クラス対抗戦では1戦目から1組代表織斑ー夏対2組代表凰鈴音のカードだった。
が、しかし。試合中にアリーナの特殊バリアを突き破って謎のISが浸入。試合は余儀なく中止され、専用機持ち達の活躍により何とか事態は終息を見せた。幸いながら軽傷者が1名出ただけで他に怪我人はいない。
このことは学園中を騒がせたが上層部からの箝口令により学園外へ被害情報が漏れ出すのは一応未然に防がれた。迂闊に喋れば法に触れるとなれば大人しくはなるらしい。
唯一の怪我人だった織斑ー夏は軽い打撲等があったのみで一晩で全快。目立った後遺症の影響もなく学園生活に無事復帰した。
時間は前後し、クラス対抗戦の日の暮れ。
白兎束音は自室の部屋の机に向かってキーボードを叩いていた。隣では夜野日影がヘッドフォンをしてミュージックを聞き流していた。
不意に彼女の手が止まりディスプレイの画面端に視線が固定された。
「…………………………………………、ねぇ」
「ん……どうした?」
「ちーちゃんがこっち来てる。何かあった?」
「彼女に何かを悟られた気配は無かった筈だが……1組担任が2組の区画に来るとなると、業務か何かだろう。念のため眼鏡はしておけ。あと、入ってきたとしてもこちらは振り向くな。俺が全て対応する」
「了解」
言うまでもなく束音は篠ノ之束だ。外見がいくらか幼くなったと言っても違和感を持たれれば不味い。眼鏡をかけ、適当なイヤホンをつける。いかにも来客には気付かなかったを装う為に。
そして、嫌な予想は当たる。コンコンと2回扉がノックされた。
「織斑だ」
「はい、どうぞ」
彼が扉を開ければ、白のジャージ姿があった。
「1組担任と1学年寮長の織斑だ。突然だが夜野、お前は部屋を移ってもらうことになった。1025室の篠ノ之箒と交代しておけ」
一瞬、束音のタイピングが止まりかけて、何事もなかったかのように再開する。幸いにも千冬は気付いていない様子だった。
「了解しました。では荷物を纏めてすぐに向かいます」
「よし。では忘れ物の無いようにしておけ。それと、カードキーも必ず持ってくること。1度纏めたら荷物を持って共有スペースへ来てくれ。カードキーに関してはそこで受け渡しを行う。早めに準備を終わらせておけよ」
話はまた向こうでだ、と言って扉が閉まる。最後まで彼女が束音に触れることは無かった。
「…………ちーちゃん、気付いたと思う?」
「さて、どうだろうな。意識は完全に俺にしか向いてなかったのは確かだ。それよりも、今後の方が問題だな」
「箒ちゃんがこの部屋に来るってことだよね」
「一番のネックだ。バレるリスクがなきにしもあらず……」
2人で「むむむ」と唸る。いつか部屋を変えることはあるだろうが、まさかこうなるとは。
「ダメ元で1人部屋が良いと言ってみるのは?」
「あの
「そうなんだよねぇ……ちーちゃん意外に頑固だし」
篠ノ之束が織斑千冬等の極少人数だけに心を開いているのは誰もが知っている。束と千冬の仲だこそ通せた無茶だってある。
しかし今はただの一般生徒と別のクラスの教師という関係でしかなく、かつてのように頼み倒すことは叶わない。
「……いっそ上を脅すか」
「平和的じゃないな。そもそも、ここで対応を取ると寧ろ警戒されかねない」
「逆転の発想はどうなのさ。アンタは白兎とセットにしておけばお得みたいな」
「俺らはキャンペーンセットかってんだ。しかしお前さんが警戒されることは逃れられない。それに比べれば篠ノ之と素直に2人部屋の方が安全性は高い。もう数年も顔を付き合わせてないんだろう? 仮面さえ被ってれば何てことはない筈だ」
「やっぱそこに落ち着くかぁ…………うぅ、大丈夫かなぁ……」
「今から弱気でどうする。命の駆け引きをするよかマシだ。まぁバレたらバレたで何とかしてやる。お前さんはとにかくもっと強い仮面でも創るんだな。無理なら呼べ」
「今創って。正直来てからじゃ遅い」
「……はぁ、全く。体は成長してもまだまだガキだな」
「セクハラで訴えるぞコノヤロウ」
部屋交換は何事も無く行われた。本来ならクラスごとに区画が分かれているのだが、ここは特例措置である。
「いやぁ、こういう待遇は素直に有難いぜ」
同室者の変わった一夏は気が抜けた表情でベッドに寝転んでいた。幼馴染みとは言え女子と同室になるよりは男子の方が気が楽なのだ。
「……って日影、何してなんだ?」
「見ての通りのことさ」
弄っているのはコンセントプラグ。つまりは、
「ほれ、この通りだ」
「何それ」
解体して出てきたのは小さなブロック状の精密機械だった。
「用心が足りないぞ一夏。こいつは盗聴器だ。あとは、…………っと、これもだ。こっちの場合はカメラ付きだが」
「な、何でそんなもんがあるんだよ!?」
「よく思い出せ。俺達ゃ何者だ? 世界でたった2人しかいないISを動かした男だぞ、どんなデータだって価値がある。だからこそ世界中の諜報機関が付け狙ってるのさ」
解体した盗聴器等を手の中で弄び、ニタニタと笑う。犯罪の明らかになった異常事態だと言うのに、それをまるで楽しんでいるかのように笑っていた。
「他にも天井の角だとか蛍光灯の影だとか、あとは鏡の裏もそうだな。この部屋にゃごまんと諜報機器があるぞ。……あぁ、安心しとけ、それらは今全部片っ端から取り除いといたからな」
「そ、そうか……、」
飛び起きた一夏は再びベッドに倒れ込む。先程の清々しい表情とは違い、今は意気消沈しているような、ショックを受けている表情をしていた。
「確かにいきなり連れて来られて意味もわからんかったからショックなのも無理はないさ。何も知らされず、右も左もわからなかったんだ」
「ああ…………今更だけど、痛感したよ。俺達って特殊なんだな、って……」
突然放り込まれた一夏ではどうしようもない。1ヶ月近くかけて入念に準備してきた彼と比べてしまえば心構えも何もかも満足なものではなかった。
「今後は俺が定期的にチェックしておくが、不安だったら言ってくれ。それに、俺が部屋にいない間は極力IS関連の事は控えた方が良いかもしれんな」
面倒なことになった。その分束音から離れられたのはある意味で好都合だったかもしれないと考える。ヘイトが集まるのがここに集中すれば御しやすい。
「部屋が不安なら1回外の空気でも吸ったらどうだ? 俺も少し外に出たいし、帰ってきたらまたチェックするし」
「あー、そうすっかな。頭切り替えねぇと」
一夏の言葉に「その意気だ」と薄く笑う。ここで潰れては後が困るのだ。
「さて、行こうか。今日は東海岸まで出てみるとしよう」
「結構遠くまで歩くんだな」
「夜風は気持ち良いぞ。それに星が綺麗に見えればさぞ良い気分転換だ」
部屋を出て2人は外へと向かっていく。その背中をどこからともなく監視し続けている影があったのは言うまでもない。