二限目の授業が始まるチャイムが鳴ると同時に千冬姉が教室に入ってきて壇上に立ち、山田先生はノートをもって後ろに立つ。
どうやら今回は千冬姉が授業を進めるらしい。
「授業を始める前に1つ連絡がある。再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決める。クラス代表者は各種の行事にクラスの代表として出るだけでなく、クラス長としても働いてもらうことになる。クラス対抗戦について説明しておくとクラスの代表同士がISを用いて実戦を行う。個人戦ではなく代表戦なので簡潔に言えばクラスの一番強いもの同士が闘いあうという構図だ。現時点での差は代表候補生ということ以外はあまりない。だがこの先、代表候補生をも脅かす力をつける生徒も出てくるだろう。今回はその有望株を見つけると言った面もある。この中で我こそはというやつはいるか」
千冬姉がそう言うがなかなか手は上がらない。
まあそうだろう。クラス代表=このクラス最強の実力者という看板を否応にも背負わなければならず、その重圧は想像以上に大きいだろう。
まあ、立候補する奴は大体目星が付くが。
「あ、俺やりたいっす」
「織斑一夏か……他にいるか? 自薦・他薦何でも構わんぞ」
「ちょっと待ってください!」
このまま一夏に決まるかと思えばさっきの金髪縦ロールの怒鳴り声が教室に響く。
「こんな選出納得いきませんわ! 男性がクラス代表だなんて恥さらしもいいところですわ!」
世間一般的にはお前のような高飛車な女性は嫌われるぞ?
「そもそもクラス代表の定義がクラス最強の実力者であればそれは私ですわ! ISを動かして数時間しかないその男よりも代表候補生の方が強いのは自明の理! このセシリア・オルコットがクラス代表になるべきですわ!」
まあ確かに一夏の実力を知らない状態ならそう思うのも無理ないわな。口は少し悪いけど言っていることは至極当然じゃないか。セシリアさん。
「ぷーくすくす!」
うわぁ、完全に舐めきってるわ……まあ、一夏の実力を知っている奴なら特にそうは思わないだろうが。
「な、何がおかしいんですの!?」
「とあるライダーが言いました。英雄になろうとした瞬間から英雄失格だって」
「だからなんですの!?」
「だから~……自分を最強とか言い出した時点で最強失格だって話だよ」
一夏の悪い癖その1:相手をバカにするときは徹底的にバカにする。
あいつの中で見下していると言う事じゃないんだろうけど相手がバカだと認識すれば意識的・無意識的にかかわらずに相手をバカにする癖があるからな。それでどれだけ面倒事に巻き込まれたか。
「け、決闘ですわ! そこまで自信があるようでしたら決闘で決めましょう!」
「良いぜ。勝ち負けがはっきりするのはいいことだからな」
はぁ……脳まで筋肉とは言わないけど……はぁ。
「ところでハンデはどうする?」
「あら、早速お願いですの?」
「いやいや。ウサギを狩るのに全力を出すライオンと違うんだよ」
「織斑君、男が女よりも強かったのは大昔の話だよ?」
周囲の女子は一夏の一言に本気で笑っている。そこに悪意はなく、例えるならお笑いを見ている時に笑っているような感じだ。
男>女という不等式はもうとっくの昔にISという”-”によって男<女という不等式に再構築され、完成している数式であり、それが変わることは無い。
女子の中ではそれがもう当たり前になっている。
ただなあ…………下手したら千冬姉以上のポテンシャルと実力を秘めている一夏が全力で戦ったら確実に相手が半殺しにあうんだよな……さて、どうしたものか。
チラッと箒の方を向くが向こうもセシリアさんの対応に相当怒っているらしく、何も言うなと目だけでそう訴えられてしまった。
「目を半分だけ隠して戦うか? 片腕なしか?」
本気で言っている一夏を見て徐々に周囲の女子たちは笑みを消していく。
「ハンデなど許すと思うか? バカ者が」
「千ふ……織斑先生」
「両名とも全力で相手と戦うように。もしも私が手を抜いていると判断した場合は一生、この世界で肩身の狭い生活をするものだと思え」
地味に怖いこと言いますね……まあ、全力だしたらそんなことも可能なんだろうけど。
「わ、分かりました」
「へぇ~い」
「では両者の模擬戦は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで行う。では授業を行う」
放課後、俺は渋々、昨日言われたとおりに柔道部室に向かって歩いていた……虚さんと一緒に。
そそくさと帰ろうとしたんだが何故かこの人が教室のところで待っていたのでそれを無視するわけにもいかないので結局、付いてきてしまった。
布仏虚……それが彼女の名前らしい。なんでも生徒会会計をしているらしい。
「あの~」
「はい?」
「めちゃくちゃ帰りたいんですが」
「そう言われましても貴方を24時間スキなしに警護するというのは不可能でして貴方にも強くなって貰わなければならないので……今は我慢してください」
柔道部屋へ入ると既に柔道着姿の昨日の青い髪の少女が目を閉じてただ正座をしていた。
ここまでもの音すら立てることないっていうのもすごいよな……。
「会長。会長」
「……あぁ、来たのね。影が薄すぎてわからなかったわ」
……この人地味に人の古傷抉ってくるよな。
「で、何をすればいいんですか」
「貴方が現時点でどれほど弱いのか知りたいの」
なんでこの人はこうも俺をイライラさせるのがうまいんだよ……くそ。
「俺、一応剣道してたんすけど」
「それが? あぁ、そういうことね」
少女はそう言うとあらかじめ壁に立てかけていた竹刀を手に取り、俺に投げてきた。
「どうぞ。武器は必要だものね」
「…………良いんすか?」
「どうぞ。貴方は武器を使ったとしても私には勝てないわ。むしろハンデをあげたいくらい」
竹刀を握りしめ、少女から少し離れて構える。
一夏は途中でバイトしたいからって辞めたけど俺はバイトしながら剣道していたから実力だって落ちていないし、そこそこ自信はあるんだ。
…………よし。行くぞっ!?
「げぉ!」
一歩踏み出して竹刀を振り上げようとした瞬間、一瞬で距離を詰められて手加減なしの掌底を鳩尾に食らい、自然と手から竹刀が落ち、その場にうずくまる。
て、手加減なしの全力かよっ!
「どう? 分かったかしら。貴方がどれほど弱いのかが」
「会長! いくらなんでもいきなり本気でやらなくても」
「中途半端な自信は自身を殺す……だからそんなものは潰すに限るわ」
「げほっ! ハァ……あぁぁ!」
痛みを我慢しながら立ち上がり、殴り掛かるが拳を避けられ、背中に蹴りを食らい、壁に激突する。
「あぁぁ!」
駆け出し、右足で蹴りを入れるが避けられ、振り返るのと同時に腕を振るうが姿勢を低くされ、それさえも避けられ、両手での掌底を受け、数歩後ろに後ずさる。
「一応、諦めない心はあるのね。てっきり捨てたと思っていたのに」
「一夏に勝つことは諦めたさ……でも……他人に勝つことは諦めた記憶はない!」
落ちている竹刀を手に取り、振り下ろすが後ろに飛びのかれて避けられるが一歩前に踏み出すと同時に竹刀を突き出すが蹴りでその一撃はいなされる。
「っぅ!」
いなされた直後、相手の足が迫ってくるのが見え、反射的に腕で顔を防ごうとするが脇腹から何故か衝撃が伝わり、数歩後ずさり、さらに胸の部分に蹴りを食らい、壁に背中から激突する。
な、なんだよこの次元の差……もう勝つとかそんなこと考えられねえ。
「貴方は強くならなきゃいけない……この世界で生きたければね。明日もここに来なさい。そうしたら手解きをしてあげるわ。死んでもいいというなら来なくてもいいけれどね」
そう言って乱れた柔道着を直しながら青い髪の少女は部屋から出て行った。
「だ、大丈夫ですか? 保健室に」
「大丈夫です」
痛む脇腹を鳩尾の部分を抑えながら俺も部屋から出た。
「……ざっけんな。何が死にたくなければ来いだ……このIS学園にいる限り死ぬことは無いだろ」
このIS学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。
だからこの土地に俺を狙うやつが入ってくることは無いはずだ……卒業後は考えなければいけないだろうが在学中は何も考えなくてもいい。
「絶対に行かねえからなうわっ!」
背中を思いっきり蹴り飛ばされ、慌てて後ろを振り返ると覆面にナイフを持った男か女かよく分からない奴が立っていた。
…………はっ。分かりやすい仕掛けだな。IS学園に居たらなにもされないって考えることを見通していたあいつが知り合いか何かに頼んでこんなことしてんだろ。
そいつはナイフを握りしめ、本気で振り下ろしてきた。
「っっ!」
慌ててその場から転がって避けると床とナイフがぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
「俺と来てもらおうか」
「嫌だね。この年で死にたかない……ていうかあんた、あいつに頼まれたんだろ? もうしなくていっ!?」
頬のすれすれの所をナイフが通り過ぎていき、後ろの壁にナイフがぶつかる音が聞こえた。
血……こ、こいつ本気で俺のこと……。
「うっ!」
腹部に相手の膝が直撃し、蹲った瞬間に今度は後頭部に衝撃が走った。
「…………」
「そんな簡単なひっかけで秋無がお前のもとに来ると思うか?」
「織斑先生……彼のことに関しては私に一任してくださったはずですよね?」
「別に止めに来たわけではない…………少し不安になっただけだ。私が護ればそれで」
「それはできません。先生だってそれは理解なさっているはずです」
「…………」
「一夏君の強さはISを手に入れたことで一気に広まるでしょう。代表候補生や海外からの生徒という名の情報横流しさんによってね……それと同時に彼の弱さが広まるのもまた自明の理。ですがまだ今はただの双子の弟と言う事しか流れていない……つまり」
「今のうちに強くなればいいと」
「はい。彼に強くなって貰わねば……先生にとっても彼にとってもプラスです」
「……相変わらずお前は冷たい話し方だな。感情が感じられん」
「よく言われます。こういう性格ですから」