「IS学園、か……」
上の空でオレンジジュースを片手にラウラ=ボーデヴィッヒは誰に告げるでもなく呟いた。
「ラウラ少佐。何か気分が優れませんか?」
「あ、ああ、クラリッサか。いや、そういう訳ではないんだが……、」
向かいのベンチに腰をかけたのはクラリッサ=ハルフォーフ大尉。ラウラが隊長を務める同じ黒ウサギ隊のメンバーであり副官を務めている人物だ。
歯切れ悪く答えるラウラにクラリッサは問う。
「ご相談であれば私が話し相手になりますよ、少佐。私達は仲間ですから」
「……そうか、感謝する」
副官にこうも言われては自分もまだまだだなとラウラは苦笑した。
「……私がIS学園へ行くことが決まったのはクラリッサも皆知っているな?」
「それはもう。黒ウサギ隊は勿論、彼のリヒャルト大尉もご存知ですよ」
「ああ、まあアイツなら教えなくても自分でどっかから情報を引っ張ってくるだろうからな」
「ふふ、困ったお方です。が、あの方がいなければ今の黒ウサギ隊も無かったでしょうからね」
「そこだけは、感謝しなければか……複雑だ」
「そうでしょうか。彼には感謝しきれない程の恩がありますからね……。話が逸れました、申し訳ありません」
「いや、別に構わないさ。それで、IS学園だがな。教官が現在勤めていらっしゃる所だ」
「織斑教官ですね」
「ああ。久々に教官に会えるのが楽しみなんだ。しかし、」
「しかし?」
「IS学園に行く目的が、織斑一夏が関係しているのだから気に食わない」
ラウラの表情が僅かに曇るのをクラリッサは見逃さない。
「アイツは、教官が手にしてきた栄光に泥を塗った屑だ。何故アイツ如きの為に私が行かなければならないのか……それを思うだけで心がぐちゃぐちゃになってくる」
要は板挟みだ。憧れの恩人である教官と、その教官を堕とした元凶となる彼女の弟。両者の譲れない心の対立がラウラの心を荒波のごとく騒がせていた。
「決定事項だというのに、私はうじうじとしてばかりだ。最近は訓練にも身が入らない。自分の情けなさに泣けそうになってくる……」
ハァァ、と深い溜息。彼女を蝕む葛藤は予想以上に大きかった。
「おや、少佐に大尉。何やら沈んでいますな」
と、そこへ男の声が割り込んでくる。黒ウサギ隊専属技術者リヒャルト=マティーアス=シェーケル大尉だ。
「少佐がここまで意気消沈するとは珍しい。最近の訓練数値もやや右肩下がりだ。もしや、IS学園関係かな?」
ビクッ、とラウラの肩が震える。あからさまな反応にニタニタとリヒャルトが人の悪い笑みを浮かべ、ラウラは赤くなって縮こまった。ここまで的確に突いてくとは中々侮れない大尉である。
「な、何故わかったんだ……?」
「そりゃあわかりますとも。教官だけにあんなにも執心される少佐がここまで落ち込むなんて、やっぱり教官以外有り得んのですよ。つまりはIS学園関係だ、間違いない」
「ぬ、うぅぅ……、」
図星である。言い返せないラウラが小さく唸った。
「少佐、ここで燻っていちゃあ何も起きませんよ。丁度良い機会だ、向こうで過去に決着でもつけてきたらどうです」
「決着?」
「そうですよ少佐。過去の因縁に決着をつけるんです。大尉のコミックで読んだりしたでしょう? いつまでも過去を引きずっていちゃあ人間前には進めんよと」
「(リヒャルト大尉、私貴方に貸した覚えはないんですが……、)」
「(少佐が面白いからお前も読んでみろと渡されたのですよ。きちんと読みましたとも。面白かったですよ。それよりジョジョの続きが読みたいです)」
「(私だって読みたいですけど資金がないんですよ資金が)」
「クラリッサ、リヒャルト、何の話をしてるんだ?」
「「いいえ何も」」
「そ、そうか……、」
目の前でヒソヒソと話し合う二人に首を傾げるも足並み揃った返答にラウラは何も言えなかった。
「……いや、大尉の言う通りだ。いつまでもうだうだとしていては部下に示しがつかない」
「その域ですよ、少佐」
首を振って立ち上がったラウラに大尉二人は笑みを向けた。
ラウラ顔に浮かんでいた暗い影はすっかりナリを潜め、そこにはいつもの力強い眼差しを宿した隊長がいた。
「大尉、感謝する」
「おや、私は普通のことを言ったに過ぎないんですが……少佐の感謝は有り難く受け取りましょう。では、これで」
リヒャルトは浅く一礼して廊下へ消える。飄々とした態度は相変わらずだと休憩室の二人は思った。
SOUND ONLY....
「さて、博士。今はお時間大丈夫かな?」
『んぅ……? なにぃ……?』
「おや、就寝中であったか。これは失礼」
『あぁ、いいよいいよ。別にいつ寝ようがこっちの勝手だし。で、要件は?』
「VTS。これで大体のことはわかると思うが」
『出来損ないのシステムが何か?』
「織斑千冬を元にしたことがわかったんだ。君にとっては忌々しいことこの上ないだろうが、今回の件は私にとっても腹立たしくて仕方がない」
『ふぅん。確かにちーちゃんを使うのは殺してやりたいくらいだけど、リト君はなんで?』
「少佐だよ。私の娘に手を出した」
『わかるっ、わかるよその気持ちッ!! くーちゃんに手を出されたら同じ気持ちになるもんね!!』
「で、だ。ちょっとしたシナリオを用意した。私が半分、博士が半分だ」
『うん、全然構わないよ』
「感謝するよ博士。私は気が気でないからね、少しでも反論されたらどうしようかと思っていた」
『わからなくはないけどね。詳細は?』
「話すよりは纏めたデータを見た方が早いだろう。今そちらに転送するよ。結構日は、学年別トーナメント開始直後だ」
『むふふ、りょーかいだよ。徹底的に、潰そうか』
「博士の活躍、期待しているよ。無論、私も全力で消すが」
『いいよいいよぉ。アハハ、ちょっと楽しくなってきた。久々にリト君の兵器が見れるんだぁ。これはパーティの準備も……にゅふふ。あ、そう言えばリト君は相変わらず顔は見せてくれないんだね?』
「残念ながら、表に出せるほど良い顔立ちではないのだよ。君が見たらがっかりするだろう。織斑一夏には圧倒的大敗。一般人に比べれば平凡以下さ」
『へぇ~、そんな風には思えないけどなぁ。あれだよね、リト君の場合は「見たければ自力で調べてみたまえ」だよねっ』
「そうだな。別に博士に見られようとどうということはないのだがね、自力で見に来てくれれば構わんよ。流石に今回ばかりは予定が詰まっているから話は難しいがね」
『でも今度からIS学園にいるんでしょ? だったら今度遊びに行くよ!!』
「そうか。出向いてくれるなら有難い。酒の肴でも用意して待っているよ。期待しておきたまえ、私のオススメを振舞おうか」
『わぁおっ、リト君太っ腹ぁ~!! 楽しみにしてるねッ』
「ふむ。ではまた後日に」
『ばいば~い!!』