キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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engineer2

 無駄に豪華なリムジンに乗り向かう先は彼の学園、IS学園である。

 男である俺、紅宮彩翔が一体何を言っているんだと正気を疑われそうだが、誠事実である。張本人である俺も信じられない。

 

 先日、何故かISという俺にとって未知の兵器を動かしてしまった俺は今、保護目的によりIS学園に向かっていた。因みに拒否権なんて無かった。試験が土曜日で、日曜日には「じゃあ君IS学園編入ね」と決定事項を言い渡され反論する暇すらなく現在移動中である。一人暮らしの部屋の荷物は全部勝手に持ってかれた。やめてくれよ、やましい趣味のものは勇気ないからまだ買ってないけどさ、あんまり私物触られたりジロジロ見られるの嫌なんだよ。

 

 リムジンに揺られ暫く。本州本土を離れ無駄に豪華な大橋を渡ると前方に白い塔のような建物が見えてきた。テレビで何回も見たことはある。IS学園だ。

 

 何か、嫌だなぁ、と思う。何がと聞かれれば困るが、俺はこの状況を心底嫌がっている。やりたいことは自分で決めて、自分のペースでとことんやりきる。それがモットーな俺には、周りに流し流されてやらされる事が大嫌いだ。大嫌いと言いつつも、結局生徒会やらクラス委員をしているのだが。

 

 乗り慣れないリムジンをえっちらおっちら降りて校門前に立つ。どう見ても学校じゃない。これはあれだ、芸術家とかが建てるオブジェクト作品だ。確かに近代的デザインだとは思うが、学び舎としては少々やりすぎな感じがする。

 いや、ここで現実逃避をしていても仕方がない。なし崩しに無理矢理編入させられたが、もう文句を言っても仕方ないのだろうどうせ政府直々の指示。抗いようがない。

 

 後ろでリムジンが走り去る音を聞き、さてここからどうすれば良いのかと現実逃避も兼ねて空を見上げながら考える。確かここでも案内人が来るとかそういう話だった筈だが、はて誰も来ない。

 なるほど、これが一般人の中から選び抜かれた二人目の待遇という訳か。織斑一夏という人物は彼の有名な織斑千冬、ブリュンヒルデの弟だからこそ専用機の配られる待遇なのだろう。俺は二人目、一人目で試験的に様々な物を与えて、俺は最終的に確かめる要員にすれば良い。つまりはモルモット。嗚呼、嘆かわしい。

 いっその事逃げてやろうかとも思ったが、それはそれで後が怖いので却下。仕方ないので校舎に向かって歩くことにした。

 

 綺麗に舗装された公道と芝生。一体誰が整備するのだろうか。いや、それこそ機械が自動的にするのか。流石は最新設備の投入される施設である。

 

 と、しばし庭に見とれながら歩いていると、前方から「ご機嫌よう」と声がかかった。一体どこの女子校だとツッコミたくなったが、そう言えば本来ここは女子校だった。

 視線を向けるとそこには扇子を持った淡いブルーマリンの髪をした、顔立ちの整った女子がいた。扇子には二字熟語で“歓迎”とある。

 

「初めまして、紅宮彩翔クン。ようこそIS学園へ」

「ああ、初めまして」

 

 はて、見覚えがある人物だ。テレビでは、確かに見た。だが、それより古い記憶の中に、微かに似たような記憶が俺にはあった。

 

「……あー、人違いだったら申し訳ないんだが、俺はアンタと会ったことがあるか?」

 

 その問いに、目の前の少女は薄く笑みを浮かべた。

 

「さて、どうだったかな。お姉さんは物覚えが悪いので」

 

 ああ、そうですかい。

 

「そんな物覚えが悪い奴が生徒会長なんて務められるのかね、更識生徒会長」

「あら、わかるんだ」

「ああ、そりゃ有名人だしな」

 

 それと、

 

「……久しぶりだな、刀奈」

「うん、久しぶり、彩翔クン」

 

 やっぱり、俺の記憶は間違っちゃいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠い記憶、かもしれない。小学校高学年くらいか。

 俺は更識という如何にも珍しい苗字の奴を知っていた。当然、紅宮なんていう自分の苗字は棚上げしてだ。

 当時、俺は小学校で生徒会の会長をしていた。誰もやらないから、だ。しかし何故か生徒会副会長という役職は人気がある。面倒事は生徒会長の仕事、副会長はそのお零れを貰うだけで優秀な評価が貰える。甘い汁に飛びつく輩が多かったからだ。

 しかし、俺が小学五年で六年生の候補に勝って会長に就任した時、副会長に就任した者は俺の考えていた者とは全く違っていた。

 

『次期生徒会長の紅宮です。今日は一回目の顔合わせということで、皆さん一人ずつ自己しょうかいをお願いします』

 

 文字通り一回目の顔合わせの時だ。俺は元々自覚出来る程のお人好しだが中々に雰囲気がキツいと友人に言われていた。集まったメンバーの中、副会長以外は皆萎縮してしまっており、それだけで俺は「ああコイツら役に立たないな」と結論づけた。仕事に関しては手を抜きたくない俺は徹底した実力・結果主義者でありやる前から意欲の感じられない奴はことごとく切り捨てた。

 

『次期生徒会副会長、更識刀奈です。今後ともよろしくお願いします』

 

 しかし、コイツだけは違った。同学年でクラスも一緒だった更識刀奈。俺と同じく来年度六年生を押しのけて入ってきた女子だ。何回か事務的に話をした程度の顔見知りだったが、その纏う雰囲気というのおだろうか。そういうものが他とは違うなと思った。

 

 その更識以外の自己紹介は覚えていない。どうでも良かったからだ。仕事の足を引っ張らなければ後は与えられた仕事をこなせば職務は終わりだからである。

 

 

 

『会長さん』

『ん?』

『今度の全校集会の司会なんだけど』

『ああ、まだそこまで手が回ってなかった。簡単に決まるし今のうちに決めよう』

 

 ある放課後の生徒会活動。話は更識の持ってきた全校集会の話になった。

 我が校では生徒の自立性や社会的行動の重要性を身につけるため、様々な行事は先生のサポートのもと生徒会が取り仕切ることになっている。大まかな骨組み等は全て作ってあるので、あとは生徒会が様々な案を出して脚色したりするのである。各行事の司会進行も同じ役目だ。

 

『誰か立候補する奴は?』

 

 そう言って生徒会室内を見回すが、誰一人として手は上げない。俺的には順番に回してやりたいのだが、如何せん積極性に欠ける。もう皆一回ずつしたから、後は誰でも良いんじゃないかという空気。本当にこれが俺は気に入らなかった。

 

『……そうか。じゃあ俺が次も、』

『会長さん。なら私がやる』

『更識が?』

『うん。いつも会長さんにたよりきりだったし。お仕事大変だから私がやる』

『でも2回れんぞくだろ?』

『だいじょうぶ。今から人前に立つことの大切さをおぼえたいし』

 

 決意に満ちた目、というのだろうか。そんな熱い眼差しに、俺は『じゃあ任せた』と頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局卒業まで俺は生徒会長、更識も生徒会副会長をやりきり引き継ぎ。何事もなく中学に上がった。この時、俺が居なくなった事で生徒会の空気が緩くなったとかならなかったとか。

 ともかく、中学である。

 

 中学1年、俺はまたもや生徒会に入れられた。小学校時代の手腕を買われたらしい。一部上級生からは睨まれたが、どうってことない。実力もなく結果も出せない自分自身が悪いのだから。それを自覚できない、今まさに俺を睨むような奴は更に愚かだと内心罵った。

 1年間雑用を手伝いつつ生徒会の仕事を眺め、まだ小学校よりはマシだと思った。年齢が上がりやっと責任の重さを理解できるようになってきた人達が生徒会だったからだ。

 

 なし崩しで中学2年。周りの評価もあって副会長になった。この時、更識が書記として生徒会に入った。やっぱり俺だけ色々と小耳に挟むような噂が囁かれたが、全校生徒の前で色々と堂々暴露してやった。壇上からの良い眺めだったため、噂の原因になる奴の無様な面が見れたのは良い思い出だ。視界の端で更識がニヤニヤしていたのが強く印象に残った。

 生徒会内は比較的平和。会長も人当たりが良く俺とは正反対の人だった。多分、自分で言うのもアレだが俺とは違う方向性のカリスマがある人なんだろう。

 

 3年生になった。俺は生徒会長になり、俺にちょっかいを出すような輩が居なくなった。それだけ優秀な人物だ、と生徒会顧問からは褒められたが対して心に響くようなことではない。

 また更識刀奈が副会長になった。これまた小学校以来である。選挙後は二人で小学校の話をしたのを今でも覚えている。何となく、友人以上に打ち解けた会話をしていたと思った。

 

 

 

『ねぇ、彩翔クン。また生徒会長だけど今度はどんな政治をするのかな?』

『さぁな。取り敢えず改善点があれば徹底的に改善することくらいじゃないか? 生徒会は恨まれる組織だし』

『いやぁ、それは彩翔クンがいる時だけじゃない?』

『失礼な。俺は能があるくせに仕事ができない奴が死ぬほど嫌いなんだ』

『徹底してるね、実力主義』

『結果も出せなきゃ意味はないから、結果主義者でもある』

『革命家みたいだね。これは前生徒会長とは全然違う』

『そうだな、あの人は俺とは正反対だ。あの人は無条件で周りを惹き付けるからな』

『彩翔クンは、そうだなぁ。力を見せつけて「オレについてこい!!」って感じ』

『俺はそこまで英雄じゃねぇよ。意地汚い政治家と同じだ』

『泥臭いのは私好きだよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――懐かしいな」

「そうだね」

 

 更識刀奈と肩を並べ遊歩道を歩く。

 

 結局、中学では任期満了まできっちり仕事を終えた後、刀奈と俺は別々の学校へ行った。俺は日本でも偏差値トップクラスの高校へ、刀奈はIS学園へ。

 

 1年と少し、連絡先を交換していなかった為声を聞くのも姿をお互いに見合うのも久々だ。無論俺はテレビで見てたりしたが。

 

「変わんねぇな、刀奈は」

 

 ぽろっ、と溢れた言葉。その言葉に刀奈も「彩翔クンこそ」と返した。

 

「生徒会副会長してたんでしょ? また鉄血政策でもしてるんじゃないかなぁ、って思ってた」

「出来ねぇよ、そんなこと。俺の首が飛ぶ。それこそ、お前はもう生徒会長だけでなく世界的有名人の領域じゃないのか。あの時とは立場が逆だ」

「あー、まぁ、ねぇ。言ってもそこまで有名じゃないよ。更識楯無は、まだまだ駆け出し。彩翔クンみたいに言ってくれる人はまだいないかなぁ」

 

 てへへ、と照れたように笑う刀奈。最後に会ったあの時とは違う、少し大人びた顔は、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 この目の前の人物は更識楯無という更識家当主の名前を襲名した。前々から特殊な家系だとは思っていたが襲名システムがあると知ったときは驚いた。

 

「そうか、そう言えば今は更識楯無だったな、名前」

「うん、そうだね」

 

 フッ、と一瞬表情に陰りが差したような気がした。

 

「……俺は、どう呼べば良い? 楯無か、刀奈か、それとも更識か」

 

 当の俺はどうすれば良いのかわからなかった。刀奈、という名前は本名。しかし、彼女は今更識楯無として生きている。学園でも恐らく更識楯無として過ごしているのだろう。

 そんな彼女の顔が、少し寂しげに見えたのは気の所為だったのか、はたまた……。

 

「……ねぇ、彩翔クン」

 

 彼女がコチラを向く。

 

「あの、さ。二人きりの時だけ、刀奈って、呼んで?」

 

 二人きり?

 

「うん。普段は、楯無で。二人きりの時だけだからねっ、約束」

「あ、おう。わかった」

 

 俺の同意に、彼女は、刀奈は、頬をほんのり朱色にして微笑んだ。それは、反則だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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