キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 電話越しの声に耳を澄ましていた更識楯無は自分の聴覚が受け取った情報に未だ困惑していた。

 

「ジーナが亡くなったって、本当なのですか……?」

『確か、とは断言できない。しかしISコアの反応は完全に消滅し携帯していた通信機からの信号も途絶えた。我々はジーナ=アバカルトをMIAと認定、捜索は行わないこととなった』

「何で捜しもしていないのに諦めるんですか!? まだ生きてる可能性だって、」

『これは全幹部で一致した方針だ。もう変更はできない。よって、直ちに更識楯無をロシア国家代表と任命する。後に通達が行くはずだ』

 

 有無を言わせぬ口調に押し黙る楯無。電話越しの男はそれを気にすることなく淡々と述べていく。

 

『最近は反IS勢力の過激派による行動が活発化してきている。IS学園は恰好の的だ、生徒に被害が及ばぬよう尽力しろ。これは()()だ』

「っ……了解、しました」

 

 命令と言われてはもう文句も言えない。ギリッと唇を噛み締め泣く泣く楯無は反論を飲み込んだ。

 

『話は以上だ。また、後に支援員を派遣する。コンタクトは取っておくように。ではな』

 

 通話が切れる。ツー、ツー、と無機質な音を吐き出すスマートフォンを弱々しく握り締め、楯無は生徒会室の壁に背を預けずるずると床に座り込んだ。

 

「あー……、」

 

 力なく、掠れた声が喉から漏れた。

 情けないな、と思いつつ口を閉じると、僅かに唇が濡れていた。舐め取れば錆びた鉄の味がする。噛んでしまった所為で唇が切れていたようだ。じんわりと口の中に広がる血の味が、否応なく楯無の気分をどん底に沈めていく。これは無力の味だ。友人の為に何もできない自分を示す、現実だ。

 

「……ごめんなさい、ジーナ……、」

 

 足を引き寄せて顔を埋める。頭に思い浮かぶのは、国家代表の座を巡って何度も争った親友(ライバル)。いつも笑顔で周りに元気を振り撒き続けた、優しい優しい友達の姿。

 急に目頭が熱くなり、ズキズキと心臓のあたりが痛くなった。何故、こうも現実は非常すぎるのか。涙を流しながら楯無は更に小さく蹲るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカ合衆国某所、地図にない基地(イレイズド)。その司令室は静かながらも緊迫した雰囲気が漂っており、いつもより落ち着きがないように思えた。

 

「辛気臭くなってきやがったな……」

「わかってても口に出さないのが礼儀(マナー)ってものよ」

 

 そんな司令室の様子を廊下に設けられた窓から覗いていたナターシャ=ファイルスとイーリス=コーリングは厳しい表情を作っていた。

 

「結局、アリスは見付からずか……」

「イーリ」

「……わりぃ……」

 

 アリス=ブロードベントは2人と同期の軍属アメリカンだ。先日の出撃以降その消息は不明の状態が長く続いている。

 出撃先は情報の漏洩防止のため知ることはできないが、南アメリカのどこかであることだけは辛うじてわかっている情報である。

 

「……ねぇ、イーリ」

「ん?」

「もし仮に、アリスがISを持ち出して負けていたとしたら…………どうなると思う?」

 

 どうなる。質問の意図は、その規模が個人なのか、集団なのか、はたまた国民、世界なのか。

 

「…………戦争だ。IS陣営と反IS組織との正面衝突。向こうは既に走り出したんだ、相対するIS陣営(ブレーキ)が無きゃ暴走列車は止められねぇ。ブレーキが無いなら無理矢理にでも、下手すりゃ線路爆破だって考えなきゃいけなくなるかもな」

 

 そう自分で言いつつ、イーリスは自分の気分が複雑なものになっていると気付いた。かつての世界対戦が再び起こり得ようとしているかもしれない。経験はないが、ソレがいかに物悲しく無意味なものなのか、戦場に身を置いてきたからこそわかる。

 

 と、そこで窓越しに動きがあった。一角から慌ただしく役員が動き出してそれが波紋のように広がって行ったのだ。

 

『イーリス=コーリング、並びにナターシャ=ファイルス。直ちに司令室へ集合して下さい。繰り返す、――――――――』

 

「コイツは、」

「来たわね」

 

 放送を聞いた2人はすぐさま蹴破るように司令室に入る。放送途中であったオペレーターが慌てて振り向くと焦ったように資料を掻き集めて駆けてきた。その中から抜き出したのは一枚の紙だ。

 

「2人に緊急の指令が入りました。アリス=ブロードベントの捜索願いです」

「アリスがかッ!?」

 

 ひったくるようにもぎ取った紙には走り書きで書かれた命令書だ。

 内容は南米にて現在消息不明のアリス=ブロードベントの捜索願い。書き写されているのは座標だけだ。

 

「正式な命令書は現在急ピッチで作ってはいますが、それを待っている時間もありません。2人には至急、出撃してもらいます」

「でも、何で急に? アリスを捜せるなら本望だけど、こんな急な依頼は何かあったんじゃないの?」

「はい、それはピットに向かいながら説明します」

 

 

 

 

 

 説明されたのは、アリス=ブロードベントの搭乗するIS専用機『太陽の賛美歌(ヒム・サンシャイン)』の反応が一瞬だけ復活し、その信号を司令部が捉えたとのことだった。

 南米にて多国籍軍との共同軍事作戦に参加していたアリス=ブロードベントは作戦行動中に消息を絶った。同時刻には同盟の多国籍軍が全滅、すぐさま捜索を開始しようとしていたが、反IS組織より妨害が入り捜索を断念。アリス=ブロードベント本人とも一向に連絡が取れない状況が続いていたのだが、つい先程一瞬だけ通信ができたらしい。本人のバイタルは確認ができなかったが、本来『太陽の賛美歌(ヒム・サンシャイン)』を起動できるのはアリス=ブロードベントのみ。司令部はこれに望みをかけて強行的な捜索をIS操縦者である2人に出したのだ。

 

「捜索もそうですが、現地では反IS組織による武力闘争に巻き込まれる可能性もあります。極力戦闘行為は控えて捜索に専念してください。仮にISを落とすほどの兵器があった場合はとにかく撤退を。ブロードベントの救出も無論大事ではありますが、我々名も無き部隊(ネームレス)はあなた方という戦力が消えることを望んでいません」

 

 ピットに入った3人。その内イーリスはハンガーに待機していたファング・クエイクに乗り込み、ナターシャは白銀のアームバンドに手を添えて第二世代型IS『ホワイト・ウィング』を展開した。

 

「ナターシャ、ソイツってラジエータとジェネレータの調整ができてなかったんじゃないか? 『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に乗りゃあいいじゃんか」

「生憎、まだあの子は戦場に出せないわ。それこそ、この子より調整しなきゃいけない項目が多いんだもの。それに、もうすぐ退役のこの子にはもっと活躍して欲しいし」

 

 ハンガーから出たイーリスがナターシャの近くに降りながら言うが、当のナターシャは首を横に振った。

 彼女の乗る『ホワイト・ウィング』はシルエットが細く流線型をなぞっている。両肩から腰にかけて後ろに飛び出す垂直翼、側面と背部を僅かに覆う装甲に、腰には小型のビームライフルが2丁マウントされている。脚部は空戦を想定してホバリングに適した形になっており、それは人の足とは言えない。

 

 2人の出撃準備が整ったところで、オペレーターが口を開いた。

 

「司令部との回線は常に開けておいて下さい。何か少しでも違和感や異変があったら報告を。……無事の帰還をお待ちしています」

 

 オペレーターの彼女が敬礼をする。ナターシャとイーリスはカタパルトに乗り込むと返礼し、勢いよくピットを飛び出して空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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