放課後、チャイムと同時に彼はやってきた。
「がっぴー!」
「はやいな。とりあえず帰らないとデッキないからさ」
手早く教科書諸々、鞄に入れて。通り道だから、遊樹も一緒だ。自転車に乗って帰る途中、信号で少しだけ、会話をした。
「デッキ持ち歩いてないんだ。ほんとにもうデュエリストじゃないんだね」
「向こうに行っても最初はしてたんだけどね。だんだんサポートにまわるようになったかな」
本当は、それだけじゃなかったんだけど。趣味が高じてしまったというか、なんというか。カードに回すお金が足りなくなったとかなんだけど。
「ちょっとほっとしたよ。他の町のデュエリストのレベルが高いのかと思ってさー」
「そんなに変わんないと思うぜ。まあ、勉強にはなった」
デュエルもまあまあ、カードについてもそれなりに。
「ブランクの心配は必要ない?」
「それとこれとは別だな」
そう。俺には何年間ものブランクがある。腕や勘が鈍っていることも実感している。ときどきデュエルの練習相手になることはあったが、全力でやったことは少なかった。遊樹に勝てるなんて思ってない。
「ま、大丈夫。勝っても負けても、がっぴ-が城主なのは揺らがないよ。もうそれが伝統なんだからさ!」
「懐かしいな、
決闘城。俺たちが集まって一日中デュエルをした古びた家だ。そこに行けば、デュエルができる。最初は俺たちしかいなかったが、だんだんと人が増え、俺が町を去る直前には町中のデュエリストのたまり場になっていた。その入口の鍵は俺が持っているわけだけど。
「守り抜いてるよ。ひとりでも残ってる限りはなくならない! 人は全然こないけどね……。ね、がっぴー」
「なんだ?」
嫌な予感がした。無邪気な笑顔で、遊樹が言う。
「デュエルさ、勝ったほうが負けたほうに、なんか命令できるってどう?」
「久々のデュエルだっていうのに、無茶言ってくれるぜ。それは受けるけど、無理な命令だったら却下もありな。納得のいく理由付きで」
お互い、本気でやりたいってことなんだろう。それに面白そうだし、保険はかけた。遊樹が凶悪な命令をしてくるはずもないし、受けてやろうじゃないか。
「決闘城でやるつもりなんだろ。用意するから待ってて」
遊樹は、「了解!」とだけ言って家の向かいに自転車を走らせた。
……勝てるとは思ってない。でも、負ける気もしない。俺が使うデッキは、俺自身のデッキだ。魂が宿ってるわけでも、必死に考えたわけでもないデッキ。俺が作ったいくつかのデッキの中でも、多分遊樹が最も嫌うデッキだ。けど、使わせてもらうぜ。
「それじゃ、デュエルをしようぜ」
優劣をつけるには、まだ早すぎる。
*
決闘城は、ずっと俺たち2人で守り抜いてきた。正直、城主が帰ってくるとは思っていなかったが、この町にいて、
その日は、意外と来てしまうものだ。あるはずもない未来と、わかっていながら追いかけているのは馬鹿らしいと思っていた。ふたりの戦いが大好きだった。
でも、それは初めて見る光景だった。一体何ターン目なのかはわからないが、場の状況から、始まって間もないことはわかった。
「魔法を発動させてもらう。手札抹殺……。お互いに、手札を全て捨ててその枚数ドローする」
「がっぴーらしくないカードだね。おっけー。手札の4枚、墓地に送るよ」
「カードを2枚伏せて、エンドだ」
遊樹のフィールドには、裏側守備モンスターと伏せカードが1枚ずつ。遊雅のフィールドには、攻撃表示のきつね火と伏せカードが3枚。
遊雅は、こういう戦い方だっただろうか。違う。もっと前に出るタイプだった。
「僕のターン! モンスターを反転召喚させてもらおうかな」
反転召喚されたのは、森羅の隠蜜スナッフか。きつね火を破壊するには十分だ。
「僕はスナッフを手札に戻して、魔天使ローズ・ソーサラーを手札から特殊召喚する!」
きつね火の攻撃力は300。2100のダメージが遊雅を襲うだろう。対策はあるのか? 遊雅……。
「森羅の水先リーフを召喚。自分のデッキの上からカードを2枚めくり、植物族モンスターの森羅の実張りピースとローンファイア・ブロッサムを墓地に送るよ。森羅の実張りピースが墓地に送られたから、手札から森羅の賢樹 シャーマンを特殊召喚することができる! 森羅の賢樹シャーマン特殊召喚!」
……これで、遊樹のフィールド上のモンスターは3体。攻撃力2400の魔天使ローズ・ソーサラー、攻撃力1500の森羅の水先リーフ、攻撃力2600の森羅の賢樹シャーマン。6200のダメージになるだろう。これも遊雅のシナリオのうちなのか? だとしたら、伏せられたカードには何が……。
「手札から、魔法発動! サイクロンで、さっき伏せたカードを1枚破壊させてもらうよ!」
破壊されたカードは、攻撃の無力化か。他の2枚が何かはわからないが、おそらくもう攻撃を防ぐことはできない。だがなんだろう。どうして遊雅は、焦りを見せない?
「魔天使ローズ・ソーサラーできつね火を攻撃!」
「いいぜ。これで俺のフィールドにモンスターはない」
「そうだね。ここは攻めさせてもらうよ。森羅の水先リーフ、森羅の賢樹シャーマンでダイレクトアタック!」
……これで遊雅のLPは1800。
「ターンエンドだよ。……まだ余裕?」
「さあ、どうだろうな。表側表示のきつね火は戦闘によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズに墓地から特殊召喚できる。きつね火を墓地から守備表示で特殊召喚する」
ここできつね火を出したところで、状況は変わらない。この状況を打開することができるのか?
「……ドロー。俺は成金ゴブリンを発動し、カードを1枚ドローする」
相手を回復させてまで、何を引こうとしている? わからない。あのデッキを使う遊雅は、初めて見た。
「まあ、ここは罠発動といこうか。なんだと思う?」
遊樹の顔が一瞬曇ったのがわかった。遊雅はそれに気づいたのだろうか。すぐに笑顔を取り戻した遊樹を見つめているようだった。
「さあ、遠慮なく、やってくれよ!」
あのカードは、きっと――。
「改めて。……