キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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006

「そう言えばさ、あの駆逐艦……フブキっての、大丈夫なの?」

「「あっ」」

 

オーストラリアに言われてシャルンホルストとグナイゼナウが間抜けな声を上げた。

 

「そ、ソーヤっ!! どうしよう下手したら下手しちゃうよッ!!」

「かんちょぉ、やっちゃったよぉ……」

 

言われて気付いて艦長たるソーヤの元に泣き付く二人。ソーヤはというと部屋に突然飛び込んで来た二人に驚いて読んでいた本をしおりも挟まずに閉じてしまった。若干後悔するが、まぁ仕方ない。

ソーヤの脇で椅子に座りながらボーッとしていた111――名前が呼びづらかったので改名して“キイ”――も突然の来客に肩を震わせて何事かと目を丸くしていた。

 

「主語を言え主語を。以心伝心出来る訳じゃないんだから」

「フブキが、」

「ヤバいかもぉ」

「あのだな……、」

 

何がどうなのかはわからないままだが、取り敢えず混乱していることは理解した。

 

「……フブキが何かあったのか?」

 

不思議そうに首を傾げたのはキイ。「……彼女は何もしていない筈だが……、」と訝しげに二人を見た。

 

「言ってみ。お前たちが何を懸念してるのか」

「えーっと、かくかくしかじか、」

「まるまるうまうま。……って通じるとでも思ったか馬鹿。ちゃんと説明しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、フブキがこちらの居場所を共同戦術ネットワークに上げてしまったんじゃないかと思って焦ったと」

 

ひらひらと文庫本を片手に弄びながら言うソーヤ。シャルンホルストとグナイゼナウはそうだそうだと大きく首を縦に降った。

 

「安心しろ。フブキの管轄は全てキイに移して通信規制を掛けた。こちらの居場所が割り出される心配は無用だ。俺がそんな肝心なこと忘れるとでも思ったか」

 

彼自身自分が神経質なくらいに用意周到だとは自負している。策は思いつく限り張り巡らせるのが性分なのだ。()してや今も世界や霧を欺き続けている彼が居場所を晒す等という愚行を(おか)す筈がなかった。

 

「そうだな。それでも心配ならまだ手はある。オーストラリアを呼んで来てくれ。どうせ暇してるだろうし」

 

ソーヤの言葉に「じゃあ」とシャルンホルストが動こうとすると、バンッと音を立てて扉が蹴破られた。乱暴な仕草で入ってきたのは、丁度彼が呼ぶよう指示したオーストラリアだった。どうやら扉越しに話を聞いていたらしい。

 

「誰が暇人ですって?」

「お、来てくれてたか。呼ぶ手間が省けた」

 

わかっていながら言ったのか、ソーヤは飄々とした態度で彼女の怒りを受け流していた。ますます煽られたような気分に陥るオーストラリアだが、ここで逆上してしまっては()()彼のペースに乗せられてしまう。ここは我慢だ。彼女だってきちんと学習するのである。

 

「オーストラリア。君に頼みたいことがある。キイからフブキの全権限を譲渡。更にフブキに演算領域を貸してやってくれ」

 

ソーヤの言葉にグナイゼナウだけが「おぉ~」と納得顔で手を叩いた。他の三人は彼の意図を理解できず首を傾げて考え中である。

 

「…………シャル。妹より理解悪いのは姉としてどうなんだ?」

「だ、だってわかんないんだもんっ。私はソーヤとかナナと違って頭よくないし……」

「いや、俺はともかくシャルは元々ナナと瓜二つの能力だろ……」

 

こうも演算能力に差がでるのかとソーヤは驚きと言えば良いのか、はたまた呆れと呼べば良いのかわからない感情を抱いた。これも習慣による差異なのか、ますます気になる事ではあるが今は関係無いので頭の隅に置いておくことにする。

 

「まぁいい。キイ、オーストラリアにフブキの指揮を渡しといてくれ。彼女はちゃんとグナイゼナウの管轄下だから下手な事は出来ないさ」

「……わかった。君の考えとやらを見させてもらうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーヤはメンタルモデル全員を引き連れシャルンホルストの甲板に出ていた。皆が視線を向けているのは、丁度シャルンホルストの隣に停止しているフブキだ。

 

「さて、ナナ。準備は?」

「万事おぅけぃだよぉ」

 

ばっちぐぅ、と指で丸を作るグナイゼナウ。そんな彼女は自分の目の前に立つオーストリアの背中に手を添えていた。

 

「じゃあ頼んだ」

 

ソーヤが片手を挙げると刹那にオーストラリア額に浮かび上がる紋様とグナイゼナウの頬の卍が強い光を放ち、二人の周辺に幾多の幾何学模様サークルが現れた。メンタルモデル達が起こす特有の現象だ。

同時にフブキの周りにも船体を取り囲むようにサークルが出現し、それは段々と幅を狭めついには甲板上に人一人分が収まる程度にまで縮小した。銀色の粒子が飛び交い、サークルの中央へ。ソレは生き物のようにうねり、少しずつ人の形を取ってゆく。

 

「……幻想的、だな」

 

その光景に思わず口を開いたキイの言葉にソーヤやシャルンホルストが頷く。

光が収まれば、そこには1人の少女が俯いて静かに立っていた。白のハンチング帽にブラウンのポニーテール、ダボダボのロングテーラードジャケットのみを着用しており、見た目はかなり幼いだろう。

 

「……演算領域22%譲渡。メンタルモデル、形成終了よ」

「ご苦労。さて、」

 

オーストラリアからフブキの甲板上の少女へソーヤは視線を移して口を開いた。

 

「駆逐艦フブキ、聞こえてるな」

「………………………………?」

 

佇んでいた少女がゆっくりと瞳を開く。ガラスのように透き通りそうなサファイア色の瞳がよく見えた。

 

「ドライ艦隊のソーヤだ。わかるか?」

「……わかります、よ?」

 

上手く状況が飲めていないのか、若干困惑した表情でゆっくりと声を出す。おっかなびっくり、と言ったところか。

 

「ならばよし。キイ、後は任せた。俺よりはフブキのことはよく知ってるだろう? 色々と教えてやってくれ」

 

ソーヤの声にキイは「了解した」と一言。それっきり彼は再びシャルンホルストの艦橋内に消えた。他のメンタルモデル達も空気を読んで静かに移動する。唯一、甲板にはキイとフブキだけが残った。

 

「……おはよう、フブキ。気分はどうだい?」

「……キイ、……」

「ああ、待て、今そちらに行く」

 

ふわりとキイは甲板を飛び上がって海をまたぎフブキの目の前へ着地。膝を折って顔を覗き込んだ。

まだ濁りを知らないサファイアの瞳。水晶のように綺麗なその眼に囚われそうになりながらも、キイは優しくフブキの頬を撫でた。

 

「異常は無いみたいだな。良かった」

「うん。大丈夫だよ」

「そうか。うん、それなら良いんだ」

 

正直なところ、キイ自身別の艦の演算領域を貸し出せるのかと疑問があったが上手くいっていることは確かだ。フブキから感じ取れる雰囲気は確かに、いつも自分の隣をついてきたあの頃と変わり無い。

 

「……彼には感謝せねばな」

「あの、おにぃちゃんに、ですか?」

 

こてん、と可愛らしく首を傾げるフブキにキイは頬を綻ばせて「ああ」と1つ頷いた。

 

「こうするように提案をして実行するようにしてくれたのは彼だ。フブキの演算を肩代わりしてくれている彼女もそうだが、何より彼の発案無しでは君はこうしてここにこうしてメンタルモデルを作れなかった。少し悔しいが、ここは彼の策略の勝ちだよ」

 

本当に、頭の切れる奴だ。悔しいことにソーヤに対する評価を少し上方修正せねばなるまい。

 

「キイ、私、おにぃちゃんにお礼しないとですっ。あと、おねぇちゃん達にもっ」

「そうだな、そうしよう。私も一緒に行かせてくれ」

「おっけーですっ」

 

そっと、2人は互いに手を取り合い、優しく握り合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か、いい話だねぇ」

「そうねぇ……」

「こらっ、ナナにソーヤ!! 覗き見はマナー違反!!」

「いででっ、耳は勘弁……っ」

「お姉ちゃん痛いよぉ……っ」

 

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