今日は大洗女子学園に『戦車道』の講師がやってくる。校庭格納庫前には『戦車道』を受講した顔ぶれが集まりその到着を待っていた。
不意に空から重々しいエンジン音が響いてくる。見上げれば遠くから大きな輸送機が低空で飛行して来て、学園の駐車場に差し掛かったところでハッチが開いて中からパラシュートを開いた戦車を降下。重々しい音と共に着地して地面を滑り、ついでと言わんばかりに車を一台撥ねて停止した。
「学園長の車……、」
小山柚子が心配そうに呟くが他生徒会2人の杏と桃はどこ吹く風。
「こんにちはー!!」
白昼堂々車をはねた戦車から1人、軍服に身を包んだ女性が出てきた。彼女が今日から『戦車道』講師を務めることとなる蝶野亜美である。
「さて、『戦車道』は初めてって人が多いと聞いているわ。でも誰もが皆通って来た道、最初は誰だって何でもかんでもできる訳じゃない。これから一緒に練習して行きましょう」
ニッコリとスマイル。そしてふと気付く。
「あら、西住師範のお嬢様ではありませんか?」
そう言われ、ビクッと西住みほの肩が震えた。触れてほしくなかった、そう思う。
「師範にはいつもお世話になっています。お姉さんも元気でしょうか?」
「あ、……はい、多分……、」
「――――は、ハイッ、教官!! 教官はやっぱりモテたりするんですかッ!?」
と、話題を逸らすように武部沙織が大きく一歩前に出た。庇う様な形で出てくれた彼女に、みほは小さく苦笑する。良い友を持った、と。
「では早速訓練に入りましょう。いきなりだけど、班対抗戦をやってもらうわ」
「えぇっ!?」「いきなりかぁ~」「やり方全然知らないよ?」
「大丈夫。何事も成せば成る、習うより慣れろ、実戦は何よりも良い経験になるわ。それに、皆がそれだけの潜在能力があるかも見たいしね。では、各チームに分かれて!! 待機場所は乗り込んでから指示するわ」
そう締め括りわらわらと移動を開始。
横にいた生徒会チームも移動しようとしたところで、ちょいちょいと肩を叩かれる。
「会長さん。『機兵道』の子はまだ来ていないの?」
「まだ、来てないでしょうねぇ。でもその内来ると思いますよ」
「そう……まぁいっか」
格納庫の中。一番奥のそこには、大きな人型の金属の塊が置かれていた。
ソレはAC、アーマード・コアと呼ばれる高機動兵器である。
腕と肩に武装を携え佇むその姿から感じ取れる威圧感は凄まじいの一言に尽きるだろう。
「あはは、ジャンクの塊ですか。中々に刺激的、しかし面白いです。そうですねぇ、あとはリコンさえ良ければ……、」
影に近付く小さな少女の影。彼女の名は……。
「――――戦車行動不能!! よって、勝者Ⅳ号Aチーム!!」
校内チーム対抗戦はⅣ号が圧倒的勝利を収めた。的確な砲撃は3戦車を一発で仕留め、残り1両を自滅に追いやったのである。
「Aチームはやっぱり持ってるわねぇ。途中から格段に動きが良くなったし」
「それ以外は及第点にも届いていないようですけどね」
真横からの声に亜美が驚いて振り向く。気付けば隣には柵に肘を付きじっと戦場を眺める女子生徒が1人いた。その首には黒いチョーカーが1つ。
「遅れて申し訳ございません。井納輪と申します。この学校にはありませんが、特別科目として『機兵道』を受けに参りました」
「貴方が……って言うか、もしかして……、」
「? どうかれましたか? ボクの顔に何か付いていますか?」
「……首輪付きの、後継者……、」
「…………誰かと勘違いしておりませんか? ボクは生徒会に頼まれて来ただけですが」
「そ、そうなの……? ……人違い、か。ごめんなさいね」
「いえ。ボクは全然気にしておりませんので」
そう言って微笑む彼女の表情に、亜美は少し違和感を抱くのだった。本当に、人違いなのだろうか、と。
校庭の格納庫前に再び全員が並び、現在は教官である亜美が今日の訓練について話している。
その様子を一番奥の格納庫の扉から見守る人物が1人、特別科目『機兵道』受講者の井納輪である。
「一同、礼ッ」
「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」
夕暮れの空に元気よく響く声にくすりと笑みを零して格納庫の中へ。奥に控えるACの前に立ちじっとその機体を見上げた。
「中量二脚、積載量は……完全にオーバーですね」
HEAD ---- D/KT-2G3
CORE ---- D/KT-1O3
ARMS ---- D/KT-1S
LEGS ---- D/ULG-10
R ARM UNIT ----
L ARM UNIT ----
R HANGER UNIT ----
L HANGER UNIT ----
SHOULDER UNIT ---- D/CIWS-8
GENERATOR ---- D/UGN-70
FCS ---- D/KV-1T2
RECON ---- D/STK-16
BOOSTER ---- D/UBT-25
「これで試合出て行ったら普通はいろんな方面から怒られますよ……、」
それもその筈。ジャンクパーツを掻き集めただけの劣化ACだ。これで『機兵道』等出て行ったら笑われ物である。舐めプしてますと宣言しているようなものでもある故、相手方にも失礼に当たる。
「やぁ、来てくれたんだね」
背中越しの声に振り返れば、そこには生徒会の面々が。
「助かったよ~、これでACに支援要請出来る。試合運びも幾分か楽になるしね」
「あたたっ……けほっ、少しは丁寧に扱ってくれても良いのでは?」
バンバンと背中を叩かれジト目で睨む輪に「いやぁ悪いね、以後気を付ける」と全く悪びれた様子を欠片も見せずに杏は右手を上げるだけ。全くわかっていない。
「直接会うのは初めてですね。ボクは井納輪です。今後ともよろしくお願いします」
「生徒会長の角谷杏だよ」
「副会長の小山柚子です」
「河嶋桃だ」
杏が差し出す手に輪もそっと握り返す。
「しかし、よくもまぁこれでボクに『機兵道』をやれと仰いましたね。お言葉ですがこの機体、各方面に喧嘩を売りに行ってるようなモノです」
「残念なことにウチにはこれくらいしか無くてねぇ。新品は買えなかったよ」
「でしょうね。お話は伺っております。が、少しワガママを言いますと安い買い物をしたい気分ですね」
「パーツの購入、ってことかね?」
「然り。別に高い武装が欲しいとかそういうのでないんですよ。リコンさえ変えていただければ」
「リコン……?」
「索敵に関する重要な装備です。こればっかりは然るべき物を用意してもらわねば、貴方がたのご期待に添え切ることは不可能と言えましょう」
「言葉が上手いねぇ……まぁ1つくらいなら予算は出せなくはないと思うよ。ただし、後で修理費や弾薬費が足りないって言われても対処は難しくなる」
「結構ですよ、全く問題はありません」
「ふぅん……河嶋。彼女の注文を聞いてやれ」
「……わかりました」
渋々、と言った表情で桃は折れる。予算も少ない中で新パーツの購入はあまりしたくないが会長の言葉には逆らえない。
「まーそう不機嫌にならないでって。彼女には無理言って頼んでるんだ。たまには条件飲まないとね」
つまりは必要経費という訳だ。これで納得した結果が得られるのならば何も問題はない。
「井納ちゃん。この機体、このままで出てもらえる?」
「それは、リコンを変えた後のアセンブルを変更するな、ということになりますけど」
「そーなの」
「言っておきますが、この機体は積載量限界超過状態。中量二脚でありながら重量二脚で積むようなアセンブルです。このまま行けば動く的になりかねませんよ?」
「アタシはねぇ、井納ちゃん。君のことを信じてるからこの機体を託すんだ。君なら絶対にやってくれる、我々に勝利をもたらしてくれるってね」
2人の視線がぶつかる。杏は不敵に、輪は無表情に、互いの心の奥を探るように見つめ合う。
「……貴方は本当に強欲な人だ。ここまでする人は生まれて2回目です」
「へぇ。それはまたアタシも稀有な人間なんだねぇ」
「そうですね。途中で倒れませんよう、健康を祈ります。では、ボクは用事があるので」
くるりと踵を返し輪が格納庫を出て行こうとする。その背に「どこへ?」と訊ねれば、
「少し、願掛けでも」
小さく呟き、扉の向こうへ消えた。