キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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『ルールは『白式』及び『冨嶽』が戦闘不能となった時点で終了とする。一夏に夜野、構わないな?』

「オーケー。わかった」

『無論』

 

 アリーナを広く使い1度だけの決闘が始まる。

 片方、織斑一夏と『白式』。全ISに対し絶対的攻撃力を誇る単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を武器に機動性の高いスタイルで相手を攻める。

 相対するのは夜野日影と『冨嶽』。長らく所在を不明にしていた鉄壁のIS。圧倒的な防御力でもって『白式』を迎え撃つ。

 

『両者、構え』

 

 審判を務めるのは篠ノ之箒。彼女の声に、見物に押しかけてきていた者達もシンと静まり返る。アリーナ全体が静寂に包まれた。

 『白式』は強く『雪片弐型』を握り、対して『冨嶽』落ち着いた様子で巨大な鎌を持ち直した。

 

『始めッ!!』

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!」

 

 開始直後、一夏の瞬時加速(イグニッション・ブースト)。一瞬で音の壁を突き抜けた『白式』が一瞬で『冨嶽』へ肉薄。雄叫びと同時に『雪片弐型』を振り抜き――――、

 

「ぬぅおぉぉあぁっ!!??」

 

 硬い装甲に阻まれ大きく弾かれた。本来斬り抜ける予定が予想以上の硬度に弾かれて加速状態のまま錐揉み回転。反対側の壁にまでぶつかりかけて何とか体勢を立て直した。

 会場内から安堵した声が漏れる。ISの絶対防御があるとは言え『白式』の弾かれ具合は見ていて痛々しい程だった。固唾を呑んでいた身からすれば一安心である。

 

「硬すぎだろ」

『そりゃそうだ。物理攻撃なら戦艦級の砲でも担いでこい』

「生憎『白式』は近接武器しかないからな!!」

 

 再び接近。今度は直線ではなく少し軌道を曲げつつ背後や側面を狙いに行く。

 

「ここッ!!」

 

 フェイントを混ぜて側面を確保と同時に肉薄。しかし、

 

『甘い』

 

 ドンンッ、と『冨嶽』のサイドブースターが爆音を響かせたかと思えば既に方向転換を完了させ真正面に『白式』を捉えていた。重すぎる自身の機体を軸にしたターンだ。ブースターで無理矢理行っている機動にしては正確で加減も上手い。『冨嶽』の重量をよく把握している証拠だ。

 『雪片弐型』と鎌が衝突し鍔迫り合いに、しかし『冨嶽』が流すように鎌を振るうと先端の刃が『白式』を狩らんと迫る。これを何とか潜るようにしてい交わしてもう1度『雪片弐型』を次は抜刀の領域で、硬い装甲ではなく腕の部分を狙う。しかし『冨嶽』は鎌の柄で弾いて凌ぐ。

 反撃とばかりに鎌が斜めに迫る。首を狩り取るような軌道を『雪片弐型』で弾いて逸らし体を深く沈み込ませて回避、本来ならここから斬り上げたいが生憎『冨嶽』の下半身の装甲に刃が立たないのは先程実証済み。諦めて素早く真後ろに下がった。

 

『離れて良いのか?』

 

【敵にロックオンされました】

 

「何ッ!?」

 

 警告音声と同時に『冨嶽』の両肩部へユニットが現れてハッチが開いたかと思えばロケット弾が顔を覗かせた。距離は近すぎるし、普通のISなら自らも爆風に煽られる距離だ。しかしながら『冨嶽』は爆風程度でびくともしないことはわかる。つまり、圧倒的に『白式』が不利。

 歯を食いしばり、全力で体を真横へ倒すと同時に無理矢理加速。刹那、先程まで『白式』がいた点へ入れ替わるようにロケット弾が殺到し、目標を通り過ぎてフィールドへ着弾。連続的で大きな爆発音が地面に穴を穿つ。

 そして全て回避しきった。そう思い込むのが狙い。一夏は罠にかかった。先程『冨嶽』が『白式』に砲口を向けて射出したのは()()()()でありロックオンは必要ない。つまり、

 

「やっべ……!?」

 

 別の場所から本命の誘導弾が迫る羽目になる。

 見上げれば真上から弧を描いたミサイルが一直線に『白式』目掛けて落ちてきていた。数にして4、しかし全てを迎撃するには距離が離れていて難しい。

 

【警告、本機直下より熱源感知】

 

 真下からもミサイル。上下を挟まれた。理解が追い付くよりも本能的な動きで横へ動こうとするが、直後にミサイルが『白式』付近で爆発。接触してから爆発する着発信管ではなく、近接信管だ。

 直撃ではないが弱くない爆風に吹き飛ばされて宙を滑る。体勢を立て直そうにも混乱によって上下方向すらわからなかった。

 自分がどこを向いているかすらわからずに、しかし立ち止まることだけはしないようひたすらに真っ直ぐ動いた。

 

 

 

 

 

 誘導弾との鬼ごっこが始まり早くも5分が経過した。『白式』は『冨嶽』の誘導弾に対する策はないし、まさか刀1本で迎撃する訳もあるまい。結局いつも通りのヒット&アウェイで『冨嶽』の装甲の少ない上半身部分の隙間を狙うしか無かった。

 『冨嶽』の方はと言えば俄然有利な立場で向かってくる『白式』を迎撃していた。城の如く決してその場からは動かず、サイドブースターを利用した高速ターンで常に『白式』を正面に捉え続ける。遠くにいれば生い立てるように誘導弾を撃ち、近付けばロケット弾と鎌で迎撃、絶対に隙を見せなかった。

 精神的疲労が溜まるのは専ら『白式』だ。ゴリゴリとすり減らされる精神の磨耗により集中力も薄れている。当初のキレも気迫も最早見る影もない。心なしか剣筋も鈍いようだ。

 

(それは俺が一番わかってる……!!)

 

 自覚できるからこその悔しさに歯噛みする。中学時代のツケや経験不足が痛い。これでは、負ける。

 

(……いや、そもそもこれは勝てる試合じゃない)

 

 そう思った瞬間、スゥッと頭が芯から冷えて冷静になっていく。

 

(向こうと俺は地力が違う。多分日影は俺が思う以上に頭が切れて、用意周到な筈だ)

 

 初めて会った時、彼は“こりゃまた早い”、“噂はかねがね聴いている”と言っていた。同室者が帰ってくる時間を予想していて早いと言うならまだしも、織斑ー夏は彼と相部屋ではなかった。つまるところ彼は織斑ー夏が来ることを予想はしていたことになる。

 それにこの戦闘。彼は最初から『白式』に先手を取らせる気でいた。そして、必ずや装甲の厚い部分を無理矢理狙ってくると判断し、敢えて初撃は動かなかった。考えすぎかもしれないが、少なくともスタートから『白式』の先制まで迎撃は可能だった筈。彼はきちんと『白式』の動きを目で追っていたのだから。

 と、そこで誘導弾の嵐が止む。アリーナ中央付近に陣取る『冨嶽』からのロックオンも切れ、静寂が落ちる。

 

 チャンスか、罠か。

 

 弾切れならチャンス。と見せかけて至近弾による回避不可の面制圧。まだ試合は10分も経っていないから弾切れは有り得ないので恐らく後者。見え透いた結果だが、それを知っていて尚『冨嶽』は誘っている。

 

(じゃあ、乗ってやる……!!)

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)発動。駆動エネルギーも心許無いのでもう使用は控えたほうが良いだろう。

 更に零落白夜を発動させる。白碧の淡い光が『雪片弐型』を包み込んだ。これでISのエネルギーシールドを無効化。強制的に絶対防御を発動させてエネルギーを大幅に削る。当たればの話だが。

 思い描く軌道は一刀三閃。ひと振りにて3度斬り付ける。1は2の為の布石、その2が3の為の布石、本命は3の太刀。至難の業だが、織斑千冬は難なくやってのけた。なら、出来る。

 一閃が空気を斬り裂く。『冨嶽』を間に鎌を挟み込み弾く。それでいい。

 二閃目、弾かれた慣性を加えて反対に返しの太刀。今度は柄で防がれた。

 終わりかと思った、その刹那に三閃目が『冨嶽』を襲う。リーチは鎌が長く、刀な鎌に比べ短い。だが、長すぎる鎌では懐をカバーできない。

 

「と、思いたくなる」

「ッ!?」

 

 直後、斬られるかと思われた『冨嶽』がその場でターン。更に『白式』の背中側から何かの衝撃が牙を剥く。サイドブースターの高速ターンにより、柄の先の刃が『白式』を引っ掛けていたのだ。

 零落白夜が『冨嶽』の装甲を掠めるが絶対防御発動には至らない。体勢を崩された『白式』は鎌に引っ掛けられたまま真下へ投げ出され地面へ激突。

 その上へPICを切った『冨嶽』がズドンンと落ちて砂埃を舞い上げる。重力加速度による衝撃が『白式』を押しつぶした。

 会場中から悲鳴が上がる。想像も出来ない超重量の塊が落ちたのだ、ぺちゃんこにされてても不思議ではなかった。

 

「さて、まだやるかね?」

「……参りました」

 

 砂埃が晴れれば、『白式』が『冨嶽』にマウントポジションを取られ鎌首を突き付けられていた。

 

 

 

 初めての男性操縦者同士の決闘は、まず『冨嶽』に1つ軍配が上がったのだった。

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