コードギアス -覇道のセリエル-   作:夏期の種

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IFルート突入。


TURN09「舞い降りる盾」

 山を駆け上がっていくKMF部隊が、次々と防衛ラインを突破する最中にソレは起きた。

 先ず感じたのは大地の震え。震度3~4程度の微震は、もしも事前にセリエルが示唆していなければファンナとて軽視する程度の些細な異常だっただろう。

 しかし、これは本当の異変の序章に過ぎないことを少女は知っている。

 

「さすが殿下、完璧な予測です」

 

 大地の崩壊は破壊の波となり、全てを飲み込む土石流を呼び寄せる。

 コンソール上では味方を示す青い点が片っ端から赤へと変わり、場所によっては部隊単位で全滅するところも少なくない非常事態。今やナリタは混乱の坩堝の中である。

 

「ノイズが酷くて本陣との通信は途絶。暫くは独自の判断で行動しますか」

 

 地形データから割り出した安全地帯に陣取り、状況把握に神経を集中する。

 皮肉にも愛機より優れた探知能力を持つサザーランドFのファクトスフィアを起動し、データリンクが途切れる寸前の座標データからコーネリアが居ると推測される地点を探査開始。

 しかし見つからない。が、ギルフォードを旗機とする親衛隊の発見に成功した。

 騎士のあるところ、王もあり。

 そう判断したファンナは、すぐさま機体を走らせて現場へと向かった。

 近づくにつれて見えてきたのは、ファンナとて手を焼く親衛隊と互角に渡り合う敵の姿。横流し品のKMFを持て余す日本解放戦線とは一線を画する敵部隊が駆るのは、グラスゴーのコピー品と思しき独自の新型だ。

 

『ギルフォード卿、加勢致します!』

『レストレス卿か!』

 

 牽制の弾幕を張りながら急接近し、ランスの一突きで狙ったのは二本の触覚を頭から生やす指揮官機だ。

 しかし、敵もさるもの。独自技術で作られた細身のチェーンソー刀を巧みに操り、重量比で勝る槍を正面から切り結んで受け止めてくる。

 これにはファンナも驚いた。KMF技術で最先端をひた走るブリタニア軍ですら主力は対KMF用ショットランサーなのに、試験運用段階のMVSと同等の武装をテロリスト風情が装備しているという。

 幾ら槍で突こうと、一向に折れる気配を見せない刀は実に厄介だ。

 武器の軽さは攻撃の早さ。親衛隊が苦戦する理由も良く分かる。

 

「ああもう、また一機食われたっ!」

 

 この敵の一番面倒な点は、武装でも個々の技量でもない。

 怖いのは戦術だ。彼らは個よりも集の力を重視しているらしく、見事な連携で死角、死角を突く隙の無い戦い方を徹底してくる厭らしさ。

 単騎で周囲全てが敵と言う環境で育ったファンナはともかく、騎士道精神に殉じた一騎打ちを好む親衛隊が手を焼く理由はここにある。

 

『レストレス卿、先行した姫様の後を追っては頂けないか』

『それはギルフォード卿のお役目では?』

『以前も申し上げたことではあるが、卿の戦い方は誰にも背中を預けない個人戦技。加勢は嬉しく思うが、やはり我々親衛隊の中でノイズとなっていることは否めないのだよ』

『あ、はい』

『姫様は本隊と合流すべく、ポイント9へ急行されておられる。まさかとは思いたいが、お一人ではあまりにも危険。直掩機としての守護を願いたい』

『その任、承りました。これより指定ポイントへ直行します、皆さんもお気をつけて』

『こちらも掃除が済み次第―――くっ、会話の暇も与えてくれないか。くれぐれも殿下をお頼みます!』

 

 鍔迫り合いを続けていた触覚付きをギルフォードに任せ、託された誓いを胸にファンナはサザーランドを指定されたポイントへと走らせる。

 しかし、その行動はやや遅かった。合流地点の断崖に挟まれた渓谷には右腕を失ったグロースターと、崖の上から銃弾を振りまくKMFの群れ。

 しかもコーネリアの前には真紅の新型が襲い掛かっており、絶体絶命の様相だった。

 

『聞こえるか、ファンナ』

『感度良好です』

『データリンクの復旧に伴い、概ねの状況は把握している。ここは姉上を助けて恩を売りたいシーンだけど、別段無理をする必要も無い』

『はい』

『エリアに蔓延る腐敗の一掃、軍部の再編、姉上に片付けてもらいたい案件は山ほど残っているが、いざとなれば象徴のユフィと、実務の僕で片付けられる程度の雑事だ。敵の戦力が僕の予想を上回っている以上、無理は禁物。姉上の命の優先度を落とし、堅実な攻めを徹底しようか』

『無茶はしません。でも―――』

 

 そう、100にも満たない敵機は黒魔女が恐れるほどの脅威ではない。

 懸念は新型の性能だけだが、仮にグロースターと同等だろうと許容範囲。万が一にも遅れを取ることが無いと判断した少女は、動きの鈍ったコーネリア機に向かって射撃を続けるKMFを出掛けの駄賃として破壊すると、そのまま崖を飛び降りた。

 

『ギルフォード卿との約定により、ファンナ・レストレス参上!』

 

 着地した瞬間、少女の凛とした声が戦場へ響き渡る。

 その宣言がトリガーとなり放たれた銃弾の雨を回転させたランスで弾き返すと言う超人技を見せ付け、ぼろぼろのグロースターを庇う姿は騎士の誉れ。

 聞き覚えのある声と名前にルルーシュは頭を抱えたが、ここで他心を加える余裕は無い。

 死なないことを祈りつつ、苦渋の選択を行った。

 

『ええい、紅蓮弐式は先に邪魔者を潰せ! それでチェックメイトだ!』

『はいっ!』

 

 そんな敵方の苦悩を知らないファンナは、一撃必殺を狙いランスを構えて突撃を慣行。避ける素振りすら見せない敵に違和感を覚えるも、慣れたモーションで獲物を突き出す。

 

『ファンナ、爪に気をつけろ! それは触れたものを連鎖的に破裂させる新兵器だぞ!』

『なっ!?』

 

 自分と同じ過ちを犯しかけるかつての教え子に、慌ててコーネリアは叫ぶ。

 とっさに槍の軌道を変更するファンナだが、紅蓮はその上を行った。

 刺突から横薙ぎに修正された一撃を難なく右腕で掴み取ると、魔女の懸念する力を無造作に発動。赤い光を輝かせ、全てを破壊する能力を解放した。

 

『こんな武器が存在したなんて……でも甘い!』

 

 謎効果により沸騰して膨張するランスを瞬時に手放すと、マウントしておいたマシンガンを掴み連射。しかし幾多の兵器を葬り去った正確な射撃は空を切り、虚をつけるはずのローキックも簡単にいなされてしまう。

 これはファンナにとって、生まれて初めての経験だった。

 パイロットの腕も相当高いが、機体性能の差が絶望的だ。

 触れただけで内部から破壊する腕に、第七世代級の反応速度。

 これでは勝負にならない。如何にドライバーの腕が優れていても、市販車でレースマシンと競うことは不可能なのだ。

 

『引け、ファンナッ!』

『……その命令だけは聞けません。だって、コーネリア殿下を守るってギルフォード卿と約束しちゃったんです。ここで逃げては、胸を張ってセリエル様の騎士を名乗れません!』

『強情娘っ!』

『信じて下さい、貴方の騎士は負けなきゃぁっ!?』

 

 セリエルとの会話に気を取られた瞬間、今度は一気に両腕を持っていかれた。

 まだ動ける。そう思う反面、心のどこかで絶体絶命だと警鐘を鳴らす自分が居る。

 駄目元で放ったハーケンも短刀で切り落とされ、いよいよ武器が残されていない。

 

『でんかさま……ファンナは生まれて始めて嘘をつきました』

 

 そして、ゆっくりと伸びて来る銀の腕が終わりを告げる。

 操縦桿を動かす手は止めないが、一流の本能が回避不能と教えてくれた。

 おそらくあの武器を前にして、脱出装置は意味をなさないだろう。

 助かる術は、もう……無い。

 

 

 

 

 

 TURN09 「舞い降りる盾」

 

 

 

 

 

『ごめんな―――――』

 

 最早これまでと絆のリボンに手を添えて目を閉じるが、サザーランドを襲ったのは正面ではなく背後からの衝撃だった。

 

『ファンナ、無事かっ!』

『……殿下?』

『いいから姉上と一緒に空でも眺めていろ。後のことはこちらで何とかする!』

『まさか、ランスロットが間に合ったのですか?』

『ユフィの承認を取り付けてスザクは送り出したけど、そっちはもう少し掛かる』

 

 ふと疑問に思ったのは、どうして敵が止めを刺さずに下がったのかと言うこと。

 ?マークを浮かべるファンナだったが、紅蓮とサザーランドを結ぶ死のラインを分かつように穿たれた銃痕に気がついた。

 そして、それを待っていたかのように重量物が落下。重音を響かせて大地に降り立ったのは、一機のKMFだった。

 背から伸びる二門の長砲。両肩に備わったシールドバインダーに加え、現行の機体と異なるエッジの効いたフォルム。白を基本に赤系統で纏められた色合いも相まり、一度見たら忘れられないデザインである。

 

「新手かっ!」

 

 醸し出す雰囲気がブリタニア製とは思えない機体の乱入に、さしものコーネリアも絶望する。

 鬼の爪持つ悪魔ですら持て余している状況で、敵の数が増えるだけでも厄介だ。

 救援に来たファンナも一蹴され、もはや打てる手は存在しない。

 皇族らしく誇り高く戦い散るべきか。そんな考えを抱いた瞬間だった。

 背面から地面に垂れていた赤の砲が半回転したかと思えば、正確無比な砲撃が始まる。

 連射に次ぐ連射。ランドスピナーによる超信地旋回を終えれば、崖の上の制圧は一瞬で完了していた。

 

『識別信号は……そうか、あの男が来てくれたのか』

 

 画面に表示されたマーカーは、ブリタニア軍において特別な意味を持っている。

 それは如何なる場所、如何なる時でも不敗を司る象徴。

 彼の者の名はナイトオブラウンズ十二席の第五位、テファル・レストレス。

 事前の連絡で参戦する旨は聞いていたが、このタイミングで姿を現したことに驚きが隠せないコーネリアだった。

 

『お久しぶりです、コーネリア姫殿下』

『昔は地味で鳴らしたお前が、こうも派手好きになるとはな。さては登場のタイミングを見計らっていたな?』

『偶然であります。自分は今も昔も無駄な危険を冒すことを好まぬ臆病者ですので』

『だろうな。さて、思い出話の続きはまた後だ。私はラウンズへの命令権を持たぬ故、あえてこう言おう。力を貸せ、テファル・レストレス』

『イエス、ユア・ハイネス』

 

 後顧の憂いを無くした赤騎士は、次なる獲物を同色の鬼へと定めて動き出す。

 両手にライフルを追加した計四門の銃口が火を噴けば、さしもの紅蓮も分が悪い。

 忍者の如き軽快さを続けて直撃を避けるも、中々自分の距離に踏み込めない展開が続く。

 敏捷性と格闘能力で紅蓮、面の制圧力と中距離は赤騎士。一件互角に見えた勝負だったが、後者に弾切れが発生したところで形勢が傾いた。

 見物のファンナにすれば、またあの爪が決定打となるのかとハラハラ物だが、秘密兵器が何度も通用しないのも世の常である。

 

『……兄さんは爪の効果を知っている?』

『データは転送済み。もっともあの機体の装備なら、例え初見でも大丈夫だけどね』

『?』

 

 見事な見切りで頭に伸びた手を避ける赤騎士だが、そこからもう一段階伸びる伸縮機構については想定外。詰んだ、そうファンナが思った瞬間だった。

 肩のシールドが緑色の輝きに包まれると、意志を持つかのようにフレキシブルに稼働。頭を握り潰さんとする爪の間に割って入り、激しいスパークを発生させて侵入を防いでいた。

 

『これぞ僕の設計したブレイズルミナス搭載型アクティブバインダー “アイギス” 。ランスロットで実証されたエネルギーシールドの出力を強化し、自在に動くアームを取り付けた鉄壁の盾さ。零距離のヴァリスを止める前提で作られた防御壁の前に、接触型兵器は無力だよ』

『……兄さんらしい堅実な装備です』

 

 赤のKMFの正式名称は、ナイトオブファイブ専用機 “ラモラック” 。

 ランスロット、アグレスティアから得られたデータを叩き台にして生み出されたこの新型KMFは、最高最強を目指したキャメロット製品と違い、とにかく安定と堅実を求めた純粋なる兵器である。

 もっとも諸々の最大値を抑えたお陰でランスロットに基本スペックで半歩劣るが、そこは取捨選択の結果なので御愛嬌。

 但しアイギスによる無敵の防御力を中核に備え、武装面をコイルガン、MVSと言った既に実績のある武器で固めた信頼性は、兄弟機機の二歩も三歩も先を行くオンリーワンの強み。

 これぞテファル・レストレスの精神性の表れ。

 面白みは無いが、とにかく単純に強いと言うシンプルさの体現だった。

 

『戦争も人生も堅実が一番。そうは思わないか愚妹よ』

『久しぶりの妹に対して、その言いようは何ですか!?」

『殿下の命令を無視した挙句、地べたに這い蹲っている無様な肉親には妥当な表現だと思うが?』

『いえ、その……あの』

『弁解は後で聞く。黙って我が愛馬の活躍を眺めていろ』

 

 シールドをハンマーにように稼働させ紅蓮を弾き飛ばしたラモラックは、背面からMVSを引き抜いて接近戦の構えを取る。

 

『殿下、妹は放置で構いませんね?』

『うむ。テファルはこのまま赤鬼を処理。可能であれば、無傷で機体を押収したい」

『イエス、ユア・マジェスティ』

 

 続いてセリエルは、土石流で分断された道なき道を進んで来た白騎士に回線を繋ぐ。

 テファルの言ではないが、何事もやりすぎくらいが丁度良い。

 不確定要素を減らすダメ押しは、必要経費だと信じて。

 

『枢木准尉。ナイトオブファイブと共に新型を捕獲しろ。これは勅命である』

『イエス、ユア・ハイネス』

『成功を積み重ねていけば、栄達を得るチャンスは訪れる。イレブンの君に目をかけてくれているユフィの期待を裏切るなよ?』

『はっ!』

 

 完全に潮目の変わった戦場は、追う者と追われる者の立場を一変させていた。

 ラウンズの登場で士気を取り戻したブリタニア軍の反撃を、日本解放戦線は受け止めきれない。

 便りの綱だった黒の騎士団に至っては、切札の紅蓮が二匹の猟犬に追い立てられる有様。攻勢に打って出るどころか、撤退すらままならぬ窮地に追い込まれる有様だった。

 カレンにとっての不幸は、同等以上の騎士が身近に居なかったことだ。

 シミュレーターによる机上の訓練だけでは、完成された円卓騎士であるテファルは勿論、経験豊富なファンナによって鍛えられたスザクにすら届かない。

 いかに優れた原石だろうと、磨かれてこそ宝石。

 石ころでは、ショーケースに並んだ煌びやかな珠を超えることは不可能なのである。

 

「機体性能を言い訳には出来ませんけど、ランスロットを持ってしても五分。アレが量産された暁には戦場が変わるかもしれませんね……」

 

 死闘を繰り広げる赤と白を眺めながら、ファンナは悲しげに呟いた。

 剣の白と、盾の赤。前者の役割は、自分が担うはずだった。

 しかし今の立場は守られる側。騎士としてあるまじき姿を晒すとは何事か。

 

『姉上、ご無事で?』

『うむ、機体とて見た目ほど酷くは無い。安心しろ』

『それは重畳。ならば立て直しを図る為にも、早くお戻り願えませんか? 今は僕がサポートしていますが、やはり姉上の代わりをユフィが務めるのは無理です』

『……ラウンズが居る以上、現場に憂いもあるまい。私が戻るまで、引き続きユフィの補佐を頼んだぞ』

『御意』

 

 通信機越しに聞こえてくる会話は、この戦場が収束する証拠。

 

『殿下。思わぬ抵抗に右腕を破損させてしまいましたが、鬼の捕獲を完了致しました。敵本隊への追撃はどうされますか?』

『連中には、まだ利用価値がある。見逃してやれ』

『イエス、ユア・マジェスティ』

『以降は枢木准尉と共に戦場を漫遊。手柄を奪ってやるなよ?』

『味方の鼓舞と、敵への圧力を徹底致しましょう』

 

 妹の尻拭いを済ませた兄は何を思うのか。

 文字通り何も出来なかったファンナは、コクピットの中で膝を抱えながらすすり泣くのだった。

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