そんな愚痴など置いといて、色々佳境となった54話であります!
永遠
その言葉を神聖であり揺るがないものであると胸に秘め、自らの命題としていた一人の聖職者。かつて法王庁に籍を置いていたミハイル・ロア・バルダムヨォンにとって、信奉する神こそが永遠の存在であると信じていたが、その信仰は接触した真祖によって打ち砕かれてしまった。
真祖の長に連れられて訪れた巨大な草原に、彼女はいた。
月明かりの中に一人佇み、長く金色に輝く長い髪をなびかせる1人の真祖を目にしたロアは、言葉で説明できない衝動に駆られた。横で誇らし気に最高の処刑人であると説明する真祖の言葉など耳に入らず、ただ『彼女』を目にする事しかできないでいたロアの価値観は大きく揺らいでしまったのである。
自身に取って絶対であった『永遠』を失ってしまったロアは、この日を境に別の『永遠』を幻視するようになってしまう。純粋に探求していた自分から『永遠』を奪った真祖に対して大きな憎しみを抱いたロアがその後に彼の取った行動は、真祖と教会を大きく揺るがす大事件へと発展してしまう。
ロアは真祖の姫を誑かし、自身の血液を飲ませる事により死徒となり彼女の力の一部を奪って逃走、なり立てとは思えないほどに強い力を秘めた死徒となったロアは討伐に現れた死徒二十七祖の第九位を退ける程の実力を持ち、多くの死徒を統率し一大勢力をまとめ上げる。
これに対して力を奪われた真祖の姫は互いに天敵とも言える聖堂教会と共同戦線を張り、ついにロアを倒す事に成功する。しかし、既に自身の魂を転生が可能であるように加工していたロアは幾度なく生まれ変わり、奪われた力を取り戻すために現れる姫との対峙を繰り返すこととなるのであった。
自分を堕落させた姫…アルクェイド・ブリュンスタッドへ強い憎しみを抱くロアは自身を『永遠』という概念に変え、此度で18度目となる転生を果たす。
異能の血を持つに加え、生物の死が『線』と『点』としてとらえる事が出来る眼を手に入れたロアはアルクェイドを今度こそ自らの手で葬るために暗躍し、『城』を完成させる。
その憎しみの裏に、別の感情が潜んでいるのだと、気づかないままに…
音もなく校庭に着地し、不敵な笑みを浮かべるロアは手にしたナイフの刃に湿った舌を走らせながら月影信彦達へと迫る。
信彦はロアが自分や隣にいる仮面ライダーと呼ばれる歴戦の者たちが揃っていても余裕を見せているのは、先ほど発動させた魔術により半壊したはずの校舎が見る見るうちに修復し、戦いが起きる以前の姿に戻った光景と関係があると睨んだ。何かの術式を発動させた事は間違いないので油断ならないと左右に立つアマゾンと筑波洋へと耳打ちすると、ロアは信彦達と5メートルもない場所で立ち止まった。
「何だ、かかってこないのか?」
「この学校全体に貴様が『何か』を仕込んでいるのは明白だ。それでも考えなしに挑むなど思っていたのか?」
「なるほど、それは正論だ。なかなかするどいじゃないか。奴ら…俺が死徒にしてやった連中が拘る理由が分かる」
「……………………」
安い挑発に乗らずに応じた信彦の返答に顎に指を添えて関心する様子を見せるロアは過剰反応するであろう言葉を敢えて選び、信彦の反応を見るが様子は変わらない。どうやら自分の見せた行動に余程警戒しているのであろうと踏んだロアは、信彦がどこまで読んでいるかを試したくなったと口をつり上げる。
「…ほう、どうやらお前は相手を過少も過大もせずに分析をするようだな。以前に痛い目にでもあったのかな?」
「貴様に話す理由はない」
「これは手厳しい。ならば、こんな事が出来るくらい―――」
来るか、とロアの口が動くと共にシャドームーンへと変わろうとした信彦であったが、ロアの矛先は自分でなく、未だ不調である隣に立っていた者に降りかかった。
「がぁッ!?」
短く、くぐもった声の方へと急ぎ振り向いた信彦が目にしたのは、足元の校庭の砂利が盛り上がり、石柱の形状となって洋の腹部へめり込んだ光景であった。石柱の付け根には複数の魔法陣が浮かんでおり、これは誰によって創造されたかなど明らかだ。
通常の人間であれば貫通しても可笑しくない攻撃にただ後方へ吹き飛ばされただけで済んだのは、彼が改造人間であった故からも知れない。だが、それでもダメージは大きく、攻撃を受けた腹部を抑えたまま起き上がれない姿を見て焦燥するアマゾンが駆け寄っていく。
「予測はつくよな?」
「洋ッ!?大丈夫かッ!?」
「よせッ!迂闊に――」
信彦が言うよりも早く、アマゾンの足元に無数の魔法陣が出現。思わず立ち止まったアマゾンは大地に足を付けたままでは危険と判断し、飛び上がろうとしたがそれよりも早く魔法陣から放たれた雷に身体を打ち上げられてしまう。断続的に放たれた雷にアマゾンは回避できないまま上昇し、雷が止んだ時には全身が痺れた影響で動けないまま、校庭の隅に配置された体育倉庫へと落下。塵芥をまき散らして崩壊した倉庫の残骸からアマゾンの血塗られた片腕のみが力なく露出していた。
「ふむ…やはり頑丈だな。本来なら最初の一撃でクロズミになっているところを原型を留めているとは…古代の技術も馬鹿にできないという訳か」
関心するようにつぶやくロアは信彦に目もくれず、倒壊した倉庫を眺めている。だが敵の呑気な態度よりも、信彦はロアが口にした情報が聞き逃せず思わず聞き返してしまった。
「貴様…知っているのか?」
「敵の情報など、調べない方がどうかしている。あの者たちは自分達の脅威がこの街に現れたと知って、聞いてもいないことをこれでもかと話してくれたぞ?」
「チッ…」
(おうおう、ご丁寧に全部筒抜けってとこかよ)
情報を提供した連中の悍ましき人相を浮かべて舌打ちする信彦。あの陰険な連中が自分を死徒へと変えた協力者に何も話さずにいるはずはないとは思ったが、まさか自分だけでなく他の仮面ライダーの情報まで流していたとはと、アンリマユは連中の節操の無さに思わず呆れ返ってしまう。
ならば、この状況を自分が一変させることすら敵は理解しているはず。
(コイツが起こした学校全体を包む術式…限定的ではあるが無限の再生と攻撃魔術を自動的に繰り出すことが可能なようだ)
洋への不意打ちに使用された石柱によって穴の開いた校庭、アマゾンを攻撃した魔術により焦げた地面は校舎と同様に修復が進んでいる。そこからロアがどのような効果を施しているかを推測した信彦はどうにか隙をつき、シャドームーンとなってキングストーンの光を放てば術式を崩壊させることが出来ると考えたが、途端に目があったロアの表情は再び歪む。
信彦の考えなど、とうに見抜いていると言わんばかりに掌を翳した直後、信彦と立ち上がろうとした洋の足元にこれまでとは別の術式が組み込まれた陣が現れる。
「な、何だ…これは…!?」
「うご、けない…!」
まるで身体の中にある骨が鉛のように重くなったような感覚。改造されたことによって強化された筋肉でも腕を動かすことすら困難となってしまった信彦と洋へ術式を放った張本人であるロアは高笑いと共に接近し、その正体を明かした。
「フハハハハハハ…こうも上手くとはな。笑いが止まらないな…」
「貴様…何を…」
「簡単な話さ。お前達2人は、その身体に本来宿さないものが組み込まれている…金属や機械と言ったものがな。つまりだ、その術式は貴様達の体内にあるそれを『否定』する式なのだよ」
「…ッ!?」
思わず目を見張る洋はロアの言う事に驚くしかできなかった。確かに自分と信彦は改造人間であるために、身体には本来あるべき臓器や骨を失った変わりに、人工のものによって補われている。ロアが仕掛けた術式はそれらの否定。今、洋と信彦の足元に現れた魔法陣がある限り、この拘束から脱出することすら不可能なのだ。
「だが、この状況でも打ち消してしまう存在に止めをさしておかなければな…」
「………………………」
ロアは膝を付き、両手をダラリと下げながらも敵意を持った目で睨み続ける信彦へと近づいていく。手にしたナイフで自分の掌を切り、傷口から溢れる血液を刀剣の形状へと固定させるという異能を見せつけ、さながら死刑の執行人のように信彦を見下ろしている。
「ククク…ここに到着した際にどう変身を解除させようかと考えてもみたが、自ら元に戻ってくれるとはな」
「全く持って、同意見だ…」
未だシャドームーンでいられる時間に制限がある可能性から直ぐに人間の姿に戻ったのは早計であったと信彦自身も後悔している。だが、この姿でも短い射程であれば十分にキングストーンの光を浴びせる事が出来る。今信彦を拘束する術式と、ロアに光さえ当たれば上手くすれば滅ぼす事も可能だ。
この最大の好機を逃さないために表情を崩さず、ロアの接近を待つ信彦だったが、手を振り上げるロアに動きがピタリと止まってしまう。
「…ふむ。随分と落ち着いているようだな。どうやら何かを策があるようだな」
(うげ、読まれちまったか…)
自分の代わりに反応するアンリマユに過剰にするなと声を上げたいところだが、この際構わない。今の距離でも十分に届くと力を開放しようとした信彦だったが、ロアが再度地に向けててを翳したと同時に新たな魔法陣が出現し、膝を付いた信彦と同じ背丈の群れが姿を現した。
「子供…けど、まさか!?」
魔法陣の中でもがく洋はロアが召喚した多くの子供たちの目が虚ろであり、生気がまるで感じられない様子から、彼らも血を吸われ死徒と成り果ててしまった存在だと気づく。自分の知らない場所で、これ程の犠牲者が生み出されていたと歯噛みするしかない洋の前一人、また一人が信彦の身体へと纏わりついていく。
「くっ、なんのつもりかは知らんが、こんな死体ごとき…!」
例え子供だった身体だとしても、もう元に戻れず、手遅れの状態であると知っている信彦は予定を変えずキングストーンの力で吹き飛ばそうと力を集中させるが、直前に吸血鬼の横やりが耳に入り、決定的な隙を与えてしまった。
「さて問題だ。その中に吸血されず、ただ催眠術にかかっている子供は何人いるだろうか?」
「―――ッ!?」
ロアの言葉を聞いてしまった信彦の身体が硬直してしまった直後。信彦を正面から抱き着いている少女の背中を貫通し、信彦の腹部へと赤い刃がズブリと音を立てて突き刺さってしまった。
「かつて悪魔の軍団と呼ばれたゴルゴムを制する世紀王とは思えない反応だったな…正解は、ゼロだよ」
赤い刃がゆっくりと引き抜かれ、目の前の少女は服を残して灰となっていく様を眺めるしか出来なかった信彦は完全に動きが止まってしまった。ロアの仕掛けた術式によって身体を重くされたのではなく、身体を動かすための力が消失してしまった感覚…
「月影君ッ!!」
自分の名を呼ぶ、洋の声も遠く聞こえる。身体を支える力だけでなく、意識すら遠のいていく。恐らく、ロアが貫いたのは『点』それも、信彦の核とも言える箇所を先の死徒の少女ごと貫いたのだ。
「き、様…キング、ストーンを…」
「正解だ!ハハハハ…命の源を止められたと言うのにえらく冷静じゃないか!」
ロアから視て、他の『点』と比べて大きく、点から走る『線』が全身へと行きわたっている様子から信彦の命と同意義であるキングストーンに位置する部分。そこを貫いてしまえば信彦の生命は、自分の手で胸の点を貫いた遠野志貴と同様にもはや風前の灯だ。
だが、ロアはそんな事で目の前の男が死んでしまうのは面白くないと考え、ある名案が浮かんだ。
「そうだ…これから貴様の血を吸い上げ、俺の僕としてやろう。そうすればあの気色の悪い連中の面白い反応も見られるというものだ…」
1人で納得し、早速信彦の血を吸い上げようと髪を鷲掴みするロアは懐に忍ばせていたナイフを再び手にする。もう信彦には、抗う力など残っていないことを承知しながらも強引に血を吸いやすい位置まで彼を引き上げていく。
「さぁ、何処から吸われたい?首筋か、それとも――――」
瞬間、ロアは背後に言い現しようのない悪寒を感じて振り向いたと同時だった。
倒壊した体育倉庫の残骸を吹き飛ばし、立ち上がった野獣は両手を広げ、天に向かい身が裂けるように抑えきれない怒りと共に咆哮した。
「ガアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「くっ、もう復活したのかッ!?」
歯ぎしりを立てるロアは3人の中で唯一体内に否定の術式が通用しない『生体改造』が施されたアマゾンだけを先に片づけておく必要があった。再生能力が追い付かないほどに痛めつけたつもりであったが、こちらの予想を上回る速さで復活したアマゾンの鬼気迫る表情に思わず冷や汗を流した。
「許さない…!お前、絶対に、許さないッ!!」
ロアの攻撃によって体育倉庫の残骸の下敷きとなってしまったアマゾンは意識を失っていたが、目が覚めた直後に彼が目にしたのはロアによって貫かれた少女と、今日出会ったばかりの青年の姿。
少女はその姿を灰へと変え、青年からは力のほとんどが消えてしまった。
アマゾンにとって信彦は珍しい奴だとしか印象がなく、少女など名前すら知らない存在だ。だが、彼にとって怒りを露わにする理由など、それだけで十分だった。
「もう少し眠っていろッ!」
再びアマゾンに襲い掛かる雷の束。再度攻撃を受け続ければ動けなくなると踏んでいたロアだったが、アマゾンから放たれる怒気は益々高まるばかりだ。
「な、何だと…ちぃッ!!」
今度は細々とした雷ではなく、アマゾンを中心に半径10メートルは超える魔法陣を展開。そこから上へ向かい巨大な火柱が発生する。骨まで残さず融解される事を期待したロアだったが、彼は思い知ることとなる。
いかに自分が仮面ライダーという存在を軽視していたということを
「ガ…アアァァァァァァァァァァッ!!」
「馬鹿な…あれだけの炎を浴びて…」
「アアアアァァァァァッ!!マアァァァァァッ!!!ゾオオォォォーーンッ!!!」
瞬間、アマゾンの両目が赤く輝きを見せた。
その直後に夜空に浮かぶ月にまで伸びていると思われた炎の柱が二つに割れた。文字通り、切り裂かれたのだ。
その中央にいたのは、片手を地面に振り下ろした奇怪な異形。
真っ赤な複眼にトカゲを思わせる頭部に背中の背びれ。緑色の体色に斑模様を走らせた仮面ライダーは、ギロリとロアを睨み、駆け出していく。
負けじとロアは再び攻撃魔術を放つが火球や雷など、全てその手によって弾かれ、裂かれていく。
魔術を素手で弾き飛ばすなど、魔術師にとって常識離れな行動を起こすアマゾンの姿に初めて焦りを見せるロアの様子を見て、信彦に潜むアンリマユは起死回生の策を信彦に伝えていた。
「正気か…」
(しゃあないだろ。あの野獣先輩がこっちに来るまでにこの陰険野郎は確実に俺たちを殺しに来やがる。なら、もうそこに賭けるしかねぇ)
「……………………」
確かに、キングストーンの力を失ってしまった今の自分達には、それしか反撃を繰り出す手段はない。癪だが、ここはアンリマユの言う『賭け』に便乗するしかないのだろう。
「ええい、ならば…!」
「ぐ、これは…」
飛べば一撃を許してしまう距離まで接近を許してしまったロアは苦し紛れの策として、信彦にしたように子供の死徒をアマゾンの周りに転移させ、動きを封じてしまう。幸いな事に、アマゾンは未だあの子供が既に人間でないことを知らない。
人間ではないのに、人間以上に他人を庇うというロアには理解し難い習性にこの時ばかりは感謝すると、ブツブツと独り言を繰り返していた信彦を再び見下ろすと、ナイフを振りかざした。
「さぁ、今度こそ最後だ。僕となったお前の最初の仕事は、あの化け物と戦ってもらうとしよう」
月明かりに光を反射させるナイフを逆手に持ち、信彦の喉元へと狙いを定めたロアが信彦の変化に気が付いた時には、ナイフを振り下ろした後であった。
「ケケケ…狙い通りにしてやんの」
「ッ!?」
信彦の変貌にロアの狙った場所は喉元からそれ、左肩へ深々とナイフが沈み、多量の血液をまき散らした。だが、ロアに信彦の肩から滴る血液を飲む余裕など無かった。
なぜなら、信彦と全く同様の痛みが、ロアの左肩に生まれていたのだから。
「ガアアァァァァァァッ!?な、何が…これを、貴様…ガアァァァァぁッ!?」
「へ、へへへ…イタチの最後っ屁って奴だ。ざまぁみな」
出血を起こし、ついに倒れてしまう信彦…否、身体の主導権を握ったアンリマユが所持する宝具による効果が確かに現れた事に、嫌らしい笑みを浮かべた。
かつてアヴェンジャーであったアンリマユの所持する宝具『
その効果は自分の受けた傷を相手の魂に写し、共有させるという下手をすれば自分の命すら失う可能性のある危険極まりない宝具なのだ。
本来ならば元であるアンリマユの傷が癒えない限り、相手の傷も消える事はないはずだが、聖杯から解き放たれサーヴァントとしての力を失ってしまった代償なのか、その効果は瞬間的にしか現れることは無かった。
「き、様…よくも、よくもぉぉぉぉッ!!」
既に傷口の再生を終えたロアは今まで見せていた余裕など見せず、怒りに駆られて立ち上がるロアは最早信彦を死徒へと生まれ変わらせる考えなど欠片も持ち合わせていない。
そして気づく。
信彦の胸にある点に、まるで重なるように存在する『2つの点』
自らの魂を加工し、転生を繰り返してきたロアにとってそれが何であるのか手に取るように理解してしまう。
「どうやら、貴様は俺が考えていたよりも稀有な存在だったのかも知れんな。だが、もうどうでもいい」
ドスリと、ロアは今度こそ信彦の胸をナイフで突き刺した。
「さぁ、これで『片方』残りもすぐに―――」
再度ナイフを天へとかざすロアだったが、言い切る前にナイフを手にした腕がふと軽くなっていた事に遅れて気づく。
見上げれば腕が肘から消え失せており、自分の前には息を荒立てる野獣が自分の変わりに腕を振り上げていたのだ。
地に伏せていた筑波洋が、ロアが信彦とアンリマユの策によって注意を逸らしている間に、アマゾンへ彼を囲う子供たちが手遅れであると、あの吸血鬼が消えるまで苦しみ続ける存在であると伝えるまでに2秒もかからなかった。
心の中で懸命に謝罪したアマゾンは、せめて彼等の魂だけでも救いたいと、その手を振るった。
「ケケェーーーーッ!!!」
雄叫びと共に腕の備わったアームカッターを振り下ろし、ロアは頭頂部から喉に至るまで切り裂かれた。
鮮血が舞う中、アマゾンは胸を貫かれながらもまだ信彦に息があると知ると、自分が持つ薬の中で何か効果のある物があるかと探ろうとするが、背後から感じた不気味な気配に信彦を掲げたまま後方へと飛び跳ねる。そこには…
「ガゥッ!!お前…」
「ふぅ…たっぷりと流血したおかげでようやく頭が冷めてきたよ…感謝しなければな」
立ち上がり、ぱっくりと割れてしまった頭部を自身の手で左右から押し戻しながら再生させるロアの姿に警戒するアマゾンはジリジリと後退する。
今のままでは勝てない。
そう彼の本能が警告する中、ロアは額から垂れる自身の血をペロリと舐め上げ、ナイフを手に取った。
「さぁ、続きと行こうか。なに、まだまだ姫が現れるまで時間はある。それまで――――」
「ライダアアァァァァ―――ッ!!!」
「むッ!?」
「ブレイィィィクッ!!」
ロアの言葉を飲み込んで唸る爆音と共に、洋は変身した姿で愛機、スカイターボに搭乗してマシンごとロアに体当たりをしかけた。
「ッ!?」
突如の攻撃に地面を数度バウンドしながら吹き飛ぶロアの姿に見向きもせずに、洋はアマゾンへと顔を向けた。
「洋ッ!!もう大丈夫なのかッ!?」
「ええ、先輩が一度アイツの頭をカチ割ったおかげであの魔法陣が消えたんです。それより、今は撤退しましょう!」
「…分かった。このままだと、コイツも…ノブヒコ達も危ない!」
「…逃げたか」
立ち上がった際には既に傷一つないロアはゆっくりと月を見上げる。
随分と予定は狂ってはいたが、自分の準備した『城』の効果は完璧な仕上がりだと実証することができた。それには、あの化け物共にも感謝しなければならない。
それに、もう…
「二度と…邪魔はされぬからな」
耳に響くエンジン音に、自分はバイクの後部座席に固定されて運ばれていると気づいた信彦は、うっすらと目を開ける。
その背中から自分を運んでいるのは筑波洋であり、その隣をまるで生物のような、アクロバッターと同系列と思わせる形状のバイクを走らせているもう一人の仮面ライダーだ。
しかし、信彦はこの場に誰か足りないと妙な喪失感があった。
消失したキングストーンとはまた別に、自分から何かが消えてしまったと。
「アヴェンジャー…貴様、今どのような状態だ?」
このような時は、自分と身体を共用している存在に聞くことが一番手っ取り早い。いつものように軽口で帰って来るものと構えていたが、反応はまるでない。
「このような時に、寝ているつもりか…返事をしろアヴェンジャー」
返事はない。
段々と焦りが大きくなる信彦の脳裏に、遠野志貴と同じ能力を持つロアと、彼が最後に自分へとしかけた攻撃を思い出す。
ロアが貫いたのが、もし自分の中にある『アヴェンジャーという存在』であったのなら…
「アヴェンジャー…!」
力の込められていない声でもう一度、自分の同居人へと呼びかける信彦であった。
返事は、やはりない。
なんだか予定よりもお強くなられてしまったロア助さんでございました…でもほら、ラスボスには少しは補正付けないと…
では、お気軽に感想等書いて頂ければ幸いです!また次回!!