プロローグ
『システム中枢部、ダウン』
「C-4設置後退避を開始して下さい。爆破のタイミングはそちらに任せます。オーバー」
『ウィルコ。アウト』
無線通信が切れるのを確認するよりも早く平沢
「……無力化、確認。数、ひい、ふう、みい……、よし」
追手が全員伸びているのを角越しに確認してから駆け出す。手持ちの武器は残りがM4カービンと弾薬がマガジン1つ分。グレネードは先程のが最後の1つで既にゼロ。ハンドガンはスプリングフィールドXDと弾薬未消費分がある。
(……あと、6分)
短いようで体感する時間は実際長い。それまで集中力を持続できるか。いや、持続しなければならない。
場所を移動し曲がりくねった廊下をひたすらに、と言っても目指す方向をきちんと把握して進む。
しばらく行ったところで階段が見えた。周囲を警戒した後階段上へM4カービンを向ける。
敵影、なし。素早く駆け上がりつつ、警戒は怠らないように周辺を何度も確認しつつ聴覚も張り巡らせる。廊下の壁という障害物がある以上、頼りになるのは耳だ。
『こちらウーサー1。ハウンド1、応答せよ』
「こちらハウンド1。オーバー」
『撤収完了だ。お前さんの帰還を待ってる。
「……全く、いつも通り過ぎる、あの人は」
汐は微かに笑みを浮かべ、再び表情を引き締める。激励は有難いが、油断は出来ない。
残りフロア、4。汐は疲労の溜る足を動かして全力で階段を駆け上がった。
「なにそれ」
電話越しの声に、更識楯無不機嫌さを隠しもせずに言った。
「私言ったよね。失敗は許されないって」
『――――――――――――――――』
「五月蝿い。今更四の五の言ったって過去に起きた結果は変えられない。いつも貴方達が言ってたことじゃない。良かったわね、体験できたらその重要さが身に染みてわかったことだし」
『――――――――――――――――』
「はぁ? チャンスぅ? バカなの? そんなのがあったら今頃貴方達如きに仕事なんてさせてないに決まってるじゃない」
『――――――――――――――――』
「あっそ。で、遺言はそれだけ? 言っとくけど貴方達の素性なんて微塵も興味ないしそもそも知らないから伝える気なんてないのよ。残念ねー。あはははははははは」
『――――――――――――――――』
「罵詈雑言お疲れ様。いくら言ったって私は――――今なんつった? あ? 処女? 殺すぞ」
ブヅッ、と。耳にしていた電話が切れる。正確には、スピーカー越しに聞こえた爆音のような音にかき消されただけだが。
「チッ。使えない奴らね。そう思わない? 本音ちゃん」
「全く、その通りかと」
言葉を投げかけるのは真後ろに控える少女。更識家に仕える布仏家の1人、布仏本音。
「まぁ虚ちゃんの手際が完璧で処分は済んだことだし。取り敢えず私達は早く日常に戻りましょ。虚ちゃんが帰ってきたらお茶会でもしてのんびりと、ね」
「良いですね。私もお菓子は大好きですから」
にっこりとお互いに見せる笑みに含まれるソレは、狂気。常人が持つことのない、闇に染まった笑みだ。
「では、本日の任務を終了。本音ちゃんはまだそのままでいてね? 虚ちゃんが帰ってきたら戻っていいから」
「了解しました、楯無様」
「……まただ。まただよ。いくらそんなことしたって無駄なのにさァ。何してくれちゃってんの。あーあー、めんどくさい。何で機械ってこんなに頭悪いかなぁ……いちいち仕事増やさせないでよ……」
「情報は上がりましたか? ……はい、確かに。ご苦労様でした。ええ、報酬はこちらでご用意致しますとも。ああ、そうだ。今度バカンスでもどうでございましょう? 暑くなってきたことでもありますし、プライベートビーチもありますが……ええ、勿論。ご協力致しますとも。彼女は可愛い娘ですから。では、その用に。こちらから上の方には話を通しておきましょう。それでは、また後日に」
「首尾は? …………うんまぁ及第点ってとこか。でも、これ以上の遅れはフリゲートが許さないからね? ホント、頼むよ。ボクあの人ニガテなんだもん……あぁ、うん、あの時は正直チビった。寧ろチビらなかった人の方が珍しいでしょ。あ、キリアは別だよ? あの人はフリゲートに一番近いから……いいよねぇ、気が楽な人は。いっそのこと狂っちゃえば楽なのに……。ああ、ゴメン、独り言。取り敢えず、あと2週間以内に結果を出してね? それ以上は……ご想像にお任せするよ。無理だったら教えて、皆で遺言書でも書こう、うん。あー、言ってるだけでなんか悲しくなってきた……」
「……世界は、残酷だ……いつになれば、混沌は止むのか……検討もつかんのう……」