エルフ転生からのチート建国記   作:月夜 涙

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第二十話:戦後処理

 戦いが終わり、後片付けをはじめた。

 村人たち全員を村に帰して絶対に戻って来ないようにいいつけてある。

 今頃、祝杯の準備をしているだろう。

 

 食料がぎりぎりのエルフの村で、本来ならそんな余裕はないが、臨時収入があったのだ。それは、やつらの作った陣にある食料と酒だ。それの質も量も、信じられないほどいい。

 

 どうやら、えらい貴族が手軽に武勲を得るために、観光がてらに来たようだ。どうりでたった五百人の中に六人も家紋持ちの貴族様が居ると思った。

 

「死体の処理をしないとな」

 

 俺はため息をつきながら、村から帝国への舗装路を見た。

 そこにはおびただしい数の死体と死傷者の山がある。

 

「人の体は腐るし、病原菌のキャリアになるからな」

 

 そう、死体と言うのはきちんと処理しなければ酷い害になる。

 野犬や野鳥が現れて、食い散らかして散乱するわ、腐って異臭を放つわ、病原菌を繁殖させるは、それはもう、様々な害悪を生み出す。

 どれくらい深刻かと言うと、籠城戦を攻略するために、死体を塀の中に投げ入れ、衛生環境を悪化させるのが有効であると言われるほどだ。

 

「今回は、俺一人でやろうか」

 

 だが、シリルのままでは一晩中やっても終わらないだろう。

 死体の処理のために、俺は【輪廻回帰】を使う決心をする。

 念のため、【知覚拡張】を使って、まわりにエルフ、そして敵の伏兵が居ないかを徹底的に確認してから魔術を起動。

 

「解放、我が魂。時の彼方に置き去りにした軌跡、今ここに」

 

 体中の魔力《オド》が活性化する。魂が揺れ動く。

 

「我が望むは、虚栄の世界で高潔であり続けた騎士、その名は……」

 かつての名。懐かしい名前を朗々と読みあげる。

 

「ディート! 【輪廻回帰】!」

 

 全身を光が包む。

 すると、俺の身体はプラチナ製の鎧に包まれた騎士のものとなった。

 

「レベル、24で、装備がランクアップしてるな。さすが、六十人以上、喰っただけはある」

 

 前回の魂喰いにより魔力があがった影響で、呼び出したディートの力も上がっているようだ。

 

「これなら、割とすぐに終わりそうだな」

 

 俺は、安堵の息をつきながら死体に近づく。

 

「【アイテムボックス】」

 

 発動するのは、ディ―トの固有魔術の【アイテムボックス】。死体の体と、装備品を分けて収納する。

 それを、片っ端から繰り返し、次々と死体を消していく。

 【アイテムボックス】は生物以外、4000kgまで、なんでも収納できるのだ。

 

「こいつはまだ、生きてるっと」

 

 俺は、毒によりのたうちまわる兵士の頭に剣を落とす。

 すると、首が飛び、一瞬で死体に変わりアイテムボックスに収容できるようになる。

 それと同時に【魂食い】が発動し、青い光が俺の身体に吸い込まれる。

 これはゲーム時代の俺を再現するために、顕現した特殊能力、殺した相手の魂を食らうことで、自らの魂を強化し、魔力を高めるのだ。

 俺の見立てでは、死んだ兵士と、毒でのた打ち回ってる兵士の割合は1:1と言ったところだ。

 

 まあ、そんなものだろう。矢が一本刺さっただけでは急所に当たらない限りなかなか死ねない。本当は、もっと殺しそこなった兵士が居たはずだが、苦痛に耐えかね、最後の気力で自ら喉を割いているようだ。

 むごいとは思うが、これほどの苦痛を与えないと無力化とはいえない。

 俺は、殺すことで兵士たちを苦しみから解放していく。

 身代金の取れない一般兵でも奴隷にして売り飛ばすことはできるかもしれないが、買い取ってくれる国まで、道のりが長く険しい。

 割に合わないので魔力の足しにする。

 

「そろそろ、ボックスが一杯か」

 さすがに、4000kg制限の【アイテムボックス】だと、装備込だと、40人ほどで用量が一杯になってくる。

 兵士の数は五百人以上いる。まかないきれるはずがない。

 

「一度捨てるか」

 

 俺はため息を吐きながら、森の中に入る。

 そこには、深さが20m、直径が20mほどの大穴が蓋で覆われていた。

 これは、俺がドワーフだったころの俺を呼びだして作っておいたものだ。ただの穴ではなく壁が煉瓦で補強されている。そこに次々とアイテムボックスから取り出した死体を落とす。

 あまりの高さから死体が落ちていくので嫌な音がなるが無視だ。

 

「それで、装備は保管庫にっと」

 

 装備品には金属が使われているので貴重だ。鉱山が周囲になく、手に入れようとすれば買うか、奪うしかない。帝国の製鉄技術で作られた鎧なんて、到底手がでないので、大事にとっておかないと。

 

 そう、考えながら、俺の工房に鎧を並べていく。こういうことを考えて大きな工房にしたのだ。

 俺は黙々と、死体置き場、工房、戦場を往復する。途中で野犬を追い払ったりと、色々と苦労したが、十往復ほどで、それなりに綺麗になった。そこら中に血が飛び散ってるが、これは雨が洗い流してくれるだろう。

 

「それにしても、随分食ったなぁ」

 

 結局、二百人ほど、とどめを刺して【魂食い】を行った。

 これほどの人数を食う機会はあまりないのでラッキーだ。まだまだ魔力が足りない。もう少し魔力を蓄えれば、もう少し強力な俺が呼べる。

 

「いかんな、俺も興奮しすぎてるのか」

 

 独り言で気を落ち着ける。

 今日は、エルフの皆に勝たせてやれて良かった。

 一番確実な方法は、俺一人が奇襲をかけて、敵を壊滅させることだ。五百人程度が相手ならそれが出来た。

 あえてやらなかったのは今後を見据えてだ。

 

 ときには俺の居ないときに襲われることがあるだろう。自分達で村を守る力。それがないと意味がない。

 だから、手ごろな練習にちょうどいいレベルの襲撃だったので利用させてもらった。

 

「ゴミは片付いたし、あとは交渉かな」

 

 俺は、【輪廻回帰】を解き、シリルの姿に戻って、戦いの最初に狙い撃ちにした貴族たちのもとに駆け寄る。

 処分した一般兵とは違い、こいつらは情報を持っているし、金になるのでちゃんと回収しないといけない。

 自殺してないといいが。

 

「ひっ、ひぃ、ひぃ、」

「あ、あっ、あああ、ああ」

 

 俺がたどり着くと、一番重要な最初に名乗りをあげた男は地面に打ち付けられ馬に蹴られて、腕が変な方向に曲がっているが一応生きていた。

 

 その副官らしい人間も無事。

 残念なのは残り四人のうち二人が死んでいることだ。苦痛に耐えかねて自殺したのだろう。

 俺は、指揮官に刺さっている矢を引き抜く。すると血が噴き出た。

 矢は刺さっているだけではあまり失血はしないが、抜くときに大量の血が出る。

 死んではもとも子もないので【ヒーリング】で傷を塞ぐ。

 

「毒も消してやりたいけど、そっちは危ないから許してくれ」

 

 免疫系の強化による解毒は、かなりの体力を奪う。風邪をひいたときに発熱して、全身に倦怠感があるが、それは体内の免疫とウイルスが戦ったときに発するものだ。

 それを魔術で意図的に加速させると、当然副作用の苦しみも倍増する。平時なら耐えれるかもしれないが、弱っている貴族たちにそれをすると、止めになってしまいかねない。

 胸元から、解毒薬と痛み止めの丸薬を取り出し、指揮官の口に突っ込む。

 矢に塗った毒は拷問用としても使っているので、いくつか解毒剤を作っていたのだ。

 一瞬目を丸くしたかと思うと、少しだけ楽そうな顔をした。

 これを飲めば、半日もすれば毒が消えるだろう。

 

「眠っておくといい」

 

 せめてものなさけで、脳を揺らし意識をとばす。

 残りの生き残った他の三人も同様の手段で、薬を与えてから意識をとばした。これで起きる頃には毒が抜けているだろう。

 

「さて、失敗したな。ディートの【輪廻回帰】を解くんじゃなかった」

 

 俺は、自殺して転がっている二つの貴族の死体を見て重い溜息をついた。

 真面目に鎧を脱がして死体を捨てよう。

 

 ◇

 

 森の中処分が必要な死体を全て穴に放り込んだ俺は、帝国軍が暖を取るために持ってきていた油を惜しみなく注ぎ込む。

 死体が油に浸かったのを確認すると、火打ち石で火花を散らし引火。

 さらに、風のマナに呼びかけ空気を送りこんで火の勢いを強くする。

 もちろん、煙が自分のところにこないように周囲の風を制御するのを忘れない。

 人間は焼くと臭いし、油が混じった煙を浴びると体がべたついて不快だ。だが、こうしてきちんと処理をして初めて無害になる。

 かつては、放置した死体によって引き起こされた流行病や、害虫の大量発生が死者の祟りとして恐れられていたらしい。

 

「悪く思うなよ。もし、おまえ達が勝てば、こうなっていたのは俺たちだ」

 

 それが戦争だ。尊厳を守るためには戦って勝つしかない。

 今回はたまたまこっちが強かっただけだ。

 俺は、死体が焼けるまでの間。揺れる炎をじっと見ていた。願わくば、この炎を二度と見ることがないように。そう、祈りながら。

 

 ◇

 

 死体の処理をし終わった俺は、まだ生きていた三人の貴族を鎧を脱がせて担ぐ。

 常日頃から魔術を使って鍛錬した体に加えて、魔力の強化がそれを可能にした。

 身代金を受け取るために、丁重に扱わないといけないので、そこらに捨て置くこともできずに、こうしてせっせと運ばないといけない。

 

「シリル村長! 本当に片付け一人でよかったのか」

「俺たちも手伝うよ」

 

 村の入り口まで来たとき、村一番の力持ちのロレウと幼馴染のリックがこちらに駆け寄って来た。

 彼らは、村に戻るように命じた時も、手伝うと言ってくれたが、ディートの姿を見せたくない俺が断ったのだ。

 あくまで、エルフの力だけで勝ったと思わないと自信につながらないし、俺はエルフじゃなくなった姿を村人たちに見せたくない。

 

「もう、終わったよ。あとは、このお偉いさん達を、罪人用の部屋に居れて、寝かしつけるだけだ」

「マジで?」

「さすがに嘘だろ? あれだけの死体の処理が、二時間もかからず終わるわけがないじゃないか」

 

 ロレウとリックは疑いの目で俺を見てくる。

 その気持ちはわからなくはない。だったら今から見てこいと言って、片付けるのもいいが、もうすぐ祝杯が始まる予定だから行かせるのはかわいそうだ。

 

「だって、俺だぞ?」

 

 だから、きわめて端的に説明する。

 すると二人は、苦笑いをした。

 

「確かにシリル村長ならやってしまいそうだ」

「シリル村長のやることを常識で考えるのがおかしいんだな。それじゃ、村長、早く村に戻ってくれ、祭りがはじめられない」

「別に、俺が居なくてもいいだろう」

「ダメだ。主役がいないとはじめられないだろう。こいつらは、俺たちが運んでおくから」

 

 そういうと、ロレウとリックが、貴族たちを担ぎ村の奥に消えていく。

 俺は、一度家に戻ってから服を着替え、水を浴びてから広場に向かう。

 

「村長!」

「やっと、主役が来た」

「こっち、こっち、料理はもうできてるぜ!」

 俺が広場につくなり、村の皆が駆け寄ってくる。

 勝利に浮かれているエルフも居れば、人を殺したことに怯えているエルフも居る。

 ひとまずは誰も死なずに済んだことを喜ぶしかない。

 

 俺より、一つ年下の少女が顔を赤くして、皿に小分けにした料理を運んできてくれた。乗っているのは、干し肉や、パンだが、兵士様から奪った酢で味付けされており、ちょっとしたぜいたくだ。

 

「ありがとう。頂くよ」

「どっ、どうぞ。シリル村長、あの、私、コンナって言います」

 

 コンナは美人とは言えないが、ショートカットの可愛らしい女の子だ。

 その子が顔を真っ赤にしながら自己紹介してくる。

 たぶん、俺はモテているのだろう。村を救った英雄で、若い村長だから。

 

「知ってるよ。せまい村だからな」

 

 俺は照れて顔を真っ赤にするコンナに微笑みかける。

 すると、頭から煙を出してコンナはフリーズした。

 

「そう言えば、ルシエは? さっきから探しているんだけど見つからないんだ」

「えっと、その、ルシエは舞の準備を」

 

 しかし、それに付き合っているわけにもいかないので、こちらから話を振ると、どもりながらも答えてくれた。

 どうやら、今日、神楽を舞うらしい。

 神楽は、祝い事の席で巫女が舞うものだ。

 ルシエの家は代々その舞を受け継いでいる家系だ。

 とは言っても、帝国に支配されてからは一度も披露されたことがない。最後に見たのは、ルシエが母親と一緒に九歳の時に舞ったときだった。

 その時は美しいではなく、可愛らしいと言う印象を持った。

 ルシエがちゃんと舞を覚えているか不安になる。

 

「特設のステージか」

 

 村の中央に、簡易的だがステージが設けられている。

 楽器が得意な村人たちが、笛のようなエルフの伝統楽器をもって座っている。

 そこに舞台袖から三人の女性がやってきた。

 三人のうち二人の女性は大きな布を持ち、一人を覆い隠している。

 二人の女性は村の中でも古株で、様々なしきたりを取り仕切っている。布で隠されているのがルシエだろう。

 

「これより、陽光の舞を行う。今宵のシュラノ様は、ルシエが務める」

 

 布を持っていた女性が宣言すると同時に布を持っていた二人の女性がその手を離す。

 布によって隠されていたルシエの姿が露わになる。

 俺は、言葉を失った。あまりのルシエの美しさによって。

 ルシエは儀礼服を身にまとっていた。これはかつて彼女の母親が身に着けていたものだ。エルフ達は誇りを失っても、この服だけは隠し続けてきた。

 薄く、光沢と透明感がある布を何重にも重ねた不思議な衣装。それが魅惑的なシルエットを作り出している。

 そして、今日のルシエは薄く化粧をしていた。それが彼女の可憐さを際立たせる。

 元から最高級の素材を磨き上げるとここまでになるのか。

 他のエルフ達も同様で、ひそひそ話をやめて食い入るようにルシエを見ている。

 

「これより、私はシュラノ様となります。では、舞を」

 

 ルシエの言葉で、音楽がなり響き、舞が始まった。

 この舞はただの舞ではない。

 遠い、遠い時代から言い伝えられてきた、この村の始祖シュラノ様の伝説を再現するものだ。

 それは、まだ魔王が存在し、魔物を生み出していた時代。

 魔王を倒して世界を救い。大魔術師と共に、二度と魔王が復活しないように封印の旅をした物語。

 

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