キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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5.暗闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ。うむ、いいね、完璧ではないがノルマ的には充分だ」

 

 一人、薄暗く広い部屋の中、人とは比べ物にならない大きさの機械の塊の前でリヒャルト=マティーアス=シェーケル大尉は満足気に頷いた。

 

「さて、あとは共にスタートを切るだけだ……クフフッ」

 

 クツクツと、彼の喉が低く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学年別トーナメント、その前日の夕方を過ぎて空がいよいよ黒くなり始めた頃のこと。

 机に向かってメールのチェックをしていたラウラ=ボーデヴィッヒは新着で届いたばかりのメールを訝しげに睨んだ。

 

「……学年別トーナメント、抽選……」

 

 そう言えばいつだったかの朝のホームルームで言っていたなと思い出す。

 内容は名称通りシンプルに、二人一組の生徒達がISを駆って勝負を行い優劣を競いあう、一種のエンターテイメントじみた行事である。

 

「メンバー登録をしなくとも、抽選で組まされて結局は強制的に参加となるのか」

 

 実際ラウラはタッグを組む相手を決めてなかった。もともとこういった行事がどうでも良いと思うのもそうだが、例えタッグのメンバーがいなくとも勝てる自信があったからだ。

 国家代表候補生程度とはレベルが違う、本当の人殺しの術を生まれてから休みなく叩き込まれてきたのだ、遊びとは訳が違う。

 

 メールの内容はこうだ。

 タッグでの申請が出されなかったので学園側が抽選を行ってタッグの相手を決めたということ。そのタッグを組む相手とは、

 

「……篠ノ之箒……束博士の妹、か」

 

 かの有名な、ISの生みの親。その妹だ。

 

 

 

 ――――で、それが何か意味のあることですかね?

 

「ハンッ、それが何だ」

 

 フッと不敵な笑みをラウラは一人浮かべた。

 

 篠ノ之箒の姉があの束だとして、それに一体何の力があるのか。答えは、なしだ。篠ノ之箒が一人の人間であり、それが篠ノ之束になる訳ではない。

 リヒャルト=マティーアス=シェーケルは言った。他人は他人、自分は自分でしかない。それが成立しないのであればそれは自分ではない他人であり、自分が進む場所ではない。考えるのが面倒になったら自己中に生きて自己満足で死ねばそれで良いと。

 

 取り敢えず、明日ラウラは学年別トーナメントに参加するのが決定した。丁度良い機会だ、兵器という存在の恐ろしさをしかと見せ付ける時でもある。

 ドイツの恥とならないよう気張るとしよう、そう誓ってラウラはディスプレイの電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして翌日。学年別トーナメントの開会式が始まる。

 

「ちょっ、大尉っ、画面見えないじゃないですかッ」

「そりゃこんな手持ちのタブレットに10人近く群がれば当たり前でしょうに」

 

 ここはドイツ軍のとある休憩室。そこを堂々占拠しているのはドイツ軍で最大戦力の黒ウサギ隊の面々だ。訓練を途中で放り出してきたのか、正装ではなく皆が身体のラインがはっきり浮き出てしまうISスーツのままの格好だった。唯一、紅一点の反対、一人だけの男のリヒャルト大尉はよれよれの白衣であるが。

 そんな彼が眺める最新型のタブレット端末へ、女達が姦しく、そして喧しく群がってきゃいのきゃいのと声を上げるのである。その数が10人に届きそうな為肩や身体が互いに当たり合うのは当たり前であり、リヒャルトにも容赦無いボディタッチが無自覚のうちに行われてしまっているのである。しかしとうの本人は嬉しそうにはせず、寧ろ鬱陶しいと言わんばかりの態度と表情だった。

 な何故こんなことになっているのか。僅か数分前のこと、同じ黒ウサギ隊のラウラがISが学年別トーナメントに出ることを思い出した隊員達が急いでディスプレイを探していると、たまたま休憩室でタブレットで学年別トーナメントの様子を眺めていたリヒャルトを目敏(めざと)く見つけ、他の場所へ移動するのも面倒になった隊員達。次々とリヒャルトの周りに集まり始め、最終的には押しくらまんじゅうの状態になったというわけである。

 

「少佐の活躍くらいゆっくり見せてくれませんかねぇ……」

「抜け駆けはズルいであります、シェーケル大尉ッ」

「そーだゾ、皆少佐が見たいんだゾ!!」

「た、大尉だけ独り占めはダメですぅ!!」

 

 げっそりとリヒャルトの影が濃くなった、そんな気がする。

 

「……全く、私は静かに見たいのでこれは貸してあげます。後でちゃんと返してくださいね」

「へっ、あれ、シェーケル大尉!?」

 

 近くにいたクラリッサ=ハルフォーフ大尉にタブレットを半ば押し付けるように手渡すとリヒャルトはすたこらと人混みから脱出、全力疾走をしているわけでもないのにあっさりと休憩室から姿を消した。

 

「珍しいでありますな、シェーケル大尉が少佐の舞台でああもあっさりしておられるのは」

「何か変だゾ」

「ど、どうしちゃったんでしょうか……」

 

 思い思いになんだどうしたと言う。クラリッサも、ラウラに対しては誰よりも真摯であるはずのリヒャルトの態度に少し違和感があった。

 

「あ、トーナメント発表されましたよッ!!」

 

 数瞬ほど呆けていた皆がその声にハッと我に返り、タブレットの画面に皆が目を向けた。

 

 

 

 ――――それは無論、当地にて試合に出場するラウラ自身も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aブロック第1回戦。

『織斑一夏、シャルル=デュノアペアvs.篠ノ之箒、ラウラ=ボーデヴィッヒペア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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