キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 ここ1週間を振り返る。

 

 剣道。

 

 剣道。

 

 剣道。

 

 剣道尽くしだ。

 

「まさかISがここまで使えないとはな……、」

 

 隣で箒が疲れた顔してる。無理もない、淡い希望は尽く打ち砕かれた。

 言ってしまえば、俺は今日現在である月曜日放課後までISを一度も触らなかった。触れなかった。キャンセル待ちしてたんだが、残念なことに空きはゼロのまま時間は過ぎていって、もうクラス代表決定戦直前となった。

 時間は16時15分、試合開始予定まで残り15分。さて、ぶっつけ本番でISを乗りこなさなければならん。今回で起動は3回目、しかし本格的に動かすのは初めて。うむぅ、上手くできるんだろうか。するしかないのはわかってるけど。

 

 先述通り俺は1週間剣道とあとはトレーニングしかしてない。ISには触ってない。因みに察しの通り専用機もまだだ。

 

「『打鉄』乗るか、専用機とやらに乗るか……うーん、迷いどころだ」

 

 一応、専用機とやらは間もなく到着予定らしい。今はピット(ここ)に向けて運び込んでる最中なんだとか。

 しかしながら専用機は性能の代わりにクセがある。個人に合わせたが故の弊害だ。

 そして訓練機の『打鉄』は安定した性能だが突出した部分が全くなく、総合的な面で見れば専用機に劣る。

 

 どっちがいいんだろうなぁ……。

 

「箒、どっちがいい?」

「自分で決めろ」

 

 と、箒はアテにならない。何でか気付いたら一緒にピットに来てたんだけど、観客席に行かないでいいの?

 

 まぁそれはともかくとしてだ。

 

「織斑くーん!!」

 

 『打鉄』の前で悩んでいると、入口の扉が開いて巨乳が跳ね…………山田先生がぱたぱた走って来た。

 

「今届きました、織斑くんのIS!!」

 

 肩で息をし、それでもなお自分の後ろを指差す。

 カートに乗せられピットに入って来る白いIS。差し込んで来る光が鈍い銀色の装甲に反射し光った。

 

「IS『白式』。これが今日からお前の専用機となる」

 

 ISの隣には千冬姉が、ソレを見上げている。

 

 そのIS、何とも“鋭い”印象を受ける。

 今まで近くで見てきた『打鉄』と比べれば線が細い。

 

「乗るか。『白式』に」

 

 何となく、こっちの方がいい。本能的に感じた。これなら、もっともっと、予想よりももっと上へ行ける。

 

「乗る、か……そうか。らしいな、一夏」

「だろ」

 

 箒はクツクツと懐かしそうに笑い、俺も釣られていつものようにケラケラ笑う。あの時と同じだ。小学校のあの時と。

 

「『白式』は中身が全てまっさらだ。初期化(イニシャライズ)最適化(フィッティング)一次移行(ファーストシフト)もされていない。それでもやるか?」

「愚問だぜ千冬姉。俺は俺のやり方で勝つ。心配なら無理矢理止めてくれ」

「ハッ、誰が心配なぞするか。変な問題を起こさないかどうかが重要だ」

「それを心配って言うんだぜ、織斑センセー」

 

 運ばれてきた『白式』に飛び乗る。初めてISを動かした時、情報が流れ込んでくるあの感覚。俺と『白式』が混じり合ってゆく。

 

「…………試合開始は1分後だ。男らしく、散れ」

 

 そこは勝てって言ってくれよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットは一足先にピットを出て、アリーナ中央の空中で静止していた。

 まとうISは『ブルー・ティアーズ』。蒼を基調とした射撃型の遠距離戦闘用ISだ。イギリス第三世代の象徴であるBT兵器を運用するこの気体はセシリアの専用機。苦楽を共にしてきた相棒だ。

 セシリアは大型レーザーライフル《スターライトMk.III》を静かに抱き、じっと対戦相手の登場を待っていた。

 自身のコンディションは問題なし。『ブルー・ティアーズ』も事前のメンテナンスで異常は出なかった。武装の手入れも怠らずにやってきた。

 ここまで来て自分に問題点はなかった。別にあるとすれば、相手の戦力が未知数であるということくらい。

 

 対戦までの1週間、セシリアは情報収集を怠らなかった。織斑一夏の運動能力は、まず並みではないということ。彼の身体は間違いなく鍛え抜かれたモノだ。

 また更に、彼は篠ノ之箒と共に剣道をしてきたという。観察し、聞き込みをし、わかったことはその腕前も凄まじいということ。織斑一夏と篠ノ之箒の打ち合いを見ていた者は皆が口を揃えて言うのだ。

 

 “あれは本当にヤバい”と。

 

 もっと具体的に知りたかったが、とにかくヤバいらしい。そのヤバいを説明するには語彙足りないとも聞いた。

 と言うことは、織斑一夏の近接戦闘能力は高い水準と見て間違いない。近付けさせるのは愚策だ。

 

 そう思考していると、反対側のピットから銀色のISが飛んできた。『打鉄』とは違う、鋭角なシルエット。専用機なのだろう。

 『ブルー・ティアーズ』のハイパーセンサーが解析結果を表示する。日本製第三世代型IS『白式』と出た。

 

「待たせたな。ISが届くのが遅くなった」

「無駄口は結構。早く構えなさい、織斑一夏」

 

 へらへらと笑って片手を上げながら彼はやってきた。何と苛立たしい事か。勝負前だと言うのにセシリアの思考は煮えたぎる。彼のこれがもし演技だとしたなら相当の役者である。

 

「わたくしと貴方は決闘を行うのです。それ以外に無駄なモノはいりませんわ」

 

 セシリアは無駄が嫌いだ。決闘に口先はいらない。必要なのは己の実力のみ。故に織斑一夏が気に入らない。

 

「そう急かすなよ」

「急かしてなどしておりませんわ。当たり前の事を言ったまで、それとも常識すら理解できない猿人ですの?」

 

 挑発するセシリアの言葉に、ピクリと一夏の頬が引きつった。セシリアの予想通り、やはり思考回路は単純。煽りに弱く、挑発にいとも簡単に引っ掛かる。

 彼女にとって微細な表情の変化を読み取るのは簡単なことだ。幼くして大人の貴族社会に溶け込むことを強要されたセシリアの観察眼は決して隙を見逃さない。

 

「……オーケー。ご託は無しだ。勝ち負け決めようじゃねぇか」

 

 一夏が、笑う。その瞳の奥、セシリアはあの時と同じくギラギラ光る獣の眼光を垣間見た。

 彼の言葉に無言の肯定を返し、1つ深呼吸をする。冷たい空気が肺を満たし、熱かった思考回路が冷える。闘志は熱く、しかして冷静に。冴え渡るスナイパーの眼はたちまち1匹の獲物を視界に捉えた。

 周りは静寂。否、声はするがセシリアには聞こえない。彼女に雑踏は意味をなさない。見据え聴くのはただ相手のみ。織斑一夏の一挙手一投足全てに神経を張り巡らせ、呼吸も、鼓動の音さえも聞き取ってしまおうとまで神経を尖らせる。

 

 試合開始までのカウントダウン。3つのシグナルが点灯した。そして、3つ時を数えて、

 

「――――」

「――!?」

 

 青い閃光が(したた)かに一夏の頭、ど真ん中を撃ち抜いた。

 一夏は呻く暇すら与えず視界が反転、景色がひっくり返りチカチカと明滅する。

 スローモーションの世界、衝撃に跳ね上がった頭から後ろへ倒れていく。

 

 その時既にセシリアは2度目のトリガーを引いていた。

 狙う先は再度ヘッド。落ちて行くその先目掛けてレーザーが穿つ。

 ヒット。絶対防御が2度目の発動、シールドエネルギーがごっそりと減る。

 絶えずトリガーを3回目、頭から落ちて行く『白式』の機体そのものが斜線を塞ぐが、セシリアは『ブルー・ティアーズ』を僅かに降下させるだけに留め、一夏の脳天を撃ち抜いた。

 更に4度目――を狙おうとして『白式』が地面に落下。()()()()()()()()()()()

 

「――……?」

 

 その違和感にセシリアは僅かに首を傾げる。

 

 ()()()()()()()

 

 今起きている光景で、有り得ないことが起きている。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――ハッハァァァッ!!」

 

 違和感は正に的を得ていた。セシリアがそれに気付いて《スターライトMk.III》を構え直そうとする、その一瞬の隙を突くように、『白式』が煙を掻き消して飛んできた。

 

 簡単な話だ。一夏は落ちる寸前、わざと『白式』で加速した。土煙を上げてセシリアの視界を一瞬だけでも潰すために。

 

 自ら地面に飛び込むなど、正気の沙汰ではない。

 だが、織斑一夏ならやる。愚直に、()()()()()()()()()()()()()と。

 

 一夏は笑っていた。

 

 それは獣だ。

 空腹のハイエナが目の前の餌を喰わんとし、爛々と目を光らせる捕食者のソレ。

 

 セシリアは一瞬、ほんの一瞬だけ頬をひきつらせる。なるほど、確かにイカれてる。

 

 考えるよりも早く、セシリアの身体は素直に動き、銃口を一夏に向けて引き金を引いた。光速の一撃は真っ直ぐ一夏を撃ち抜く……と思われたが、一夏はその時既に1本の大きな大きなブレードを斜線に被せていた。

 長さがISに匹敵するほどの太刀だ。それはただのエネルギーブレード、されどそれはここにきて盾となる。

 レーザーは寸分の狂いもなく頭部を狙っており、3回頭を撃たれた一夏はセシリアが必ずまた頭部を狙ってくることを本能的に理解して『白式』の唯一の武装を盾にした。

 

 ――そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 転じて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ISの絶対防御は、操縦者へ生命の危機が発生する脅威に対し強制的に働く。

 『白式』の頭部は装甲もなく、エネルギーシールドを抜かれればたちまち頭部が攻撃に晒される。そうなれば人間、容易く死ぬ。

 《スターライトMk.III》はスナイパーライフル。その一撃は相手をより少ない手数で仕留めるためのもの。故にたったの一撃でエネルギーシールドを抜くのは造作もないことだ。必ずや絶対防御を発動させられる。エネルギーシールドで威力が幾分か減衰しようが、人間の体を一部分焼き削ることなど朝飯前だ。

 

 賭けは一夏に軍配が上がる。

 レーザーが刃の部分に斬られ、霧散した。

 

 二人の距離は一息もせず詰まる。セシリアの迎撃は一度きり、必然的に一夏の攻撃が始まる。

 

 頭部を守るために掲げた太刀はそのまま上段から振り下ろされる。

 剛の一閃は防御の上から無理矢理叩き斬る一撃だ。受けようとすればどうなるか。間違いなく力負けする。

 更に『ブルー・ティアーズ』に防御武装は一切積まれていない。既に『白式』は太刀のレンジに入ろうとしている。

 

「ゼァァッ!!」

「っ……!!」

 

 迎撃を諦め、素直に回避へ。咄嗟に真横へ、体を捻りながらスラスターを噴かした。

 一夏の一撃は愚直なまでほ大振り。軌道こそ丸見え、避けるのにはただ移動すればいい。

 

 無反動旋回(ゼロ・リアクト・ターン)

 『白式』を中心に円を描き真後ろを取った。

 既に照準は絞られた。後は引き金を引くのみ――。

 

 瞬間、斬、と。

 《スターライトMk.III》の銃身が真下から斬り上げられ、物言わぬガラクタと化す。

 見れば一夏は振り下ろしの一撃の勢いを殺さずその場で一回転、逆さになりながらもセシリアが真後ろに来るであろうと直感的に判断し斬ったのだ。

 

「……おやりになるわね」

「そりゃ光栄だね。貴族サマに褒められるなんてのは人生初の経験だ」

 

 セシリアはすぐさま『白式』のレンジから使い物にならなくなった《スターライトMk.III》を量子化しながら後退。

 対して、一夏は逆さのままに残身。重力を感じさせることなく太刀を肩に担いだ。

 

 時間にして僅かに十秒弱の戦闘は痛み分けで終わる。

 『白式』は三度の絶対防御発動によりシールドエネルギーの半分を失った。

 『ブルー・ティアーズ』はダメージ自体はないものの、主兵装たる《スターライトMk.III》を破壊された。

 

「どうよ。俺も素人にしちゃなかなか良い線行ってるんじゃね?」

 

 一夏の表情は実に楽しげだ。しかしそれは子供の笑みではない。

 

 愉悦。

 

 心の底から湧き上がる闘争心。噴き出すアドレナリンが脳に快楽をもたらす狂気の一種に近い。

 

「んで、代表候補生からの評価はどうだい、俺」

 

 その問いに返すは、無言。セシリアは静かに()()()。まるで狙撃種の様に。

 

「お?」

 

 刹那、蒼い光が収束して大型のエネルギーライフルを形作り、『ブルー・ティアーズ』の手に収まった。

 ()()は蒼を基調とする鮮やかな『ブルー・ティアーズ』からすると、些か意外性のある色合いと言える。

 根底に滲むような黒。蒼はあくまでサブに置き、銃身の下には黒塗りの大きな刃が牙を覗かせる。

 まるで不釣り合い。スナイパーライフルに銃剣を付けるとは、何をしでかす気だと言うのか。

 

「……武器複数ストックとかアリかよ」

 

 何と禍々しい。

 頭痛のようなものを感じて頬を引きつらせる一夏が思わず口に出した言葉は、苦し紛れの抵抗のようであった。

 

「てか何で最初からソレ使わなかったんだよ。まさか油断してたとか言わねぇよな?」

「そっくりそのままお返ししますわ。油断していたのは貴方。武装を一つ破壊すれば勝負が決する等と思い上がっていたのではなくて? ――()()()()()()()()()()()()

「嗚呼チクショウそうだよ武器壊せば後は楽勝だと思ってたわッ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 『白式』が真横に動く。同時に『ブルー・ティアーズ』は《スターブレイカーver.β》を撃つ。

 

「ガ――――ァッ!?」

 

 音より速く、暴力的な一撃が『白式』の方に突き刺さる。

 気付けば左肩の装甲が焼けて吹き飛んでいた。ビリビリと衝撃が脳髄に響き、耳が一瞬遠くなる程の一撃。間違いなくエネルギーシールドと装甲を抜かれた。これで4度目の絶対防御発動だ。

 

「チィッ……!!」

 

 下手をすれば左腕が千切れ飛んでいたかもしれない。どれだけのエネルギーを込めればそれだけの威力を出せるのか皆目見当もつかない。と言うよりその結論を出せる程一夏の思考は冷静にはなれなかった。

 

 エネルギー残存量100%の『ブルー・ティアーズ』に対し、既に6割を削られた『白式』。

 

 戦局は、俄然観客の予想通りに傾いている――――。

 

 

 

 

 

 

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