キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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「敵戦車を確認。マチルダⅡ4両、チャーチル1両前進中。方向は……、」

「東ですね。ACも後方からついてきてます」

 

 丘の上から西住みほと秋山優花里が双眼鏡で平原を見下ろす。砂利の多い平原では聖グロリアーナ女学院の戦車隊が綺麗な隊列を組んで前進、その後ろを2機の軽逆AC『チェイサー』と『フェンサー』が左右を警戒しつつ追従していた。

 

「綺麗な隊列を組んでますねぇ。ACであの速度に合わせるのも上手です」

 

 優花里の率直な感想はそれだ。洗練された団体行動というのはチームの連携力を強く意味する。手強い相手であることは変わりないが、やはり力の差は出てしまう。

 

「しかしどうしますか? こちらの火力ではどう頑張っても正面装甲は抜けませんし」

「うん……そこは戦術と腕でどうにか、かな」

「……はいっ」

 

 力の差は今更言っても覆せない。後は現場での動きが重要になってくる。

 みほの苦笑しながらの言葉に優花里は笑顔で力強く頷く。彼女の戦術が頼りだ。自分はその指示に精一杯信頼し全力で答えるだけである。

 

「全車両、展開を開始。エンジン音が響き過ぎないよう充分注意して下さい」

 

 戦車に戻り冷泉麻子を起こし再びエンジンを始動。大洗チームは一度丘から引き返し作戦地点へ移動を開始する。

 

「では予定通り“コソコソ作戦”を開始します。Ⅳ号が囮となって敵を引き付けますので、皆さんは作戦領域で展開後、指示があるまで待機をお願いします。また“コソコソ作戦”が失敗した場合は即座に撤退、指定のルートを通り“もっとコソコソ作戦”に移行します。井能さんは状況の監視を、場合によっては“びっくり作戦”への移行を許可します」

『『『『『了解ッ!!』』』』』

『Copy.引き続き指定場所にて待機を続けます』

 

 この作戦、どこまで通用するか。策はあるが、不安要素は取り除き切れていない現状が否応なしにプレッシャーとなってくる。

 

「みぽりんっ。初試合、頑張ろうねっ」

「武部さん……、」

「努力は報われる。練習の成果を精一杯出しましょう。できます」

「五十鈴さんも、」

「西住殿ならやれますっ。我々は全力で期待に答えるまでですから」

「秋山さんまで……」

「……ん」

「冷泉さんも……」

 

 武部沙織が、五十鈴華が、優花里が、麻子が、それぞれの形で励ましてくれる。麻子だけはハッチから腕を出してサムズアップするだけだったが……。

 それでも、自分のことを思ってくれる仲間がいる。そのことに満たされている自分がいて、少し嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵、前方より接近中。砲撃準備っ」

「……はいっ、装填完了ッ」

 

 場所を変え聖グロリアーナ女学院の進行方向先に出るように、また丘の上にAチームのⅣ号が待機。装填を終えじっと奇襲の時を待つ。

 

「えっと、チャーチルの幅は……、」

「3.25m」

「4シュトリヒだから……距離810m」

 

 華がスコープを覗きこみ仰角を合わせ狙いを付ける。初期に比べて身近でない単位の扱いにも慣れ始め計算も大分早くなってきた。

 

「撃てッ!!」

 

 射程内に先頭のチャーチルを捉えてトリガー。Ⅳ号の主砲から徹甲弾が音速を追い抜いて飛び出し、轟音と共に着弾。チャーチル眼前の地面を捲り上げるだけに終わり、ダメージは入らなかった。

 

「すいません、当てられませんでした……、」

「大丈夫、目的は撃破じゃないから」

 

 申し訳なさそうに眉根を寄せる華にみほは笑って返す。今回の目的は囮。注意が引ければそれで充分合格点だ。

 

 

 

 一方で聖グロリアーナ女学院サイド。

 

「仕掛けて来ましたわね」

「お相手しましょう。我々は逃げも隠れも致しません」

 

『キャンディ、奇襲に注意しろ。スキャンモードで敵を炙り出せ』

『了解ですわ』

 

 砲撃に気付き、ダージリンの合図で隊列を乱さぬよう全戦車が綺麗に回頭、正面にⅣ号を捉えて進軍を開始する。

 後ろに追従する2機もより一層警戒を強める。囮がいるということは罠に誘い込まれるということ。敢えて真正面から破ることで相手の戦意を削るのが目的だ。戦車だけならば問題はないが、相手側にACが入れば話は別だ。戦車よりも自由で速い機動で奇襲されては敵わない。そこをカバーするのもACなのだ。

 

「なるべくジグザグに前進ッ。大丈夫、行進間射撃は滅多に当たらないからッ!!」

 

 Ⅳ号は左右を岩壁に挟まれた道へ侵入、道幅いっぱいいっぱいを使って車両を左右に振り決して的を絞らせない。操縦手の麻子は無表情に、しかし時折強く口を引き結びギアを何度も入れ替えながら緩急を付けて、しかしスピードは落とさない巧みな操作技術を見せ付ける。

 後ろから撃つチャーチルとマチルダⅡだがその弾丸は至近弾になりつつもⅣ号の車両を捕らえることはなかった。

 

「中々粘りますわね……速度を上げて下さい」

 

 チャーチルの増速に合わせてマチルダⅡも隊列を維持しながら更にⅣ号との距離を詰める。

 

『ッ、ここからなら……!!』

 

 ここで隊列の後方にいたキャンディの駆る『フェンサー』が飛び出して岩壁を何度も蹴り戦車隊の頭上を飛び越えてスナイパーライフルを両手で構えた。距離も充分、FCSも良好、スキャンモードから戦闘モードに切り替えⅣ号を狙って引き金を引こうとする。

 直前、真横から弾幕の嵐が『フェンサー』を遅い突然の衝撃と警告音にキャンディが肩を震わせ機体が岩壁に衝突した。

 

『……キャンディ、すぐに離脱を――――、』

『キャアァァァァッ!?』

 

 キーマンが声を飛ばすがそれよりも速く反対側の岩壁の上から輪の駆るジャンクACがガトリングガンをばら蒔いたまま飛び出しブーストチャージで『フェンサー』を蹴る。ガゴォンッと重々しい音が鳴って『フェンサー』が軽々と吹き飛び聖グロリアーナ女学院の戦車隊のギリギリ真上を通過、地面に背中から墜落した。

 

「井能さんッ!!」

『“びっくり作戦”を決行しました。西住隊長、しばしのお待ちを』

 

 みほの鋭い声に輪は頷いて敵へ突っ込む。戦車隊が発砲してくるがそれを無視、ダメージを受けながらも真上を飛び越えて『チェイサー』と復帰しようとしている『フェンサー』へ迫る。

 

『……キャンディ、体勢を立て直す暇があったら離脱を先に済ませろ』

『しかしっ……!!』

『……2度は言わんぞ』

『ひっ……ひゃ、はぃ……、』

 

 底冷えするようなキーマンの低い声にキャンディは声を震わせた。滅多にないことだが、キーマンの声が低くなる時は決まって状況が不利な時だ。更にその状況を作り出してしまったのはキャンディ自身。反論する気力も消え失せキャンディは唇を噛み締めた。

 

 ガガガガガガッと鉛弾を吐き出すガトリングガンが執拗に『フェンサー』を狙い、それを遮るように『チェイサー』がシールドを構えて前に出る。鉛弾が盾によって多く弾かれてはいるが、機体自体にも弾は食い込んでいる。直ちに影響が出るほどではないものの、盾が消えればどうにもなるまい。現に盾の耐久力は半分を切ろうとしている。

 

『先輩っ!!』

 

 と、ここで『フェンサー』が復帰。壁を蹴って飛び上がりジャンクACの背後を取ろうと動くが、近付こうとすれば逆にいきなり距離を詰められガトリングでAPをゴリゴリと削られる上に隙あらばブーストチャージで落とそうとしてくる。過積載の状態で蹴られてはAPが持たないだろう。既に『フェンサー』のAPは危険域に到達しているのだ。

 仕方なくKE耐性の高いシールドに切り替え『チェイサー』の後ろに下がる。たかがジャンクの塊と侮っていたがキャンディの中で輪への評価は既に別のものになっていた。奇襲で飛び出すタイミングも、自分の陣取りも簡単に崩させないスタンスと言いそのスキルは予想を遥かに上回って高い。

 

『……キャンディ、粘れ。挟撃に持ち込む』

 

 『チェイサー』両腕をシールドに切り替え、突貫。軽逆の強みである高速機動を駆使し、決して広いとは言えない道幅で縦横無尽に跳ね回る。味方の『フェンサー』、キャンディさえもその機動には舌を巻きたくなる程に素早く捕らえきれないでいた。

 輪は無言でガトリングの銃口を向けようとするが旋回性能がそ機動に追い付けずついに抜かれて背後を取られた。

 

 しかしだからと言って輪が焦ることはなかった。

 刹那に残弾がまだあるガトリングを両腕ともパージし、ハンガーにマウントしていたバトルライフルが回転機構により手に収まる。

 そこからの動きが速かった。ジャンクACがガトリングをパージしたのを見て再びスナイパーライフルに切り替えようとしていた背後の『チェイサー』を完全に無視し、恐ろしい程のサイドブーストの量で瞬きする間に『フェンサー』へ肉薄してブーストチャージを放っていた。

 壁を蹴った直後で宙に漂っていた『フェンサー』は成す術無く蹴られ地面に接触、マウントポジションにジャンクACが乗り上げ、両腕のバトルライフルを容赦なく至近距離から連射されて沈黙する。

 撃墜判定が出る――それを確認するよりも速くジャンクACは飛び上がって反転、『チェイサー』がいる方向に向き直るが……、

 

 予想に反してそこにACの影はない。

 導き出される状況の答えは1つ、『チェイサー』は『フェンサー』が肉薄された時点で援護を放棄して戦車隊へ合流しに行ったということだ。人道的でないと言われそうだが極めて合理的だと言えよう。キーマンの判断は正しい。

 

『西住隊長ッ!!』

 

 通信機に向かって輪が叫び、ジャンクACがグライドブーストで追い掛ける。状況が暗転しないことを願って。

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