キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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4.乱雑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反乱軍は全滅した。

 そこらじゅうに転がる炭化した塊は、全て人間だったものだ。過去の遺物だ。ひっくり返る戦車も、ひしゃげて転がる銃火器も。全部が全部、戦争の爪痕なのである。

 

「ふむ、結果は上々。これで3000人は消えたかね」

 

 そんな終わり切った戦場の真ん中に佇むリヒャルト=マティーアス=シェーケル中尉は満足気に頷き自分の真後ろを見た。

 

「わかるかねボーデヴィッヒ。これが戦争だ。これが虐殺だ。これが蹂躙だ。圧倒的力でもって容赦なく敵を捻り潰す、これが全てだ」

 

 兵法など、戦術理論など、そんなものはいらない。真正面から堂々と押し潰すのだ。

 

「ボーデヴィッヒ。力をつけなさい。相手を捩じ伏せる、確かな力を。この先の時代、力なきものにあるのは死のみなのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日以来、軍部の人間の絶対数が減ったとラウラ=ボーデヴィッヒは思う。

 あの日、リヒャルトはISを持ち出させることなく反乱軍を全て殺して見せた。彼にはそれだけの力があるのだ。

 

「ともかく、大事にならなくて良かった。また連絡する」

『はい、いつでも回線は開けてますのでどうぞ。では』

 

 通信が切れる。盗聴はされていない。

 

 ――――さて、どうしようか。

 

 報告はいつもの癖で手早く終わってしまったし、また通話をし直すのは気が引けた。

 

 ――――大尉に謝っておくか……。

 

 不本意だが、と上部では考えつつ、やっぱり無意識の底ではほんのちょっぴり申し訳なさがあった。何だかんだでやはりラウラが頼る父親像を持つのはリヒャルトなのだ。

 

『おや、どうも少佐、三日ぶりですね』

「あ、あぁ」

 

 画面の向こうに映ったリヒャルトはいつもの如く飄々とした態度でいる。しかし、ラウラにとってわかったのはリヒャルトがいつもと違うということである。普段通りの彼であれば皮肉の一つでも言いながら応じるのだが、今回はそれがなかった。

 

「あー、その、大尉……怒ってるか?」

『怒る? 私が? ご冗談を少佐、私がそんな人間らしい人間に見えますか?』

 

 回答は、普段ならNein(NO)と答えるが、今回ばかりは違う。

 

「……その……、出るときに、挨拶ができなくて、……謝罪する」

『……ああ、その事でしたか』

「す、すまなかった。言い訳はしたくないが、本当に忘れてしまっていたんだ……いつも世話をかけているのに。……自分が恥ずかしい……」

『お気になさらずとも大丈夫ですよ』

「し、しかしだなっ、」

『またハルフォーフ大尉が少佐に仰ったのでしょう? よくわかりますよ、彼女は貴方を大事に思ってますから。こんなに回りくどいことなんてしなくとも良いのにねぇ。私は気にしませんよ、少佐はきちんと反省されているようですし』

 

 クツクツとリヒャルトが喉の奥で笑った。

 

『ありがとうございます、少佐。わざわざ私ごときに目を向けて下さって。部下として感激です』

「あまり自身を愚弄するな、大尉。貴方は私達をずっと支えて来てくれただろう。私は、感謝しているんだ」

 

 ――――貴方の娘として。

 

 気恥ずかしさにその言葉は喉まで出かかって止まり、ラウラは赤くなって俯き黙り込んだ。

 この世に生を受けたときからラウラの隣にいたのはいつだってリヒャルトだった。だからこそ、やはり彼は父親なのだ。本当だったらまだ未熟だったあの頃のように彼の後ろを一生懸命について歩き回りたかった。敬語なんて使わないでいてほしかった。

 でも、そんな我が儘は通らない。ラウラがラウラ=ボーデヴィッヒ少佐であり、リヒャルト=マティーアス=シェーケル大尉だからである。

 

『少佐の感謝ですか。嬉しいですね、大事にするとしましょう』

「……………………………………………………、」

『クフフッ。そんな顔もできるんじゃないか、()()()

「ッ、」

『安心してくれ、こうして声が聞けただけで嬉しいよ。ありがとう』

 

 力があっても化物にはなるな、常に人間らしくあれ。

 

『学園生活、何かとあるだろうが頑張ってくれ。また会おう。…………では少佐、これで』

 

 通話が終わる。

 

 いつ以来だろうか、彼がこうした表情をするのは。ラウラを全うな、強い人間として、人間らしくない彼が育て始めて。

 

「……今度は、土産話でも考えないとだな」

 

 そう言いつつ、ラウラはまたベッドに倒れ込み、しばし仮眠をとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう……、」

 

 誰かにそれを告げるわけでもなく、トイレの個室でシャルル=デュノアは――――否、シャルロット=デュノアは独り呟いていた。

 彼は本来“彼”でなく“彼女”、つまりは生物として女の部類に入る人間だ。シャルルという名も偽名である。彼女は男性操縦者という偽物の経歴を堂々掲げてこの学園に来ていたのだ。

 何故男装をしたのか。別に彼女に男装癖があるわけではなく、言ってしまえば裏社会の事情を抱えた厄介事なのである。

 そんな彼女が学園内で数少ない男子トイレの個室にこもって唸っているのにも訳があった。

 出来事は今朝一番のこと。挨拶の前に待合室で一緒になったラウラ=ボーデヴィッヒに関してだ。

 

 ――――もしかして、バレた……?

 

 ラウラは今朝、シャルロットのことをじっと観察してきた。それも、疑問を抱きながら。こちらの抱えている闇を見透かすかのように。

 シャルロットは授業中も気が気でなかった。もしもこのことを別の誰かやどこかへリークされたら……、ゾッとして背筋が冷たくなる。しかもラウラはドイツの正規の軍人だ、軍に伝わればもしかしたらが有り得てしまう。学園潜入初日から前途多難が過ぎてしまい、そろそろ胃にも穴が空きかけていた。

 

 ――――でも、軍人にバレるなら織斑千冬(ブリュンヒルデ)にもバレるんじゃ……?

 

 少しばかり考えてみて、そう言えばブリュンヒルデは何も言ってないなと思う。既にバレていたとして、何のアクションも起こさないのは余裕の現れか。ともかく、ブリュンヒルデはシャルル=デュノアを眼中にいれていないことになる。ならばバレていたとしてもさほど問題は無いと見て良いかもしれない。

 しかしラウラ=ボーデヴィッヒはどうだろうか。下手にドイツ軍へ伝わりでもしたらそれこそ大事になる。

 

 ――――しばらくは様子見かな……。

 

 しかしここで派手なアクションを起こすのは愚の骨頂。焦らず慎重に動かねばならない。警戒はしつつ、任務を続行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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