(ツイッター解説より)
【閲覧注意】 1 【残酷描写あり】
11:17 a.m.
Jul.7 20XX.
Persian Gulf.
1つの戦争があった。イスラム教徒と女性権利団体が敵対する大規模なものだ。簡単な構図と言えば、男性対女性だ。
そして、優勢なのは女性側であった。元々イスラム教徒により弾圧行為が戦争に発展したのだが、既にその勢いは失われつつある。何故なら、女性側には絶対的暴力の化身であるISがあるから。通常の兵器を全く寄せ付けない火力、機動、装甲、ありとあらゆる力の頂点に立つISが、抵抗する男達を次々と吹き飛ばしていった。
「ISが出たんだっつってんだよ!! 信じねェんなら直接見に来い腰抜け!!」
中東人の男性がAK片手に背中を倒壊寸前のコンクリート壁に預けながら無線機に怒鳴り散らした。劣勢に劣勢を重ね、イスラム側の勢力は既に虫の息だ。ISに恐れをなして逃げ惑う者達。その背を容赦なく兵器が蹂躙する。
「クソッ、
無線越しの役立たずに呆れをなした男は手に持っていたそれを地面に投げつけた。プラスチックの外殻があっさり割れ中の配線が剥き出しになる。それでもまだ一応動いてはいるようで、ノイズ混じりの音をガリガリとスピーカーから吐き出していた。
刹那、ドンンッ、と言う地響きと共に男の視界の端で建物が倒壊した。煙の中からゴロゴロと転がり出てきたのは、同じ教徒側の男。それを追うようにゆっくりと煙の中から大きな機械の影が浮かび上がって出てきた。
「IS……!!」
ギリッ、と男が唇を噛み締める。ISは地面に転がって悶え苦しむ男を容赦なく踏みつけ充分に痛みつけた後蹴り上げた。ドブッ、と言う鈍い音が上がり、男がもみくちゃに宙を舞って地面に頭から落ちた。絶命した。ピクリとも動きやしない。
と、不意にISがそれを見ていた男の方へ視線を向けた。拙い、と冷や汗が全身を伝う。死ぬ時が来たのだ。
「畜生……っ」
銃を乱射して男は駆けた。狭い道を掻い潜り、物に身を潜め、とにかく走った。しかしISは障害物を片手間で排除しまっすぐ男へ近付いて来る。
焦って足を前に出し、コンクリートの塊につま先をぶつけて男が転倒。破片だらけの地面を何度も転がった。腕が擦り剥け鋭い痛みが何度も彼を襲った。
「がっ、くそッ……!!」
「逃げんなよ、ゴミクズ」
ガシャン、と。ISが、男がつまづいたコンクリートを踏み抜いて粉々する。まるで自らの力を誇示するように。
彼女は笑っていた。いや、嘲笑していた。いつもいつもデカい顔ばかりしていた男を、鬱憤を、自らの手で殺せる、潰せる。その顔を男は悔しげに睨みつけた。
「滑稽だね。結局男は女に敵わない。それでも無駄に、必死に保身に走ろうとして、自らを滅ぼす。これを滑稽と言わずに何と言えばいいのかしら?」
マシンガンの銃口が男に向けられた。目と鼻の先、男がこの境地を脱する術は、ない。
「ま、いいや。取り敢えずアンタを殺して次に行く。この際にしっかり自分の身の程を男どもにはわかってもらわないとね。いい機会をくれたことだけは感謝するわ。これをそのお礼」
引き金を引いた。弾丸が何度も男を貫き、頭部もろとも吹き飛ばす。
たかが数秒、そこに人の形だったモノがぐちゃぐちゃになって真っ赤な血を辺り一面に飛ばしながら横たわった。
「おい」
不意に、彼女に声がかかった。男の声だ。まだ若い。
彼女が振り返れば、1人の青年がボロボロの軍服のような物を着て立っていた。無表情な顔で、光の無い目をしていた。
「あら、わざわざ殺されに来た? 探す手間が省けて助か――――」
「バーカ」
直後、男が何かを放り投げて背を向け走り出した。何事かと面食らっている間に、男が投げた物……閃光手榴弾が破裂。爆音と真っ白な光が周囲を覆う。
ISの光量遮断システムが起動。瞬間的に彼女の周りが真っ暗になり被害を防ぐ。手榴弾の効果が消えると同時にシステムが終了しハイパーセンサーを通して先ほどと同じ風景が彼女に見えてくる。
先程の男は既に道の曲がり角に駆け込んでおり、手だけをこちらに向けて親指を下に向けていた。
「テ、メェ……!!」
ブースターが火を噴きISが飛翔する。その速度はあっさりと航空機のそれに追いつくレベルの加速度を叩き出し、男がいた場所へ勢いそのままに突っ込む。
障害物を軒並み破壊して曲がり角へ達した時、男は袋小路のコンクリート塀を駆け上がって姿を消す。ちょこまかと逃げ回る男と、ISを駆る彼女。彼から申し入れられたのは、絶望的な鬼ごっこだった。
青年を追いかけて10分が経過した。たかだか1人の男を捕まえられず、既に彼女の頭はガンガンに煮え立っていた。彼は逃げ回るだけでなく、搦手で何度も何度も彼女を弄び煽っていた。冷静な判断はもう下せない。男を徹底的に痛めつけるまで、その怒りは収まることはない。
男の背を見つけた彼女が飛び出す。男はまた誘い込むようにコンクリートの建物の内部に駆け込んでいたのだが、そんなこと彼女にとってどうでも良い。ISという絶対的兵器がある以上、彼女に負けはないのだから。そう思っているから。
建物のフロアに飛び込んだところで、彼女は男を見失っていた。辺りを見回すが、誰もいない。ここでハイパーセンサーをフル稼働させれば目の前の柱の後ろに彼がいたとすぐ見破れたのだが、それもできなかった。
「ようこそ、墓場へ」
「ッ、そこかッ!!」
柱の影からゆっくりとした歩調で彼が現れ、彼女がそれに反応して飛び出す。が、彼をISで掴もうとして急激に機動力が衰える。見れば、超合金の頑丈なワイヤーがISに絡みつき移動を阻害していた。
「チッ、くそっ、こんなもの……!!」
「気付いた時にはもう遅い。お前は既に養豚場の豚と同じ運命にある」
男が手に持っていたスイッチを押した。同時に彼女の真上にあった天井が爆発により吹き飛び、上階に置いてあったであろう鉄骨が降り注ぐ。ワイヤーに絡め取られ身動きの取れなかった彼女はなすすべなく鉄骨の濁流に飲まれた。
「クソッ、殺す!! 殺してやる!! 動け、動けよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
既に彼女の顔は怒りで真っ赤だった。鉄骨とワイヤーで身動きが取れないこの状況。青年は無表情に葉巻を吸っていた。
「さて、」
と青年が動く。一度彼女から離れたかと思えば、彼は建物の隅に置いてあった
それは本来、人が扱う物ではない。ガトリング銃であるソレは人が撃とうとすれば反動でたちまち立っていられなくなる。一般的にそれはGAU-19と呼称される、戦闘機や装甲車に固定して使われるはずの物だった。
「ISには絶対防御と呼ばれる操縦者を守るための機能がそんざいする。この機能は本来のシールドエネルギーを大きく消費する代わりに絶対に操縦者の生命を守るための物だ。さて、そんな機能が
男は人1人分の重量はあろうその得物を軽々担ぎ上げ、鉄骨の山を上って彼女の顔の目の前にまで来た。
「そう、例えば、装甲のない頭部を何度も銃撃された場合、絶対防御はどれほど維持できるのか、とか」
銃口が自分の顔に定められたのを自覚し、彼女の顔が恐怖に染まった。身動きの取れない今、主導権は全て男にある。
更に、絶対防御とはシールドエネルギーがあることが大前提だ。絶対防御が発生し続けてしまえばシールドエネルギーはいずれ尽きる。そうなれば彼女を守る物なんて何もない。
「や、やめっ、」
「嫌だ」
キイィィィィィィィィィッ、と砲身が回転を始める。甲高い男は、彼女の処刑の始まりを告げる鐘そのものに他ならない。
「実験だ」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――――――――――――――――――――!!!!!!!!
12.7x99mm NATO弾が連続的に、絶え間なく、彼女の顔を狙う。その全てが絶対防御に弾かれ鉄骨の山に降り注ぐ。その圧倒的な暴力を、彼は片手で押さえつけて制御していた。
「ひっ、やら゛っ、だ、じげ……!!」
「聞こえんな。助けてとでも言っているのか?」
現に男には彼女の声は聞こえていない。唇の動きを読んだだけだ。
止むことのない銃弾の豪雨に、既に彼女の精神は死んでいた。死が迫る恐怖が彼女のプライドすらもずたずたに踏み潰していた。視界端に映るシールドエネルギーの残量こそが、死へのカウントダウン。恐ろしい程の勢いで減りつつある数値だけに彼女の精神は犯されていた。
「やだああああああああああああああ!! どめでッ……止めでぐだざいおねがい゛ま゛ず、死にたくない、じにだぐないじになぐあいあ、あああぁぁぁぁぁぁああああッッッッ!!!!????」
――――不意に、ピタッと銃撃が止む。静寂が訪れ、彼女の嗚咽だけが虚しく響いた。
シールドエネルギー、残量2。絶対防御を発動させるエネルギーは既に底を突いた。
絶望を前に彼女は男を見上げた。涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった顔で、死神を見つめた。
自分の股間が生温く湿っているのも気にならない。気にする暇もない。自分の終わりが近づいてくる足音の前に、彼女はただただ唖然とするしかできなかった。
鉄骨の山が赤く染まっていた。その近くには頭部の無い女の骸が1つ。男はその近くで手に持った手袋をマジマジと見ていた。手の甲に貴金属のような素材で作られた三角形の装飾が埋め込まれた、黒地の指なし
これがISのコアそのもの。ISをこうしてアクセサリーとして持ち運べるのは兵器としては便利だ。男が今持っているような重機関銃は何かしらの運搬技術が必要になる。アクセサリーなら運搬にも手間取らない。本当に惜しい兵器だ、女性にしか扱えないという点さえなければ。
「む」
プレート部分をなぞると、不意にその部分が発光した。
『使用者のバイタルを認識できませんでした』
『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』『ERROR』
『バイタルを確認しています......』
『ERROR』
『ISコアを装着して下さい』
「?」
ISが、起動した。システム面だけだが、確かに、今男が触れたことによってISは動いている。
何となく、グローブを手に嵌めた。刹那、手の甲からの光が強くなる。
『バイタルチェックを開始します』
『ISコアの初期化を行います』
『初期化開始......完了』
『フォーマットを行います』
『フォーマット設定を行って下さい』
『自動最適化によりフォーマットを開始します』
『フォーマット開始......完了』
『初期設定が完了しました』
『システムの再起動を行います』
流れていく情報が止んだかと思えば、発光が収まり静寂が空間を支配する。
取り敢えず、彼は特別なようだと言うことを悟った。女性にしか扱えない兵器を、彼は特別に扱える。世界で2番目の、男性操縦者になれる。
『システムの起動を確認』
『システムチェック......オールグリーン』
『マスターを承認します』
『搭乗者情報を登録しました』
【
粒子があっという間に溢れ出した。銀色の光が舞い上がり、男を包む込む。その数秒後、彼は装甲……ISをまとってそこに立っていた。
「……なるほど。これで殺せと、そういうことか」
地面に置いてあった重機関銃を拾い、ゆっくりと宙を滑って建物の外へ出た。分厚い灰色の雲が覆う空には、今も各地から戦闘音が聞こえる。
「戦闘区域の地図は出せるか」
【衛生情報を受信しています】
【地図を表示します】
「持っている武装のリストは?」
【ファイルを表示します】
視界に表示する数値の数々。ハイパーセンサーを通して見える景色。その何もかもが桁違いだ。精密で動作も重くなく、どんな既存のコンピュータ等よりも速かった。
「戦闘を開始する」
ブースターが大きく火を噴き、男とISが空へ舞い上がる。世界を揺るがす大きな