第1回モンド・グロッソ準優勝。以降、第2回から第7回まで優勝。6連覇という前人未到の記録を打ち立てた選手がいた。名をヘレン=クラーラ=ベアトリス・オブライエン。アメリカ出身で【
第1回目は彼のブリュンヒルデこと織斑千冬に僅差で敗れ、第2回の大会では決勝にて織斑千冬が棄権。不戦勝により優勝となったが、彼女は決してブリュンヒルデの名を継ごうとはしなかった。インタビューで彼女は「織斑千冬がいなくなったから優勝したのではない」とだけ答えている。曰く、彼女を倒さない限りブリュンヒルデは名乗れない。暗にそう言った。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。音に気がついてベッドの上で丸くなっていた影がもそもそと動いた。タオルケットがはだけて中から顔を出したのは、織斑千冬。世界最強、戦えば敵なしと噂される彼女はしかし、既に敗北を喫していた。主に昨夜のアルコール摂取による二日酔いの頭痛に。
「くそ、人が気持ち良く寝てたというのに……」
ふらふらと体を不規則に揺らし、たっぷり10秒はかけてようやく体勢を起こす。更に10秒かけてベッドから立ち上がり、扉を開けようとしてふと自分の姿を見下ろした。よれよれのはだけたブラウスは黒の下着が丸見え、下半身に至っては下着1枚しか着ていない。
流石にこれはマズいなぁと靄のかかる思考で判断し、床に落ちていた白いジャージを取り敢えず履いた。ブラウスの方は替えが無いのでボタンを留めるだけで良いか。
うだうだと準備をして扉を開けるようになったのはそろそろ1分経つかもしれない頃合。その間にもノックは延々と嫌がらせのように続いており、更に頭痛へガンガンと拍車をかけていた。いい加減彼女も不機嫌でキレそうだ。
「今開ける、少しは静かにしt」
「ハロー、織斑千冬。いいご身分ね、このダメ教師」
「…………は……ぇ……?」
扉を開ければ、そこには青筋を立てて笑顔を浮かべる顔見知り、というよりは悪友と言えようか。かれこれ10年以上の付き合いになるであろうヘレン=クラーラ=ベアトリス・オブライエンがいた。笑顔だが、目は笑っていない。ついでに言えば、ハイライトもない。
「へ、ヘレン、何で、ここに……?」
「おや、おやおやおやおやおやぁ? ご存知ない? 何故私がこんな極東にわざわざ自由の国から1日で飛んで来たかを? 昨日自分がしでかした事件も何も覚えていらっしゃらない? まさかアルコールで酔いつぶれて何も覚えてませんなんて言いませんよねぇ、ねぇぇっ?」
ゴゴゴゴゴゴ、なんて効果音が背後に飛び交ってるかもしれない。あと、千冬にはヘレンの真後ろに死神が見えた。別に卍解とかそういうのじゃなくて、真面目に黒のボロボロの装束に大きな鎌を構えた骸のアレだ。
「へ、ぇ、あ、まっ待ってくれ、ヘレンっ、私にもまず状況の整理をだな」
「あれ、もうそろそろお昼なんだけど? 午前という数時間がありながらまだ何も理解しておられない? まさかまさか、生徒の見本である教師が正午起床ですか?」
「いや、ちがっ」
ずいずいっ、と死神の笑顔を貼り付けたヘレンの顔が千冬に近付く。あまりの凄みに思わず顔を真っ青にして冷や汗を流しながら後ずさりする千冬。言っておきますがこれ、ブリュンヒルデです。
「素直に洗いざらい吐きなさい。アナタが酒で酔い潰れて何も覚えてないことなんか一目でわかるわ。説教してあげる」
「は、はいぃぃぃぃ……、」
ここに、初代ブリュンヒルデは2代目ブリュンヒルデに屈した。
「さて、まずはアナタに大事なことを教えてあげるわ。昨晩何があったか」
ビシィッ、とどこから用意したのか不明な赤縁の伊達眼鏡をつけたヘレンが竹刀を千冬の眼前に近付けた。対する千冬は不安定なベッドの上に正座させられ、若干涙目で頬を引きつらせながら青ざめた表情をしていた。
「昨日22時32分。アナタの携帯からIS委員会幹事の1人に1本の電話が入ったの。覚えてる?」
「ぁ……ぅ……、」
「 お ぼ え て る ? 」
「ぃぇ、ぉぼぇてましぇん……、」
「宜しい。さて、説明はざっくりとするけどその電話の内容はこう。IS学園に1人手伝いの講師を呼べ。ヘレンという2代目ブリュンヒルデだ、と」
だらだらだらだらと千冬の汗の量が増す。既にヘレンを視界に入れる気力はなく、もうとっくに視線は斜め下方向を向きっぱなしである。
「その1本の電話によりIS委員会は大慌て。ブリュンヒルデ直々の
「め、命令なんて一言も言ってな」
「 だ ま ら っ し ゃ い 」
「ヒィィッ」
「そんな訳で、アメリカで後輩育成を頑張って清々しい汗をかいていた私が無理矢理ここに連れてこられた訳。ドゥーユーアンダースタン?」
「い、いえあ……、」
弱々しく親指を立てた。
「さて」
パァンッ、と竹刀が音を立てて地面に打ち付けられる。鋭い音に反応して千冬の方が大きく震えた。もう涙目うるうるで泣きそうである。
「ねぇ織斑千冬」
「ひゃ、い……」
「アナタ、私に言うことがあるわよね?」
「は、い……よく、知っております……」
「賢いですねぇ。私、素直な人間は大好きです。さぁ織斑千冬、言ってごらんなさい」
「はひっ……あ、の、私の身勝手な、誠意の無い行動に、巻き込んで、しまい……申し訳、ありませんでしたぁ……」
震える体で、織斑千冬は土下座をした。プライドもクソもなく、ただただ恐怖に駆られて土下座をした。
「はい、よく出来ました」
「ほ、本当k」
「 だ が 許 す と は 言 っ て な い 」
「へ?」
ガッとヘレンが千冬の肩を掴んだ。万力のような締め付けが痛みとなって彼女を襲うのだが、痛みどころの話ではなく、目の前の死神の微笑みの恐怖でもうどうにもならなかった。
「よぉく覚えておくことね、織斑千冬。他人に迷惑かけた分の負債、きっちり払ってもらうから」
【速報】織斑千冬、トラウマを植え付けられる。