キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

1 / 90
ツイッターでもこっそり解説してたやつ。

「史上最速の2番手」
女教師オリ主モノ。千冬が辞退したモンド・グロッソから連覇しためっちゃ強い人がIS学園に特別講師に呼ばれる話。呼ばれた理由は単に千冬が業務辛くなって自棄酒中にIS委員会を顎で使って呼び寄せた所為。千冬がオリ主に尻に敷かれたりする百合話っぽい。
(ツイッター解説より)


史上最速の2番手
史上最速の2番手


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つらい」

 

 ぼそっと彼女が呟いた。

 

 辛いのだ、現状が。何故か、単に仕事が辛いのだ。

 

 しかし単純故に解決策も考えづらい。

 

 

 

 

 

 織斑千冬は発泡酒で顔を真っ赤にしながらぐでんと机に突っ伏し、うだうだと「つらい、つらい」と呪いのように呻き声を上げていた。

 

「……何で私だけなんだ。ブリュンヒルデだからって何でもかんでも押し付けて……私にだって人権あるでしょ普通。何だこれは、ただのブラック企業だ……」

 

 グイッと缶を煽る。ごくごくと音を立てて物の数秒でまた1缶開けた。既に近くにはビールの空き缶が山積みになっていた。

 

「……可笑しい、世界は狂ってる」

 

 ぐしゃっ、と。空き缶が手の中で潰れた。

 

「私ばっか損な役回り……? 許さん、そんなの絶対に許さん……」

 

 震える手で彼女が懐から取り出したのは、ケータイ。緩慢な動きで電話帳を開き、電話をかけた。

 通話先は不明。ぼそぼそとうわ言のように要件を伝えた千冬は通話を切り、力なくケータイを落とした。

 

「……ひひっ、ざま、みろ……」

 

 結局意識が保てたのはそこまで。急な睡魔に襲われて、彼女は夢の中へ意識を沈めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、ヘレン中佐」

「? はい、何事でしょうか少将」

「君に元帥から辞令が下った。異動だそうだ」

「……………………は?」

「ああ、うん。納得してないのはわかるんだがね。確かに君は優秀で部隊からの支持者も多いしここでの終身雇用も確定していた。それは事実だ。しかし今回ばかりは元帥も逆らえきれんかった」

「ちょっ、ちょ、待って下さい!! 話が全然見えてこないんですが!?」

「俺も信じたくはなかったさ。だが現実だ。なんなら体罰でも食らってみるか? 痛いぞぉ」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!! へ、異動ですか!? 誰がそんな無茶ぶりを!?」

「……IS委員会だ」

「あい、えす……?」

「ああ。向こうも大慌てでな。急がんと色んな意味でヤバいことになるらしい」

「ヤバいこと……?」

「ああ、モーゼもびっくりするだろうな。ブリュンヒルデが地球を割りかねん」

「ちょっと待って下さい。今ブリュンヒルデって言いました?」

「ああ、言ったな。なんだ、ルシファーの方が良かったか?」

「そうですね。堕天使の方がよっぽどマシです。好き勝手暴れられるより目的思考があった方が対処は楽ですから」

「よっぽどお前はブリュンヒルデが嫌いらしいな。イエス様も悲しむ」

「隣人は愛せても奴は別です。で、そのブリュンヒルデがまた何かやらかしたんですか。つくづく手間のかかる人ですね……」

「言ってやるな。あの人はそれだけの力を持ってたんだ。で、まぁお察しの通りブリュンヒルデ絡みだ。精々頑張ってこい。部隊の面倒は俺が見ておいてやる」

「……申し訳ありません少将、ご迷惑をおかけします。今度ブリュンヒルデに無理矢理でも奢らせますので」

「怖いねぇ。世界最強に奢らせるなんざ、世界中探してもお前しか言わんだろうな」

「奴はそれだけのことをしでかしてますので、当然の仕打ちです」

「ま、まぁ期待せずに待つとしようか……、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本。1年で四季の季節が移ろうその極東の島国は、今は梅雨が明けて夏本番へと突入しようとしていた。まだ若干のジメジメとした空気がありながら初夏の暑さがジリジリと体を蝕んでくる。

 今日は日曜日。IS学園の生徒達は皆休日ということで思い思いの日曜日を過ごしていた。部活に精を出す者、意味もなく部屋でゴロゴロと過ごす者、終わらない課題に悲鳴を上げる者。国の特別教育機関でありながら平和な光景は、全くいつも通りであった。

 

「暑い」

 

 凰鈴音がアイスを咥え木陰のベンチでだらしなく真上を仰いでいた。暑かったのでアイスを買いに出たは良いのだが帰りの都合を全く考えておらず、売店帰りに部屋に着く前にアイスを開封。風通しの良いこの場所で休んでいたのだが、思った以上に暑かった。もう歩く気力もない。IS学園の敷地内ということで格好も非常にだらしない。タンクトップにスウェットショートパンツと、人前に出るには少々というかかなり不格好である。

 

「Hello.」

「ふぉふぁっふ!?」

 

 と、不意に後ろから届いた声にアイスを取りこぼしかけてわちゃわちゃと手を振る。

 

「Can I ask you a course?」

 

 訪ねて来たのはプラチナの混じったブラウンの髪をサイドテールにしたスーツ姿の欧米人女性。スカイブルーの淡い瞳に目が合って思わず見とれてしまう程にその女性は可憐であった。

 

「ふぇ? こーす? 道ですか?」

「Where is the teachers' room?」

「ティーチャーズルーム……あ、教員室!! えっと、いっといず……あー、あっち?」

「Is there it over there?」

「い、いえす、いえすっ」

「Thank you lady.Have a nice day.」

「あ、ども……」

 

 スーツケースを引いて去っていく女性に鈴音は訳も分からずひらひらと手を振った。バリバリの流暢な英語と柔らかな物腰。色々とスゴい。今まで会ってきた女性の中でも異色なオーラがあった。多分色んな女性の的になるだろう。女優にもなれるに違いない。モデルならトップ間違いなし。

 

「え、あんな人がなんでIS学園に……? っていうかどっかで見たことあるような……、誰だっけ。有名人だったような気が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫かな……」

 

 1年1組副担任こと山田真耶は化粧室の鏡の前で身嗜みチェックを行っていた。

 本日、急なことながら外部から特別講師がIS学園に赴任することとなった。知らせが入ったのは昨日の夜のことだ。

 1年1組はIS学園内でも異色なもので専用機持ちが3人も集まっているクラスだ。転入により人数も増えて賑やかになることは良いことなのだが、如何せん教師2人には荷が重いと言えた。彼女の場合はまだ赴任して2年目。まだまだ不慣れであることは自他共に認めている。

 更に同じ1組の担任を勤める織斑千冬は教師というよりは鬼教官やボスと言った言葉が似合うような雰囲気。そんな訳で手助けをするための講師の派遣が急遽決まったらしい。

 非常に急なことではあったがこれは彼女にとって大助かりだった。基本的にクラスの仕事は殆どが彼女の分担で処理されている。お手伝いでもなんでも、とにかく手数が増えるのは有難いことであった。

 

「よしっ、大丈夫っ」

 

 チェックが終わり小さくガッツポーズ。頑張るぞい、と可愛らしく気合いを入れて意気揚々と待ち合わせ場所に向かう。

 待ち合わせ場所は教員室のある教員棟の正面玄関前。時間は約束の10分前だ。

 

 玄関から出てみたが、件の講師はまだ到着していないらしい。腕時計も再三と確認したのでこちらの不手際ではない。自分の抜けている部分を若干ながら自覚しているからこそ、失敗していない今日の自分に安心した。

 

「そう言えば誰が来るんでしたっけ……?」

 

 ふと昨夜急遽送られてきた穴だらけの資料を思い出してみる。Helen O'Brien(←読めない)と言う欧米人の人、だった筈。写真は無かった。よくよく考えてみると前情報も大して無かった。経歴が不明のその人が何故IS学園に来るのか、今更ながらに不思議に思う。

 と、しばし物思いにふけていると横合いから彼女を不思議そうな視線で見る女性がいた。

 

「Excuse me.」

「ひゃわぁ!! が、外人さん!?」

 

 真横にいても気付かなかった。と言うのは単に山田先生が思考に没頭していただけである。

 

「ど、どちら様です!?」

「You're Ms.Yamada,aren't you?(貴方が山田さんでお間違いないですよね?)」

(英語!? わかんないですぅ!!)

「Nice to meet you.My name is Helen O'Brien.I appreciate the help you will be giving me now.I'm looking forward to working with you.(初めまして。ヘレン・オブライエンと申します。今日からお世話になります。よろしくお願いしますね)」

「は、あはははは、はろー、はろー……さんきゅー…………うぅ……、英語、わかんないよぅ……」

 

 山田先生は涙した。何故学生時代もう少し英語を頑張らなかったのか。後悔しても遅いのだが、後悔するしかなかった。取り敢えず握手しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エドワース先生がいて助かりました、一時はどうなることかと……」

 

 職員室にて。件の講師ことヘレン=オブライエンを何とか連れて来た山田先生ではあるが既にぐったりしていた。隣ではカナダ出身の数学教師エドワース=フランシィが苦笑いで彼女を慰めている状態である。

 

「まぁ本場の英語は大分クセがありますからね。聞き取れないのも無理はないかと思いますよ」

「うぅ、でも自分がここまで英語できないなんて知ったらショックですよぅ……学生時代は成績良い方だったのに……、」

「Ms.Edwards,why does she cry?(エドワース先生、何故山田先生は悲しげな顔を?)」

「Hmm...don't mind,she's only sorry,hahaha...(えっと……あまり気にしないであげて下さい。ちょっと後悔してるだけなので。あははは……、)」

 

 ヘレンはと言えば心配そうな顔色で2人を交互に見やる。言葉の壁とは非常に攻略し難い物であるのだ。

 

「By the way,Where's Chihuyu Orimura.(ところで織斑千冬がどこにいるかわかりませんか?)」

「Orimura...?(織斑先生、ですか?)」

「Yes.I have a message for her.(はい、彼女にはいくらか伝えたいことがありましてね)」

「I see.Wait a minute.(わかりました。少々お待ちを)山田先生、今日織斑先生はどこにいらっしゃるかわかりますか?」

「織斑先生ですか……今日はまだ出勤されてないみたいですし、多分寮の自室にいらっしゃるんじゃないでしょうか。元々今日はお休みですし」

「わかりました。Ms.O'Brien,She is in the room of the dormitory.(オブライエンさん、織斑先生なら寮の自室にいるそうです)」

「Thank you.I meet her.(ありがとうございます。ちょっと会ってきますね)」

「Is it all right without guiding you?(あ、寮までご案内しましょうか?)」

「Never mind.I learn all it.(ご心配なく。場所は覚えてきましたので)」

 

 早速、とヘレンが寮へ向かう。迷いなく正しい方向に進んでいるあたり本当に覚えてきているらしい。

 

「やっぱ突然の異動でも対応できる優秀な人なのね……」

「あのぅ、エドワース先生、オブライエンさんはどちらへ?」

「ああ、彼女なら織斑先生に用があるみたいで寮へ行きましたよ。知り合いの方なんですかね」

「多分、そうだと思うんですよ。私、オブライエンさんには多分何度か対面したことあります……」

「え、そうなんですか?」

「記憶が正しければなんですけど……あの、第1回モンド・グロッソ覚えてます?」

「織斑先生が優勝した大会ですよね。それに何か関係が?」

「確か、オブライエンさんは準優勝で、その後の大会は連覇続きの人ですよ……」

「…………ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?? そ、そんなスゴい人が!? なんで気付かなかったんだろ……」

「間違いないですよ、あのオブライエン選手ですよ」

「じゃ、じゃあ今このIS学園には歴代ブリュンヒルデが2人……?」

「そうなりますね……」

 

 

 

 

 

 世界相手に戦えますね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。