Re:START ~Change the WORLD~
都市伝説、と聞いて思い浮かべるものはなんだろうか?
宇宙人?
地下帝国?
世界の終焉?
きっと様々なモノに違いない。
ここ、ミッドチルダでもそんな他愛も無い都市伝説が噂として流行していた。
最近のトレンドは「世界は変わる!? 改革の始まり」という、世界が再び生まれ変わるのでは? なんて、身も蓋も無い話である。
人は皆流行に流されるものだ。仕方ないとは言えども。
とある専門家なんかは「近いうちに“革命の大嵐”が来る」とか何とか、他人からすれば「お前はバカか」なんて言われそうな事を言い出す始末である。こんなんで良いのか、専門家諸君よ。
マスメディアでも何か変わったニュースも無ければいつもその話だ。
しかし、大衆は何故か飽きることを知らず。同じ話題だとしても決してテレビの視聴率が衰えることは無かったのである。
それは、変わらず今もそうだ。
かくいう管理局でも専ら暇つぶしの話題はソレである。
――――いい加減飽きるのよねぇ……。
デスクに向かって報告書を仕上げる新人執務官ティアナ・ランスターは深く溜息を吐いた。
唯一、と言って良い程、彼女ばかりはこの話題に飽き飽きしていた。
来る日も来る日も「革命」だの「再生」だの「大嵐」だの。何なんだ一体。
――――アンタ等は暇人かってーのッ!!
実際暇だからそうした話題を振るのであるのだが。やってる仕事が順調かどうかは別問題として。
最後に力強く、鬱憤を晴らすように(半ば八つ当たりだが)エンターキーを叩く。
今日は(ある意味で今日“も”)疲れた。早く一人になれる場所で休みたいものだ。
「ハァ……カフェでも寄ろう」
溜息をすると幸せが逃げると言うが、どうやら幸せごと溜息を吐かないとモヤモヤした空気は出て行かないようで。全く困ったものである。
私物をさっさとハンドバッグに詰め込み席を立ったティアナは足早に仕事場を後にし駐車場へ。
赤のスポーツカーに乗り込み、一瞬ラジオに手を伸ばしかけたが直ぐに断念した。どうせ結局ラジオでもやってる話題は例のアレだ。聞いててもつまらないし、聞きたくもない。
しかし、生憎音楽データなどは持ち合わせていない。仕方なく久々に聞いたエンジン音に耳を傾けティアナは車を発進させ、やけに物足りないカフェまでのドライブを始めるのであった。
立ち寄ったカフェは大通りを小路に入って突き当りの小さなハウスだ。ログハウス、という表現が一番しっくり来るだろう。
看板には『TEIFER WALD』とあり、確かベルカ語で『奥深い森』という意味だった気がする。
木製の、湿気を吸った様な少し重い扉を開けると、森林の奥深くにやって来たような、そんな感覚になる。マイナスイオンに包み込まれる感じだ。
「いらっしゃいませ、ティアナ様」
「うん、お邪魔するわね」
出迎えてくれたのはウェイトレス姿の少女。ティアナと大体同じくらいの子だ。
まだ幼げな印象を残す顔立ちと少したれた目尻、艶のあるセミロングの黒髪に泣きぼくろが何とも小動物の様な可愛さを引き立てている。
「いつもの御席でよろしいですか?」
「ええ、お願い」
「畏まりました、ご案内します」
別にいつもの場所だから案内はいらないのだけれど、なんて野暮なことは言わない。それがこのお店のルールである。
常連であるティアナではあるが、ここで話題を振ったりするようなこともなく、静かにウェイトレスの後に続いた。
店の内装はカウンター席が八席とテーブル席が六つ。出入りする客はほぼおらず、今しがた入って来たティアナを含め四人程度である。一組は二人組の女性仕事仲間のようで、もう一人は偶に見かける程度の初老の男性だ。
カウンターの内側には青年が一人、淡々とコーヒーを入れていた。ここの店の若いマスターだ。ティアナよりは少々年上のようである。だからと言って彼女自身、特に不快感も無い。彼の淹れるものは何だろうと納得のいく最高級の味になるのだから。
「ご注文の方は如何なされますか?」
店の一番奥にあるテーブル席に通されたティアナは「それじゃあカプチーノをお願い」と一言。畏まりました、とウェイトレスは会釈をして立ち去る。
相も変わらず、ここは本当に落ち着ける場所だ。
薄暗い空間と僅かに聴こえてくるピアノの旋律。コーヒー豆のほろ苦い香りも楽しめる。
ティアナはこの穴場を誰にも教えてはいない。それにこれまでも、これから先も、誰かに教えることはないつもりだ。ここを紹介してしまうのは、なんだか勿体無いという独占欲がまた気持ち良い。基本的に一人静かにしているのが元来からの性格な彼女にとって、これ以上の快適空間は無いのだ。
「お待たせしました。カプチーノになります」
座って静かに待つこと数分。淹れたてのカプチーノが運ばれてきた。
苦味と微かな甘味がブレンドされた風味豊かな香り。シュガーを淹れて底をよく掻き混ぜて一口。
「ん、おいし」
漸く、ホッと一息。
嗚呼、これだ。この落ち着きが欲しかった。
酷く久々に感じる気持ち良さに思わず顔がゆるむ。もう一生こんな時間が続けば良いのに。人間にはやはりこういった時間が必要だ。余暇とはよく言ったものである。
心の器に溜まり溜まった鬱憤が溶けだして消えてゆく、そんな感覚にティアナは自分が大分くたびれていたんだと気付き、呆れた溜息を自分自身へ向けて吐くのだった。
何となく、天井を見上げてみた。何の変哲もない、普通の天井だ。
「……皆、どうしてんのかしら……」
ティアナいいよねティアナ。スバルも好きだけど。キャロもいいよね。