では、97話です!
異変は突然だった。
「ウゥ…ア、ァ…」
眠り続ける間桐慎二がうめき声と共に呼吸を荒げた始めた。バイオライダーへと変身した間桐光太郎が慎二の体内へ侵入した敵を倒す為に入り込んでから30分以上が経過した。それまで変わった様子のなかった慎二の姿に見守っていた桜達へ同様が走る。
「し、慎二兄さん!ッ」
義兄の名を呼ぶ桜は手を握る力を一層強めるが、慎二の様子は変わらない。慎二の額から噴き出す汗を拭うメドゥーサはもしや体内に入った光太郎が敵との戦闘による事が原因かと不安を顔に浮かべてしまうが、隣に立つクーフーリンに否定される。
「光太郎が戦っているのは確かだが、こいつが苦しんでいるのは別の要員だろうよ」
「別の…要因?」
「顔を見ろ」
眉間に皺を寄せるクーフーリンに言われ、改めて慎二の顔へと目を向けるメドゥーサ。慎二の顔色は確かに悪い。だが、それは痛みによる苦悶ではなく、迫りくる何かに怯える恐怖によるもの。自分の知る間桐慎二は光太郎と幾多の戦いを乗り越えた経験によるものか、普通の人間に比べて大変肝が据わっている。
未知の相手に恐怖を覚えるよりも先に、どのように戦えるのかと考えるくらいに、だ。
その慎二の表情が恐怖に染まるという事は、異世界で余程の相手が現れたのかという事か、それともメディアの言う通りに異世界に生きる間桐慎二への魂へ溶け込んでしまい、浸食されてしまっているのか。何方にせよもう猶予は残されていない。今は慎二の体内に入った光太郎が敵に勝利する事を信じるしかないとメドゥーサ達が考える中、1人だけ別の動きを見せる者がいた。
「ガロニア…一体どうしたの?」
「確かここに…ありましたわッ!」
持ち込んだボストンバックの中身…慎二の着替えなどを乱雑に放り投げ、何かを探すガロニアの行動を疑問に思った遠坂凛が尋ねるが、その声は目的のモノを発見したガロニアの叫びにかき消されてしまう。
ガロニアが手にしたのは、慎二が仮面ライダーへの変身に必要不可欠である道具、ロストドライバーとトリガーメモリだ。普段慎二が肌身離さず持ち歩き、彼の身を護ってくれていると考え、慎二の着替えとともに持ち出した道具を手にしたガロニアは慎二の容態を医師と共に見るメディアへと見せる。
「メディア様…ワタクシを慎二兄様の魂のある世界へ転送して頂くことは可能でしょうか?」
このまま光太郎を待つよりも、こちらから慎二を助けに行く方が早い。そしてメディアならば応じて貰えると期待感を膨らませたガロニアであったが…
「無理よ」
メディアの即答に絶句してしまうガロニア。確かにこのロストドライバーを異世界に飛ばされた慎二へと届ける事ができれば状況は一変するだろう。だが、その手段がない。
「嬢ちゃん。意地悪する訳じゃないが、メディアの言う通りだ。今の俺達にソイツを小僧の元へ届ける手段はない。もう、何度も議論した結果だ」
クーフーリンは慎二の胸から伸びる魂の行き先…異世界に繋がる数センチの門を目にしながらメディアと同じ意見を述べる。
メディアもクーフーリンもその手段を考えていなかった訳ではない。異世界へと渡れば慎二の救出も可能となる。だが、魔術に精通している2人であっても異空間転位の魔術を身に付けている訳ではない。それこそ、この世界に5人しかいないと言われる魔法使いか、慎二たちに仮面ライダーの力を預けた者…赤上武曰く神と呼ばれるものしかいないだろう。
それに、慎二の魂が通過している門を拡大させるなどの方法も模索したが、敵も許す程愚かではないだろう。先ほどメディアが宝具によって慎二の魂を刈り取る術式を初期化させたとしてもすぐに展開されたように、こちらが行おうとする対抗策を一手、二手先を読んだ手段を読んでいるはず。
仮に異世界への門を広げたとしても、こちらが門を潜った途端に門が閉じられ、次元の間を永久に彷徨ってしまう危険性だってある。ミイラ取りがミイラになる事は避けたいメディア達の説明を聞き、ロストドライバーを強く握るガロニアの目元に涙が溜まり始めていた。
それを身かねた衛宮士郎はどうにか他の手段がないかと質問を続ける。
「なら、別の方法はないのか?あのライドロンに乗って以前は怪魔界に行けたんだろ?」
「それは元々怪魔界への正確な次元座標がライドロンに備わっていたからです。それに、坊やの魂を座標にして次元を跳躍する事も不可能よ」
「っ…」
先に結論を下されてしまった士郎は押し黙ってしまう。沈黙が続き、室内に聞こええるのは苦しむ慎二の声だけだ。既に光太郎へ全てを託してしまった善人が口を閉ざしてしまった中、このままでは最悪の結果になってしまうのかと拳を強く握ることしか出来ない士郎の耳に、かすかな声が届く。
「――せん」
「ガロニアさん…?」
「諦めたく、ありません」
ロストドライバーを胸に抱いて小さくても、確かにはっきりと告げるガロニアの言葉に、桜は思わず顔を向ける。ガロニアの目元へ涙を溜めながらも、決して諦めを口にしない。
「だって…慎二兄様は苦しんでいる。苦しんでいるという事は、きっと何かに抗っているはずですもの。だと言うのにただ見ているだけなんて、ワタクシにはできませんわ!」
強く断言するガロニアに、メディアは再度事実を口にする。それでも、ガロニアは引き下がらなかった。
「言ったはずよ。私達にはもう待つしか手段は…」
「それでも、何かできるはずです!慎二兄様の魂を辿って、このドライバーだけでも届けるとか…」
「そんな、文字通り綱渡りの方法などできません。それに、魂はを辿ったとしても―――」
ガロニアの訴えを聞き、眉間に皺を寄せるメディアは彼女が納得するよう説明を促そうとしたが、口の動きがピタリと止まる。
今ガロニアが言いだした方法は不可能に近い。糸のように異空間へ延びる魂はあくまで視覚化されているだけで実際に触れる事などまずできない。だが、彼女の言い出した一言がメディアの頭の片隅へと置かれた情報を浮かび上がらせたのは間違いなかった。
「ちょ、ちょっといきなりどうしたのよ?」
尋ねる凛に目も向けず、メディアはショルダーバックからタブレット端末を取り出し起動させる。指で数度操作する手際の良さとは裏腹のその表情は鬼気迫るものがあり、自分を無視するメディアに物申そうとした凛が一歩引いてしまう程だ。
(念のために端末に入れていたことが幸いしたのかしら?まるでこうなる事を見透かしているようで癪に触るけれど…)
心中で毒づきながらもメディアは端末へ移動させたフォルダ内に浮かぶ、先日プロテクトが解けたばかりのデータへ指を数度叩き付ける。
それは、ロストドライバーに内臓されていたデータの1つであり、慎二が使用しているデジタルカメラ型ツールガジェット『バットショット』を完成させた際に読み取れたパスワードによって解かれたメッセージ。
つまり、ロストドライバーの製作者からのものだった。
―――やぁ。このメッセージが見れたという事は、僕の設計図通りにガジェットの組み立てが成功しただけでなく、起動までできたということだろう。
―――おめでとうという言葉と共にこのメッセージを送らせてもらうよ。
―――ここでは僕たちがロストドライバーとメモリを預けた者がこれから陥るであろう事案を想定し、その対応策を幾つか記載させてもらった。
―――僕の相棒は大変なお人よしでね。僕は必要ないと言ったのだけ心配で仕方がないらしく、僕がこの文章を作っている時も横で色々と言いながらアキちゃんにスリッパで叩かれているよ。
―――けど、僕としては僕の住む世界ではまずありえないであろう事を想定して対策を練るという大変興味深い体験をさせて貰っているのでね。逆に楽しませてもらっている。
―――話がそれてしまったね。それでは、次のページからその対策が乗せてある。ガジェットの設計図と共に添付した簡易な修理部品の一覧よりもずっと専門的なものばかりで、もしやそんな事は起こらない可能性すらある。
―――けど、世の中には絶対はない、らしいからね。
―――中でも僕が検索をしてもしきれない程の歴史と種類を持つ魔術と呼ばれるものへの対策は骨が折れたと同時にゾクゾクする内容だったよ。もしや僕のいる世界とそちらの世界では系統がまるで異なる可能性すらあると考えると、是非とも尋ねたい一心ではあるが、僕たちは今この街から離れるわけにはいかないからね。
―――どれだけ僕たちの考えた対策でフォローできるかは定かではないが、これが役立つ事を祈らせてもらおう。
こんな文章で始まったPDFファイルだったのだが、その対応策というのが100を超えていた。その目次を見ただけでお腹いっぱいとなってしまったメディアは徹夜続きということもあり、そっと端末の電源を落とし眠りについたのであった。
しかし、その項目の中に一つだけ、今回のような出来事に当てはまる内容があると思い出せたのは奇跡に近い。メディアは他の役に立つのか立たないのか分からない対策のページを次々と捲り、目的の項目へと辿り着いた。
CASE.76 メモリ使用者の意思・魂が敵の攻撃または魔術によって奪われてしまった場合
(なんてピンポイントな事を…)
今まさに自分たちが欲している情報が記載されていた事に驚愕するメディアであったが時間が惜しいため、不安げに自分を見つめるガロニアの視線などに気にすることなく、読み進めた。
―――僕たちが戦ってきた敵の中には単純な戦闘能力より、精神攻撃を得意とする者もいた。例えば人間の夢へと入り込む…などね。
―――この項目で表題にある通り、ドライバーの使用者の意思、もしくは魂とも呼ばれる者が奪われてしまい、動かなくなった肉体と魂が危機に陥った場合を想定して話を進めよう。
―――①まず、魂の方に危機を迎えた場合
―――状況としては、敵の魔術やそれ以外の方法で魂が抜かれてしまった場合に対して、条件付きで対応は可能だよ。
―――その条件とはいうのは刈り取られた魂が肉体が双方ダメージを追っておらず、完全に繋がりが切れた状態になっていない事。そして魂の行き先が何かのケースやヌイグルミと言った無機物でなく、生物に宿っている事。
―――ここまでであれば、十分に対応可能であり、その方法も簡単だ。
―――これはロストドライバーの発展型に備わった機能の解説になるけど、僕と相棒はそれぞれドライバーを装着し、メモリを同時に装填すると1人のドライバーへ転送し、都合1人のドライバーに2つのメモリが使用される。その際にメモリを転送した者の意思・魂ごと飛ばされるんだ。
―――2人で1人の仮面ライダーになる事が可能ということだね。
―――今回、僕たちが渡したロストドライバーにはこの特性を応用させた機能を加えさせ貰っている。
―――上記の通り、元の肉体から魂が離れ、魂が別の肉体に宿った時に迎えた時に、その肉体にメモリを装填させたロストドライバーを届ける方法だ。
―――方法はいたって簡単。抜け殻となった肉体へロストドライバーを装着させるだけでいい。
―――そうすれば、肉体と魂が繋がったラインをバイパスにして、ロストドライバーとメモリの『機能』を魂が宿った肉体へ飛ばすことができる。
―――これが成功すれば、魂の宿った肉体は変身することができるはずだよ。
―――ここで注意しなければならないのが、あくまで飛ばせるのはドライバーとメモリの機能…本物を飛ばせる訳ではないんだ。
―――詳しい話をするとその話だけでもう10ページほど使わなければならないが、それは相棒から禁じられているからね。残念だ。
―――これを読んでいる者が魔術に精通している事を前提にして話すと、そうだな…イメージとしては『投影魔術』と呼ばれるものに近いだろう。
―――言わば形と力を備えたロストドライバーとメモリの複製を一次的に生み出し、使用させるという事さ。
―――そして注意したまえ。この機能はドライバーへ加えた追加オプションの都合で使えるのは一度だけ。マキシマムも2回が限度だろう。
―――あくまで、再現させるに過ぎないからね。
―――だが、状況によってはこれで危機を脱する事は可能なはずだ。
―――では、続いての解説を――――
ここでメディアはページを一端閉じる。
なんて、出来過ぎた話。メッセージを残した者の説明は荒唐無稽過ぎるのだが、それが可能となっているという状況にメディアは思わず額に手を当ててしまった。最近は科学技術に染まりかけている自分ではあるが、その身はかつて神代の魔術師だった存在。
こうも簡単に状況をひっくり返す手段を既に想定させているとは、この作成者とは一度ジックリと話をしたいものと思いつつ、メディアが文章に夢中になっている間も、律儀に待ち続けていた少女へと目を向ける。
「メディア様…あの…」
「どうやら、貴女の言う通り。諦めないと何とかなるみたいね」
「そ、それじゃあ…」
「説明はあと。これから、私の言う通りにそのドライバーを操作しなさい。そすれば…」
慎二は、別世界で迎えた危機を乗り越えることが出来るかもしれない。
「ん…?」
間桐慎二は思わずそんな声を上げて自分の身体を見る。
確か自分は突如として下腹部に現れたロストドライバーを使用して変身した、はず…だというのにドライバーを見下ろしてみればドライバーはメモリを挿入しただけの状態。さらに装填部を押し倒さなければ変身できないので、改めて押し倒そうとした慎二は自分の立つ周囲の状況に眉を顰める。
(確か寺の門にいたはずなのに妙に暗い。だってのに僕は自分の身体をはっきりと認識できる。これって光太郎の言ってた精神世界…なのか?)
思い当たる節を考えながら背後へと振り返るとそこにはもう1人、人間が立っている。
余りにも身に覚えがあり過ぎるその人間は、慎二に向けて明らかに気に食わないという感情をむき出しにして、吠えた。
「お前…一体何考えてんだよッ!?いきなり人さまの身体を勝手に使ってると思えば勝手に話を進めるし爺さんの機嫌を損ねるだけじゃなくて、聖杯戦争にも介入しやがって…」
「……………」
慎二は、見つめる。自分と同じ顔、同じ背格好で怒鳴る少年の言い分を黙って聞き、見つめていた。
彼は、間桐慎二。この肉体の、本来の持ち主。別の世界の、自分自身だ。
「なぁ、速くあの化け物の言う通り逃げるんだよ。そうすれば少なくとも僕は助かるし、ライダーだって偽臣の書燃やしちまえば一端姿消せるんだぜ?」
汗を流し、口元を歪ませて迫る自分の顔を見て、果たして自分も同じように笑っていたのだろうかと不思議に思う慎二の胸倉が突如として掴まれた。
「おい聞いてんのかよ『僕』ッ!?あれか、別世界で随分と美味しい目にあってるからって、僕の言う事なんて聞けないってか?」
「…見えたのか?」
「ああ見せてもらったよ!羨ましいたらないねぇ、ずいぶんと回りに認められて、力を持ってチヤホヤされて…ほんっとうにムカつくよお前は…!」
敵意を隠そうともせず奥歯を噛みしめる『間桐慎二』
どうやら慎二がこの肉体の主導権を握っていた際に、こちらの記憶が流れてしまったらしい。自分の私生活を覗き見されてしまったようだが、はてチヤホヤされていたかと思い起こす。どれもこれも命を張った事か義兄達を怒鳴り散らしている事しか記憶にない…
(果たして『僕』は何を見てそう判断したんだ…?)
そう尋ねようとした慎二だったが、自分の衣服を掴む手は一層と強くなる。目の前に立つ自分の顔も、犬歯がむき出しになるまで、歪み切っていた。
「お前が…お前がそんなヨイショされてる間に、僕がどんな目に合ったか分かるか…どんな惨めで、恥ずかしい目に合ってきたのか!!」
「っ…」
一瞬、頭に血が上ってしまう。
この手を振りほどくことなど、簡単だ。逆に手首を掴んで地へ叩き伏せることだって出来るだろう。自分には、それだけの力を持っているのだから。
目の前の自分は被害者のような言い分の裏で、何をしてきたかも慎二は知っている。桜に、何をしたのかも…
だが、慎二は…
「…そろそろ離してくれる?」
「なんだって…?」
「時間がないんだよ」
そう言い、足払いしただけで自分は尻餅をついてしまう。なぜ自分が尻餅をついたかも理解できないまま再び睨みつける間桐慎二など構う事無く、慎二はドライバーへと手をかけた。
「なんだよ…僕なんて眼中にないってのかよッ!僕だって…僕だってお前みたいな力を持ってりゃ…!」
この一言に、彼がどのような人生を歩んできたのか慎二に見えてしまった。
光太郎に出会えず、祖父から真実を告げられず、ただ自分は選ばれた人間と思い込んで周囲を見下し続けた少年。間桐慎二の、可能性の一つ…
それだけで、自分はここまで道を違えてしまったのだろう。
今更彼にどうこうすればいいなんて、導くことなど慎二には出来ない。
だから、こう問いかけることしか出来なかった。
「なぁ、お前だったら、この状況で真っ先に逃げるのか?」
「は、はぁ?何を当たり前の事言ってんの!?」
予想外の質問だったのか。思わず声を裏返した解答を聞き、慎二は成程と頷いた。
「確かに、それが賢い選択だろうね」
「そ、そうだよ!あの状況で戦うなんて、馬鹿のすることじゃないか!」
「それにも激しく同意するよ。けどね…」
慎二は、ゆっくりとドライバーを倒す。そして、青いエネルギーに包まれたその身体は、仮面ライダートリガーへと変わった。
「僕は馬鹿な方を選択する。僕とお前の違いなんて、たったそれだけなんだよ」
脳裏に浮かぶもう一人の馬鹿の姿を連想する慎二の視界に映る『間桐慎二』は、慎二の言う事が理解できないままその姿が消えてしまった。
どうやら、最後まで自分の考えを知ってもらえないままらしい。
(光太郎見たいに、上手くいかないか)
溜息を付いた慎二は意識を切り替える。光太郎の経験則によれば、自分が現実世界で変身してから一秒もたっていないはず。
反撃は、これからだ。
「まぁ見ててくれよ。馬鹿が見せる戦いってやつをさ」
誰かに聞かせる訳でもなく、慎二は強く宣言するのであった。
何やら解説で終わってしまった…バトルは次回!
…と言いたいのですが最近グサリと突き刺さる事が起こり頑張って立ち直ろうとして最中だったり…
お気軽に感想などいただければ幸いです。