作である。

 顔つきの同じ兄弟なのに、僕には出せない味だなぁ。

 

「構わないよ、思い通りやってみなさい」

 

 かなりの無茶振りなのに、やはりと言うべきか返ってきたのは了承。

 正直、とある事情でこの人は僕に対して基本的に甘い。

 少なくとも、砂糖に蜂蜜をマシマシ程度の甘さだ。

 

「可愛い弟の為なら何でもするよ。望むなら皇帝の椅子さえプレゼントする程度には」

「僕はオデュッセウス兄上より、少しだけマシ程度の凡人なんですけどね」

「君は十分に有能だよ? それにお隠れなった母上もそれを望んでいるんじゃないかな」

 

 でました、マザコン発言。

 美形で地位も高く私利私欲も無い完璧超人の癖に、これだけは何歳になっても変わらない。

 何せ ”母上が褒めてくれるから”と言うだけで努力を続けて来た人だ。

 あまり実の兄に言う言葉ではないけど、この人の本質は虚無。他人の望みを叶える為だけに生きるロボットに、欲望を、自由意志を持てという方が無理なんだと思う。

 そして僕の我儘を無条件で受け入れてくれるのも、ここに理由がある。

 僕が物心付いた頃に死去した母上が最後に残した願い、それは “弟を守って” らしい。

 それは兄上にとっての神託。敬虔な使徒である兄上はその言葉に従い、弟の願いを全て肯定することに生き甲斐を感じている節があるんだよね。

 

「個人的には兄上が皇帝、僕はその補佐と言う体制が理想だとは思いますが……まぁ、陛下が元気な内は先送りにしましょう。今は前向きに考えるってことで、勘弁して貰えません?」

「好い返事を期待しているよ。ああ、ナイトオブファイブの指揮権とレストレス嬢の身柄の件、こちらで話を通しておこう。陛下もエリア11の状況を快く思っていないから、抑止力として置くと言えば反対もしないだろうしね」

「お願いします。では部下を待たせていますので」

「何かあれば、いつでも相談においで」

 

 終始笑顔の兄上へ一礼し、僕は執務室を後にする。

 これで再設計した未来への第一歩がスタートした。

 ファンナの引き抜きと、テファルを呼び寄せる手筈は万全。

 問題は僕の親衛隊の旗機となる新型の開発が遅れていることだけど、こればっかりは自業自得なので仕方がない。

 色々なコネで入手した各ラウンズ専用機の設計データをフィードバックしようとする以上、時間がかかって然るべきだ。

 妥協して中途半端な機体を作るより、じっくり時間をかけて最高を目指す。

 それが僕のモットー。無理に焦る必要はないさ。

 

「あの子も強く、そしてそれ以上に綺麗になった。約束を破るような娘じゃないが、未だに心を捧げてくれるか不安だ」

 

 七光りと思われても困るだろうと、あの日を境に一度も連絡を取っていなかった。

 ミスってラウンズに昇進してしまったテファルとは直接会う機会も増え、密な関係を築けていると思うが、ファンナとは文を交わしたことすらない。

 ぶっちゃけ、本当に今でも好いてくれるのか少しだけ怖かったりもする。

 僕も年頃だから、異性に興味が無いわけじゃない。

 しかし、近づいてくる女の子は揃って利権が目当て。

 彼女たちが見ているのは、セリエルと言う人間の形をした権力なんだよなぁ。

 責務としての政略結婚は必要だとは思うよ?

 だけど僕の地盤は既に兄上がコンクリ舗装まで済ませた磐石っぷり。今更擦り寄ってくる風見鶏は、獅子身中の虫にしかならないのでノーサンキュー。

 と、そんな風に僕には選り好みする余裕がある。

 他者を見下す思考回路、本音と建前を使い分ける仮面の笑顔、それらを標準装備した貴族やら大金持ちの娘さんたちは趣味に合わないので、近づかないで頂きたい。

 少しは昔のファンナを見習って、打算抜きの感情を向けて欲しいものだよ。

 

「おや、殿下?」

 

 考え事をしていたせいか、前から来た人物に気づかずにぶつかってしまった。

 男の癖に女っぽい喋りに加え、薄くメイクまで決め込んだその人物。

 その名はカノン。何故か兄を唆す双子の片割れっぽいと思うのは何故だろう?

 彼を知る人は揃って変態と呼び、僕も御多分に漏れずあまり好きになれない相手である。

 しかし、こういうのに限って能力が高いから不思議だ。

 立ち位置は兄上の副官というか秘書というか、僕のレストレス兄的なポジション。仕事はよく出来るので、僕としても表立って敵対するつもりはない。

 

「済まない、少し注意力散漫だった」

「お気になさらずに。それよりも、簡単に臣下へ謝罪をしてはいけません。皇族は傲慢なくらいで丁度よろしいのです」

「また難しい注文を」

 

 しなを作られ悪寒が走る。

 いい歳をして浮いた話の無い兄上に、そっちの気があるとは想像もしたくない。

 万が一衆道にでも走っていたとしたら、僕にもカマ野郎の食指が動く予感がある。

 命を狙われるとはまた違った恐怖に身震いし、逃げ出す僕だった。

 

 

 

 

 

 TURN04「チェックメイト」

 

 

 

 

 

「ええと……リエル・アスプルンドです、宜しく」

 

 居並ぶ少年少女の前に立ち、堂々と偽名を名乗る。

 姉を始めとして多方面から口を挟まれたが、摂政の許可を錦の御旗にラウンズの妹にして選任騎士が内定しているファンナを護衛とすることで黙殺。

 念の為と髪形を変えた上でロイドの姓を騙るセリエルは、来日早々貴族の三男坊と言う肩書でアッシュフォード学園に編入を果たしていた。

 正体を隠す理由は単純。この方が面白いから。

 庶民の生活を体験し、そこから何かを得てこそ意味がある。

 当然学園の母体であるアッシュフォード家にもその旨は伝えてあり、セリエルの素性を知る者は極僅か。

 度を過ぎない限り、無礼講で通すと周知済みである。

 

「同じく、ファンナ・レストレス。宜しくお願いします」

 

 対してファンナは素性を隠さない。ナイトオブファイブの妹である事を表に出し、どこからどう見てもイレブンの外見がもたらす嫌悪感を吹き飛ばす。

 お陰で向けられる視線は、好奇心や好意といった正の感情だ。

 もっともこれは、先に道を開いた先任者の働きでもある。

 セリエルに遅れる事数日。副総督として赴任してきた皇族の気紛れで、同じく純イレブンのスザクが先に入学を果たしていたのだった。

 ちなみにその皇族はセリエルとも仲の良い、リ家のユーフェミア。

 彼女の姉で戦乙女の異名を持つコーネリアとは正反対の、絵に描いたような深層のお姫様である。

 

「……何故、貴様がっ」

 

 一瞬感じたのは明確な敵意。誰の仕業かと級友を見渡したセリエルの目に異物が写る。

 ブリタニア人では珍しい黒髪に切れ長の瞳。知人を彷彿とさせる顔には驚きの色を貼りつかせ、目があった瞬間露骨に目を逸らした男子生徒が一人居た。

 既に腰の銃に手をかけていたファンナが “どうしますか?” と目で訴えかけてくるのを手で制し、あえて相手の出方を伺うことにする。

 

「はい、質問タイムは休み時間にね。授業始めるわよ」

 

 どうせ与えられた席は、偶然にも少年を背後から眺められる絶好のポジション。喉下に刃を突きつけられた彼が、何時まで平静を保っていられるか実に楽しみだ。

 対象の短気な性格を良く知るセリエルは、慌てず騒がず観察を開始するのだった。

 そして迎えた昼休み。

 水泳部で生徒会役員だという栗色ロング美人が話しかけてきたのを切っ掛けに、矢継ぎ早な問いかけが始まった。

 それらを上手く捌きつつ、例の少年についてそれとなく調査のメスを入れていく。

 彼について教えてくれたのは、最初に接触した少女ことシャーリーである。

 

「ルルってば、すーぐ授業をサボってリヴァルとどこかに行っちゃうの。今日みたいにちゃんと朝から登校してくるのは珍しいのよ」

「不良には見えないけどなぁ」

「そこがルルの作戦。品行方正なフリをしながら成績もトップ。おかげで先生も注意しないんだから!」

「け、計画犯だね」

「そーなの、おかげで私がどれだけ苦労してるか……」

 

 話が惚気話に変わり始めたところで、観察対象に動きがあった。

 制服の襟元を引っ張る仕草をスザクに見せると、二人揃って教室から姿を消していく。

 二人に接点があったとは驚きだが、符丁で通じ合う仲なのは間違いない。

 あれが本当に知人ならば、罠の可能性は有り得る。

 彼は些細な理由で陛下に逆らった挙句、使い捨ての人質として妹共々日本に引き渡された不遇の皇子だ。

 てっきり開戦と同時に兄妹仲良く処分されたと思っていたが、もしも生きていたならどんな逆恨み抱いているか分かったものではない。

 しかし、手持ちの戦力はどんな罠であれ正面から打ち破れると確信がある。

 ここは受けて立とう、とセリエルは決断した。

 

「ごめん、そういえば先生に呼ばれてた。ちょっと行ってくるよ」

「こっちこそ、引き止めちゃってごめんね」

 

 既に追跡を始めていたファンナ先導の元、辿り着いたのは屋上だ。

 遠目に見ても熱の入った議論を繰り広げている二人の少年を見つけると、わざと足音を立てて一歩一歩を踏みしめる。

 

「やあ、生きていたとはびっくりだ。再会を祝って祝杯でも上げようじゃないか」

「やはり来たか」

「悪いが、僕はお前を絶対に侮らない。何を聞くにしろ、手始めに自由を奪うとしよう。枢木准尉、その男を拘束しろ。これは命令だ」

 

 セリエルは冷徹な目でそう宣言する。

 

「で、殿下?」

「聞こえなかった? 拘束しろと言っている」

「……イエス、ユア・ハイネス」

 

 少年の顔に浮かんだのは苦悶の色。しかし、躊躇いは僅か。

 スザクは疑惑の少年……死亡扱いで皇籍を抹消された元神聖ブリタニア帝国第十一位皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの肩を捻りあげ、コンクリートの地面へ押し倒していた。

 

「ああ、妙な真似を見せたら僕の騎士が四肢を打ち抜くよ。手荒な真似は好きじゃないんだ。大人しくしてくれ」

「セリエル、貴様ぁ!」

「その様子だとナナリーも学園に居るな? シスコンのお前が目の届かない場所に妹を置く訳がない。調べれば分かることだ、素直に吐けよ」

「……俺たちをどうするつもりだ」

「本国に送り返し、もう一度政治の道具になってもらうのも一興。次は中華連邦あたりにでも嫁ぐのはどうさ。写真で見たけど、あそこの姫君は中々の器量だよ?」

「断るっ!」

「君に選択権はない。こう見えても今の僕は宰相補佐。決めたことを実行に移す権限を有しているんでね」

 

 淡々と己の未来を告げてくるセリエルに、ルルーシュは背筋が凍る思いだった。

 偶然なのか故意なのか、目もあわせてこない相手にはギアスが使えない。

 もしも一報を入れられてしまえば全てが終わる。それだけは避けねば。

 

「頼むスザク、奴を止めろとは言わない。だからせめて加担するのだけは止めろっ!」

「……ごめん」

「ぐぁぁぁぁっ!?」

 

 死神の手が携帯に伸び、そして―――

 

「なんちゃって嘘でしたー」

「お久しぶりですね、ルルーシュ殿下」

 

 ドッキリ大成功と書かれたプラカードをファンナが出せば、セリエルの表情が仮面を外したかのようにコロリと変わる。

 頭が状況についていけず、真っ白になっている罪人へ主犯は続けた。

 

「今さらお前が帰って来ても、皇位継承やらなにやらで揉めるだけ。大人しくしているなら、ことさら存在を暴くつもりはない。それに兄弟にいうセリフじゃないが、友達だろ?」

「貴様は友達で兄弟にこんな真似をするのか!?」

「失敬。枢木准尉、自由にしてやれ。念のため釘を刺しておくが、僕への危害が予測された時点で対応しろ。今度は拘束する必要はない、警告不要で殺せ」

「イエス、ユア・ハイネス」

「待てっ、一つ前のセリフと矛盾しているぞ!」

「僕も帝国の中枢を担う一角な訳さ。そもそも君は例の一件で皇帝陛下を恨んでいるだろ? 自業自得の癖に下手をすれば皇族全体、むしろブリタニアという国家自体に悪い感情を抱いている可能性が高いのだから、安全マージンは十重二十重に取らないと怖い」

 

 概ねその通りなので、ぐうの音も出ないルルーシュだった。

 

「ああ、そうさ。母さんを見殺し、俺とナナリーを捨てたあの男は一生許さん。そして弱者を切り捨て、強者のみが栄華を手にする国家を俺は認めない、絶対にだ」

「なら、陛下の息子たる僕も憎いか? 知っての通り、僕の大切な右腕は君の母親を守ろうとして殉職し、守りきれなった罪に問われて身内も処分された。上の命令で下げられた護衛は一切の罪を問われなかったのにね」

「待て、護衛が下がっていた?」

「知らなかったのか? まぁ、無理もない。僕がコネクションを築き上げている頃は人質として出発していたし」

「お前……何を知っている? 教えろ、母さんは何故殺された!」

「むしろ僕が知りたい。我が騎士セーガルの無念を晴らす事こそ宿願。真実を隠すベールは、何枚剥ぎ取っても終わりが見えなくて大変でね」

「ならば質問を変えよう。何処まで掴んでいるか答えろ」

「先にこっちの質問が先だ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。友達だからと言って、上下関係が無くなったと思うなら大間違いだ」

 

 セリエルは知らない事だが、彼の兄でありエリア11の前総督たるクロヴィスを笑顔で手にかけたルルーシュだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いを地で行く以上、かつての関係はリセットされている。選んだのは修羅の道、そこに例外はない。

 

「っ!」

 

 しかし眼前の少年は本当に敵なのだろうか、とルルーシュは自問する。

 共にかけがえのない存在を同じ事件で失い、真実へ辿り着こうと足掻くその姿。

 まるで鏡写しの己。立場が逆ならば、そっくり生き様も入れ替わったに違いない。

 故にギアスは使えない。

 対等と認めたからこそ、親友と同様に実力でねじ伏せなければ意味がないのだ。

 

「ああ憎いさ、憎いとも。俺が許されなかった探求を進め、真実に至る足がかりを掴んだお前が妬ましい」

「そう来るか」

「そして決して裏切らないパートナーが羨ましくて仕方がない。俺が心を許した親友は、命令一つでこの有様。実に不愉快だ」

「ちょ、ルルーシュ!?」

「事実だろ、この裏切り者」

 

 じっと話を聞いていたスザクは、突然の飛び火に粟を食う。

 そして今までの根深い真剣な話は何処へやら、話が妙な方向へ進み始めた。

 

「ははは、我が騎士は陛下の命令であろうと僕に害は成さない。しかも美少女だぞ、美少女。そこの茶髪とはモノが違うのだよ!」

「おのれぇ、可憐ジャンルなら妹のナナリーとて負けん! 貴様は知らないだろうが、それはもう美しく育っているからなっ!」

「いやいや、じゃじゃ馬でならした暴君ナナリーが可憐? ミソスープで顔を洗って出直して来い。僕が腹パンの仕打ちを何度受けたと思う?」

「懐かしいな。からかわれたナナリーが激昂してお前を殴り倒し、さらにファンナによって張り倒される……いい思い出だ」

「よくねぇよ!」

「……今のナナリーは拳を振るうどころか、物を見る事も、自分で立ち上がることも出来ないんだ」

「例の一件は、未だに尾を引いているのか……」

 

 ルルーシュの妹ナナリーは、母親の暗殺に巻き込まれて光と両足の自由を失った。

 昔はやんちゃな性格で、手を焼くこともしばしば。

 ぶっちゃけ、結構殴られて苦手意識すら植えつけられているセリエルである。

 しかし、今では淑やかで穏やかな淑女だと言う。周りに迷惑をかけないよう、静かな水面のように生きていると聞いて複雑な心境だった。

 

「……今度、会わせてくれないか?」

「……ああ」

 

 差し出された手を掴み、握る。

 セリエルの言い分ではないが、確かにあまり兄弟という気はしない。

 しかし、紛れもなく友人だ。

 

「僕が出会ったのはルルーシュ・ランペルージ。そうだろ?」

「ああ、リエル・アスプルンド。これから宜しく頼む」

 

 互いに嘘で塗り固めた今ならば、しがらみを忘れて付き合うことが出来る。

 それはゼロの仮面とは正反対、本来の己を呼び覚ますための方便である。

 

「時に枢木と親友? 経緯が想像できないぞ」

「再会したのはごく最近だが、日本に送られた頃からの親友だ」

「まあ、おいおい話してくれよ。お互い語るべき事柄は幾らでもありそうじゃないか」

「母さんの一件について、話してくれるのならな」

「僕は一般人のアスプルンドです。皇族の話なんて恐れ多くてとてもとても」

「貴様ぁっ!」

 

 からかいあう二人を見て、ファンナは嬉しさで口が綻ぶのを止められなかった。

 それはスザクも同じだったようで、顔を見合わせて苦笑する。

 

「ルルーシュにも、こんな兄弟が居たんだね」

「ええ、お二人はチェス仲間。勝負はいつもルルーシュ殿下の勝ちでしたけど、いつも笑いあって遊んだものです」

「君もその頃からの付き合いなんだ」

「はい、ナナリーとも拳を交えて仲良く喧嘩しましたよ。皇女殿下の野生と、わたしの技術……あれほど燃えた喧嘩はないですね、ホント」

「そ、そうなんだ」

「それよりも、わたしと貴方は殿下の下で働く実働部隊。機体も兄弟機ですし、あの笑顔を守れるよう公私ともに頑張ってください。わたしを満足させられないようなら、出来るようになるまで特訓ですからね?」

 

 にっこりとした笑顔で指を立て、微妙に物騒な言動が飛び出すファンナだった。

 言われた側としては自分よりも幼く、物理的にも小さい女の子の技量が分からない。

 しかし “笑顔を守る” とは何ともやりがいがある。

 出来る限りのことをしよう、そう誓うスザクだった。

 

「イエス、マイロード!」

「とりあえず基地に戻ったら、シュミレーターで模擬戦をやりましょう。合格点は引き分け以上、手は抜いてあげますから善戦を期待します」

「え?」

「KMF戦でわたしに土を付けられたのは、過去にたったの二人だけ。三人目になれるよう期待しています」

「自分とランスロットに加減は結構です。舐めないでいただきたい」

「自信満々ですね。ちなみにその片割れは、まもなくラウンズ入りだそうです。分不相応な妄言でないことを証明して下さい」

「……努力します」

 

 さらりと問題発言が飛び出した。

 自分でハードルを上げ過ぎた少年は、今も反論してはあしらわれる親友を横目に小さな上司の要求にどう応えるか悩むのだった。

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