その翌日、一夏とオルコットさんの試合をモニター越しに見ていたけど、あれは笑えた。
一夏の装備は近接装備が一つだけで、終始オルコットさんが優位に進めていたけど、土壇場で一夏の機体が
本来は
ビット四機を全て
一夏のISのエネルギーが切れた。
どうやら、単一仕様能力を発動しっぱなしだったのが原因らしい。
ざまぁ、とでも言ってやるべきかな?
でも、まあ、
「流石と言えば、流石かなぁ?」
実質初めてのIS搭乗で、代表候補生を追い詰めるという成果と才能。
教科書と電話帳を間違えるようなバカだが、頭のキレも悪くはない。
「流石、主人公だよ」
口の端が引き攣るのが分かる。
身体が震えるから抱きしめる。
笑い出すのを全身を使って抑え込む。
嗚呼、嗚呼!!
実に君は素晴らしい!
それでこそ僕が望んだ存在だ!
未熟でありながら、人々の眼を、心を惹きつけてやまないその姿!
「アハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!」
抑えていた笑いが、哄笑となって口から咽喉から溢れ出る。
世界最強の『ブリュンヒルデ』たる『織斑 千冬』が騎士だとするならば、さしずめ彼は王に、民に懇願され奮起し立つ勇者といったところ。
それこそが、僕の望む存在。
「ハハハッッ!!………だけど、まだだ」
まだ機も彼も熟していない。
まだ待つんだ。
まあなんにせよ、まずは、
「…明日が楽しみだよ。一夏ぁ………」
「セシリアに勝ったからって、俺にも勝てると思うなよ!」
「オルコットさんに負けたからって、僕にも負けると思わないでよ?」
「ぐはぁっ!」
試合前の更衣室。
僕たちは男同士でこの学校の男子更衣室は一つしかないため、必然的に対戦相手同士だというのに一緒に着替えることになる。
ちなみに、一夏のはなかなか逞しかった。
「まったく、一夏が僕に口で勝てるわけないじゃないか」
「俺は別に舌戦をする気はなかったし、そもそも一撃死だったけどな!」
「アハハッ!」
「笑って誤魔化すな!」
「僕に笑うなと言うか」
それは無理な相談だ。
僕は笑うのも笑わせるのも好きなんだから。
それにしても、
「…二日連続で試合って、正直しんどくない?」
「…あぁ、正直な。お前は1日おいてるけど、どうだ?」
「逆にしんどい。中途半端に間が空いたからこそ、身体が疲労を訴えてる」
「「…はぁ」」
連日戦闘。
そりゃあ溜息も出るさ。
疲れだって出るさ。
そんなことを話していると、
コンコンコン
ノック三回で、扉の向こうから声がかけられる。
「そろそろ時間ですけど、二人とも着替えと準備は終わりましたか?」
真耶ちゃん先生だね、この声は。
「二人ともできたよ」
扉を開けて真耶ちゃん先生に声をかけると、それに続いて一夏も部屋から出てくる。
…なんかヘタレな顔で。
オルコットさんと戦ったときの、男の子な顔はどこに行ったんだい?
「…なんか、凄え緊張してきた」
「まあ、気持ちは分からないでもないけどね」
だからってそこまでヘタレるかい?
「大丈夫ですか?織斑君。学生だった時に私が使っていた、緊張をとる方法がありますけど…。試してみますか?」
「是非」
…即答かよ。
もっと見栄を張ろうぜ、男の子。
「いいですか?まず大きく息を吸ってー」
「すぅぅぅ」
大きく息を吸い込む一夏。
かつてこの男が真耶ちゃん先生の言うことに、ここまで従順だったことがあろうか。
いや、あったか。
先生と生徒だし。
「ゆっくり大きく吐いてー」
「はぁぁぁぁ」
おや?
ただの深呼吸なのかな?
「あ、織斑先生」
「千冬姉?!」
吐ききった頃合で放たれた真耶ちゃん先生の言葉に、ビクンッ!となる一夏。
ああ、なるほど。
だったら、僕も協力しよう。
「織斑先生だ」
「う、うわぁっ!!」
千冬先生の声に、出席簿攻撃が来ると思ったのか頭を抱えて蹲る一夏。
だが、それは僕の声真似だ。
「あ、あれ?」
「どうですか?」
予想していた攻撃が来ないことに、キョロキョロと周りを見渡している一夏。
そんな一夏に、屈んで視線を合わせて訊ねる真耶ちゃん先生。
ちょっとした恋愛物の一幕にも見えないこともないこともない。
「…あ、もう、大丈夫です」
「ふふ、そうでしょう?織斑先生に比べたら、だいたいのことが怖くなんてありませんからね」
「はは、本当ですね」
にこやかに笑いあう二人。
だが、君たちは自分たちが何を言っているのか分かっているのだろうか?
それを聞くべき人が聞いたとき、君らの頭には出席簿が降りかかってくるというのに。
ま、いいや。
痛いのは僕じゃないし。
僕はその時が来たら、それを見て笑うだけさ。
さあ、試合だ。
「【織斑一夏対刀形件角、始め!】
「『深緑の手』!!」
「中るかぁっ!」
千冬先生の号令と同時に『最古の四人』の内、オルコットさんに壊されなかった三体を展開、一夏を包囲して攻撃する。
しかし、いつの間に覚えたのか『
「オオオオオォォオォォォォッッッ!!!」
「アハハハハハハハハハハハッッッ!!!」
迫り来る一夏が咆えて、後退する僕が笑う。
傍から見れば、実に対称的な表情をしているんだろう。
だけど、その実まったく同じ表情だったりするんだろう?
ねえ?
「君も笑っているんだろう!?ねえ!一夏ぁぁぁっっ!!」
君の咆哮は、僕の笑いのようだよ?
この戦いが楽しいんだろう?
力を得たことが嬉しいんだろう?
望みが叶いそうなんだろう?
「ほら!コロンビーヌが追いついたよ!」
「ッ!?クソッタレ!!」
コロンビーヌがオルコットさんの時には見せなかった、本来の速度で一夏に肉薄する。
「ねえ、貴方?私の夢は人間の男に抱きしめてもらうことなの」
「だからなんだよ!?」
「貴方、私を抱きしめてくれる?」
そう言いながら、その手を真っ白に発熱させて一夏に触れようとするコロンビーヌ。
だが、
「悪いな」
「…あら?」
一夏の雪片弐型がコロンビーヌの肩口に食い込み、
「俺はそういうガラじゃない」
その細い身体を両断した。
地に落ちて行くコロンビーヌの目と、一夏の目が合う。
リンクしたコロンビーヌの視界から見えた一夏の顔は、辛く苦しそうだった。
「「コロンビィィィヌッッ!!」」
パンタローネとアルレッキーノが激昂し、一夏に襲い掛かる。
だけど、この二人の組み合わせは最悪だ。
炎と音を操るアルレッキーノと、周囲の空気を吸い込み圧縮して弾にするパンタローネ。
アルレッキーノもパンタローネも空気に依存した能力であり、お互いの能力に干渉し合ってしまう。
だったらどうするか。
「そもそも、干渉させなければ良い」
「『緋色の手』!!」
「クッ!?」
アルレッキーノの炎で目をくらまされ、一瞬動きが止まった一夏。
その一瞬が、命取りだというのに。
「終わりだ、人間」
一夏の背に添えられた、パンタローネの手。
そして、
「『深緑の手』」
ボゴンッ!
と、いやに響く大きな音がして、白式の背部の装甲は抉り取られた。
そういえば、今の内に言っておくことが一つ。
この小説のヒロインは、一人だけです!