Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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色々やっちゃった感がハンパない今回。

が、それでも見てくれると嬉しいです…


では、48話です。


第48話

それは仮面ライダーBLACK RXが怪魔ロボット トリプロン達によって地中深くに落とされ、家族や仲間達を追い詰められる様を見せつけられていた時、地球で起きた事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…こちらも、駄目か…!」

 

 

無尽蔵に出現する怪人相手に刀2振りで戦い続けていた赤上武であったが、長時間に渡る戦闘の中で刀身が徐々に亀裂が走り、ついに砕け散ってしまった。

 

アーチャーの投影魔術によって生み出され、抜群の切れ味と強度を誇る業物であったが、それでも怪人を相手には分が悪かった…いや、光太郎達が異世界へと向かってから数時間以上が経過した今まで持ち堪えた事だけでも御の字だろう。

 

武は直ぐ様に刀身を失った刀を手放すと、刀を収めていた鉄拵の鞘を手にし、迫る怪人へと叩き付けた。

 

だが所詮は鞘。

 

 

怪人の攻撃が届く寸前に手足を払い、回避することが限界であり、武は攻撃する事すら出来ないでいた。

 

 

 

ついにはコートを纏ったモグラの怪人…モールイマジンの鍵爪で鞘を失ってしまった武は怪人達に囲まれてしまう。それでも諦めず己の拳を怪人の顔面に叩き付けるが効果はまるでなく、蚊に刺された程度にしか感じない怪人に拳を掴まれた武の腹部に怪人の膝がめり込む。

 

「が…ぁ」

 

身体を貫くような痛みに一瞬呼吸が止まり、膝を地へつけてしまった武へ怪人達の容赦のない暴力が襲う。囲ったモールイマジン達の足蹴を受け続けた武はついに大地に伏してしまい、苦しくも立ち上がろうとするが背中を足で押さえられ自力では立ち上がれない姿を見て盛大に騒ぎ始めていた。

 

 

『いいよいいよ~』

 

『楽しいよ~』

 

 

腹が捩れんばかりに笑い続ける声が頭上から響く中、武は呼吸を荒くしながら顔を上げた目に仲間達の惨状が映ってしまった。

 

 

 

空を覆い尽くすレイドラグーンの群れを相手に同じ土俵で攻撃魔術を放ち続けていたメディアは地上へと落ち、尽きかけている魔力で結界を展開。敵の攻撃を受けずにいるのが精一杯だ。

 

地上からメディアを援護射撃を続けていたアーチャーだったが、続々と召喚される怪人達の数の方が彼の放つ矢よりも上回ってしまい、ついにはアーチャー自身が標的とされてしまう。

 

アーチャーの護衛に回っていた衛宮士郎は投影魔術の指南を受けていた賜物なのだろう。大きく息を乱しながらも手にした剣は欠けることなくまた1体の化け猫を粉微塵にすることに成功するがそれでも彼に迫る怪人の数の方が勝っている。

 

 

そして彼等に比べても体力、魔力、武器ともに消耗が激しいのはメデューサだろう。

 

光太郎達が怪魔界へとワープする寸前に出現した怪人達へ真っ先に攻撃を繰り出し、道を遮る怪人達を文字通りに全力で押し出したメデューサの攻撃は誰よりも苛烈を極めるものだった。

 

桜から自身の魔力を他の物体に込める術を参考にし、手持ちの武器である鎖と鉄杭を自身の魔力を纏わせて怪人を倒し続けていたが、常時魔力を武器へと伝わせる戦法は、魔力・精神力共に大きく消費させる。

 

短期決戦向けであるその戦法をあざ笑うかのように怪人の召喚は途絶える事を知らず、10度目の召喚が行われた時にはメデューサの鎖は全て引きちぎれ、鉄杭は半分に欠けてしまっていた。

 

 

「ク…アァッ!!」

 

 

体力・魔力ともに底を尽きかけ、全身に打撲や切り傷を負いながらもメデューサは手にした鉄杭の破片を逆手に持ち、怪人の眼球へと突き刺した。悲鳴を上げる怪人…巨大な槍を手にしたグールと呼ばれる怪人の悲鳴など気にかけることなく、メデューサは鉄杭を突き刺した状態から強引に下へと引きずり降ろす。

 

グールは目から顔、喉、胸を経由して抉られた傷から鮮血を撒き散らしながら断末魔の声を上げて地へと伏せる。

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

もう形振り構わずに、敵を殺す為に戦う姿に戦慄を覚えながらも、武は彼女をあそこまで駆り立てる理由を理解していた。

 

 

「ま、けない…私は…」

 

 

 

光太郎が戻るまで、戦い続ける。

 

 

あれだけ気まずい状態となりながらも、やはり彼女は光太郎を思っている。

 

 

そして光太郎も、口では言わないがどうにか彼女と以前のような関係に戻りたいと願っているはずだ。

 

 

そんな光景をまた目にしたい。

 

 

(ならばこんな連中などに邪魔など、させる訳にはいかん!)

 

 

奮起し、立ち上がろうと手に力を込める武であったが、さらなる絶望が押し寄せた。

 

 

 

「あれはっ…!?」

 

 

 

空中に突如として現れる紫の円陣。さらに円の中で細かな文字や図形が羅列し、巨大な魔法陣が形成される。間違いなく、新たに怪人が召喚される前兆だ。

 

 

魔法陣が地表に向けて光を照射し、その光が止んだ場所には怪人の群れが雄叫びを上げ、武達を獲物として一斉に飛び掛かる…単純な力押しであるが、少数の敵に対してこれ程有効な手段はない。

 

異世界の怪人と言えど、同じ個体ばかりであれば戦っていくうちに攻略法が幾つも浮かぶのだが、立て続けに別の怪人が、それも数十体と現れてしまうとまたも敵の特徴を見極めるところから始めなければならない。

 

このイタチゴッコすら狙いだとすれば、こちらを苦しめる為なら手段を選ばないという敵の性格の悪さが伺える。

 

 

武が敵の分析に意識を回している間に、ついに新たな怪人の群れが姿を現した。

 

 

ずんぐりむっくりで灰色の体色。どこか愛嬌のある顔つきではあるが、それを忘れさせてしまう、鋭い爪を両手に持つ怪人を、武は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「インベス…だと?」

 

 

それは武が戦極の世界にいた頃。突如として現れた男に惑わされ、多くの尊い命を奪った存在と成り果てていた時。変身時に使用するドライバーに蓄積されていたデータに『インベス』なる存在が記録されていた。

 

 

とある世界に存在する『ヘルヘイムの森』と呼ばれる場所に生息する生物であり、その正体は森で棲息する果実を食してしまった生物の成れの果て。その中には武と同様に人間だった者すらいた。

 

 

 

召喚されたのは初級インベスと呼ばれる個体ばかりのようだが、それでもあの爪によって傷を負ってしまえば、果実の種子が人体に入り込み、人の身体を食い破り、糧として繁殖を始めてしまう。その結果は…死だ。

 

 

もし、あの怪人に弱った仲間達が傷つけられてしまったら…

 

 

「みんなッ!あの怪人に―――がッ!?」

 

 

『煩いよ』

 

『黙ってるんだよ』

 

 

武がインベス達の情報を伝えようと大声を上げたが、モールイマジンに再度背中を足蹴されてしまい、遮られてしまった。インベス達の攻撃だけは受けてはならない。その忠告を新たな敵に警戒する仲間達へ知らせねばと手を伸ばすが、武の思いもむなしく、ついにインベス達が動き始めてしまった。

 

 

 

『シャアアアァァァァァァァ!!!」

 

 

インベス達の行先は、やはりメデューサ達。そして武自身にも5体近くのインベスが声を上げて突進してくる。この場を脱して距離を取りたいが、未だ自分を押さえつけているモールイマジンたちは離すはずもなく、鬱陶しそうに後からやってきた怪人達を見ながらぼやき始めた。

 

 

 

『なんだかこっちへやってくるよ』

 

『後から来て生意気なんだよ。でも…』

 

 

それぞれが斧やドリルといった異なる右腕を真上へと翳すモールイマジンたちは、遅れて召喚されたインベス達に手柄を横取りさせない為に直ぐにでも止めを刺すつもりなのだ。

 

 

『一足ぃっ!』

 

『遅かったんだよぉッ!!』

 

 

「ぐっ…!」

 

 

ついに振り下ろされる最期の一撃。武の名を呼び、怪人を押しのけて駆け寄る者もいるが、どの道もう間に合わない。それでも諦めきれない武は唯一動く両手を頭部の上に翳す。腕2本の犠牲で済むのであれば御の字。後は足だけでも戦って見せる。

 

 

敵の凶刃が武へと届くその刹那。

 

 

武でさえ、腕を振り下ろす敵でも予想すら起きない結果が現れるのだった。

 

 

 

 

 

 

『おげぇッ!?』

 

 

『むぼぉッ!?』

 

 

 

 

背中に衝撃を受け、間の抜けた声を発して吹き飛ぶ2体のモールイマジン。

 

2体の怪人を吹き飛ばしたのは、今まで地に伏していた武でも、離れて怪人達に囲まれたメデューサ達でもない。

 

 

 

 

 

 

「なぜ…」

 

 

『……………………………』

 

 

「なぜ、インベスが、俺を助けたんだ…?」

 

 

 

無言で見下ろす武がぽつりと呟いた通り、まさに止めを刺さんとしたモールイマジン達に体当たりをしかけ、武の命を救ったのだ。

 

モールイマジン達が言ったように自分達で自分達で倒すつもりかと考えたが、それも間違いであると思い知る事となる。

 

 

みれば自分だけでなく、メデューサやアーチャー、メディア達の元へと向かったインベス達は彼等を囲う他の怪人にも同様に体当たりをしかけ、その鋭い爪で怪人を切り裂き、少数ではあるが背中に蟲のような羽を生やしてレイドラグーンと戦闘を始めた個体すらしる。

 

これは見境なく他の怪人に襲いかかっているのではない。

 

インベス達は、武達を助ける為に怪人と戦っている。

 

 

なぜそのような事が起きているのか理解できない武へ、1体のインベスが禍々しい爪を生やした手を伸ばしてきた。

 

 

思わず警戒してしまう武だが、そのインベスからはまるで殺気は感じられず、武に手を向けたのも、攻撃の為ではない。

 

 

「こ、これは…!」

 

 

驚愕する武の目に映ったのは、インベスの手に握られている1つの果実。武に取っては忘れる事すらできない、自分を破壊の化身へと変える道具…ロックシードの前身である果実だ。

 

異様な食欲にそそられてしまうがもしこの果実を口にしたが最後。今、武の目の前に立つインベスと同じ姿となってしまうだろう。

 

仲間を増やす為の行動かと見渡してみると、士郎の背後に迫ったミイラ…クズヤミーを腕で滅多打ちにするインベスも、疲労のため自力で立つことすら叶わないメディアを担ぎ、移動するインベスも果実を渡す素振りを見せていない。

 

ならば…

 

 

「俺が変身できると解って…差し出しているのか…?」

 

『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…』

 

 

武の問いに喉を鳴らしてその大きな頭をゆっくりと縦に振る。なぜインベスが助けてくれるのか定かではないが、この果実でロックシードを成形し、変身できればこの場を切り抜けられる。活路を見出した武はインベスの持つ果実へと手を伸ばすが、ふと武の手が止まってしまう。

 

この果実を手にし、再び変身できるようになったとしても、戦極の世界でのように殺戮を好む卑劣な存在となってしまったのなら…

 

ここにいる怪人達だけではなく、メデューサ達や、助けてくれたインベスにまで手にかける可能性だってある。そして自我を保てたとしても、全てを破壊しろと呼びかけるあの声が聞こえてしまったら…

 

不安に駆られた武が迷ってしまった時、果実を差し出していたインベスの身体がビクリと波打ち、全身が震え始めていた。

 

 

 

『邪魔するんじゃないよ…』

 

 

先程インベスの体当たりによって吹き飛ばされたモールイマジンが、鉤爪で貫いていた。

 

 

さらに抉るように手首を返し、それにつられるようにインベスももだえ苦しむ声を上げる光景に、武は気が付けば己の拳をモールイマジンの顔にめり込ませていた。だが、既に力が尽きかけた重みの無い拳。モールイマジンがダメージを負うどころか、武自身の拳に傷を増やしたに過ぎない。

 

 

『うざったいよぉッ!!』

 

 

別個体のモールイマジンに蹴り飛ばされた武は数度地面を転がっていき、止まった時にはもう立ち上がる力すら残っていない。息を乱す武が目にしたのは、戦局が変わりつつある光景。

 

インベス達の攻撃に最初こそは混乱した怪人軍団だったが、それでも数は圧倒的。空を飛んでいたインベスは羽を毟り取られ落下し、アーチャー達の援護に向かったインベス達も敵の標的とされ、追い詰められている。

 

まただ。

 

またも自分は判断を誤ったと、武は拳を強く握りながら己の判断力の無さを思い知る事となった。

 

 

(あの時…何の疑いも抱かず、果実を手にしていれば…)

 

 

これは、己の弱さ。

 

変身することで再び己を失うという恐れ。

 

自分を助けてくれたインベスを信頼出来なかった故の疑心。

 

どれもが、己の弱さだ。

 

 

 

(俺は…あれから何一つ変わっていない)

 

 

償う道を、一緒に見つけようという光太郎の言葉に甘え、慎二や桜へ戦う術を伝える日々にどこか満足していた。

 

 

それでは結局、変わらない。変わらないのだ。

 

 

自分の無力を痛感し、再び敵の猛攻の中で朽ち果てるしかないのかという考えが過った武の耳に、自分へ何かが接近する音が響く。

 

 

「お前…」

 

閉じていた目を開くと、モールイマジンに背中を貫かれたインベスが、ズリズリと匍匐前進で武へと近づいているではないか。

 

 

 

『邪魔、すんじゃないよ!』

 

『どくんだよ!』

 

 

さらに後方ではインベス数体掛かりでモールイマジンの動きを止めており、果実を手にしたインベスへ手出しさせないよう食い止めている。背中から血液を流すことなど構わず、手にした果実を武へと伸ばしていた。

 

 

 

「どうして…どうして、俺などの為に」

 

 

目元に涙を溜めて問いかける武。その果実を食すれば、傷が治るどころか今の姿からより強い姿へと変貌できるはず。だというのに、このインベスは武へと果実を渡そうと譲らなかった。

 

 

「…っ!」

 

 

震える手で懐に手を伸ばした武は、以前自分を助けてくれた謎の戦士の言葉を守り、常に持ち歩いていた道具を取り出すと、下腹部へ当て自動装着させる。

 

 

 

 

 

『お前が持ってるドライバー、無くさずに持っていろだと』

 

 

 

あの言葉が、この時の為なのかは分からない。だが、今自分がするべきことなど、決まっている。

 

 

 

武は迷いなどなく、インベスの差し出した果実を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

 

 

白く霞がかった空間に立ち尽くしていた武は、周囲を見渡す。仲間達は、怪人達は、自分を助けてくれたインベスはどこにいったのか?

 

 

ともかく移動しなければと動こうとした武は、背後から近づく気配を察知し、足を止める。

 

次第に大きくなっていく足音の方へと振り返り、霞の向こうから次第に濃くなっていく輪郭から、恐らく人間――男性だろうと推測する武は身構えるが、彼の前に現れたのは、予想すらしていなかった人物だった。

 

 

 

「お前は…!」

 

「よっ。久しぶり…っていうのも、おかしいか?」

 

 

黒髪に、どこか人懐っこい笑顔を武に向ける男の服装は青いパーカーにチノパンという若者らしいものだが、武にとっては因縁の深い相手。否、恩人と言ってもいいだろう。

 

 

 

彼は、葛葉紘汰は暴走した武を止めてくれた戦士の1人なのだから。

 

 

それに…彼の纏う雰囲気から、自分と戦った時とは別の次元の存在となっている事も読み取れる。

 

 

「そうか…運命の巫女と共にお前は…」

 

「ん…その辺に関しての説明はしなくて済みそうだな。まずは、アンタが一番知りたがってる事から話してもいいか?」

 

「ああ…」

 

 

説明を始める紘汰に武はゆっくりと頷く。

 

 

 

紘汰がこの場に現れた理由。

 

 

それはとある世界、とある星での出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

広い草原の中。

 

 

星の統治者である『始まりの男』葛葉紘汰と『世界の破壊者』門矢士は上空に出現した魔法陣を見上げ、自分達の立てた策を再度確認する。

 

 

 

「いいか。以前にも話した通り、俺の目的である世界は何者か魔術によってその『道』を閉ざされてしまっている。俺や海東の力でも、その世界に踏み込むことができない」

 

「そして他の世界からは次々と怪人達がその魔術って奴で送られている。しかもその魔法陣は怪人だけを浚って人間や俺達のような存在は弾いちまう」

 

「その原因を取り除くには、術者本人を倒す以外に方法はない。だが、そんな連中が現れたからには間桐光太郎や他の国で戦っているライダーだけでは手に負えない」

 

 

 

以前に士が光太郎達の世界へと渡った時、光太郎以外にも10人の仮面ライダーが存在し、彼等とも接点を持つことが出来たが、この状況では連絡を取ることが出来ず、ライダー全員が集結することは難しい。

 

特にクライシス帝国の本隊と戦っている光太郎は明らかな戦力不足となりつつある。さらにこのまま時間が経過し、術者を倒すことが出来なければ確実に士が抱く『嫌な予感』が的中する可能性が高いのだ。

 

 

「こっちは世界へと渡れない。だが、向こうは求めている怪人だけを呼び寄せることが出来る。なら、敵の魔術を利用するまでだ」

 

 

士が顔を向けた先には、この星で生息するインベスの集団が雄々しく声を上げていた。

 

 

士と紘汰が取った手段。

 

それは紘汰の力によって敵の洗脳されない状態となったインベス達をあえて魔法陣により召喚させ、別世界にいる人物へ再び力を与えることであった。

 

 

 

「…頼んだぞ」

 

 

『……………………』

 

 

紘汰が一つの果実をインベスに手渡すと、主の言葉を理解したその個体は力強く頷く。お任せくださいと言わんばかりに。

 

 

 

そして上空に出現した魔法陣がより強い光を発した直後、士と紘汰の前からインベス軍団は消失していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう、ことだったのか。俺達を助けてくれたのは」

 

「…済まないと思っている。もう戦う必要のなかったアンタに、またあの力を渡そうとするなんて」

 

 

先程の笑顔とはうって変わり、謝罪する紘汰を手で制した武。助けてくれた紘汰が頭を下げる必要などない。以前の世界でも、現在の世界でも自分は救われてばかりだ。さらに言えば、この世界で一度変身した時も、恐らくこの青年が手引きしてくれたのだろう。

 

一時的に記憶を失った自分に、歩む道を見つけるきっかけになると考えて。

 

本当に、頭が上がらない。

 

 

「礼を言うのは、むしろ俺の方だ。こうして再び力を授かり、この世界の危機も、教えてくれた」

 

 

武の手にあるのは、赤い果実に黒い斑模様が走る錠前…ブラッドオレンジロックシード。例え再びあの『声』に飲まれそうになっても、もう負けない。

 

これだけの恩と後押しを受けながら、自分に負けることなど許されないのだ。

 

ロックシードを強く握る武の姿を見て、紘汰は再び笑顔を浮かべる。

 

 

 

「もう、自分に怯える必要はないよ。『変身』したアンタなら、そいつは使いこなせるはずだ」

 

 

自分の内面を読んでいたかのように今の赤上武を肯定した紘汰は無邪気な笑顔を浮かべるが、存在が気薄となったかのように、透けている。

 

 

「っと…やっぱロックシードを通して話すのはもう限界か」

 

「そうか…お前は、別の世界から意識を送っていたのだな」

 

「ああ。魔術師をどうにかしない限り、話せるのはこれで最後かもしれない。だから、こいつも渡しておく」

 

「これは…?」

 

 

紘汰が武へと渡したのは2つの道具。どれも使い道は武にとっては理解できず尋ねようとしたが、それすらも読んでいたかのように紘汰は説明した。

 

 

「それは俺の仲間…士が他の世界にいる人たちに頼んでどうにか手に入れた『力』だ。お前達なら、正しく使えると信じてな…」

 

「正しく…」

 

「そして、俺が最後に出来るは、これぐらいだ…」

 

人間の姿から『始まりの男』となった紘汰の手から光の粒子がゆっくりと浮遊し、粒子は武が装着した戦極ドライバーの右側へと収束する。

 

 

「頼んだぜ、武。もう一人の、『鎧武』…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今のは…幻ではないな」

 

手にしたロックシードも、紘汰から受け取った2つの道具も、どれもが実体だ。

 

今までのダメージが無かったかのように立ち上がった武は、未だ続く戦地の中で立ち上がり、苦しみながらも自分を見上げるインベスへと告げた。

 

 

 

 

「後は任せてくれ。俺がいる限り、もう誰も傷付けさせはせん!」

 

 

2つの道具を懐に収納し、決意を新たにした武はロックシードのボタンを力強く押し込む。

 

 

 

 

 

『ブラッドオレンジッ!』

 

 

 

 

ロックシードが開錠されたと同時に空間が避け、血のように紅く、黒い模様が走る球体が出現した。

 

 

 

「なんだあれは…!」

 

 

驚きの声を上げるアーチャーだけではなく、メディアや他の怪人達すら、その異様な存在へと目を向けてしまう。

 

 

そして彼等の驚きは、その程度では終わらない。

 

 

 

戦極ドライバーの中央へロックシードをはめ込み、上から錠を固定、『ロックオン!』の音声と同時に力強く爪弾かれるギター音が周囲へ響く中、その言葉を武は木霊させた。

 

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!」

 

 

『ソイヤッ!!』

 

 

 

『ブラッドオレンジアームズ!!』

 

 

 

『  邪  ノ  道  オ  ン  ス  テ  ー  ジ  ! 』

 

 

 

球体が武の頭へと落下しと同時に全身を包む紺色のライドウェア。

 

球体は前後左右と四方へと展開。

 

赤い果汁を思わせるエネルギーが飛び散った後には、鬼神の如く立つ紅い鎧武者の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「武神鎧武、推して参るッ!!」

 

 

 

名を名乗ると同時に、その存在に茫然と立ち尽くしていたモールイマジン…武へロックシードを渡そうとしたインベスの背後から攻撃を仕掛けた個体へと走り、モールイマジンが正気に戻っていた時には、武は怪人の背後へと移動していた。

 

 

腰に収めた刀…無双セイバーを振り抜いた体勢で。

 

 

 

『き、がつけば…やられてたよおぉぉぉおぉぉおぉぉぉッ!!』

 

 

断末魔と共に爆炎の中へ消えた敵になど目もくれず、武は次の標的へと走り始めた。

 

 

インベスを複数で攻撃するシアゴースト達の背中に目がけ、無双セイバーの鍔に装備されているエネルギー弾を乱射、振り向いた直後に無双セイバーとブラッドオレンジアームズ専用武器、大橙丸の二刀で切り裂き、倒れたままこちらを見上げるインベスへと声を放った。

 

 

 

「すまないが、あの者をメディア殿のところへ。傷を塞げば、まだ間に合うはずだ!」

 

 

『っ!…』

 

 

「頼むぞ!」

 

 

 

立ち上がり、頷いたインベスに傷を負った個体を託し、戦場を駆ける武。その駆けた後はすれ違った怪人の爆炎が次々と発生し、絶対的に有利であった怪人軍団の猛攻は傾きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのですかあれは…あの者は変身できないはずではなかったのですかぁッ!!」

 

 

ヒステリックに声を上げるジュピトルスは壁を叩き、エネルギーを纏った蹴りでタキシードの怪人を5体同時に葬った武を睨む。怪魔界で姿を変えた間桐光太郎を苦しめる策は、彼の手の届かない地球で行うしかなかったが、これは予想外にも程がある。

 

このままでは武1人に全滅しかねないと考えたジュピトルスはある事を思いつく。

 

余裕を取り戻し、醜く口元を歪めた星騎士は、残った魔力で召喚する怪人を『1体』に絞り、ボスガンから聞いた暗号をデータベースで照合を開始した。

 

 

 

 

「フンッ!」

 

 

掛け声と共に二刀を左右から迫った怪人へ放り、それぞれが怪人の眉間へと深々と突き刺さった。手持ちの武器を回収などさせまいと上空から急降下するレイドラグーンの群れに拳を突き出す構えを見るが、左腕と左右の足を飛びついた化け猫達に取り押さえられてしまう。

 

武の首を狙うレイドラグーンとの接触まで、あと数秒を切った途端、武は右手でベルトに備えられた小刀カッティングブレードを3度操作。

 

 

『ブラッドオレンジスパーキング!!!』

 

 

音声と共に展開していた紅い鎧が再度球体へと戻り、レイドラグーンの攻撃から頭部を守る事に成功する。だが、それだけでは終わらない。

 

アームズは球体のまま高速で回転し、アームズへと触れていたレイドラグーン達を文字通り『削り』とったのだ。

 

その名の通り血で染まった球体が展開し、鎧武者となった武の姿に慄いた化け猫たちに、別方向からの衝撃が襲う。

 

 

武に組み付いていた化け猫達をインベスが引き剥がし、グール達が手にしていた槍や鉾で化け猫を叩き伏せ、止めに自分達の爪で胴体を貫き、木端微塵とさせていた。

 

 

 

「そうだ!怪人達を倒す時は必ず複数で攻撃をしかけろ!そして傷を負った者は後方に下がりメディア殿の応急処置を受けた後に戦線に戻れ!決して無理はするな!」

 

 

『シャアアァァァァァァァァァッ!!』

 

 

武の号令に両手を上げて咆哮するという応答を見せるインベス達に、メディアは呆れながらも傷ついた者の治療を続けていた。

 

 

 

「まったく、人を便利屋のようにつかうなんて」

 

そう言いつつインベスの足に手を当て、回復魔術を施すメディアにはもう疲労の色はない。インベス達に保護されてから手持ちの薬草もそうだが、ここまで怪人達が倒された際に起きた爆発を魔力へ変換し取り込んだことで開戦時以上の魔力を蓄えたのだ。

 

 

「何時の間にそんなものを…」

 

「ただ一方的にこちらが力を消耗するなんて、馬鹿げた戦いなどするつもりはありません」

 

「まったく…女狐であることにはかわりないな」

 

「ふん、言っていなさい…あれは?」

 

 

驚くメデューサにつまらなそうに答えたメディアへアーチャーは皮肉を口にするが通じない様子だ。だが、当のメディアはまた新たに発生した2つの魔法陣へと目を向ける。

 

 

 

「また増援…なッ!?」

 

 

治療を終えて立ち上がった士郎は驚愕の余り目を見開いた。

 

新たに現れたのは機械仕掛けの怪人…サイボーグサイ怪人とサイボーグマンモス怪人の量産機だ。

 

どれも超重量型であるが故に、以前アーチャーが倒す時すら全魔力を投じてやっと倒した相手が数十機も現れてしまった。だが、それ以上に目を引いてしまうのは、2つ目の魔法陣から現れてた1体の怪物…今まで召喚された怪人と違いがあるとすれば、大きさ。

 

30メートルは下らない大きさを誇るその怪物は黒い体色に3本の角、6つの目を持ち、猛牛を連想させる姿であった。

 

ある世界でギガンデスヘルと呼称されるその怪人は口から無数の火球を打ち放ち、標的である武達と自分の仲間である怪人たちすらも纏めて葬ろうと攻撃を続ける。

 

 

「ぐぅッ!」

 

次々と迫りくる火球をどうにか切り裂いて直撃を避けてはいるが、ノシノシと地面を陥没させて迫るサイボーグ怪人達の射撃まで手は回らず、次第にダメージは大きくなっていった。自分のように鎧を纏わないインベス達は深手を負ってしまう。

 

 

どうにか下がらせて標的を自分1人に絞らせようとするが、そこで耳障りな声が当たり一面に響いてきた。

 

 

 

『何をしている!そんな血なまぐさい者などではなく、後ろで控えている者達を狙うのです!』

 

「なッ!?貴様…!」

 

空中に浮かぶ立体映像…武に取っては忘れられない相手…ジュピトルスはカエルを思わせる顔で武を見つめると、愉快だと言わんばかりに、ギガンデスへと指令を下す。

 

 

 

『さぁ…地獄で間桐光太郎を待っていなさいッ!!』

 

 

大きく開かれたギガンデスの口元に、これまでにない程大きな火球が生成されていく。あれが直撃してしまえば、メディアが結界を張ったとしても防ぎきれるものではない。

 

 

 

ならば、自分のすべきことなど決まりきっている。

 

 

火球の射線上へと移動した武は二つの武器を連結、ナギナタモードを完成させるとさらにドライバーからロックシードを外して無双セイバーの鍔へと装着。

 

 

『ロックオン!』

 

 

「ハアアァァァァァァァァッ」

 

 

「まさか…無理ですタケルッ!あの攻撃を押し切ろうなど…」

 

エネルギーをチャージし、姿勢を低くして構える武の考えが読み取れたメデューサは大声で武に止めるよう呼びかける。だが、直後にギガンデスから特大の火球が放たれてしまった。

 

 

 

『イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン…ブラッドオレンジチャージ!』

 

「ヌオオォォォォォォォォォォッ!!」

 

 

地面を削りながら迫る火球をエネルギーを纏わせた武器で押し切ろうとする武であったが、やはり質量、熱量ともに上回っている為に最初こそは押し合っていたが、徐々に後退を始めてしまう。

 

 

 

「う…ぐぅ!」

 

『フハハハハハ…頑張るではありませんか!しかしいつまで持ちますかねぇッ?』

 

 

高笑いするジュピトルスの存在など、今の武には見えていない。彼の頭にあるのは、自分の背後にいる仲間達を守ること。その為ならこの命が散ろうとも、構いはしない!

 

火球のぶつかり合いとは別に煙を上げ始めた無双セイバーと大橙丸を見て、最悪この身を当てればメデューサ達を助けられると最後の手段を選ぼうとした武であったが、その考えは彼の背中を押す者達によって否定される。

 

 

「お、まえ達…!?」

 

『シャアアアァァァァァァァァッ』

 

 

後を振り向けば、下がれと言ったはずのインベス達が武の背中を支え、火球を押し返そうと足を踏ん張っている。

 

 

(そうだ…また、間違えるところだったな)

 

 

刀を握る力を強めた武の心に応えるように、無双セイバーへ装着されたロックシードもまた強い光を放つ。

 

 

(誰一人として死なせない…そこに、俺自身も含めなければ意味がない!)

 

 

「ウオオォォォォォォォォォッォォォォォォッ!!!」

 

 

雄叫びを上げる武はインベス達の後押しと共に、一歩、また一歩と前へと火球を押していき、ついには火球を放たれた以上のスピードで押し消すことに成功する。

 

 

『ッ!?』

 

とっさに危険を察知したギガンデスは回避したが、パワータイプのサイボーグ怪人達はそうはいかない。その足の遅さが命取りとなり、自分達に向かって迫る火球に飲まれ、その大半が消滅する結果となってしまった。

 

 

 

『…なっ…なっ…』

 

 

口をパクパクとさせるジュピトルスに、両腕が黒焦げとなった武は無双セイバーの切っ先を向け、先ほどとは全く逆の立場となったように告げる。

 

 

 

「そうしてただ後方に隠れているだけでなく、正面から挑んで来たらどうだ、『誇り高き星騎士殿』?」

 

 

ガロニアや光太郎から事前に自分を襲った者の正体を聞いていた武の挑発は完全にジュピトルスの理性を崩壊させることとなったらしい。口調などに意識を向けず、眼球を明後日の方へと向けて怒り心頭となったジュピトルスは残ったサイボーグ怪人とギガンデスへと命令した。

 

 

 

『者共ぉッ!!あの匹夫めを必ず私の前に引きずりだせぇ!!ただし四肢を切り落とし、代わりに鉄棒を溶接し犬のようにしか歩けない状態で連れてくるのだァッ!!」』

 

 

狂ったのか、それとも本性なのか。もはや判別の付かない叫びに従い残ったサイボーグ怪人達とギガンデスが前進を始める。

 

未だ数では圧倒的に不利。だが、武には負ける気などまるで起きない。

 

 

 

「さぁかかってくるがいい!まとめて相手をしてくれる」

 

 

両手が黒く染まり、無理をしたために2つの武器の刀身は半分以上が溶けてしまっている。それでも、武は一歩も引くつもりはない。

 

 

(守るためならば、いくらでも強くなれる。そういうことなのだな、光太郎殿)

 

 

改めて光太郎の持つ強さの意味を知った武の心には、以前のように敵を殺せというの声など一切聞こえない。

 

 

心のままに、守る為に戦うと決めた武の存在を認めたかのように、それは『開錠』された。

 

 

「これは…?」

 

ドライバーの右サイドから聞こえた金属音に思わず目を向けた武が見たものは、ロックシード。それも今まで存在してなかったものがドライバーにマウントされていた事に驚きつつも武はロックシードを手に取った。

 

自分が見てきたロックシードとは違い、丸みなどなく角ばった印象を受ける。そして重さ以上にとてつもない力を感じるそのロックシードは、恐らくあの時託された物だろう。

 

 

 

 

『そして、俺が最後に出来るは、これぐらいだ…』

 

 

 

こうなる事を見込んで、ドライバーへと仕込んでくれたのだ。本当に、頭が上がらない。

 

 

 

 

 

「使わせて貰うぞ…紘汰!」

 

 

ドライバーからブラッドオレンジを外し、ライドウェアだけの状態となった武は新たに出現したロックシードをはめ込む、錠を落とす。

 

 

同じく空間がペラリと捲れて別世界の空間から球体が出現するシークエンスまでは同様だ。だが、今回現れた球体もロックシードと同様に角ばった箇所が多くある。

 

 

カッティングブレードを落とし、キャスバレットを展開すると『ソイヤッ!』の音声と共に球体は武の頭部目がけて落下するが、これまで球体のまま落下していたが武へと装着される寸前、部分的に展開。

 

 

展開を終えて改めて武へと装着された鎧は、胸部に大きな紋章が刻まれ、ベルトを越え、太腿まで覆う前垂れが展開。肩を覆う装甲もブラッドオレンジよりもより強固なものと変わり、黒焦げとなっていた手首も追加装甲が装着されていた。

 

 

さらに大きく変わったのは、頭部を包む鎧だ。単眼であるのは変わらないが口元を覆うクラッシャーは獲物を食い殺さんとする野獣のような牙の意匠となり、三日月を思わせた角飾りもより巨大で鋭いものへと変化している。

 

最後に出現したのは胸部の紋章が刻まれた旗が背中へ2本。

 

自身の存在を知らしめる為にはためくと、その姿の名を電子音声が大きく名乗るのであった。

 

 

 

 

 

 

『ブラッドカチドキアームズッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 い ざ 、血 祭 り ィ !!!』

 

 

 

『『『エイエイオーッ!!!』』』

 

 

 

 

「決め言葉も、借りるとしよう」

 

 

 

 

 

「ここからは、俺達のステージだッ!!」

 

 

『シャアアアアアァァァァァァァッ!!!!』

 

 

 

武の声に、鼓舞するインベス達の声が響き渡った。

 

 

 

 




ブラッドカチドキの違いは、本家の仮面に御髭とは違い鋭い牙状となっており、色がブラッドオレンジと同じという感じですね。

今回出番が名前しかなかった主人公の活躍は次回!


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