Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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お久しぶりでございます。

さて、ご心配のメッセージを多数いただいておりましたが、生きておりますのでご安心を!

それでは、107話です!



第107話

「ワタシを断罪する、か。満身創痍の姿であるというのにかかわらず、既に勝ったつもりでいるとは随分とめでたい思考の持ち主のようだな」

 

「好きに捉えればいい。結果など…直ぐに分かる」

 

 

仮面の下でほくそ笑むマキュリアスの挑発など意に返さず、シャドームーン…秋月信彦は掌の上に緑色の光球を生み出す。キングストーンの力を凝縮した輝きを放つ光球の出現に身構えるマキュリアスであったが、信彦の手は敵ではなく、背後へと向けられる。

 

信彦が向けた手の方向を見た志貴達は思わず顔を強張った。何故、敵であるマキュリアスではなく『彼女』へ攻撃を向けようとするのか。

 

 

「月影さんッ!?まっ―――」

 

 

志貴が制止しようと口を開くよりも早く、光球は放たれた。

 

信彦の攻撃がどれほどの威力を内包しているか嫌という程理解している志貴の脳裏に浮かぶ最悪なイメージ。光球が迫る先で倒れる混沌の後継者となってしまった山瀬舞子と妹である明美が光球に飲み込まれ、肉体を残さず全てが蒸発してしまう光景が。

 

 

「え――?」

 

 

短く声を上げた明美は、ようやく涙を止めて自分の周囲で起きた状況に目を向ける。

 

まずは突然目を瞑る程の閃光が自分に当てられた直後、姉から流れ続ける血がピタリと止まる。いや、よくみれば緑色の結晶が姉の傷口に入り込み、今以上流血を起こさぬよう圧迫しているのだろう。

そして登り始めた日の光とは別の、優しく明美達を包み込む黄緑色の輝き。それは、信彦の手から放たれた光球が巨大化し、舞子と明美を外敵からの攻撃を守る球体の結界であった。

 

志貴は相変わらずの説明不足である信彦に恨み言の一つもいいたくなるが、今は最善の手でもある。傍から見れば巨大なボールの中でオロオロとしている口も聞いた事もない同級生の身の安全はこれで確保できた。

 

あとは、信彦が決着を付けるのみ。

 

 

 

 

「…随分と優しい事だな。かつては悪逆の限りを尽くしたゴルゴムの世紀王が、死にかけの化け物とその家族を守る為に力を使うなど」

 

「貴様の目的は志貴以外にもあの者達でもあったからな。嫌がらせとでも思っておけ」

 

「フッ、ならば貴様を始末した後に殺すとしよう」

 

「随分と余裕があるようだな」

 

「当然さ。なぜなら…」

 

 

腰に巻いていた布を羽織ると、マキュリアスの姿が霞む。

 

 

「貴様は、ワタシを捉えることなく息絶えるのだからな」

 

 

既に闇夜でなく日光に公園全体が照らされていく中、マキュリアスの姿は完全に消失し、立っていた位置には影すら浮かばない。マキュリアスの姿を見失った信彦の背中に、ハンマーで殴りつけたような衝撃が走る。

 

 

「ぐッ!」

 

 

前のめりになった信彦の胸部に走る、さらに強い攻撃。どうやらマキュリアスは姿を消した直後に高速で移動し、信彦へ次々と攻撃を繰り出しているようだ。

 

 

『んだよあのやろー!チートっぽい事しやがって!!どうにか探れねぇのアレ?』

 

「無駄だ…奴が纏ったマントは奴の姿だけでなく気配そのものを遮断するようだ」

 

『かぁー、なにその宝具レベルの代物!?あいつサーヴァントかなにか!?』

 

「似たようなものかもしれんな…」

 

 

信彦の精神の底で手立てがない事に苛立ち、声を上げるアンリマユは大げさにいいながらもマキュリアスと初めて対峙した際、なぜあれほど信彦が警戒した上に不意打ちをかけようとしたのか納得できた。

 

数時間前、突如として自分達の前に通りすがりの一般人を装って現れたマキュリアスは信彦の隣を追い越した際、なんの気配も発していなかった。

 

既にあの時、マントの力を利用して己の気配を遮断し、信彦に不信感を与える事が目的であったとするならば、敵は相当性格が悪いと分析するアンリマユは、背後で膝を付き、祈るようにキングストーンの力を信彦へと送り続けるもう一人の同居人へ目を向けた。

 

 

『碧月ちゃんよ、あんま無理なさんなよ』

 

『大丈夫…私よりの事よりも信彦の応援をしてあげて』

 

額の汗を拭わず、笑顔でそう答える碧月は信彦の身体に供給されるキングストーンの出力を強める。マキュリアスによって癒えない傷を付けられた信彦は傷ついた肉体を抉り取るという強引な手段で傷そのものを排除したが、欠損した肉体部分の再生させながらでの戦闘は大きな負担を背負う。

キングストーンの意思である碧月はもちろん、そのような状態で戦う信彦も同様だ。

 

だが、アンリマユに出来る事はなにもない。

 

主人格である信彦と精神が入れ替わり、自分が得意とする戦法で相手の意表を突く事はできるだろうが、姿どころか気配すら消した相手にとっては悪手でしかない。それに切り札である自身の宝具は今の状態の信彦に耐えられるはずがない。

碧月の言う通り、ただ応援する事しかできないのか…?

 

らしくもなく拳を強く握りしめるアンリマユの精神に、敵の執拗な攻撃に耐え続ける信彦の声が届く。

 

 

「何を肩を落としているか分からんが、いつでも代われるように準備をしておけ」

 

『は…へ?』

 

「間抜けな声を出すな。奴の攻撃を見切れるのは遺憾ながら貴様しかいない」

 

 

信彦の言った通り、シャドームーンの基本スペックを引き出せるのは信彦だが、反応速度や俊敏性に関してはアンリマユの方が秀でている。だが、いくら相手より素早く動けようがその敵が見えないのだ。

 

 

『いやいやいや。珍しくお褒め頂き恐悦至極ですけど?そもそも相手の攻撃見切れなきゃ意味がないんですかね?』

 

「だったらいらん心配だ…既に手は考えてある。あとは『餌』をぶら下げれば詰みだ。貴様がしくじらなければな」

 

『うわーおこの短時間でそこまで…んじゃお聞かせ願いますかね…貴方様の策を』

 

 

 

 

 

幾度敵の攻撃を受けたのだろう。朝日に反射する銀色の装甲はひび割れていないものの、叩き込まれた攻撃の後がくっきりと残り、特に肩の円形であったプロテクターは完全にひしゃげてしまった。

 

一方的な攻撃をただ膝をついて傍観するしかなった志貴は自身の顔へと手を伸ばすが、それを白い手が制する。

 

志貴の行動を見抜いたアルクェイドは首を横に振り、紅い双眸を向けると静かに告げた。

 

 

「だめよ志貴。いくらアイツに力を鎮めて貰ったと言っても眼の負担は大きい。さっきだって、無理して相手の『死』を視ようとしたでしょう?」

 

「けど、あのままじゃ月影さんが…!」

 

しかし、アルクェイドの言う事も事実だ。志貴は相手の『死』を読み取ってナイフを走らせたが、悉く攻撃を捌かれ、回避されてしまった。いくら敵を一撃で葬る眼で相手を見る事が出来ても、相手に届かなければ意味がない。

現に負傷しているとは言えあの信彦すら手も足も出せない状態だ。

 

 

「それでも、俺が視れば敵の位置ぐらい…」

 

「それこそ止めておきなさい。もし、少しでも位置を知らせるような事をすればアイツはノブヒコじゃなくて貴方を殺すわよ」

 

 

冷たく言い放つアルクェイドの表情は険しいものだった。志貴の眼であれば姿の視えない敵であろうが、相手の『死』の線や点を捉えることで位置を把握する事ができる。そんな自分が不利になるような存在を、あのマキュリアスが放っておくはずがない。

志貴が口にした瞬間、あの透明の鎌は志貴の首を身体から切り離してしまうだろう。

 

志貴はただ、見ていることしか出来ないのかと公園の砂利を見つめると、彼の目線に合わせて膝を付いたシエルが優しく肩へと触れる。

 

 

「心配なのは分かりますが、彼がこの程度で敗れるわけがない。遠野君も、そう思いますよね?」

 

「シエル先輩…」

 

「え、なにどうしたの?アイツの味方するなんて。好きになった?」

 

「何を藪から棒に途方もない勘違いしやがりますかこのアーパー吸血鬼はッ!?」

 

 

頭上でギャーギャー口喧嘩を始めた2人のおかげで僅かながら落ち着きを取り戻した志貴であるが、不安は拭えない。信彦が駆け付ける前にマキュリアスと戦った志貴は相手の『線』と『点』を捉えようと脳への負担を顧みず魔眼の力を強めていた。その時に線や点とは異なる『何か』を視た。

 

ただ、志貴が驚いたのは視えた事ではない。なぜ、敵が彼と同じ『モノ』を内包していたかという事だ。

 

(月影さん…)

 

 

 

 

 

 

「まだ耐えるか。随分と頑丈のようだな」

 

 

マキュリアスの声だけが響く公園の中央に佇む信彦の装甲に赤い液体が染み付き始めた。銀色の装甲をいくら叩いても無意味と考えたマキュリアスは装甲で覆われていない関節部分に狙いを定める。だが、強化皮膚であるリプラスフォースも切り裂くのは容易ではない。

しかしマキュリアスは姿が相手に視えないという大きなアドバンテージから反撃を受けることなく一方的な攻撃を継続した結果、信彦に塞がる事のない傷を切り刻んでいった。

 

「さぁ、次はどうする?もう立てぬよう足の健を切断してやろうか…」

 

「確かに、厄介な鎌だなそれは」

 

「ああ、ワタシも驚いたよ。これほどワタシの理想に近い武器はない。この肉体の基となった人物には感謝せねばならぬな」

 

「ついでに謝罪の方法も考えておけ。このあと、自慢の鎌は粉々に砕け散るのだからな」

 

「…なに?」

 

 

マキュリアスは信彦の放った言葉に思わずそう呟いてしまうが、ただの強がりだと一笑に伏す前に、信彦が続いて述べられた言葉と仕草に、ついに閉口してしまう。

 

 

 

 

 

「1発だ」

 

 

腕を前方へと伸ばし、人差し指を天へと向ける。

 

 

「1発で貴様の鎌を砕いてやる」

 

 

 

 

 

正気とは思えない信彦の発言にマキュリアスは笑えばいいのか、憐れみを向ければいいのか判断に悩んでしまう。しかし、こうして自身に抗い続ける者へ向ける情けとして、マキュリアスは現実を突きつける。どのような手段を講じようが、勝ち目などないという現実を。

 

 

 

「何を言い出すかと思えば…強がりは程ほどにしておくがいい。それに…発言は正確にしなければならないだろう?」

 

「君は、あと1発しか攻撃できないのだと」

 

 

ピクリと、信彦の立てた指が僅かに揺れたことをマキュリアスは見逃さない。

 

信彦へ初めて接触してからいままでマキュリアスは多くのダメージを与えてきた。ハルペーの鎌による癒えない無数の傷を負った信彦は自ら傷口を抉るという暴挙で傷を強引に塞いだが、その為にキングストーンの力を大半で補い、シャドームーンへの変身。

おまけに死にぞこないである混沌の後継者の傷を塞ぐために力を注いでいる。

 

そんな状態で立っているのがやっとである信彦に残された力は、あと僅か。マキュリアスの言う通り、あと1回の攻撃が限度なのだろう。

 

 

 

「訂正は必要か?」

 

「見事な洞察力といったところか」

 

「…なぜ、そうも冷静でいられる?圧倒的不利なのは、お前なのだぞ?」

 

「こちらとしては事実を認めたまでだ」

 

 

腕を下げた信彦はマキュリアスの分析を否定することなく、大したものだと言いたげに肯定する。信彦の足元には絶えず流れ続ける血によって、赤い水たまりが生まれ始めていた。

だが、己の血が流れ続けようが、攻撃ができるのはあと1度が限界であると知られながらも毅然とした態度を崩さない。

 

不利な状況に追い込みながらも、悲鳴一つ上げない信彦へ次第に警戒心を強め始めたマキュリアスはもう言葉は一つ上げずに信彦の背後へと接近し、止めをさそうとするが、再び信彦の言葉に身体の動きが封じられてしまった。

 

 

 

 

「では、こちらの番だ。決定的な内容については未だ不明だが、貴様の分析結果を教えてやる」

 

 

 

「ずばり…貴様が目をつけた連中を殺戮する動機だ」

 

 

 

 

 

 

マキュリアスの仮面の下で、どのような表情を浮かべていたかなど、本人すら分からなかい。だが、明らかに信彦の告げられた言葉によって、僅かながら崩れた。

 

 

「…面白い。聞いてやろうではないか」

 

 

一抹の不安に駆られながらも、マキュリアスは信彦の言葉を聞き入る。遥か後方に待機している志貴たちや、落ち着いた直美も同様に、耳を傾ける。

 

 

 

「…そもそも貴様がこの街を守る為に殺戮という手段を講じていた時点で大きな疑問が残る。静かで、穏やかな街の平穏を崩そうとしている者を殺すと貴様は言った。だが、貴様が殺したのは魔術師だけであり、続いての対象は志貴だ」

 

「それの何が間違いだというのだ?」

 

「対象の選別に間違ってはいない。だが、街の平穏を脅かす存在がそう言った者達に限定されている事がそもそもルール違反となっているだ。言っている意味が分かるか…?」

 

「……………………」

 

「『街の平和を脅かす』という定義は何も人を襲う化け物や魔術師だけではない。この街に住み着いている人間の中にも、それ相応の悪意を持った者共も潜んでいる。そんな連中も表立っていないだけで『平和を脅かしている』」

 

 

信彦がこの街へ現れて一カ月。その一カ月の間で信彦は当初街に潜む吸血鬼の調査をする中で街の様々な『闇』を視た。

 

人を陥れて笑う者。

 

無抵抗の人間を痛めつけ快楽する者。

 

そして、誰にも察知されることなく殺人を起こす者…

 

 

だが、吸血鬼騒ぎが起きてそのような悪質な事件が鳴りを潜めている期間に起きた事件は、マキュリアスが起こした魔術師の殺人だけ。それまで、マキュリアスが起こしたであろう事件は何一つ信彦とシエルの耳に届いていない。

 

 

 

「つまりだ。お前はお前が『殺したい』と考えている対象しか狙っていないことになる。この街の平穏を守ると、大層な事を言いながらな」

 

「何を根拠に…そのような出鱈目を口走る」

 

 

語気が強まるマキュリアスに構わず、信彦は淡々と述べていく。そう、このままマキュリアスを挑発する為に。

 

 

「お前自身で言っていただろう?」

 

 

 

 

 

『そう、だからこそ死んでもらうしかないのだよ。この街の誰もが静かに、平和に暮らすように。ワタシに光明を与えてくれた者の為にも…』

 

 

 

 

「それまで淡々としか口走らなかったお前がこの時だけ強く言葉にした時ピンときた。『ああ、コイツは誰かに強く影響を受け、さらにその誰かは何者かによって殺された』とな」

 

 

「っ…………………」

 

 

「そして、その殺した連中というのが今回被害者となった魔術師か、似たような事をした外道共といったところだろうな」

 

 

 

 

マキュリアスの脳裏に走るのは、生まれつき光を失ってしまった少年の無垢な願い。そして、少年の命を自己満足な研究などの為にすり潰した怪魔界の研究者共の口元を釣り上げた醜い笑い。

 

その研究者たち(ゴミ)と同じ笑いを浮かべた魔術師を発見したマキュリアスは、正気を保てなかった。そして気が付いた時には…

 

 

 

 

 

「貴様は殺した。魔術師どもの狙いを聞き、貴様の触れられたくない部分と重なった結果、殺したんだ」

 

「なぜ、貴様…そこまで…」

 

「不自然過ぎるんだよ。貴様の殺戮は。そして、その『八つ当たり』を正当化させる為に、志貴を殺そうとし、そこの混沌になりかけにまで手をかけた」

 

「違う…ワタシはっ…!」

 

「魔術師共を殺した後になって気が付いたんだろう?これは自身が…いや、貴様の知る者の望むやり方ではない。その為に、軌道修正が必要だと」

 

 

 

 

信彦の考察は間違えではなかった。

 

美咲町に辿り着く以前も、冬木の港町へと降り立ったマキュリアスは拳銃密輸を行う暴力団を発見。その時に聞こえた残酷な会話と邪悪な笑みに我を失い、皆殺しにした。その場を同じ星騎士であるジュピトルスに発見されるが嬉々としてその亡骸を再利用すると申し出た事で後処理を押し付けることが出来た。

 

(違う。これは『彼』が望む平穏な世界とは相反するものだ。そんな事をこのワタシが行うはずが、行うはずが…)

 

そして、彼はこの解答に行きつく。

 

(そうだ…このような事が起きてしまう原因を潰してしまえばいい。それだけはない。関連する全てを殺してしまえば…彼の望む世界が…)

 

 

マキュリアスが本来望む結果と、その手段がこの時に入れ替わってしまっていた。

 

自身ですら気が付かなかった顛末を、信彦は容赦なく告げた。

 

 

「そうだ。貴様は自分勝手な正義感を振りかざした上、正当化させるために魔術師共に八つ当たりし、志貴達を殺す標的とした」

 

「黙れぃ…」

 

「もう貴様自身気が付いていたのだろう?これは貴様の心酔する存在を守れなかった負い目や償いではなく、ただ脳裏に浮かぶ最悪な記憶を打ち消す為に行った貴様の憂さ晴らしであると―…」

 

「黙れぇッ!!」

 

 

瞬間、信彦の身体がくの字になって吹き飛んだ。血をまき散らし、砂利で砂ぼこりを立てながらも信彦は体勢を立て直し、油断なく構える。

 

 

「許さん…ワタシの行いをそのような下劣な文言で侮辱するなど、決して許さんッ!!」

 

 

「ふん…無感情かと思えば随分と分かりやすい表情をするようになったな」

 

「御託はもういい…確実に止めをさしてくれる!」

 

 

再びその場から完全に気配が消える。先ほどと同じように信彦の周りでは何一つ、気配どころか物音すら聞こえない。だが…

 

 

「既に、条件はそろっている」

 

 

そう言って、右足の爪先を軽く地面へと打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

(もう生かしては返さん。背後から奴の首を跳ね飛ばしてくれる!)

 

 

棒立ちである信彦の背後へと移動したマキュリアスは握りしめた鎌を頭上へと振り上げる。この一撃で自分の心をかき乱した存在は死ぬ。力任せに振り下ろされた鎌は甲高い音を立てる。

 

 

 

 

正面を向いたままである信彦が手にした歪な短剣に受け止められるという形で。

 

 

「いよぉ、やっと捕まえたぜ」

 

「なっ…!」

 

 

マキュリアスの姿は未だ透明になれるマントを用いているので視えるはずがない。見えるはずがないのに、信彦は鎌を受け止めていた。

 

ダラリとだらしなく首を後ろへ向けた信彦の緑色であったはずの複眼は漆黒に染まり、血液によって目立たなかったが銀色の装甲の上には文字にも魔物の絵にも見えるような入れ墨が現れていた。

 

 

「ったくキングストーンの力ってホントなんでもありだねぇ。まさかソナーみてぇに使うなんてよ」

 

「ソナー…だと?」

 

 

マキュリアスによって吹き飛ばされた直後、信彦はキングストーンの力を右足へと集中。地面へ接触させ自身を中心にエネルギーを波紋状にして開放した。

 

そして自身へ接近する存在を例え姿が透明であろうと、気配を完全に遮断していようが、敵が確かに存在するものであるのなら探知が出来る。

 

自分へとあと一歩という距離までマキュリアスが迫った瞬間、信彦は意識をアンリマユへと交代し、対処を任せたのだ。

 

 

「んでもって後は大まかなタイミング。こればっかりは俺の勘だったんですけど?まぁ上手くいって何よりって事だ」

 

「き、様…一体…!?」

 

「あーその辺は自分で調べてくれる?何せ俺は今からさ」

 

 

空いていた左拳に、眩しい緑色の光が宿る。

 

 

「この物騒な刃物をぶっ叩かなきゃならねぇからなぁッ!!」

 

 

 

アンリマユの叫びと共に繰り出された拳が、透明の刃へとぶち当たる。

 

 

先にマキュリアスの鎌をアンリマユが受け止めた際に生じた異常の高音が、鎌の破片と共に舞い散った。

 

 

 

 

 




てな感じで信彦さんによる精神的にフルボッコの回でございました。

お気軽に感想など頂ければ幸いです!次回は連休明けあたりにー

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