…そしてちょいと懐かしい人物も出てきたりします。
では、どうぞ!
冬木の街の管理人である遠坂凛は連日して勃発した事件に頭を悩ましていた時、彼女はアーチャーの出先が気になり尾行を開始する。
しかし、あっさりと見抜かれてしまった凛はアーチャーと同行し、彼がこの数日間通っている間桐家の倉庫で間桐光太郎達と共に開発していたものを目の当たりにすると大絶叫。
同じく作業を手伝っているメディアの意外な技術と相変わらず言い争いをする衛宮士郎とアーチャーの姿を眺めながら桜の準備したお茶を啜るのであった。
そして開発の様子を別の場所から見ていたアクロバッターは光太郎に意味深な言葉を残し、その場をさってしまう。
一方、クライス要塞では機甲隊長ガテゾーンの手により、新たな怪魔ロボットが生まれようとしていた…
「ふわぁ…」
「あら、夜更かし?光太郎君にしては珍しいわね」
大学の廊下で噛み殺すことなく欠伸する間桐光太郎の背後から凛とした声が響く。振り向いてみると、かれこれ10年以上の付き合いとなる親友がセミロングの黒髪を掻き分けてクスリと微笑みかけていた。
「おはようリョウちゃん。うん、ちょっと取り込んでいることがあってね…」
「それでもちゃんと寝なきゃだめよ?じゃないと出来ることも出来なくなっちゃうんだから」
「ハハハ。気を付けますよ、紫苑先生」
「もぅ、まだ実習生よ?」
光太郎の冗談に眼鏡を位置を直して答えた紫苑良子は光太郎と同じ大学で教師になるべく日々勉学に励む生活を送っており、経済学部の光太郎とは授業が重なる事はないがキャンパス内で行動を共にすることがまれにある。
本人達は知る由もないが、爽やかな好青年である光太郎と知的で落ち着きのある才色兼備の良子は大学内では噂になるほどのベストカップル扱いされているのであった。
ちなみにこの件を耳にした光太郎の思い人であるメデューサがちょっとした事件を起こしてしまうのは全くの余談である。
「そう言えば、先週に大輔君のお家に行ったらしいけどその…大丈夫だった?」
「うん、いつも通りだったよ。仕込中をお邪魔しちゃったけどね」
「そう…でも幸いだったよね。商店街のみんなて家にいる時に異常な程強烈な突風が吹いたなんて…」
(そういう事になっているのか…)
あの事件を上手くごまかしてくれた冬木の管理人である遠坂さんに感謝しなければならないと心で考えながら背筋を伸ばした光太郎は、隣で自分と同じく幼馴染である橿原大輔の安否を気遣う良子の横顔を見る。
何やら最近もちょっとした事できつく言ってしまった手前、大輔と顔が合わせ辛い状況で起きてしまった商店街での怪事件。良子が光太郎へ知っているかと尋ねたのは怪魔界から戻った翌日であり、その時点ではメディアのかけた催眠術の効果であの場にいた一般人は誰一人として覚えていないのである。
しかし親友を安心させるべく光太郎は良子の目の前で携帯電話を取り出し大輔へと連絡。機器を耳に当てているにも関わらず聞こえてくる元気な声にようやく胸を撫で下ろした良子の顔は若干ながらも涙ぐんでいたのを光太郎は良く覚えている。
(早く素直になればいいのに)
他の親友2人と同じ意見である光太郎は本日の時間割を確認し、よし、と意気込む。
今日の講義を乗り越えれば、いよいよ起動試験だ。
「やっぱり意外だわ…」
間桐家の『倉庫』と呼ばれる空間にあるテーブルに肘を付き、手で顔を支えながら遠坂凛は同じテーブルの対面に座り、既に役割を終えて手持ち無沙汰となり柳洞寺から持ち込んだ自作の細かな部品を接着剤を用いて組み立てていくメディアの作業を眺めながらぼそりと呟く。
アーチャーの動向を探り光太郎達の共同作業を知って以来、凛は学校帰りに間桐家へと立ち寄り組み立て作業を眺める日々が続いていた。
後暫くすれば帰宅する光太郎による試験を待つばかりだというのに凛の後ろではやれ『貴様の作業では効率が悪い』やれ『何度確認しても越したことは無いだろ!』と未だに口論が絶えず、『お前達いい加減にしてくれないッ!?』と代理責任者の次男が大声を上げる状況だ。
それを聞き流す凛の視線に気づいたのか、メディアは作業を止めると答えるように顔を上げる。
「何がかしら?」
「貴女が協力していることが。てっきり自分には関係ないなんて光太郎さんの要請をつっぱねるかと思ってたから」
「ええ。是非ともお断りしたかったわ」
視線を再び手元に向けると組み立てを再開するメディアはあっさりと凛の推測を認め、最後まで気にくわなかった老人の顔を思い出す。
本来ならば凛の言う通りに自分からクライシスとの争いなどに介入しないつもりでいたメディアであったが怪魔界から戻ってきて以降、気が付けば光太郎の提案に乗り、こうして得意とする魔術以外の分野で手伝いをしている。
それは、彼女なりの借りの返し方であった。
怪魔界での戦いで死にかけたメディアをワールドは解毒剤で命を繋ぎとめた。これは、彼女に取って大きな借りとなっていた。自分を助けた老人の願い…クライシスを倒し、支配された怪魔界へ平和を取り戻すことであるが全てを叶える義理はない。
メディア自身がワールドに言った通りに自分達の住まう世界にクライシスが攻めてくるのであれば迎え撃つ。それで借りを返すには十分過ぎるだろうというのがメディアのスタンスだ。
闘うのであれば、あのお人好しだけで事足りる。メディアは自分と、自分の愛する人との暮らしが守れればそれだけでいい。しかし…
「…なら、なんであの訳の分からない機械を作るの手伝ったのよ」
「いい加減覚えなさい。あれは車という乗り物よ?」
「いいからッ!もういいからそれはっ!!」
数日前に取り乱して大声を上げたことを家に帰れば未だアーチャーにニヤニヤしながら突かれている凛は顔を赤くしてキャスターへと詰め寄る。はぁ…と溜息をついたメディアは瞬間接着剤をテーブルに置き、完成品を丁寧になでる。それは手の平サイズに縮小された今回共同作業で製作された機体の精巧なミニチュアであった。
「…あの連中が攻め込んできたら、宗一郎様との生活に支障が出る。それだけの事よ」
「……そう。ま、貴女の場合は基準がそれですものね」
取りあえずは納得したと席を立つ凛には言わない理由は他にもしっかりと存在していた。それはまだ、メディア自身すら自覚できない、認めようとしない理由。
自分達を逃がしたワールドのように、逆らう者に容赦せず次々と命を刈り取っていくクライシスに対して抱く、内側から湧き上がってくる感情。
それが何であるかをメディアが知るのは、もう少し先の話だ。
そして数時間後…
「いよいよか…」
「はい!」
「まさか本当に出来るとはね…」
一同が見守る中、光太郎は桜と慎二と共に完成した機体の全体を見回した。
異世界の協力者によって設計され、仲間達の様々なサポートによって誕生したマシン。
その名はライドロン。
流れるような真紅のボディに蟲の複眼を思わせる黒いフロントガラス。後部に取り付けられた4つの噴出ノズルは見ただけでも逸脱した馬力とスピードを持ち合わせていると思わせる。
最高速度は計算上でも時速1000㎞を超え、それに耐えられる強固な作りとなっているマシンの起動試験には、自然と期待が高まってしまう。
中でも、こっそりと運転免許を取得していたメデューサは平常を装っているが乗りたくてうずうずしている様子が伺える。
そんな姿に微笑みながらドアを開け、操縦席に座った光太郎はハンドルの調子を確かめながら、起動するためにキーへと手を伸ばす。
(行きますよ、ワールドさん。彼方が設計したマシンが、ようよく完成します)
開発に協力した全員が息を飲み見守る中、光太郎はゆっくりと息を吐き自分にライドロンの設計図を託してくれたワールドへ捧げる決意と共に、キーを回す――――
「アレ?」
動かない。
何度もキーを回し、アクセルを踏んでもライドロンは動かず、それどころか機内のコンピューターすら起動しなかった。
「動かないのだろうか…」
「そう…みたいですね」
運転席で何度もキーを回し、コンピューターを操作する光太郎の姿を見てそう尋ねる武に桜も落胆した様子で答えてしまう。あれ程必死になって設計図から解読し、みんなの協力があってやっと完成したというのに…と悲しむ桜の頭を普段よりも優しく手を置く相手の名を思わず呼んでみるが、その表情はライドロンが動かない事とは別に気が重い。
「慎二兄さん…?」
「理由は後で見つけるとして…アレを止めるぞ」
慎二の指さした先では、士郎とアーチャー2人。もしやライドロンが動かなかったことでまた口論が勃発してしまったのであろうかと不安に煽られる桜であったが、それとはまた別の問題が発生していた。
2人は向かい合い、床へ座り込みながら光太郎とメディアによって印字された設計図を片っ端から眺める…睨んでいると言った方が正しい程に凝視を始めてしまった。
自分達が作成時に行った行程をまた一から見つめ直し、問題点と考えれる事案を次々と手にした手帳へと書きこんでいる。
「お前に任せていたモーターとジェネレーターの直結部とそれに使った工具全て書きこんでおけ」
「アンタが担当したシャフトとスリープの位置も書いとけよな!」
あのまま放っておくと夜になっても終わらないと踏んだ慎二はどうにか止めさせようと桜を頼ったのだが、意外過ぎる光景に実姉まで呆けている。
実は仲いいんじゃねと思える程に次々と考えられる内容や自身と相手が実行した作業を書き上げていき、全てを出し尽くしたら検証を始めるつもりなのだろう。組み立てに関しては一任されていた2人が互いに罵り合いながらも的確に仕事をしていたのはサポートを担当していた慎二がよくわかっている。完成したライドロンが動かないという失態は自分にあると言いたいのだろうが、連日の作業で疲れが溜まっている状態では問題解決には至らない。
その点も踏まえて専門用語しか口走らなくなった2人を物理的に止める為、手頃な工具を探していた時であった。
「いい加減にしなさい」
「んがッ!?」
「クッ!?」
その行動は凛の鉄拳により実行され、脳天に直撃を受けた2人は殴られた場所を手で押さえながら声にならない声を漏らしている。
「ちょっと、士郎はともかくアーチャーまで避けられないってどういうことよ?」
「………………………」
腕を組んで見下ろしているマスターに返す言葉も浮かばないアーチャーであった。自分に振りかかる攻撃おろか接近にも気が付かないとはどれだけ集中していたのだろうかと溜息を付く。
拘りのありすぎる職人気質である2人に対し米神を抑える凛は見上げる士郎とアーチャーへ顎でライドロンが停車されている場所を差し、既に運転席から姿を現していた光太郎の姿を気付かせる。光太郎は全員に背中を向け表情を見せないままライドロンの車体を撫でるように触れると急ぎ振り返った。いつも通りの、笑顔で。
「今日はここまでにしよう。みんなありがとう!」
「またあの顔だよ…ったく」
「また、とは…?」
あの後、光太郎の一言で解散となった一同は家路につき、間桐家の食卓で武から湯呑を受け取った慎二は義兄の悪癖を説明する。あのままでは士郎とアーチャーの反省会だけでなく、もう一人の協力者も自分を責める状況になりかけていた。
そうはさせまいとあの場を作った笑顔で解散させた光太郎だったが、慎二はそれが気に喰わない。
今回の件で一番に責任を感じているのは、間違いなく光太郎だ。
協力を求め奔走し、作業全体を把握した上で設計図の解析、組み立てまで率先して参加した結果があれでは、自分だったらとっくに匙を投げている。
それでも諦めることを知らない光太郎が今取った手段は、全員の不安にさせまいと笑顔で解散を言い渡すことだった。
「あんな顔、見てるこっちが耐えられないってんだ…」
「…よく見ているのだな。光太郎の事を」
「10年越えたら嫌でもそうなるよ」
武は目をそらして答える慎二を見て思わず頬を緩ませてしまう。ライドロンの製作の発案者であるが故に一番の重荷を背負っている義兄が取った手段は、作業に関わった人物が自分の責任だと言わせない為に強引に行ったものだ。
あの笑顔は何かを1人で抱えようとする時によく見られる表情であることを知っている慎二は、こうして機嫌を悪くしてしまったのだろう。
今頃1人で溜息でもついてんだろと言って立ち上がった慎二は自室へと向かう。彼がブツブツと言いながら部屋に戻る時は、大抵が何かの調べものをする場合という事を義兄から以前話されたことがあった。それも、誰かの手助けをするためだとも。
「本当に、互いに理解しあっている者たちだ」
羨ましく思いながらも、武は窓の外にいる他の理解者達へと目を向けた。
「…………………」
「アッちゃん、何か知っているんじゃないですか?」
ガレージの中で待機しているアクロバッターの隣でチョコンと体育座りしている桜は頭部をフイっと逆方向へ向けるアクロバッターへと尋ねた。
「あの時、入り口の方からこっそりとこちらを見ていたのは、知ってるんですよ?」
「…………………………」
こうして隣に座ると、バトルホッパーであった時には話せなかったことも聞かせてくれたアクロバッターであるのだが、今日に限っては一言も口を聞いてくれない。数日前、凛にライドロンのことを知られた時も光太郎からアクロバッターが作業の様子を伺っていたことは聞いていた桜は、ひょっとしてアクロバッターであれば何かを知っているのではないかと思い、こうして尋ねているのだが…
「…サクラ、これをどうぞ」
「あ、メデューサ姉さん。ありがとうございます!」
暖かくなってもまだ夜は冷えるため、桜の肩にそっと上着をかけたメデューサは顔を背けているアクロバッターの正面へと移動し、視線を合わせる為に片膝をつくと、真剣な眼差しを向ける。
「アクロバッター…私からもお願いします。僅かな情報だけでも構わない。それが、光太郎の手助けとなるなら…」
「姉さん…」
メデューサが頭を下げたまま、アクロバッターの返答を待つ。メデューサも桜と同じく陰から見ていたアクロバッターの気配には感付いており、その視線の先がライドロン、そして光太郎であったこともだ。
「…これから先、戦いはますます厳しくなります。ならば、私達にはより多くの『仲間』が必要となります。貴方のように…」
「………………」
僅かながらに振動したアクロバッターは、傾けていた顔を正面へと持ち直し、ライトとなる赤い両目を点滅させる。それは言葉を話す前兆であると知っている2人はアクロバッターの言葉を聞き逃さないように、前のめりになって顔を近づけた。
「…ライドロンノカイハツニマチガッテイルトコロハナイ。シカシ、ドウシテモタリナイモノガアル」
「そ、それは何なんですかッ!?」
やはりアクロバッターは知っていた。同じマシンだからこそ、見抜けたのかも知れないライドロンに足りない『何か』を知ることが出来ると考えた桜は期待を膨らませてしまうが、アクロバッターの回答は…
「ソレガナニカデアルカハシッテイル。ダガ、カイケツスルホウホウヲワタシハシラナイ」
「そ、そんなぁ…」
「いいえサクラ。落ち込むのはその足りないものを知ってからでも遅くないでしょう」
「そ、そうですよね!アッちゃん、教えてください!」
肩を落としかけた桜だったがメデューサの一言で瞬時に立ち直った桜は胸の前で両拳を握ると微動だにしないアクロバッターへと問いかけた。
ライドロンに足りない何か。それは一体なんであるかを。
「ソレハ、キミタチニンゲンヤサーヴァントダレモガモッテイルモノ。ソシテ、ワタシモ」
「えっ…」
「ソレガ、ライドロンニハヤドッテイナイ」
「それは…もしや」
「ソウ、『イノチ』ダ」
さぁ、どのように解決するのか…もうご存知の方はご存じでしょうがちょいとアレンジしようと思っておりますよ。
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