キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 そこは薄暗い施設だった。廊下の蛍光灯も所々が切れていて明滅を繰り返してばかり。点検を怠っている証拠だ。

 しかし、その施設を利用する彼ら研究者にとって蛍光灯等気に止めるものですらなかった。現に今、彼らは今世紀最大の謎に立ち向かっているのだから。

 

「何故遺伝子の複製ができん……!?」

 

 資料の束を前に、壮年の男が低く唸った。彼が成そうとしているのは、人間の複製。クローンの作成だ。それも、I()S()()()()()()()()()()()()()の作成である。

 遺伝子はいくらでもある。しかし、その遺伝子を作ろうとしても、完成した瞬間に自壊してしまう。保存法を変えたりと様々な試行をしてきたが、その全てが尽く駄目だった。既に男の手に残された方法は少ない。人生の全てを投げ打ってでも成功させる価値があるこの研究が、全て台無しになるかもしれないのだ。

 

「ッ、クソッ!!」

 

 机を蹴り上げて彼は立ち上がりズカズカと大股で部屋を飛び出し、別のある部屋へ向かった。

 そこは何重物セキュリティで封鎖され、分厚い鋼鉄の扉で閉鎖された空間。薄暗いライトが照らすその部屋には、1人の男が大量の拘束器具に巻かれて微動だにせずにいた。服は全て剥ぎ取られ全裸、体中の至る所に傷跡が残り、現に数々の針が刺さっていた。

 

「どうした、そんな苦い顔をして。俺のクローンの作成は順調か?」

 

 拘束されていると言うのに、その男は無表情で、しかし余裕を含んだ声で研究者の男に問いかけた。

 

「いや、その表情で上手くいくはずもないか。それもそうだ、俺の遺伝子は全て劣性。加えてそれを維持するにはまた特殊なアプローチが必要だ。たかがこの程度の施設で再現できるとは考えないことだ」

「では何故その情報を教えようとしない!?」

「知らないからだ。俺は殺すための道具に過ぎない。実際に俺の遺伝子の詳しい情報なんぞ知るか」

 

 現に男は何度も拷問にかけられ、脳波の測定までされてなお嘘は言っていなかった。どんな方法かすら判明せず、既に研究は手詰まりである。

 ありったけの予算も今や底を突きかけている。戦場でISをまとっていた男を武力でもって多大な犠牲のもとに捕縛したはいいものの、結局はそこまでだ。自分たちでは男を作り上げた技術を再現不可能という結論しか出ない。

 

「さて、もう結論は出たんじゃないのか? 俺はそろそろ出るぞ」

「何を言っている。まだ研究は続いて」

「くどい」

 

 ギシッ、と鎖が音を立てて引っ張られる。

 

「無駄だ。拘束具の破壊など」

「やってみなければわからない。研究と同じだ」

 

 バギッ、とどこかで音がした。拘束具、ではなく、拘束具を壁に固定する器具が壊れた音だった。音が断続的に次々と鳴り、床に固定具だった物が落ちていく。

 

「取れたぞ。存外ぬるい」

 

 気付けば男の上半身の拘束具は既に意味を成していない。下半身の拘束具が使えなくなるのも時間の問題だろう。どう対応すれば良いのか考えている間にもどんどんと男の身が自由になっていく。

 彼が自由になれば、次の研究者がこの男を狙うだろう。そうなれば研究成果は全て横取りされる。それだけは、それだけはダメだ。

 

「ほう。研究者も銃を構えるのか」

 

 彼はホルスターにあったハンドガンを両手で構えて狙いを絞った。ここで彼を殺しておけば、研究はこれ以上続かない。彼の研究人生も終わるが、他人に自分の時間を盗られるのだけは我慢ならなかった。

 

「っ、死ね、化物!!」

 

 マズルフラッシュが瞬き、銃弾が銃口から飛び出し、男の眉間に命中した。

 

「で、その玩具で俺を殺せるのか?」

「なッ……!?」

 

 しかし、拘束されていた男は気怠げな表情を崩さなかった。眉間に当たった銃弾は押し潰れ足元へ落下、乾いた音を立てて床を跳ねた。彼の眉間は微かに傷が残っただけで弾丸は食い込みすらしなかった。

 人工強化骨格。彼の骨は全て超合金に置き換えられ生半可な衝撃程度では歪みすらしない。手持ちの重火器程度ではビクともしないのだ。

 男が拘束具を全て外し、彼の前に立つ。銃が効かないなら何がこの目の前の男に効果を示すのか。必死に頭を回転させ、しかし結論は出ない。焦燥に駆り立てられ、ロクな判断すら下せなかった。

 

 ――――と、そんな時。施設中に警告音が鳴り渡る。赤いランプが点灯、侵入者を告げる放送がスピーカーからガンガンと鳴り響く。

 

「さて、次に俺を狙う奴かね。どうやら君の研究も終わりのようだ」

「……嘘だ、こんなことが……っ」

「終わったんだ。現実を見ろ。君の施設(いえ)は蹂躙されているではないか。()()()1()()()

 

 ガンッ、と分厚い鋼鉄の扉が吹き飛ぶ。普通なら数トンの扉がボールのように吹き飛ぶなど有り得ない話なのだが、扉の奥から現れた機械を見て研究者の男は絶句した。ISが、そこにいたから。そして、その脇に控える女性の存在を認知してしまったから。

 

「篠ノ之、束……!?」

 

 機械の兎の耳、青いドレス、グラビア顔負けのプロポーション。ニコニコと場に似つかわしくない笑みを浮かべた彼女こそ、ISを生み出した“天災”、篠ノ之束。

 

「やけに豪華なお迎えじゃないか」

「お、君が2人目……って言うか服着てくれない?」

「それもそうか」

 

 束が嫌そうな顔をしたのを見て、男は近くでへたり込む研究者を掴むと無理やり服を剥ぎ取った。抵抗も虚しく片手間で服を取られた彼は無様に地面を転がった後に部屋を飛び出して逃げたのであった。

 

「篠ノ之束か。直接顔を見るのは初めてだ」

「そりゃそうさ。メディアに顔出すのなんて億劫でやってらんない。ともかく、一緒に来てよ。君を雇いたい」

「雇うとは、護衛か何かか? 充分に事足りているように見えるが」

「機械じゃダメ。君じゃなきゃ意味がない。与えられたプログラムただ実行するだけの奴なんてつまらないのさ。その点君は素晴らしい。男でISを起動させ、しかもその戦闘力はピカイチ。殺すための道具が増えるなら好都合だ」

「なるほど、貴方は他人を殺せないから、自由意思を持つ俺に代わりに殺させる。それなら殺したのは貴方ではなく俺だ。気兼ねなく破壊できる」

「いいね、そういうこと。人間ってのはどこまでも身勝手で無責任さ。好き勝手やって好き勝手死ぬ。素晴らしいと思わない?」

「生憎俺に人間の感性は無いから知らん。俺がすることとは殺しのみ。殺し殺される戦場だけあればいい」

「その意気だ。じゃあこれからはこの篠ノ之束だけの命令を聞いてよ」

「いいだろう。では命令を寄越せ」

「オーケー。じゃあここら一帯全部壊して。道具はほら、ここにある」

 

 彼女が投げて寄越したのは、彼がイランで奪ったISだった。代わり映えのない手袋をひらひらと弄び彼女を見れば「着けて」と言われて仕方なく装着、淡い光が灯った。

 

「これで破壊しろ、と?」

「そう。力を示してよ。君とISが合わされば、まず敗れることはない」

「俺は捕まってしまってた訳だが?」

「わざとなのは見え見え。君に下された命令はあくまであの女の集団に属する者の抹殺のみ。君を捕縛しようとした人は含まれていない。それに拘束具なんてさっきみたいに簡単に抜け出せた筈だし」

 

 確かにその通りだと頷く。彼が手を掛ける範囲はあくまで指示されたもののみ。指示が無ければ例え何をされようと手を出すことはない。




こういうのあさってて今更見付けると何書きたかったのかわからなくなる
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