気まぐれ短編集   作:Boukun0214

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Mortal UnHero:番外

私は、幼い頃、ヒーローに憧れていた。

 

 

一番の影響は、お父さんが大好きな特撮ヒーローの番組だと思う。

それを一緒に見ているうちに、私も強くなりたくて、空手なんかを習ったりもした。

 

 

悪役から人々を守る、正義のヒーロー。

脅愛する人を助ける、正義のヒーロー。

 

そんなヒーローが、この世界には本当にいて、いつかピンチになったとき、私のことも助けてくれる。

 

特撮番組を観ながら、テレビの前で、眼を輝かせながら。

 

そう、信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ、私は高校一年生になる。

 

この歳になれば流石に現実的な考えになっており、ヒーローなんてあんまり信じていないし、まあ、相変わらず特撮は好きだけど、小さな子供のロマンスを可愛いなと思える程度には大人になっていた。

 

 

この世には、絶対的な正義なんてなければ、完全に悪と言えるようなものも無い。

 

そんな、つまらない世界で私はつまらない大人になっていた。

 

 

 

 

 

そして、季節は廻り、肌寒くなって来た頃。

 

 

ある事件が起きる。

 

 

 

「ちょっと、いいかい?」

 

 

一人で買い物をするために出掛けていたとき。

 

 

私の目の前に、冷たい眼をした、ショートヘアーの少女が立っている。

おそらく歳はそう離れてないだろうと思う。

 

 

「えっと?何か、用かな?」

 

 

私が尋ねると、少女はニヤリと笑う。

 

 

「3」

 

 

ぼそりと、呟く。

 

 

「2」

 

 

どうやらカウントダウンのようだ。

 

 

「1」

 

 

そして。

次の瞬間、目を背けたくなるような出来事が起きた。

 

 

ぐしゃり。

と、少女の後ろにいた人が潰れる。

 

大きな車が、暴走して突っ込んで来たからだ。

 

 

車はそのまま、近くの工事現場にぶつかり、さらに被害を大きくする。

 

クレーン車が倒れ、交差点に横たわる。

 

 

所々から悲鳴が聞こえる。

 

そんなものは全く気にしないと言うように、目の前の少女は言う。

 

 

「あそこの女の子、あの子も、もうすぐさ。」

 

 

指を指した方向を反射的に見る。

すると、クレーン車を避けようとして道を逸れた車が、その視界を遮った。

 

生暖かい、赤い、紅い、朱い液体が、周囲に飛び散る。

 

 

足がすくむ。

身体が動かない。

声がでない。

 

 

「大丈夫だよ。君は、まだ死なないから。」

 

 

彼女は身をひるがえし、その場を去ろうとする。

 

 

「・・・貴女は!何なの?」

 

 

思ったよりも大きな声が出た。

 

すると少女はこちらを向いて、こう言う。

 

 

「君達の言葉で言ったら、"死神"さ。いや、化け物でも良い。」

 

 

ぞくりと、身体が震える。

 

 

「そうだな、じゃあ、死神からのお告げさ。」

 

 

少女は、冷たい眼でこちらを見て、こう言った。

 

 

「君は、今から一年後。つまりは、365日後に死ぬ。」

 

 

それは、聞きたくもない、死の宣告だった。

 

 

「原因なんて知らないけど、このまま行けば、君は死ぬ。死からは人は逃れられない。」

 

 

血の臭いと、ショックで頭がクラクラする。

 

 

「それじゃあ、一年後に会おう。」

 

 

少女はフフッと嗤い、去っていった。

 

 

私は、その場で呆然と立ち尽くす。

 

我にかえったときは、私はそこから逃げ出していた。

 

そして、何故か家に帰る気が起きず、フラフラと夜中になるまで近所を放浪する。

 

 

さすがに遅くなってしまい、そろそろ帰ろうと公園のそばを通りかかったとき。

 

私は、また、あの、鉄の臭いを感じる。

きっと、敏感になっていたのもあるのだろう。

 

私は公園のなかを、恐る恐る覗きに行った。

 

 

そこには、闇に染まった公園で、漆黒の羽が舞い踊る。

そんな、ある意味幻想的な光景が広がっていた。

 

その中心には、カラスの死体を愛しそうに、悲しそうに眺める、見覚えのある少年が立っていた。

 

たしか、彼の名前は・・・ヒロ、そう、ヒロアキ君。

榊原 滉晠。同じクラスの、友達が多い印象がある人気者な男の子。

 

 

その時私は、何故か知らないけれども、彼に殺されたいと思った。

どうせ死ぬなら、死に方くらい選んでもバチは当たらないはずだ。

 

そしてその日から、私の世界は彼が全てになった。

きっと、非常識な経験をした中に突然現れた非常識な存在を見つけ、運命的なものを感じたからだと思う。でもそんな理由なんてどうでもいい。もしかしたら私は、彼に期待をしていたのかもしれない。私を助けてくれるかもしれないと。

 

 

彼はしばらくすると学校を風邪で休んでしまった。

 

それも長くは続かず、二週間ほどで彼は学校にまた登校するようになった。

 

 

その日、彼は授業中に寝てしまい、放課後まで寝ていたけれども、それはむしろ私にとって好都合だった。

彼と二人きりになれるのだから。

 

 

そして、彼を起こそうとしたとき、珍しく彼が着ていたハイネックの隙間から、首を絞めた跡が見えた。

 

どうせ、あと一年の命だから、無茶をしようと。彼を、脅してみようと思った。不思議と抵抗はなく、実に名案だと感じる。

 

 

「榊原くん、起きてくださ~い。」

 

 

そこから、彼と私の、残りの一年が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ。一年ぶりだね。」

 

 

私は、あのときの公園で。

滉晠ではなく、あのときの少女と一緒にいる。

あのときの、死神とだ。

 

 

「本当は、私から殺す気はなかったんだけどさ、延びてるんだよね。君の寿命。」

 

 

「だから、本当は性に合わないんだけどさ、きっと私達が干渉したからだろうし、殺させてもらうよ。」

 

 

そう、少女はこちらに近づいてくる。

 

 

ああ、結局、死ぬんだなぁ。

どうせなら、滉晠に殺されたかった。

 

今まで、散々振り回してごめんなさい。

 

我が儘たくさん聞いてくれて、ありがとう。

 

あと、脅しちゃってごめんなさい。それと・・・

 

 

思い出すことは、今までの人生のことなどではなく、ここ一年間の記憶だけ。走馬灯は結構最近のことを思い出すんだなぁとぼんやり考える。

 

 

 

そして、死を覚悟しきれず、涙を流したとき、私の意識は、不意に切断された。

 

 

「ごめんよ。」

 

 

といっても、それは段々と遠くなるようなもので、スタンガンで攻撃をされたことに気が付いた。

 

 

薄れ行く意識のなか、私は、目の前に見知らぬ青年が現れ、少女のことを遮るのが見えた。

 

 

「あのさあ、少年。ジャマをしないでくれるかな?」

「お前、人は殺さないんじゃあなかったのかよ。」

「どうせ、君が彼に干渉したから彼女が生き延びてるんだろう。本当だったら・・・」

 

 

私の意識は、そこで消えた。

 

 

 

 

 

 

次に意識が戻ったときは、もう一度、聴きたかった声が聞こえてだった。

 

 

「白銀!おい!白銀!!」

 

 

必死の剣幕で私の顔を覗きこむ、彼の顔が見える。

 

その顔は、とてもとても愛しかった。

 

 

「滉晠・・・?」

 

 

私が答えると、彼はボロボロと涙を流し、私の身体を抱き寄せる。

 

彼の心臓の音が聞こえる。

自分の鼓動とまじり、とてもうるさかった。

 

私はまだ・・・

 

 

「感動の再会をしているところ、悪いんだけどさ。」

 

 

馬鹿にしたような声が響く。

 

声のした方を振り向くと、先程の少女がこちらを眺めている。

 

 

「そろそろ、二人とも死んでくれないかな?」

 

 

そして、こちらへと歩いてくる。

 

 

「そうはいくかよっ!」

 

 

滉晠が急に立ち上がり、ナイフを少女に突きつける。

 

しかし、その少女は顔色ひとつ変えず、そのナイフを素手て握った。

 

 

「残念だけどさ、そんなのは私には効かないんだよね。そこの少年だって、死にはしないさ。」

 

 

少女は滉晠から奪い取ったナイフを自らの喉元へと突き刺す。

そしてナイフを引き抜いて放り投げた。

 

喉からは大量の血が溢れ出すが、すぐにその傷は塞がった。

 

 

「・・・嘘、だろ?」

 

 

その様子は異様で、異形で、異質だった。

 

 

「やっぱり君、少年に似てるよ。」

 

 

その場でピクリとも動かない滉晠に、少女は手を伸ばす。

何か、とても嫌な予感がしたが、私の身体もあのときのように動こうとしない。

 

 

そのときだった。

あの、私のことをスタンガンで気絶させた青年が、少女を突き飛ばす。

 

 

「アカネ!お前、いい加減にしろ!」

 

 

突き飛ばされた先にある植え込みが、不思議なことにその周辺だけだが枯れてしまった。

 

 

「これ以上、"眼"で人が死ぬのは嫌なんだ!」

 

 

正直、なにがなんだかわからない。

それは滉晠も同じようで、彼の表情にも戸惑いがある。

 

 

「あのさあ、少年。さっきも言ったよね。ジャマをしないでくれるかな?」

「っ!」

「そもそも、君が彼を助けたりしなければ、こんなことにはならなかっただろう。いい加減にするのはどっちだい?」

 

 

だんだんと、アカネと呼ばれた少女にも苛立ちが出てきたらしい。

 

 

「だいたい、彼は君の腹を刺したじゃないか。そんなヤツの味方をするのかい。君はお人好しだねぇ。それとも、腹を刺されるのは、もう慣れたってことか?」

 

 

その言葉を聞いて、どこかに地雷があったのだろう。

青年の方も怒りを露にする。

 

 

「だから!今ここで死ぬ必要がない人を殺すのはやめろってことだ!」

「なら少年、君も今ここで死にそうになっている人を助けるのはやめてくれないかな?」

 

 

青年は先程のスタンガンを取り出し、少女を攻撃しようとする。

しかしその前に、少女は素早く先程の滉晠ナイフを拾い上げ、青年の脚の関節に突き刺した。

 

 

「でもまあ、君のお陰で、一つわかったことがあるんだよね。」

 

 

そして、ナイフを抜かずに、さらに捻り込む。

 

 

「毒でもなんでも、異物があるとそれが抜けるまで治らない。」

 

「それがどうし・・・っ!」

 

 

青年は少女のことを追おうとするが、脚の関節が動かず転んでしまう。

 

 

「くっ、そ・・・」

 

 

青年は、その場でナイフを抜こうともがきはじめるが、かなりしっかりと刺さっているのだろう。ナイフはなかなか抜けない。

少女はその様子を一瞥し、またこちらとの距離を縮める。

 

 

「だいぶ大きな邪魔が入ったね。そろそろ、二人とも死んでくれないかな?」

 

 

その眼には、生の面影はなく、ただ背筋の凍るような冷酷さと、世の非情を見つめる虚しさが映っていた。

 

 

「まさか、ここまで手こずるとは思ってなかったよ。」

 

 

逃げなくては。

 

 

「ごめんね、私達が介入したせいで余計に怖がらせてさ。」

 

 

このままだと、殺される。

 

 

「じゃあ、本来は一年前に死ぬはずだった、君からいこうか。」

 

 

手段はわからないけど、絶対に殺される。

 

でも、私の身体は、彼女の言葉を聞くと勝手に動いてしまっていた。

 

 

「なんだ、君が先かい?」

 

 

私は自分の身体を盾にするように、少女と滉晠との間に立つ。

これが、私の中での優先順位。

 

彼以外、どうなってもいい。

 

 

「言っておくけど、その彼氏さんを見逃す気なんて無いからね?君が死んでから彼も死ぬ。」

 

 

しかし、大見得を切ったものの、足が震える。

そのことで、恐怖心に気が付く。

 

今更、逃げることもできない。

 

頭では逃げればいいとわかっているのに、心がそれを否定する。

 

滉晠に殺されたかったのに、彼のために命を投げ出すなんて矛盾してる。

 

それに彼女の言う通り、私が死んだらその次は滉晠だ。

きっと見逃してなんてくれないだろう。

 

 

それでも、少しでも時間を稼げれば。

そうすれば、彼が逃げれるかもしれないから。

 

 

「気にくわないからさ。死ぬべきだったものが死なず、生きるべきが生きられないのは。」

 

 

少女は突然、そんなことを言った。

 

 

「え?」

「君らは本当は、もう死んでる人間だ。それが今も生きてる。」

「それがなんなの・・・」

「要は歪みさ。大袈裟に言えば運命の。君らが生きてると、そのせいで他人の運命が狂う。」

 

 

彼女は冷たい笑みを浮かべて説明をはじめる。

 

 

「実際、少年が彼を助けたから、君は今こうして生きてる。こんなことが連鎖的に起こるのさ。それは様々なことへの死とも繋がる。」

「・・・」

「それは生き物どうしの関わりでは生まれない変化。つまり、私達が干渉したことで起きる変化。これは都合が悪いんだ。とってもね。」

「でも、私たちには関係ないじゃない。。。」

 

 

私が反論すると、彼女はまるでそう来ることを予想していたように答える。

 

 

「痕跡を残したくないんだ。どんな形であれね。私達は傍観者でなくてはならない存在だ。君達には同情するよ。本当ならば少年が干渉しなければこんな思いはしなくて済んだのだからね。」

 

 

"同情するよ。"その言葉と態度が不協和音を鳴らす。

それほどまでに目の前の少女から感情を感じることができない。正直、気味が悪い。

そうしてようやく、彼女は人ではないことを本当の意味で理解した。

 

 

「死神・・・」

 

 

無意識に声が出ていたらしい。

相手にも聞こえたらしく、

 

 

「そうさ。私達は死神。恨んでくれたって構わない。だから、諦めてくれ。」

 

 

 

「嫌だね。」

 

 

いつの間にか、"彼"が彼女の後ろに回り込んでいた。

 

手には、スタンガンを持っている。

そして、それを彼女の首筋へと降り下ろす。しかしそれはヒョイと避けられてしまった。

 

 

「危ないなぁ。気絶したらどうしてくれるんだ?」

「やっぱり、気絶はするんだな。死ななくても。」

 

 

スタンガンが、パリッと音をならす。

 

 

「・・・参ったな。少年にナイフをねじ込んだのは失敗だったのかも。」

 

 

少女がちらりと見た方向には、おびただしい量の血を流して気を失っている青年がいた。

どうやら、本当に気を失うらしい。

 

 

「ああもう、はあ、わかった。私の敗けだ。いや、勝負をしてたわけじゃないんだけどね?」

 

 

少しおどけたように少女は言う。

 

 

「じゃあ、今回は、特例として見逃してあげるよ。。。このままじゃあ、私まで気絶させられて面倒なことになりそうだしね。・・・二人して病院に搬送されたりしたらたまったもんじゃない。」

 

 

やれやれと、一人芝居をしているように彼女は、自分に言い聞かせるように言う。

そして言いながら、青年のナイフを引っこ抜いた。

 

 

「ほら。これ。返すよ。君のだろう?」

「・・・随分、諦めがいいんだな。」

 

 

滉晠が訝しげな顔をして訊く。すると、当然のようにこう答えてきた。

 

 

「勝ち目の無い勝負はするだけ無駄さ。それに、同じ孤児院出身の、好ってやつかな?いや情けでもいい。」

 

 

じっとりと彼女を睨み付ける彼に、こう茶化すように付け加える。

 

 

「信用されてないね。・・・しょうがないか。まあ、サカキバラ ヒロアキくん、君、今は人生充実してるじゃないか。」

「なんで、俺の・・・」

 

 

そこまで言って滉晠は、ハッとしたように前を向く。

 

 

「精々、死ぬまで生きなよ。同じ親殺しの分もさ。」

 

 

同じ、親殺し?孤児院?

どういうことだろう?

だって、彼女は、人間じゃあ・・・

 

 

「あ。そうだ。コレは貰っておくよ。もう、必要ないだろ?」

 

 

いつの間にか、彼女の手には青年の脚に刺さっていた滉晠のナイフがあった。

 

 

「お、おい!ちょっと・・・」

 

 

不思議なことに滉晠が手を伸ばしたときには、彼女はスッと消えてしまった。青年も、同様だ。

 

 

「・・・なんだったんだよ。」

 

 

呆然とする滉晠。でも、私の方を見たとき、急に慌てて私に近寄ってきた。

 

 

「あ!そうだ!白銀!大丈夫か!?」

「え?」

 

 

滉晠がいきなりテンションを変えるものだから、こちらが驚いてしまう。

 

 

「怪我とか、大丈夫か?」

「う、うん。」

 

 

私の混乱した思考が、だんだんと現実に追い付いてきた。

そう、私達は助かったのだ。一年もの長い悩みの結末は随分とあっさりしているもので。滉晠の機転一つで解決してしまった。

 

 

「・・・お前、そうやって、笑うんだな。」

 

 

滉晠の言葉で、自分が笑っているのに気がつく。

そっか。私、今笑ってるんだ。

 

 

「あら?初めてだっけ?一年も一緒にいるのに、私の笑顔を見たことがないなんて、変ね。」

 

 

急なに恥ずかしくなってしまい、いつもの、飄々とした仮面を被って答える。

 

 

「ああ。本当に、変な話だよな。俺も、お前も。・・・あの、死神もさ。」

「知ってるの?彼女のこと。」

「・・・ああ。思い出した。」

 

 

彼は、多くを語らない。きっと、今はそんな必要がないからだと思う。

 

 

「もしかして、元カノ?嫉妬しちゃうなぁ。」

「はぁ!?んな訳ねぇだろ!」

「ふふっ、慌ててる。」

「・・・悪趣味だな。白銀。」

 

 

まだ。私はこの飄々とした仮面を被り続けたまま、こうやって言ってみる。出来るだけいつも通りにしようと、気を使ってるのかもしれない。そうしないと、私の心臓が持たない。

 

 

「だって、滉晠はいじめると可愛いんだもの。」

 

 

だから。出来るだけ、いつも通りにしよう。

私を助けてくれたヒーローは、それを望んでいる。

 

 

「るっせぇ・・・」

「あ~♪照れてる?照れてる?」

 

 

私が、素になって素直になるのは、もう少しだけ、先伸ばししてもいいかな?

うん。いいよね。

 

 

「香雪。」

 

 

急に真顔になって、彼が私の名前を呼ぶ。

 

私の心臓が、どんどんうるさくなる。

 

 

「な、なによ。急に・・・。」

「いつもの仕返し。」

「そう、なら。私には効かないわよ?」

 

 

でも、平静を保つふりをして、彼をもう少しいじってやろうかと切り返す。

 

 

「そうか?そんな赤い顔で言われても、説得力皆無だけどな?」

 

 

滉晠は、いたずらっぽくそう言ってニヤッと笑って見せる。

正直、反則だ。

 

 

「う、うるさい!」

「はいはい。」

 

 

そのあと、二人して笑った。

きっと、二人とも安心とか、幸せとか、色々な感情が混じっていったんじゃないかな?

 

 

やっと、私は一年越しに、彼は十年越しに。二人の時間は、動き出す。

 

 

それでも、もう少しだけ、このままで。

 

私達の人生は、まだ続くのだから。









彼らの物語は、まだまだ続いてく。
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