コードギアス -覇道のセリエル-   作:夏期の種

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TURN07「The Black Knights」

『お初にお目にかかる、セリエル・エル・ブリタニア』

「これはご丁寧に。サイタマで姉上にフルボッコにされた無能君」

『くっ』

 

 皮肉がよほど効いたのか、言葉に詰まるゼロは中々の正直者だ。

 ここが攻め時。向けられた銃を無視し、セリエルは揺さぶりをかけるべく口撃を続ける。

 

「民兵を幾らかき集めても、それは烏合の衆。常に強くあらんとするブリタニアには永久に届かない蟷螂の斧だ。無駄に人を犠牲にするのは止めてくれないか?」

『それはどうかな』

「ゼロ……いや、黒のキング、お前は裸の王様だよ。兵士はおろか、騎士すら持たない王に何が出来る。現実はハンデ戦が日常茶飯事。開始の盤面は五分と思い上がっているなら、夢から覚めろと僕は言いたい」

『残念ながらそれは大間違いだよ、セリエル・エル・ブリタニア。確かに昨日まで私は羊の群れを率いていただけの男だった。しかし、これからは違う』

「ほう」

『貴様は私をキングと言った。ならば、王らしい陣容を見せてやろう』

「ふむ」

『後、勘違いを一つ訂正しておくとしよう。この余興は私の演出ではない』

「この惨状を見て “はい、そうですか” と僕が言うとでも?」

 

 ゼロの配下に連行された部屋は、汚臭に満ちた屠殺場だった。

 先客は軍服の男たち。但し、全員が物言わぬ死体ではあるが。

 不思議なことに揃いも揃って自決した風であり、争った形跡が伺えないのが解せない。

 

「どんな手品を使ったのか、僕には想像も出来ない。しかし、コレをやらせたのはお前だろ? 脚本は他の誰かでも、後付の演出を担当したのは他でもない貴様だ」

『全ては神の意志の元に計画された偶然と言う名の奇跡。そもそも私は首謀者たる “日本解放戦線” とやらの暴挙を止めるべく、君の姉上の許可を得て参上したのだが?』

「御託は結構。で、本当の目的は?」

『言っただろう、陣容を見ろと。我が意志が末端にまで行き渡った私兵集団 “黒の騎士団” 。そのデビューを飾る舞台には、世界が注目するこの場こそ相応しいと言える』

「……私兵集団? 黒の騎士団だと?」

『そう、それは正義の味方の総称だ。国も身分も関係なく、この世全ての悪を裁く剣であることが黒の騎士団の本質。その信条に従い、愚かにも民間人を犠牲にしたテロリストを駆除するべく私は参上した』

 

 大仰なポーズで言い放つゼロから満ち溢れる自信。

 しかし、セリエルにはその根拠が分からない。

 僅かに見える窓の外には、ブリタニア軍が湖を囲う様に布陣している。仮に人命を救う英雄になれたとしても、まさか逆賊が表彰されるとでも思っているのだろうか?

 

「そしてお前達も駆除されると。どうせ僕を人質に取っても無駄だ。上層部がテロに屈しない以上、姉上の勝ちは揺るがないさ」

『それはどうかな?』

「やれやれ、総督が肉親の情にほだされるとでも?」

『セリエル、確かに貴様はコーネリアに対して有用な人質ではないだろう。しかし、血を等しくする妹はどうかな?』

「ユフィ……か」

『そう、その通りだよ、セリエル・エル・ブリタニア。コーネリアが妹に向ける度の過ぎた愛情、この程度の内情を私が把握していないと思ったのかね? そもそもユーフェミアの命を軽視出来るのであれば、当の昔にこんなビルは灰燼と化している。だがそれをしない、出来ないのがその証拠。故に私の勝ちだ』

 

 戦略と知略に完全敗北を喫したセリエルは、手が白くなるまで拳を握り締めて屈辱に顔を歪める。爪が皮膚を破り血が滴るが、怒りは痛みを感じさせない。

 

「ルル―――――」

 

 せめて一矢報いようと、口を開いた瞬間だった。

 激しく揺れる足場と明滅する照明。突然の出来事に体勢を崩したセリエルは、外れたカーテンの向こうを一瞬で通り過ぎていった白騎士を見て状況を把握する。

 誰の差し金かは知らないが、硬直状態を解消する何らかの一手が打たれたのだろう。

 しかもそれは、ゼロすら把握していないイレギュラーだ。

 

『白兜に羽付きだとっ! ええい、早すぎるぞ!?』

 

 忌々しく吐き捨てたゼロは僕に銃を向け―――

 

 

 

 

 

TURN07「The Black Knights」

 

 

 

 

 

 -12分前-

 

『特派独自の救出作戦は承認されましたが、コーネリア殿下は我々を陽動としか考えていません。この前提条件は理解していますか?』

『……往々にして、勢い余った囮が作戦を完遂させる事例は多々あります」

『え、ええ。それなら言い訳も可能でしょう』

『そもそも大罪人へ交渉を任せた本営に、解決策を期待する方が誤り。頼れるのは自分だけ。最初からそう割り切った方が、シンプルで迷いがありません』

 

 日本解放戦線との交渉は、状況開始から延々と平行線を辿るばかり。

 何せ彼らの要求は抽象的な精神論であり、具体的に何を求めているのか分からない。

 しかも何に苛立っているのやら、見せしめとして人質をポンポン屋上から突き落とすからタチが悪かった。

 これには、さすがのコーネリアも頭痛が痛い。

 思わずあなたを犯人です、と謎の叫びを上げたくなる程に。

 そんな中、ふらりと現れたのが絶賛指名手配中のゼロと愉快な仲間たちだった。

 普段のコーネリアならば即座に逮捕したのだろうが、精神的な疲労と余裕の無さが判断を誤らせてしまった。

 そう……ゼロの人道的な意味で何とかしてやると言う謎理屈を信じ、交渉人の役を任せると言う愚考を犯してしまったのである。

 この決定を聞いたファンナは、即座にコーネリアを見限った。

 皇族殺しをセリエルの下に送るなど言語道断。

 これならセシルの考案した、無茶なプランの方が百倍マシだ。

 

『そ、そこまで言い切りますか』

『スザクが思うよりも皇族の人間関係は複雑です。殿下が死ねば、皇位継承レースが楽になると思う人間は少なくありません。例えコーネリア殿下がそう思っていなくても、周囲が気を利かせる可能性の高い世界なのですよ?』

『イエス、マイ・ロード』

『皆を守りたい、この思いはわたしも同じ。しかし、優先順位は絶対です。1にセリエル殿下、2にユーフェミア姫殿下。それ以外は片手間に留める。これを徹底できないのであれば、即刻ランスロットを降りなさい。貴方程上手く扱えずとも、わたしが乗ります』

『……』

『枢木准尉、返事は?』

 

 普段の天真爛漫さはなりを潜め、人形の冷徹さを見せる上官の問い。

 背筋が凍りつく恐怖を唾と一緒に飲み込み、搾り出すように口を開く。

 

『……自分は軍人です。命令には従います』

『では、もう一度だけ釘を刺しましょう。優先順位の不徹底は背信行為です。万が一にも判断を誤らせた場合、即座に裏切りと見なしますからね?』

『イエス、マイ・ロード』

 

 コーネリアの認可を取り付けた作戦は単純だ。

 先ずは地下のライフライントンネルをランスロットで強行突破。続いて貫通モードのヴァリスによる基礎ブロックの破壊を行い、一気に建物を湖に叩き落す。

 最後は混乱に乗じてアグレスティアと親衛隊を送り込み、万事解決と言うものである。

 つまり、スザクが一つ間違えるだけで作戦は失敗。ファンナの出番が訪れる日は来ない。

 

「胃がキリキリする」

 

 にも関わらず、トンネルの奥深くにはレールガンで散弾を撒き散らす他脚砲台が待ち受けているらしい。

 セシル曰く、ランスロットをもってしても無事に弾幕を突破できる可能性は五分五分。

 つまり作戦開始の時を刻むタイマーは、少年にとって終末へ至るカウントダウンだ。

 そして時は来た。

 ランスロットが地下へと突入したのに併せ、アグレスティアも疾駆を開始。敵対する意思を見せたファンナに対し敵は銃弾の雨を降らせるが、今はまだ反撃を許されていない。刺激を与えぬよう速度を絞り、紙一重での回避を徹底する。

 

「……3、2、1、0」

 

 予定時刻を示すアラーム音が鳴った瞬間だった。

 トンネルを見事突破し、ホテルの地下を突きって飛び出した白騎士がヴァリスを連射。

 ホテルの基部を壊滅的に打ち抜くと、シミュレーション通りの倒壊が始まる。

 

『ゼロと殿下を発見! 座標データを送ります!』

『了解、MEブーストっ』

 

 崩れ行くビルが生む混乱に乗じ、ファンナはスロットルを全開。翼の補助推進器にランドスピナーのオーバーロードを加え、原型機をも超える加速を開始する。

 指定座標は遥か高層だが、アグレスティアにとって空はホームグラウンド。

 敵も味方も置き去りにして舞い上がり、壁面へと打ち込んだハーケンに導かれつつゴールを目指す。

 

『殿下への無礼は許しません!』

 

 ファンナが焦る理由は、セリエルへと銃を向けるゼロの姿をセンサーが捉えたからだ。

 ここからは時間の勝負。ゼロの凶行を抑えられるかは、完全に自分次第である。

 しかし物理的に障害を排除しようにも、手持ちの武装は威力が高すぎて使えない。

 ならばと選んだのは、後先を考えない単純かつ暴力的なギャンブルだった。

 

『でんかさまっ、絶対に動かないで下さいっ!』

 

 その声を聞いた皇子は慌てて窓から距離を取るゼロとは間逆に、憑き物が落ちたように穏やかな表情で微動だにしない。

 一切の減速をせず突っ込んできたアグレスティアは体当たりを敢行して壁をぶち抜くと、衝撃で壊れかけたマニュピレーターでセリエルを守るように包み込み確保。勢いの止まらない機体は破壊を振りまくが、両手で覆い隠された思い人が傷つくことは無かった。

 

『ええい、滅茶苦茶だ!』

 

 何がなにやらのゼロにしてみれば、たまったものではない。

 羽付きの騎士がファンナの事実に驚く暇も無く、飛来する瓦礫から身を隠すので精一杯。昔からセリエルが絡むと何をしでかすか分からない狂犬ではあったが、さすがにここまで無鉄砲な真似をするとは想像もしていなかった。

 恐ろしいことに傍受中の無線では、アグレスティアの独断専行を咎めるコーネリア必死の呼びかけが現在進行形で続いている。にも関わらず、馬耳東風の完全無視とは何事か。

 他人の命は石ころ。主の命以外は知ったことではないのだろう。

 ユーフェミアすら交渉材料にならず、当然の如く民間人は論外。

 この娘は一人を生かす為に、百人を犠牲にすることを厭わない人種だ。

 少女の本質をふと思い出した瞬間、己の立ち位置が危ういことにゼロは気づく。

 ファンナの性格なら、盛大な置き土産を残すと想定される。

 軽く死を覚悟したゼロだったが、幸いにも運命は彼を見放しては居なかった。

 

『殿下、このまま離脱します。今ならヴァリスのフルパワーでフロア毎吹っ飛ばせますが、如何致しましょうか?』

「面白いショーを見せてくれるらしいから、今は見逃してやれ」

『イエス、ユア・マジェスティ』

「それに嘘か真か知らないけど、彼はテロリストから人質を解放すると言っている。何処に監禁されているのか分からないユフィを含め、救える命は救うべきだ」

『了解しました……が、そこの黒い人』

『な、何だ』

『殿下に銃を向けた無礼、必ず償わせますからね……』

 

 氷の刃を思わせる宣告に、黒の王の背中が汗で濡れるほどの恐怖を感じた。

 もしもナナリーとセリエルの立場が入れ替わったなら、同じ感情を自分も抱くのだろう。

 だからこそ少女の怒りが良く分かる。

 これが捨て台詞や、負け惜しみではない事が。

 

「ゼロ」

『何か』

 

 アグレスティアのコクピットへ乗り込む寸前、セリエルはゼロへと視線を飛ばす。

 

「今日のところは痛みわけだが、次こそ僕が勝つ」

『違うな、セリエル・エル・ブリタニア』

「む?」

『今後は未来永劫、常に私が勝つ。負けたくないのであれば、勝負を避けて本国に逃げ帰ることをお勧めする』

「そのビックマウスは嫌いじゃない。仮面の下の口がどの程度の大きさなのか、いずれ確かめるとしよう。よしファンナ、用事は済んだ。出してくれ」

 

 体格の差からシートに座ったセリエルの膝の上に少女を乗せると、アグレスティアはぎこちない動きで閉じていたウイングバインダーを展開。力ずくで体を引っこ抜き、ホテルからの離脱を試みる。

 眼下にはゼロの手引きなのか、救命ボートや船で脱出していく人々の姿が見える。

 どうやら事件は終結したらしい。

 人的被害も少なそうなのは大歓迎なのだが―――――

 

「大変です、でんかさまっ!」

「ん?」

「バランサーが壊れてしまったらしく、まともに姿勢制御が出来ません……」

「そりゃ、アグレスティアは叩けば治る安物のテレビじゃないからね。精密機械をあれだけ乱暴に扱えば、必然的に壊れもするさ」

「でも、もう少しだけ無茶をお許しください。立て直します!」

「任せた」

 

 地味に橋の強行突破でも負荷の掛かっていたアグレスティアは、先の一件と合わせてポンコツもいいところだった。無事なのは背面に装備されている翼くらいだが、それすらも挙動が微妙に怪しい始末。これだけ満身創痍でもそれなりに動くのは、ワンオフな第七世代の所以だろう。

 

「う、うん、これで着地……あれれ!?」

 

 やっとのことで降下するも、接地と同時に両の脚が根元からへし折れた。

 これにはファンナも大慌て。もはや腕でカバー不能なハードエラー対応を諦め、崩れ落ちる衝撃から守つべくセリエルの頭を胸に抱きしめながらその瞬間を待つ。

 が、いつまで経ってもその時がこない。

 頭にクエスチョンマークを浮かべていると、聞きなれた声が聞こえて来た。

 

『ここからは自分が肩を貸します。ご苦労様でした、ファンナさん』

 

 支えてくれたのは、兄弟機のランスロット。

 見事にオーダーを達成し、ほっとした面持ちのスザクだった。

 

『任務ご苦労、このままトレーラーまでの移送を頼む』

『お任せ……え? オープンチャンネルで全域通信?』

 

 

”人々よ、我らを恐れ求めるがいい。我らは黒の騎士団。力あるものが力無きものを虐げる時、必ずや現れる牙持たぬ民の代弁者!”

 

 河口湖からライブ映像で配信されるゼロの演説。テレビの地上波に乗ったそれは、今まで秘密のベールに包まれてきた皇族殺しの秘密を暴く光の奔流だ。

 KMFに軍用ヘリと、様々なサーチライトが照らし出すステージの開幕である。

 ゼロの背後には黒の制服で身を固めた団員が整列し、じっと主の言葉に耳を傾けている。そんな彼らがブリタニア軍が布陣している中を悠々と船で進む姿はモーゼの再来か。

 まさに独壇場の一人舞台。最高のエンターテイメントが提供されようとしていた。

 

”主犯の日本解放戦線は卑劣にもブリタニアの民間人を人質に取り、無残にも殺害した。クロヴィス前副総督も同じ。抵抗も出来ないイレブンの虐殺を命じている。故に私は彼らへ制裁を加えた”

 

 その言い様は正義の味方気取り。

 しかし同時に、テレビの向こう側の人々が求める物語の英雄そのものだ。

 

”私は戦いを否定しない。しかし、強い物が弱い物の生殺与奪を一方的に握るならば話は別だ”

 

 視聴者へ訴えかける仕草、分かりやすい図式。これは宣戦布告だ。誰が正しいのか知らしめ、悪を断罪する免罪符を得ようとするパフォーマンスであろう。

 

”力あるものよ、我を恐れよ! 力無き者よ、我を求めよ! 人種や国籍に関係なく、我々は弱きを助け、強きを挫く。世界は我々が断罪するのだっ!”

 

 映像を見ていたファンナは直感する。

 この男こそ今後の敵にして、最大の障害だと。

 泳がせておくには、あまりにも危険な怪魚であると。

 

「……ご高説はともかく、ゼロはこの包囲網から逃げ出せるつもりなのでしょうか?」

「無罪放免さ」

「え」

「ゼロの周りに救出された人々を乗せた船が見えるよね? その中にはユフィも居る。暗に手を出せば彼らを人質へ逆戻りさせると言っているんだよ、彼は」

「あ、その為のテレビ中継」

「正解。無謀に見えて、何重にも安全マージンを確保した上での行動なのが腹立たしい」

 

 直接対峙したことで、セリエルの疑惑は確信へと変わっていた。

 本人がどう思っているのかは知らないが、ゼロの正体は間違いなく異母兄弟だ。

 この情報は、後々まで影響する最大級のアドバンテージである。

 

「ま……どれだけ優秀だろうと、最後に笑うのは僕だけどね」

 

 敵の人物像すら曖昧なコーネリアは、今後もゼロに引っ掻き回されていくのだろう。

 しかし、セリエルは違う。中の人の本質を掴んでいる以上、傾向と対策の打ちやすい相手でしかない。

 

「さすが殿下、素敵です」

「惚れ直したかい?」

「それはありません。だってこの思いは、初めてお会いした時からずーっと変わっていませんから」

「……君はたまに恥ずかしい台詞を素面で言うよね」

「そ、そうでしょうか」

「なら、その無自覚に敬意を表して、僕も男の甲斐性を見せないと」

「?」

「仕事のついでにはなるけど、近々京都旅行へ行こうか。勿論、観光がメインでね」

「はいっ!」

 

 ファンナの頭を優しく撫でるセリエルは、第二局に向けての布石を打ち始めるのだった。

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