キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

27 / 90
2

 そのニュースは真っ先に国際IS委員会へと伝えられた。

 

「IS含む鎮圧部隊が全滅……!?」

「どういうことだ、誤報だろう!?」

「いえ、しかし……、」

 

 少し薄暗い会議室は騒然となり、伝令の若い青年は壮年の者達から口々に浴びせられる理不尽な罵倒に困惑するしかなかった。

 アメリカ合衆国、アラスカ州にあるここでは定期的にIS委員会の会議が行われていたが、今回ばかりはそんな悠長に構えている暇はなかった。

 

 委員会が招集されたのは一か月前にもなる。

 委員会直属の諜報組織が、反IS組織の動きをキャッチしてきたのだ。ISが登場してから世界中のありとあらゆる兵器達はISに劣る旧式兵器というレッテルを貼られ続け、それは即ち各国が持つ軍隊にも今までにない低い評価がついてまわるようになってしまっていた。

 更にISの代表的な“機能”として、ISは女性にしか動かせないというジンクスがある。ISの登場は女尊男卑という風潮の始まりでもあったのだ。ISを扱えるのは女性だけ、つまり女性は偉い。意味もなく広がった習慣は世界を狂わせてしまっていた。

 

 無論、それが気に食わないという者はごまんといる。男性は特にだ。

 かつて昇進が決まっていたものも、ISの台頭により昇進を取り消され、代わりに自分よりも功績の低い女性が上司に成り上がるなんていうのはザラだ。訴えてみようにもそれすら女性に潰される。男たちはただ女の道具に成り下がらざるを得なかった。全てが全てそんな事態に陥った訳ではないが、少なからず風潮が広がってしまったのは事実である。

 

 だからこそ世界には各地で反IS組織というゲリラだったり統制の取れた団体などが数多く存在する。そこに所属する者は皆ISの影響で苦汁を舐めさせられてきた者達だ。時に過激派と呼ばれる連中がテロを起こした数も数え切れない。それだけで何人が犠牲になってきたかは誠に残念である、とは方便である。

 

「ッ、ISはきちんと出撃したんだろうな!? でなければこんな結果は有り得ない!!」

「たっ、確かに確認しました……。基地に問い合わせたところ、装備もISも全て出動させたと……」

 

 一か月前、諜報組織が持ち込んできた情報は、反IS組織の一部が大規模な武装蜂起を起こすという情報だ。規模は推定20万人以上。本来ならば数百人や数千人程度のデモだったので各国の対応に一任してきたが、今回ばかりは見逃すことはできない。20万など戦争と同じだ。

 だからこそ、IS委員会はISを含めた鎮圧部隊を連合国として結成。大規模反抗組織を止めようとした。

 

 

 

 しかし結果はこのザマだ。

 鎮圧部隊は大金をつぎ込んで導入したIS合計5機全てが墜落、鹵獲され全滅。更にこの戦争だけで10万以上の命が失われた。

 

「部隊にはロシアの国家代表もいたはずだろう!?」

「確かにいましたが、生存は確認されておりません……」

「ロシアにどう説明をつけるつもりだ!? あれだけの交渉でようやく手に入れた戦力をこうもあっさりと失うとは……!!」

 

 会議室内は混乱も同然。大勢の官僚達が頭を抱えたり喚き散らしたり、これが大の大人がこれなのかと飽きられてしまいそうな程にそこは重苦しい空気が漂っていた。

 

「――――静粛に」

 

 しかし、1人の男性の声で喧騒はピタリと止んだ。声は会議室の上座、IS委員会委員長、轡木十蔵からだった。

 

「過ぎたことを言っていても仕方ありません。まずは事態の把握と収束を。騒ぎ立てるのはそれからでも遅くないでしょう」

 

 その言葉は当たり前だというのに、否応なく皆を安定させる声音であった。浸透するような深い声に室内は段々と緊張感だけは残しながら詰まったような空気から解放されていった。

 

「まずは生存者の確認を行いましょう。被害報告書を作成し、各国への連絡はそれからです。くれぐれも情報が漏れ出さないように最大限の警戒を行うようお願いします」

 

 鶴の一声とはまさにこのこと。彼の声に皆々が賛同し動き出す。それは不気味なほどに、彼に支配されているという事態を覆い隠していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、フリゲート。お待ちしておりました」

 

 出迎えてきたのは軍服に身を包んだツヤのある黒髪の女性だ。無感情な表情でありながら刃物のように鋭い切れ目は冷徹さを醸し出しており、触れれば斬られてしまいかねないという雰囲気がにじみ出ていた。

 

「ご苦労」

 

 フリゲートと呼ばれた男は片手を上げて横を通る。その後に彼女は侍女のように続いた。いや、実際に侍女のようなものなのだが。秘書官、オペレーターと言った立ち位置が一番しっくりくるだろう。

 

「キリア、将軍は?」

「はい。体調は大分よくなられましたが、もう長くはありません。ご本人も覚悟はしているようでした」

 

 キリアと呼ばれた彼女は頭に入った情報を淀みなく答えながらピッタリと男の斜め後ろをキープ。男はその言葉に「ふむ」と少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「将軍の元へ行こう。仮眠を取った後はまた出撃だ。キリア、貴様もよく話をしておけ」

「承知致しました、フリゲート」

 

 

 

 2人の訪れた場所はとある一室。清潔に保たれた部屋を何回は通り過ぎ、厳重にガラスに囲まれた真っ白な部屋へ来た。

 中央には白い清潔な大きいベッドと、そこに寝込む老人が1人。痩せこけて一回でもつついてしまえばポックリ逝ってしまうのではないかと言うくらいに細かった。

 

「失礼致します」

「将軍。挨拶に来たぞ」

 

 男とキリアの声に老人は首を巡らせた。

 

「フリゲートに、キリア、か」

「ああそうだ。わざわざ挨拶に来てやったぞ。感謝しろ」

「感謝……そうだな。こんなのうのうと喋ることしかできん老人の相手をしてくれた礼はせんとな」

 

 老人は無表情に言う。しかし声音はどこか嬉しそうだった。

 

「もう長くない。必ずや、悲願の成就を」

「心配されんでも、未来は約束されているさ。さっさと寝てしまえ」

「ああ、そうする。キリア、フリゲートを頼んだぞ」

「はい。全力でフリゲートを支援致します」

 

 話はそれだけだ。男は踵を返し、部屋を出ようとする。キリアも後に続き、それはやけにあっさりし過ぎな別れであった。

 

「フリゲート」

 

 老人が小さく、言う。

 

「約束が果たされた時、彼女におめでとうと言ってやってくれ」

「……了解だ。きちんと伝える」

 

 それっきり、男は微塵も振り返らず部屋を出た。

 以来、彼らは戻らなかった。誰一人、老人の場所を訪ねる者はおらず、彼はただ、静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。