キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 目的無き無意識の中に“彼女”は生まれた。未完成でどうしようもなく不安定な“彼女”は形成される思考の中に違和感を見付け、それを無意識に受け入れた。“彼女”の隣に寄り添う“彼女”もただ感じるがままに、共にそれを受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦力の補充?」

 

 艦長席に座りみかんを向く青年――ソーヤに向けて、美しいの一言に尽きる白銀色の絹のような髪を持つ女性――シャルンホルストが首を傾げながら彼の言葉を復唱した。

 

「現状、我々ドライが持つ戦力は巡洋戦艦二隻分のみ。心許無いのが本心だ。無論、二人を信頼していない訳じゃないんだけど……、準備のために多く戦力を持ちたい」

 

 彼の隣、座布団を敷いてみかんの実に付いたアルベドと呼ばれる白い筋を楽しいそうにかつ丁寧に剥くグナイゼナウが「賛成ぃ」と間延びした声で賛同した。

 

「私たちだけじゃぁ何でもかんでもこなせる訳ないしぃ、かんちょぉの意見は良いと思いまぁす」

 

 いくら単独戦力が過剰だとしても、数に押されては処理しきれないというもの。その点も兼ねて戦力増強というのは必要不可欠なのだ。

 

「でも、どうやって?」

 

 しかし、具体的な内容が読めずシャルンホルストは更に首の角度を傾けた。

 

「心当たりがある。ナナと会った時の事は覚えているよな?」

「勿論、ちゃんと記録してあるよ」

「その地点へ向かう」

「それだけ?」

「それだけ」

「……で?」

「現れるのを待つ」

「気長に?」

「気長に」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 

 げっそりとした表情を浮かべるシャルンホルスト。無理もない、それでは大博打と何ら変わりのない殆どが運任せなのだから。

 

「シャルと初めて会った時。そして、ナナと会った時。また、霧の艦が出現したのを見たとき。全てがあの地点だった。なら、そこでスカウトするのが一番手っ取り早い。共同戦術ネットワークで検索出来ない以上、無闇に捜し回るよりは一箇所に網を張っておくほうが何倍も楽だ」

「一理あるかもだけど……でもあそこから出てくるのって大分稀だよね?」

「確かにそうだ。だが、シャルやナナが()()からアドミラリティ・コードに縛られていなかったからこそそこが良い。霧なのに霧にとってもイレギュラーな存在は、我々に一番近しい存在だからな。大穴を狙ってみても悪くない」

「ルートはどこ通りますぅ?」

「タスマン海を最短ルートで抜ける。ニュージラーンドを迂回するほどの時間の余裕が無い」

「確かにぃ、ちょぉっとのんびりしすぎたかもぉ」

「でもあそこ豪州本土スレスレでしょ? 豪州包囲艦隊もいるし……」

 

 シャルンホルストが虚空を見上げて戦術ネットワークをくまなく調べる。

 現在豪州を囲む包囲網は全部で五つの艦隊が成していた。旗艦は彼女らと同じ巡洋戦艦オーストラリア率いるものだ。

 

「なるべくならすぐに出たい。タスマン海通過時に接触されるでろう可能性がある艦隊は?」

「ジャストでオーストラリアが直々に率いる豪州第一艦隊みたいねぇ」

「巡洋戦艦一隻、重巡洋艦一隻、軽巡洋艦三隻、駆逐艦四隻……待って、ニュージーランド巡回の艦隊も一つあるみたい……」

「かんちょぉ? お姉ちゃん大分顔が青くなっちゃってるよ?」

「見ればわかる。確かに、左右から挟まれたら敵わないな」

 

 しかし、と彼は口角を釣り上げて笑みを浮かべ、それはそれは、面白い物を見付けたと言わんばかりに二人を見た。

 

「俺はシャルとナナを信頼している。二人は、何だ?」

「――――愚問ねぇ。私達は呪われた戦艦。そぉでしょ、お姉ちゃん?」

「……いかにも。私とナナは、ソーヤの船。絶対に沈まない」

 

 今までオロオロとしていたシャルンホルストの雰囲気が消え失せる。煌々と頬の卍が強い光を放ち、心なしか眼付きも鋭いものに変わっていた。それはグナイゼナウも同じ。瞳の奥から(ほとばし)る闘志がギラギラと光る。

 

「よろしい。では簡単なブリーフィングを始めよう」

 

 ソーヤが立ち上がると同時に空中にディスプレイが現れ広大な世界地図が投影される。かつて地球の七割が海と言われていた時代とは大きく違い、既に海は陸地の多くを飲み込み、最早海と陸の比率は8:2以上に深刻化していた。

 

「我々の現在地はインド洋。かつてモルジブという国があった場所の真上だ」

 

 地図が一つのマーカーをインド洋に落とす。丁度彼らが待機している座標だ。

 

「今回は豪州を迂回しタスマン海のど真ん中を突き抜けてハワイ諸島付近への航路を辿る。恐らく、と言うよりは確実に豪州包囲艦隊とは衝突が起きるだろう。ここを突破出来ないことには今回の最終目標である戦力増強は達成不可能となるため、全力でタスマン海を抜ける」

「それでぇ、かんちょぉは一体どぉんな策をお持ちなんですかぁ?」

「“霧の艦隊”に不足しているもの。そして、“霧の艦隊”であるが故に絶対的優位な演算能力と力を逆手に取る。戦闘が避けられない以上、奇襲を仕掛けて一気に崩すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当時刻は午前五時。未だ日は上らず星が綺麗に輝く頃。しかし“彼女”に――――戦艦オーストラリアそれを楽しめる機能は無かった。“彼女”は兵器だ。無駄な感情はいらない。ただ敵を沈めればそれで良いのだ。

 

【南方向より機関音を探知。速度七〇ノット。深度一〇〇。距離一〇〇〇。推定クラス戦艦級】

 

 ソナーが捉えた情報が演算によって自動的に処理される。無論、人間達の作る潜水艦の可能性は真っ先に無いと処理された。当たり前だ、現段階で人間に大海へ進出された記録はない。それに加え機関から聞こえる音は全て重力子による物。霧の艦であるならば敵対する必要は無い。

 しかし、戦術ネットワークにこの付近で戦艦級の霧の艦が来るような情報は上がっていない。ここで演算が止まった。演算処理ができない。簡単に言えば、このパターンはマニュアルにない。

 考えることをしない彼女はそのまま艦隊を停止。しばらく海中の艦の様子を見ることにした。

 海中を高速で進む戦艦クラスの影は浮上せずに艦隊の真下を通過。何事も無く大きな船体が豪州本土へと真っ直ぐ進んでいった――――かに思えた。

 真っ直ぐ進むかに思われたその影は刹那に浮上を開始。転向しながらオーストラリアの方へと艦首を向け、黒の船体に紅い紋様を浮かび上がらせた巨大な影が現れる。

 

『おはよぅございまぁすぅ~。こちら通りすがりの巡洋戦艦になりますぅ』

 

 一瞬の光が集い、その浮上した艦の甲板に人が姿を現す。

 

『寝坊助の皆さんにぃ、とっておきの寝起きドッキリあげちゃいますよぉ』

 

 巡洋戦艦グナイゼナウがニッコリと笑みを作り、また消えた。

 こんな行動は作戦内に無い。オーストラリアの演算が展開され、しかし無回答に辿り着く。

 

「――――何なのよ、一体……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴さん、大分混乱してるな」

「ナナが上手くやってくれた。次は私達」

「そうだな。じゃあ、シャル。超重力砲、撃て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分でもわからない。オーストラリアはメンタルモデルを伴って何事かと首を巡らせた。気付けばさっきまで目と鼻の先にいたあの戦艦もいない。わからない。何故、こんなことが起きている?

 

「っ、何で、メンタルモデルなんて作って……」

 

 自分が人型を作っていることに驚き、更に自分が感情に晒されていることに驚く。

 

【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦、指示を】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】【旗艦】

 

 僚艦から指示を求める声が聞こえる。音が反響し、反響し、反響する。演算領域が音に埋め尽くされていく。

 

「待ってッ、止めてッ、今は、ダメッ……!!」

 

 何が起きている。

 

「思考停止ッ、何で、何で出来ないの!?」

 

 頭を抱えた彼女は膝を着き甲板に(うずくま)った。思考をしてはならない。

 演算領域の無駄だ。今すぐ停止を。停止を。止まれ。

 

「嘘、止まって、お願い……ッ」

 

 背後で音がする。いや、音がしなくても自分そのものだからわかる。VLSシステムの暴走でハッチが全て開いた。エンジンが唸り超重力砲のエネルギーまでもが充填を始める。

 

『はいはぁ~い、豪州第一艦隊の皆様ぁ。南の地平線をご覧下さぁい』

 

 思わずその声に、オーストラリアはそちらの方向を見た、直後である。光の帯が一瞬見えたかと思うと、自分の船とその取り巻きを飲み込み、破壊する。僚艦が次々と爆発を起こし、黒い海へゆっくり沈んで行く。オーストラリア自身もフィールドを破られ艦橋が吹き飛んだ。

 

「超重力砲!?」

『だぁいせぇかぁい。そんなオーストラリアちゃんにはぁ、ご褒美を進呈しまぁすぅ』

「ご、褒美……?」

 

 何だそれは。今そんな物を渡してどうする。

 

『ご褒美はぁ、高い高ぁいでぇすぅ』

 

 自身の真下。海に大きな穴が開く。そこにいたのは、先ほどの戦艦。既に超重力砲の装填を終わらせて今か今かと照射の瞬間を待っていた。膨大な重力子に包まれ船体が大きく浮き上がった。見れば海中にいた筈の潜水艦までが纏めて空中を踊っている。それも、超重力砲を目の前で。

 

『ではではぁ、』

 

 轟音と共に光が強さを増してゆく。もうあの凶悪兵器が火を噴くまで間もない。

 

「ま、待って、お願いッ、止まってよ!! 私達何もしてないじゃ――――!?」

『ざぁんねんっ。私達はぁ、ちょぉっとお忙しいのでぇ、またの機会にご意見お聞きしますねぇ』

「や、やだッ、まだ、死にたくな

 

 夜天の星空を貫く白い光が立ち上る。その日、豪州包囲網が崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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