キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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6.予備

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはどこだろうか。ただ一つ、言えることは。

 

 

 

 

 

 この場所が地図にも、衛星にも映らないことである。

 

 

 

 その地に一つ、巨大な影が空から轟音と共に降ってきた。

 長さは20m、幅もそれに負けていない、高さも負けず劣らずだ。見た目は(サソリ)に近いか。大地を踏み締める1対3組の太い脚、それが支える堅牢な胴体。艦尾に担ぐのは尻尾ではなく6角形の箱を3つだ。

 

 サソリの着地に地面が沈め込みながら揺れた。

 周辺に見える景色はただの研究施設のような白い建物とそれを取り囲む茂みや林だけ。その隙間から慌ただしく武装した、ゴツゴツとした駆動装甲(パワードスーツ)をまとった者達が現れた。EOSをかなり改造した物だ。

 

『歩兵を出すとは、判断を誤ったかね。これから行うのはCQBではないよ。徹底的な破壊と虐殺だ』

 

 サソリから聞こえる男の声が嘲笑うかの様に響くが兵隊は止まらない。腕に抱える常人には到底扱えない大きな銃器、アンチマテリアルライフルの弾丸を秒間4発放つトンデモ兵器を、スーツのパワーアシストを得て撃つ。

 

 しかし、

 

「なっ、AIC!?」

 

 銃口から飛び出した弾丸はサソリに命中せず、その前方の空間で時が止まったかのように運動を停止した。それは誰がどう見ようとも、ドイツ製ISの第3世代兵器のものだった。

 

「嘘だろ、ISじゃないのに!?」

『誰がいつAICはISでしか使えないと言った?』

 

 バラバラと弾丸が重力に捕らわれて地面に落ちると同時、巨大なサソリが巨体とは想えない機敏な動きを見せた。目が霞む程のスピードで6つの脚が動き出し瞬く間に装甲兵士達に接近して僅か1秒で10人をその太い脚でもって踏みつけた。金属が潰れる音と、血肉の塊がぐちゃぐちゃになる音が連続して響く。

 恐れをなして逃げ出す兵士達だが、サソリはそれを決して逃さず、的確に、そして迅速に潰していく。

 

「ッ、後方支援部隊に通達だ!! 防衛ラインをαまで下げろ!!」

 

 部隊の外側、サソリの行動範囲の外側にいた者達が銃器で牽制しつつ下がり続ける。

 

『窮鼠は猫の耳をかじれるかな?』

 

 ポツリとサソリがこぼした一言の刹那である。撤退していた部隊の駆動装甲が瞬間的に文字通りバラバラに部品単位にまで解体された。

 

『博士、2秒の遅刻だ』

「ぶーっ、リト君のケチんぼッ!!」

 

 ぷんぷんと幼子のように頬を膨らませてガラクタと化した山に着地して現れたのは機械のウサ耳が特徴的な、メルヘンなデザインのドレスを着た若い女性だ。サソリが博士と呼ぶ彼女こそ、あの篠ノ之束である。

 

『私が神経質なのは知ってるだろう? 今度からは気を付けてくれたまえ』

 

 サソリの、言葉に「ハイハイ」と面倒臭いと言わんばかりの態度をとる彼女だが、一般的に見てこの光景は本来有り得ないと言えた。篠ノ之束と言えばISの生みの親であり、ある一部の限られた数人以外とは口を聞くことはないと言われるくらいに自分勝手な人物なのだ。

 

『そら、次だ。私は予定が詰まっているのでね』

 

 サソリの顔の位置にある赤いセンサーアイが向く先にあるのは施設に入るための入口。各所に展開されていた部隊達が次々とその中へ下がっており、それを援護するようにまだ攻撃は続いていた。

 

「リトくぅ~ん、移動面倒臭いから乗せてってぇ~」

『勝手に捕まっているがいいさ。振り落とされても責任はとらんがな』

「えぇ~? そこはほら、束さん女の子だから男の子がエスコートするんだよ?」

『私が全うな男だとしたら、この世はとっくに終わってるさ』

 

 戦場にいるとは思えないような軽快な会話。篠ノ之束はケラケラとあっけらかんに笑い、人間離れした跳躍力でサソリの上に一息で飛び乗った。

 

『博士、そこにいると巻き込まれるぞ。6角形の箱の上に乗ってくれ』

「ああ、こっちね。じゃあ何かしら始まるのかな?」

『ちょっとした、浪漫のギミックさ』

 

 甲高く空気が抜ける音が短く鳴るとすぐにサソリに変化が現れた。真ん中の左右の脚が関節を回転させて真上を向くと同時に胴体の中央の部分がその脚部ごと持ち上がって、今度は前後の脚部が真ん中の脚があった場所に寄り添って下半身が出来上がった。それは四足の下半身だ。その上半身、持ち上がった胴体の3分の1と一対の脚。あの太かった脚が3つにバラけてしまった。

 

「四脚阿修羅とか、中々ツウだねリト君」

『最低限で飾るのも否定はしないさ。しかし戦術における役割において戦意の上昇低下は大切だよ』

 

 ことのつまり、この四脚阿修羅は相手の戦意低下というプレッシャーを与えるシルエットを作り出す為でもある。

 

『私はとことん実戦向きの人間さ。また戦争でも起きないかね。第二次大戦なんて特に楽しかったよ、ヒトラー君のアレは異端過ぎて悪くは無かったんだがね、やはり人間が根本的に嫌うことは世界に否定されるみたいだ』

「束さんはまだ生まれてないからなぁ。よくあんなので戦争しようと思ったよね、束さんだったらもっといいの作ったのに」

『時に調和というものも大事なんだよ、博士。君のお陰で何もかもが狂ったがね』

 

 四脚阿修羅の腕にはそれぞれ一対のガトリングガンとパイルバンカー、レールガンが一門に120ミリ砲が一門となっている。まさに凶悪な兵器だ。

 そのうちの120ミリ砲とレールガンが兵隊の群れと白い施設へ向けられ、銃口からマズルフラッシュが吐き出される。轟音が、衝撃が、兵士を貫き施設を破壊する。

 

『蹂躙されろ、虐殺されろ、踊れ、逃げ惑え、死に絶えろ』

 

 呪詛のように、重みをもって紡がれる言葉一つ一つが、まるで彼らを一人一人嬲り殺すように。みるみるうちに、四脚阿修羅と篠ノ之束の前から敵の影が失せていく。

 

『博士よ、あまり悠長に構えるようであれば私が全て貰ってしまうぞ?』

「ダメだよそれは。束さんだってイライラしてるんだから。出来損ないの役立たずは消えてもらうに限る」

 

 篠ノ之束が飛び上がり、頭を踏み台にして跳躍する。降り立ったのは残り3人となったEOSの歩兵部隊の真ん中。彼らの銃口が彼女を捉える前に、さっとひと振り腕を舞わせる。

 刹那にバラけるEOSと、顕になる生身の身体。その身体に赤い線が刻まれたかと思えば、綺麗な輪切りとなって細かく刻まれた肉の塊が地面に落ちて赤黒い血溜りを作り上げる。

 

『さぁ仕上げだ。汚そう。汚染だ。人間の忌み嫌う、最悪の兵器のお出ましだ』

 

 バシュウッ、と気圧の変わる音と共に、四脚阿修羅の背中にマウントされていた3つの6角形の箱が変化を起こす。平行になっていたものがスライドして一直線に並び直され連結、一番上の箱のハッチが開いて1つの弾頭が顔を覗かせた。

 

 ――――核弾頭搭載型短距離弾道弾。

 

『人間は面白い。矛盾の中で自らが嫌う悪質な兵器を憮然と作り出し行使する。嗤ってしまうじゃないか』

 

 

 

【射出シークエンスに入ります】

 

【カウント、10、――――、】

 

 

 

『恨むのは私ではない、人類だ。自ら首を絞め続ける、愚かな人間どもだ』

 

 

 

【2、1、0】

 

 

 

 背中の筒からミサイルが飛び出す。

 

『博士、どうする? 私はこれからIS学園へ行くが』

「んー、どうしよっかなぁ。別に今行っても用事とかないしぃ。取り敢えず途中までついて行く」

『そうかね』

 

 四脚阿修羅がまた形を返る。一度ソレは本来のサソリの形まで戻り、今度は地面を低く這うように脚部の関節を伸ばして寝そべった。不意に人一人が通れるくらいのハッチが開く。

 

『乗りたまえ。窮屈かもしれないが、狭い場所も中々落ち着けるものだぞ』

「ほいほい、おじゃましまぁす」

 

 篠ノ之束が中に入ると同時、サソリが円盤となり下部のスラスターが火を噴いて空高く浮上。それはまるでUFO(未確認飛行物体)を思わせる軌道で音速をあっさりと超えて空の彼方へ消える。

 

 

 

 ――――代わりに彼の大地へと向かうのは、一筋の死の光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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