「ぜぇ……ぜぇ」
「4分59秒……ギリギリ合格ね」
息を切らしながらグラウンドに横になって息を整えている傍で会長は涼しい顔で椅子に座って自分で持っていたストップウォッチを見ていた。
マ、マジでこれ体力テストじゃなくてどこかの軍隊の訓練だろ。ていうか俺よくこんなのギリギリでもクリアできたな。自分の体力に恐れおののくわ。
「ご、合格っすか?」
「そうね。誠に遺憾ながら合格ね」
「はぁ……これ体力テストじゃないですよね」
「そうかしら。貴方が襲撃されたとして相手の攻撃を避けながら逃げるのはあるんじゃないかしら。まあ相手は舐めきっていない限り貴方の足を打ち抜くでしょうけど」
益々今さっきやったテストがよく分からん。
「まあ、良いわ。来週から火曜日はISの基礎について行うわ」
「……でも訓練機の予約って結構取れないんじゃ」
「誰が訓練機で行うと言ったのかしら」
そんなバカを見るような目で見ないでくださいよ……益々わからん。訓練機以外でIS使えるとしたら専用機くらい……ってまさか!
「専用機っすか」
「ええ。ただし初期化と最適化は行わないけれど。もう今日は良いわ。じゃあ」
そう言い、会長は去っていった。
それから1時間後、食堂で晩飯を食い終わった俺は自分の部屋までの道のりを歩いていた。
専用機か……いったいいつ、本当の意味で俺の手に専用機が渡るのやら……下手したら会長が卒業したと同時とかもあり得るんじゃねえか……恐ろしい恐ろしい。
そんなことを考えながら部屋のドアを開けると鈴と箒が何故か睨みあっていた。
「良いところに来たぞ秋無! こいつに言ってやれ!」
「何をだよ」
「一夏と同室になれる権利があるのは私だと!」
「そっちこそ何言ってんのよ! 幼馴染歴はこっちの方が長いんだから!」
そう言いながら鈴と箒は唸り声をあげながら互いに睨みあう。
とりあえず隠れてエロ本を読もうとしている一夏を2人から少し離れた所まで引きずり、事情を聴く。
「何があったんだよ」
「いやさ。なんか箒と喋ってたら鈴が部屋に入ってきてだな。それで何を思ったのか急に箒に部屋を代われと言い出し始めたんだよ」
……つまり箒が一夏の同室者だと勘違いした故の争いだと……何やってんだか。
「鈴」
「何よ!」
「悪いがこいつの同室者は俺だ」
「…………はぁ? こいつじゃないの」
「違う。ていうわけで帰れ」
「……じゃあ、あんたがあたしと変わってよ!」
どこからどうやって遠回りすればそんな結論に至るんだよ……一年の寮長は千冬姉だから同室者の入れ替えを許可するとも思えないし。
「とにかく無理なものは無理だ。さっさと帰れ。お前もだ、箒」
「むぅ……ハァ。分かったわよ……ところで一夏」
「ん?」
「そ、その……約束覚えてる?」
鈴は頬を少し赤くしながら一夏にそう尋ねる。
対して一夏は頭の奥底から鈴との記憶をひっぱり出してきているのか小さく唸りながら腕を組んでいるが思い出したのか表情が一気に明るくなった。
「確か料理の腕が上がったら酢豚食べさせてくれるってやつか?」
「そ、そうそう! ちゃんと覚えててくれたんだ」
「懐かしいな~。そう言えば小学校の時、そんな約束したな」
この恋のバトル。やや鈴が優勢になってきたな。対して箒は一夏とそんなラブコメチックな約束を交わしてなどいないのでやや劣勢、セシリアに関してはもう2周くらいは周回遅れをしているだろう。
現に箒は自分の劣勢を理解しているらしく、悔しそうな表情をしている。
「で、上手くなったのか?」
「そりゃもちろん! あんたに毎日食べさせるために鍛錬に鍛錬を重ねて今じゃ店に出してもいいくらいよ!」
……毎日?
「鈴、まさかこいつに毎日食べさせてやるって言ったのか」
「うん」
「そりゃお前、プロぽふぁ!?」
その先の言葉を言おうとした瞬間、顔を真っ赤にした鈴の蹴りが俺の大事なあそこにクリーンヒットしてしまい、変な叫びをあげながらその場に蹲ってしまう。
こ、こいつ俺の大事な息子を蹴り上げやがった!
「バ、バッカじゃないの!? あ、あんたデリカシーの欠片もないんじゃないの!?」
「何いきなり怒ってんだよ。ていうか鈴、秋無の息子蹴飛ばしてやるなよ。ただでさえ小さいのがさらに小さくなるだろ」
「お、お前何言ってんだ」
「え、だってお前中学の時悩んでたじゃん」
こいつほどデリカシーがない奴はいないと思います!
「へぇ~。小さいんだ」
「悩むほどの小ささ……秋無、気にするでない」
この女子2人からの憐みを含ませた視線の原因もこのバカだ。
「お前マジで……もうやだ」
「?」
一夏は自分が言ったことの重大さを理解していないのか頭に?マークを浮かべて心底、不思議そうな顔をして俺の方を見てくる。
「ところで一夏、あんたクラス代表なんだってね」
「おう」
「じゃあ今度のクラス対抗戦、あたしと当るかもね」
「2組のクラス代表は既に決まっていたはずだが」
「変わってもらったの。ほら、専用機持ちがやった方がクラスとしてもいいじゃない?」
まあ、専用機持ちがやった方がクラスの成績も一般生徒がやるよりかは上がるだろうし、専用機持ちがいると言う事自体がクラスの評判にも繋がるしな。でもこれで学年に専用機持ちが3人……あ、確か4組にも専用機持ちがいるっていう話聞いたな。
「鈴と当るかもしれないのか」
「というか絶対にあたるでしょ。今、学年最強ってあんたでしょ」
「んなことねえって。俺まだIS使い始めて一カ月もたってねえんだから」
と言いつつもこいつは毎日、放課後の鍛錬を怠っていないと聞くし、映像教材を再生しながらIS技術をその身に刻んでいるらしい。
…………いつだってこいつは鍛錬を欠かさなかった。
「はて、どうだか…………にしても国も酷いもんよね。秋無には何にも無しだなんて。専用機なんて使ってないISを初期化すればつくれるってのに。知ってる? いまだに展示用のIS残してんの日本くらいよ」
「らしいな。大体の国は展示用のISなど置かずに全て実戦投入していると聞く」
「それを秋無にまわせばいいのに」
……まあ、専用機を貰えるって話はまだ内緒にしておくか。
「にしてもまさか幼馴染が全員、集まるなんてな」
感慨深そうにつぶやく一夏に何故か二人とも少し顔を赤くする。
さて……この恋のレースを制覇するのはいったい誰なのか。巨乳保存の法則が護られるのか、はたまたそれを打ち破るダークホースが現れるのか……見ものだな。
翌週の火曜日の放課後、またあの冷たい声の放送で呼び出しを受けた俺はトボトボと第三アリーナに向かい、アリーナ内へ入ると生徒会長と白衣を着た女性、そして箱のようなものがフィールドの中央に置かれていた。
「貴方が織斑秋無君ね」
腰まで伸びた黒髪を青色のカチューシャで一つにまとめたその女性はどうやら俺に専用機を与えてくれるという企業の開発者さんらしい。胸元にその企業の名札が見えた。
「はぁ」
「私は名草楓。貴方の専用機の専属の技術者だと思ってもらえればいいわ」
「土下座する勢いで感謝することね」
「は、はぁ」
「じゃあさっそく、お披露目と行きますか」
そう言いながら名草さんがリモコンを箱に向けてボタンを押した瞬間、箱の上から煙が吹いたかと思えば俺達が羽の側面が開き、中に入っていたISが自動で外へ運ばれてくる。
一目そのISを見て思ったのは”赤い”、それだけだった。
カラーリングはどちらかといえばワインレッドに近い赤だけでそのほかの余分な色は一切見当たらない。
「ふふ~ん。どうよ! これでも日本屈指の技術力を持つと言われている企業の主席技術者のあたしが開発した第三世代機テストタイプ! 第三世代機は操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代だけど搭載した兵器を稼働させ制御するにはかなりの集中力が必要で未だ実験機の域を出ないの!」
「は、はぁ」
「そのためか燃費効率が悪いのが新しい課題なんだけどあたしはその燃費効率が悪いのはISに兵器を積むからいけないと思うんだよね! 逆の発想なのよ! 拡張領域に後付装備としてダウンロードするのではなくて適宜その戦況に応じてダウンロードして戦闘が終われば拡張領域から消すのよ!」
「はぁ」
「そこであたしが考えたのがメモリ式拡張パック! 機体にデータを読み込ませることでメモリに入れておいたデータをその場で再構成することでなるべく普段からの消費エネルギーを少なくしたわけ……まあ、その分他の部分でもエネルギー効率を考えて作らなきゃダメだったんだけど」
さっきまであんなに鼻息を荒くして喋っていたのが嘘のようにしょんぼりと肩を落とし、全身から私悲しんでますよオーラを醸し出し始める。
ISの専門用語は分からないけど要するにこの機体は燃費性を向上した機体だと。
「名草さん」
「あ、ごめんごめん! てなわけで君にはその新技術のテストをしてもらいたいためにこのISを開発したのだよ。拡張領域には武装は一切積んで無いの。適宜、必要な武装をダウンロードして再構築。他のISに比べて武装を出す時間は少しかかるけどまあ大した時間じゃないから安心して」
「……会長」
「なに?」
「俺ってまだ専用機使えないんじゃ」
「事情が変わったのよ。今この時点で最適化と初期化を行うわ」
すげえ嬉しいような悲しいようなサプライズだな。
というわけでその2つの必要な作業を行うべく制服を脱いで下に着ていたISスーツだけになり、背中を任せるようにISに乗り込む。
目の前に莫大な桁の数字が表れ、物凄い速度でデータのやり取りが行われていく。
「ハー! ようやくあたしの研究が新しい一歩を踏み出すのね! 長かったわー!」
かしゅっと空気が抜けるような音があちこちから聞こえてくるとともに装甲が新しく形成・構築されていき、徐々に俺だけのISへと変わっていく。
「まだかな♪。まだかな♪」
ハイパーセンサーのお蔭かさっきからやけに楽しそうな声を上げてルンルン気分の名草さんの表情が皺ひとつまでハッキリと見える。
その時、画面に残り1分と表示された。
「弱斑君」
「はい?」
「どの道、貴方代表ではないのだからクラス対抗戦は参加しないのでしょ?」
「ええ、まあ」
「ならクラス対抗戦が行われている間、ISを使っての実践を行いましょう」
ISを使ってのか……よし。
「分かりました」
それと同時に画面に完了の二文字が表示された。
「初期化、および最適化の正常終了を完了したわ。機体データを取りたいから軽く動いてくれる?」
「あ、はい」
ISを装備した状態で動くのは入学試験以来なので少々、周りから見ればぎこちないように見えるだろうが屈伸をしたり、フィールド内を歩いていく。
『あ~。出来れば飛んでほしいんだけどな~』
「あ、すみません」
そんな声が聞こえたのでとりあえず飛んでみようとするがよくよく考えれば俺、飛び方が分からない。
『あ、もしかして飛べない?』
「すみません。まだ俺、初心者なんで」
「弱斑君」
後ろからそんな声が聞こえ、振り返ると両足の部分だけ展開した会長が浮いていた。
「基礎中の基礎からできないとは思っていなかったわ。ごめんなさい、私のせいね」
「嫌味っすか」
「ええ、嫌味よ。とりあえず飛ぶことから始めましょう」
手を差し出されたのでその手を握ると俺の体がゆっくりと浮きはじめる。
……辛辣で感情がないって思うくらいに冷たい話し方だけど……美人なんだよな……。
「弱斑君」
「は、はい!」
「これから基礎中の基礎。空中での滞空、および移動のレッスンを行うわ。貴方が狙われる身である以上、少なくとも私と渡り合えるくらいにならないと死ぬわよ」
が、学園最強と渡り合えるくらいまで俺、強くならなきゃ死ぬのかよ。
『そんなまどろっこしいことせずに私のダウンロード式拡張パック使ってよ~』
「怪我されても困りますので。それにまだこのIS自身、彼を理解していません」
『うぅー。分かったよ』
「準備は良いわね」
「はい」