山の中のどこか。洞窟の中にいる茶色混じりのブロンドをショートカットにし前髪を赤いピンで止めた女性が壁に背を預けている。彼女、アリス=ブロードベントは洞窟の中で小さく蹲りカタカタと震えていた。体温の低下というソレもあるが、何よりも彼女を震わせるのは“恐怖”だ。
ズンッ、と、遠くで轟音がする。大きい何かが地面に衝突するような重々しい音にアリスは顔を青白くし大きく肩を震わせた。
彼女は多国籍軍との同盟により過激派反IS組織の殲滅任務へ赴いていた。多国籍軍はアリスを含めISを合計5機も導入。世界的に見てそれは誰が何と言おうと戦力過多と言わざるを得ないだろう。無論のこと反対意見も多かった。
しかしこれは反IS派に対するケジメを付けるチャンスでもあった。ここでISの有用性を示すことでISは更に絶対的な立場を確立し反IS派を抑える力になり得る、と。
しかし結果は? 誰も予想し得なかった、IS陣営の完全敗北である。
全ISが撃墜、多国籍軍は全滅。敵、反IS組織の規模は未知数でありながら被害は軽微だ。何がそこまで両者の差をつけてしまったのか。
また、轟音がする。これは足音だ。巨体が歩く度に発される足音なのだ。
この足音こそがその元凶。アリスにトラウマを植え付け、ISの全てを落としてみせた悪魔。
入口に影が差す。そこには1本の巨大な機械仕掛けの柱が――否、4本の内の1本が地面に深々と突き刺さっていた。
『アリス=ブロードベント。どうした、あの時の威勢は嘘なのか?』
巨体から響く音声は男の声だ。機械仕掛けの巨大な影は右腕のレーザーライフルを無理矢理洞窟の入口に突っ込んだ。縁に当たってゴリゴりと岩がけ削れて行くが腕のブレード部分には傷1つ付くことはない。
『知っているぞ。貴様が
クツクツと、男が喉を鳴らした。それはアリスの行動を嘲笑う悪魔の零す笑い声だった。
『貴様のお陰で仲間が来る。そしてその仲間は俺の前に倒れる。滑稽だ、笑いものだ、酷いものだ、醜いな、実に面白い。ISは世界最強ではなくなる』
キィィィィィィ――――――――、と甲高い音がする。巨体の右腕のレーザーライフルの中に光が収束していた。エネルギーチャージだ、一度充填が終わってしまえば、森林地帯を更地へ変えてしまう程の威力を持つ光と熱の暴力が放たれてしまう。
アリスは“恐怖”に突き動かされ、咄嗟に動いた。無意識でも彼女は洞窟の奥へは入らず入口へ、銃口の真横をすり抜けて外に飛び出した。
直後、銃口から放たれる光が洞窟を蹂躙する。光が暗闇から逆流し巨体ごと巻き込んで爆ぜた。爆風に煽られてアリスも空中に投げ出されるが一応は無事であった。背中から地面に落ちて3、4回と地面を転がり咳き込む。体の節々が痛い。少しでも動かそうとすれば悲鳴を上げそうになるほどに。
『しぶとい。しかし流石は軍属だ。他の自意識過剰とは違う』
男の声がよく響いた。あの巨体は健在だったのだ。あれだけの逆流してきたエネルギーを浴びていながら装甲に傷は1つも見えない。
見れば風に煽られた煙は巨体の装甲に達する前に透明な何かに遮られていた。ISのシールドエネルギーに似た何かか。ともかく、並大抵の攻撃程度ではあのバリアを貫くことは不可能だろう。
笑いそうになる膝を殴りつけてアリスは立ち上がり走り出す。林に飛び込み、蛇行し、木々を潜り抜け、とにかくかく乱するように動き回る。
『楽しいか、アリス=ブロードベント。それではただ無闇に自分の体力を削るだけだと気付いているだろう?』
知ってる。しかしアリスは答えない。疲労で崩れそうな体を動かし、ひたすらひたすら走り続ける。時間を稼げば、どこかへ向かえば、誰かがいてくれるはず。叶わないかもしれない僅かな希望だけが、アリスを突き動かす唯一の原動力だった。
茂みを飛び越え坂を下り、倒れた幹をくぐり抜けて、木の根に躓きそうになる。それでも金属のように重い足を前へ出す。
と、そこで視界がガクリと崩れ重力に引かれて体が落ちた。なんてことはない、1m程度の段差に気付かず落ちたのだ。いつもなら問題ないそれすらも、アリスにとっては不幸なことに脅威だった。背後の恐怖にばかり気をとられ、足下が疎かになってしまったいたのだ。突然すぎる展開に受け身を取ろうとするが間に合わず、アリスは足を捻った状態で地面に着いてしまった。
グギッ、という嫌な音と激痛が襲う。今まで踏ん張って支えていた身体が崩れ落ち、アリスは足首を抑えて痛みを堪えながら地面に蹲った。
もうダメかもしれない。そんな考えが浮かぶ。必死に考えないようにしてきたというのに、ここにきてアリスの心を支配したのは言い様のない絶望感だった。
容赦のない戦争って多分鬱憤を晴らすには一番もってこいなやつなんだろうなぁ、と今の気持ちを吐露してみる。多分当時も大分心がやつれてたからその鬱憤晴らしだったんだろうね