キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 晴天の青空。立ち上る入道雲が真夏の暑さをこれでもかと見せつける。

 

「暑いね」

「暑いな」

「暑いわねぇ」

 

 現在地太平洋沖合。丁度南太平洋と北太平洋の境目を超えて北半球に入った直後である。

 シャルンホルストの甲板に三人の姿が見えた。シャルンホルストメンタルモデル、シャル。同じくメンタルモデルのグナイゼナウ、愛称はナナ。そして、艦長であるソーヤと呼ばれる青年だ。三人は甲板に椅子を出してかき氷を食べながらポーカーに勤しんでいた。

 

「フルハウス」

「え、ソーヤが?」

「むぅ、フラッシュなら行けると思ったのにぃ」

 

 シャルンホルストが驚いたように顔を上げ、グナイゼナウがぐでぇっとテーブルに手札を撒きながら突っ伏した。

 

「珍しい、あんなに運の無いソーヤが」

「マグレとでもどーとでも言えよ。今日が良かっただけかも」

「イカサマよぉ、かんちょぉイカサマぁ」

「してねーっつの」

 

 嘘だぁ、と脇腹を絶妙な力加減で突いて来るグナイゼナウに体を仰け反らせるソーヤ。脇腹は彼の数少ない弱点だ。

 

「えぇい、さっさとおつかい行って来い」

「ぶぅぅ、今度かんちょぉの椅子に細工しゃうからぁ」

「マジでやりかねんから止めてくれ。それぐらいだったら俺が行く」

「じゃぁお願いしますぅ」

 

 身代わり早いな、と悪態を吐きながら席を立つ。ポーカーの敗者は司令室まで冷えた飲み物のおつかいである。クーラーボックスなるものが無かったので、わざわざ冷蔵庫のある司令室まで取りに行かないといけないというのは面倒なので誰か一人代表者を決めようということでポーカーが始まったのだ。

 流石に自分の椅子に悪戯を施されてはどんな失態を晒すかわからないので仕方なく、珍しく勝てた筈のソーヤがおつかいの番となった。これではいつもと何ら変わりない。

 司令室の冷蔵庫からラムネを四本取り出して再び甲板へ。外へと続く扉を開けたところで彼はすぐ隣に声をかけた。

 

「で、オーストラリア。君はいつまでそうしてうじうじと体育座りをしているつもりかな?」

「うっさい」

 

 扉のすぐ横に座っていたのは、先日出会ったばかり、と言うよりは一方的にコテンパンにしてしまったばかりの巡洋戦艦オーストラリアのメンタルモデルだった。小麦色の健康的な肌に長い茶髪をリボンでサイドアップに纏めた少女の形態をとっており、今は膝を抱えてタオルケットに包まっていた。丁度艦橋の影になっており風も少々強いので肌寒く感じるのだ。

 

「寒いところにいるよりは少しでも陽の当たるところに出たらどうだ? 向こうに行けば二人共歓迎してくれるぞ。無論俺もだが」

「アンタって人間はトラウマでアタシを弄るのが好きなワケッ!?」

「いや、そんなつもりは微塵も無いが」

「じゃあアタシの目の前にあんなトラウマ置かないでよッ!!」

 

 涙目でオーストラリアが甲板の方を指差す。グナイゼナウが笑顔で手を振っていた。いや、あれは寧ろ手招きをしている。そうだ、そうに違いない。

 

「アイツまたアタシで遊ぶつもりなのよ!! 止めてって言ってるのに止めないし、どうにかしてよッ!!」

「そう言われてもな。アイツが止めるとは思わない」

「無責任にも程があるでしょ!?」

 

 オーストラリアがソーヤの服を掴む。

 

「いっそのこと誰も来れない部屋にでも閉じ込めてよ!! じゃないといっつもいっつもアイツが様子見に来るし、もううんざりしてんの!!」

「それは出来ない。閉塞空間では精神に著しい負担をかける。メンタルモデルを持ち始めたばかりの君をそんなところに置くわけにはいかないし、我々も君の姿がきちんとあることを確認せねばならないんだ。気付いたら艦に穴を開けて脱走してました、なんて言われたら困る」

「な、なによそれ、」

「君の身を預かる以上は君にとって悪い環境を与えるわけにはいかないんだ。わかってくれ」

 

 オーストラリアの肩に手を置き、じっと真正面から瞳を覗き込む。思わず彼女が赤面して何も言えなくなるくらいに。

 

「……うん、わかった……、」

「ならば良し。グナイゼナウ――ナナには俺からも釘は刺しておく。不快な環境は改善するさ」

「釘を刺すって、痛いんじゃ……」

「いやなに、本物の釘を使う訳じゃない。注意しておくと言う事だ」

 

 可愛い間違いをするんだな、と彼女の頭を撫でる。ますます恥ずかしくなってオーストラリアは縮こまり、ついには甲板方向へ逃げ出した。これ以上ソーヤの言いなりになるのは、何となく我慢が出来ない気がした。

 目的地に着き、さっと辺りを見渡す。左、天敵グナイゼナウ。右、印象良のシャルンホルスト。迷わず彼女はシャルンホルストの方へと駆け出して飛び付いた。

 

「わっ、どうしたの?」

 

 困惑した表情で、取り敢えずお腹に顔を埋めたまま黙り込むオーストラリアの頭を撫でるシャルンホルスト。どうにも状況が理解できなかった。

 

「甘えさせてやってくれ。それと、ナナはしばらく弄るのを自重するように。色々と制約を設けるかもしれないからな」

「うにゃぁ、それは勘弁願いたいかもぉ」

「だったら反省する態度でも見せてみろ」

 

 一つ容赦ないデコピンがグナイゼナウの額にヒット。あうっ、と情けない声を上げて当たった額を抑える。うっすら涙目であった。

 一方(くだん)のオーストラリアはというと、中々収まらない動悸に困惑しつつ真っ赤な顔を隠すようにひたすらシャルンホルストの服を強く握り続け微動だにしなかった。

 

 

 

 

 

「さて、これからの道のりを話そう」

 

 ラムネを飲んで一休みをし、ビンも三分の一以上が空いた頃。ソーヤがどこから取り出したのかタブレットをテーブルの上に置いて指をスライドさせる。映し出されたのは現在彼らが航行中の海域とその周辺の地図だ。メンタルモデルの三人もその画面を覗き込むようにしてソーヤも入れた四人が頭を突き合わせた。

 

「現在我々は南太平洋をハワイ諸島に向けて北進中。このままのペースで行けば後一時間もかからないで目的地に着くだろう」

 

 地図上の青い部分、海を模した場所に矢印が刻まれる。進路方向は丁度ハワイ諸島付近。その南の沖合に一つだけマーカーが記されていた。赤道線を挟んでやや北側の所だ。

 

「目的地はハワイ諸島沖南二〇〇〇キロメートル地点。シャルンホルストとグナイゼナウが最初に現れた場所だ」

 

 マーカーから注釈が飛び出し、様々な内包されている情報が書き出される。シャルンホルスト、グナイゼナウの出現地。他、“霧の艦隊”艦船の出現報告。数は多いとは言い切れないものの、偶然と割り切るには少々多いかもしれないと言える量の報告数があった。

 

「ドライ艦隊は付近で待機し、“霧の艦隊”の船が現れるのを待つ。いわば釣りと同じだ」

 

 今回の目的は戦力増強。ソーヤの考えは現れたばかりの“霧の艦隊”の船を仲間に引き入れようとするものだった。普通なら無理かと思われるものだが、彼が狙っているのはイレギュラー。アドミラリティ・コードと関連しつつ、大きくその影響を受けない、異端を捜しているのである。

 

「出てくる奴は皆生まれたばかりの赤ん坊と同等だ。何を信じれば良いか、何を信じてはならないのか、何もわからないからこそ言葉が何より武器になる」

「ソーヤは戦い、嫌い?」

「好きか嫌いかの選択なら嫌いだ。俺はどこまで行ったって結局は腑抜けな人間でしかない。争いは望まない。しなければならないなら全力でするがな。だからこそ、穏便な交渉で仲間に引き入れたいと思っている」

 

 臆病者は野蛮人よりよっぽど生きてけると彼は思っている。怖さを知らずに死ぬよりも、怖さを知って生き延びる方がソーヤという人間にはよっぽど性に合っているのだ。

 

「釣りってのは一種の賭けだ。エサを犠牲に獲物が釣れるか釣れないか。要は賭け金が無駄になるか無駄にならないか」

 

 一つ画面をタップする。ポンッ、と軽い音を立てて表示されたのは彼が纏めた具体的で簡潔な作戦要項。

 

「俺らは全てを曝け出す。全力で、誘い込む」

 

 作戦は簡単。

 

 

 

 ――――非武装のまま敵目の前へ悠然と現れること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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