キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 翌日のこと。IS学園1年2組には新たな転入生徒が3人加わっていた。

 1人は中国代表候補生、凰 鈴音。本日付で2組のクラス代表に着任。何があったかは割愛とする。

 2人目はポニーテールに眼鏡の、大人顔負けのプロポーションをした女子生徒、白兎(はくと) 束音(つかね)。アメリカからの帰国子女でIS整備を得意とする。と言うでっち上げに近いプロフィールを偽造した篠ノ之束。

 3人目は今回一番の注目の的。高校生の筈だがどこか熟年の大人の雰囲気を見せる、2人目のISを動かせる男。名を夜野(やの) 日影(ひかげ)。無論、偽名である。

 

 世間一般常識的に考えて男がISを動かすことは珍しすぎることだ。全世界で見ても、現状では織斑一夏と彼のみ。当然1組の前例があるとは言え彼は大いに目立った。それはもう、専用機持ちの凰鈴音の話題を飲み込むくらいには。

 

「嗚呼全く、こうも姦しい空間が息苦しいとは……」

「アンタにもこんな弱点があるとはね」

「弱点? バカを言え。どいつに手を掛けてやろうか迷ってたんだ」

「それは男としてサイテーだよ……」

 

 早足で2人が向かう場所は不明。正確には彼がどこかを目指し、束音がそれについて行っている形となる。こうなったのも彼が転入初日で質問攻めになった為であり、前世では見れなかった彼の弱味に漬け込んでやろうと束音が後を追っているのだ。彼の疲れきった表情が実に見物であるのは間違いない。

 そうこうしている内に人気のない建物裏にやってきた2人。聞こえるのは木々の葉が擦れ合う音や鳥のさえずりのみ。人の気配は微塵も無かった。

 辿り着いた彼が懐から取り出したのは、タバコ。どこの自動販売機でも買えるような物だ。

 

「今更ながら確認するけどさ。アンタ今中身はアレでも体は16歳なんだよ?」

「Shut the fuck up.俺がベビースモーカーなのは今に始まったことじゃないだろう。コイツが無きゃ俺は今頃海の底にでも沈んでる」

 

 束音の言う通り、2人の体は完全に16歳のもの。成人している訳でもなく、依存性の高いタバコが与える悪影響は今なお変わることはない。

 それでも悪びれることなく喫煙続行。もうニコチン中毒は治療不能のようだ。思い出してみれば前世は1本吸い終えたらすぐまた次をと寧ろ吸っていない姿の方が珍しかった気がする。

 

「今のところは史実通り順調だな。俺が代表に抜擢されないで良かったと言おうか」

「それは色んな意味で同意だね。アンタがクラス代表とか考えたくもない」

「失礼な。必要な事はやるぞ、サボらない保証はないが」

 

 そこが既にダメなんだって、という声は届かない。マイペースなのはいつも通りだ。

 

 現在は昼休み。2人は既に昼食を手早く済ませてスケジュール調整を行っている。と言うのも3週間ちょっとを無意味に過ごす訳にもいかないので今のうちから出来ることは終わらせようという魂胆だ。そうすれば後の予定にも余裕が生まれる。緊急時の事を考えて予定に若干の穴を開けておくのは必然のことだ。

 

「昨日から調べてはいるが、相変わらずアイツらは見えねぇな。まだ亡国機業(ファントム・タスク)にすら接触してない」

「ってなると前世の手際がどれだけスムーズなモノだったかがわかるね。今回の見込みは?」

「状況は常に最悪を想定して動くものだ。と言ってもアイツらは夏休みを超えなきゃ本格的には動き出さねぇよ。そうだな、キャノンボール・ファストまでは準備期間。それ以降は冷戦開始だ」

 

 煙で器用にリングを作りながら言う彼は、おもむろに携帯を取り出す。

 

「現状のデータを纏めた。赤外線通信で送るぞ。流石に手書きで纏める時間はなかった」

 

 送られてきたのはテキストデータにまとめられた機密文書。3重のプロテクトに加えて中身は全て暗号化されており、専用の翻訳表でもなければ解読は不可能なのものだ。そうでもしなければいざ情報が漏れた時がマズい。更に、情報の8割以上がダミーにすり替えられており、まず解読できるのは彼を除いて束音以外にいない。翻訳表も暗記し、プロテクトの外し方も心得てる彼女にとっては造作もないことだ。

 必要な部分のみを抜き取って頭の中で整理し文章に組み直す。紙に書き出す必要は無かった。情報漏洩を防ぐためでもあり、そもそも彼女にそんな行為は必要ないのだから。

 読み終わったら暗記は完了。端末からデータを全て消去しクリーンアップ。念の為ディスクファイルも全て初期化まで済ませて入念にデータを消す。

 

「大体現状はわかった。それから、前世で何が起こったかも」

 

 携帯端末をしまいながら空を見上げた束音は、らしくもなく少し苦しげに見えた。

 彼が纏めたデータに書いてあったのは彼が前世にて調べ続けた記録の一部と全ての出来事を簡単に纏めた物だった。今更ながら、無責任なことだがどれほどの混沌が世界を狂わせたのか、想像するだけでゾッとするし、その一端に自分の影響があるのならば無視できないことであった。

 

「まぁ今更後悔したって遅いモンは遅い。必要なのは後悔ではなく次を活かすための反省だ。たらればの話で済まないとは言ったがな、時には必要になることだってある。矛盾してるよなァ、全く」

「アンタは何でもかんでも楽しそうに捉えるね。その胆力はどこから出てくるのか……、」

「真っ先に世界を狂わせた個人のお前が言うな。よくもまぁぶっつけ本番だけで世界相手にやろうだなんて息巻いたな……………………結局逃げ回ってたけど」

「いちいち聞こえてんの!!」

「いでっ……バッキャロウ、力加減くらい出来ねぇのか。お前さんみたいに細胞強化してる訳じゃねぇんだからよ」

「そのクセ叩いても首の骨も折れてないのに何生意気言ってんのさ!?」

「こちとらのうのうと生きてるんじゃねェからな。前世じゃ不十分だった分は補わせてもらってる」

「……だから四六時中吸わなくなったの……、」

「仕方あるまい。前世はお前さんが予想外に早過ぎたからな、準備もまともに出来なかった弊害だ」

 

 怠かったなァ、と彼が見上げる先は遠い。多分その目に映る光景はかつての終わりへと走り続けた世界の様相なのだろう。束音にはそれがどういったものなのかは全く想像できないが。

 

「……む、もうこんな時間か。存外のんびり出来ないんだな、昼休みとやらは」

 

 授業開始まで後10分を切る。ここから教室まで少し距離があるため徒歩で5分強以上はかかるだろう。

 

「ねぇねぇ、放課後はどうする?」

「お前さんも予定はないんだろ? 適当に過ごしてりゃあいいじゃねェか。それとも何か? 俺に言われなきゃ何も出来ない子供(ガキ)か?」

「失敬な!! これでも成人した立派な大人ですぅー!!」

「その態度がダメなんだよ」

「あッ、それこっちのセリフ……!!」

「立場を弁えておくことだな」

「なにおぅっ!?」

「ほら、またそれだ。んま、やることねェんなら凰鈴音とでも接触しておくことだな。アイツなら分け隔てなく話せるだろうよ。あと、()()()()()()()()()

「わかってる!!」

 

 ぷくぅっ、と子供らしい膨れっ面をする束音に、彼は小さく苦笑を零しつつ教室へ向かうのだった。

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