キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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 6月。今月中にある目玉イベントと言えば学年別トーナメントだ。校内も大分ムードに押されて僅かに熱気も漂ってきた。そんな風に思えてくる梅雨入りの時期でもある。

 

「資料は?」

「はいこれ。特に言うほどのことはないよ」

 

 束音は今自室ではなく一夏達の使う部屋のベランダにいた。ベランダでこっそり喫煙中の彼に資料を手渡すためだ。

 資料内容はとある秘匿研究施設について。本来なら一般生徒が手にできるような情報ではないのだが、束音の場合は別だ。例え情報のセキュリティレベルが最高機密に設定されていようと破るのは他愛もないし、気付かれずにシステム内に浸入するのも、お手のものだ。

 

「……こうして見てれば引っ掛かる場所は無いんだがなぁ……」

「何か気になることでも?」

「何もないからこそ気になる。俺が以前に作成した資料と情報がまるまる同じだ。コピペレベルでな」

 

 指先で紙の資料を軽く弾く。経験済みの事象であり、前世に極めて近い出来事を繰り返す今の時間にあり得ない話ではないのだが、彼にとって意に介するような話でなくなるものはなかった。

 

「推論でしかないがな。俺はアイツらも同じようになってるんじゃないかと考えてる」

「前世の記憶を所持しているってこと?」

「恐らくは。最悪を考えればそうだ。そしてアイツらも、愚かだが低脳じゃない。同じ過ちを繰り返して、こんなにも重要な事を失敗させる筈がない。寧ろ罠なんじゃないかと疑う」

 

 疑心暗鬼に陥らせるのが目的だとすれば素晴らしい作戦だが、と彼は言う。

 

「……まぁどの道、後攻の俺らは見て対応するしかないんだが」

 

 後出しジャンケンではない。単純にスタートの差である。仕掛ける側でないからこそ、後手に回って対策を練ることしか彼らにはできないのだ。

 

「丁度良い、視察を兼ねてEUへ行こう」

「ハァッ!?」

「いい間抜け面だな」

 

 ピロリーンと写真を一枚。案の定叩き落された。でも表情はバッチリだ。保存しておく。

 

「ったく…………ああ、もうっ」

「何だ、何も言ってないのに納得か?」

「納得してないけど理解はしたよ!! 確かに丁度良いもんね!!」

「不機嫌になりなさんな」

 

 誰の所為だよ!? と不満を爆発させる束音に煙を吹きかけようとすると全力で飛び退いて行き「こっち見んなアホぉ!!」と言われた。離れてくれたなら僥倖だ、目的は達成された。

 短くなった吸い殻を携帯灰皿に詰め込む。そろそろ整理しないといっぱいになりそうだ。

 片付けたところで彼は外に向けていた体の向きを変え、背中から柵に寄り掛かり口を開いた。

 

「お前さんはどうする、一緒に行くか?」

「嫌だ」

「デートだぞ、デート」

「嫌だ」

「フランスだぞ?」

「嫌だ」

「ついでにドイツにも行くぞ」

「嫌だ」

 

 がるる、と敵意剥き出しで頑なに拒否する束音に彼はやれやれと嘆息して首を横に振った。

 

「わかったわかった。じゃあ俺1人で行ってくるさ。いない間にヘマやらかすなよ」

「さっさと行って来いよバカ」

 

 んべ、と舌を出してから踵を返し部屋を出ていく束音の背中に「お土産何がいい?」と投げ掛けると「バウムクーヘン!!」と威勢の良い返事が返ってきた。欲望には忠実な辺りが笑えてくる。

 束音が出ていくと入れ替わりに一夏が不思議そうな顔で廊下を見ながら部屋に入ってきた。

 

「なぁ、何かいつもの子がすげぇ怒った顔して出てったけど大丈夫なのか?」

「いつものことだ、気にする必要はないさ。どうせ夜には忘れてる」

「そう、なのか……?」

「そういう奴さ」

 

 惚ける一夏に肩を竦めて返す。

 

「いつもそんな感じだけど本当に大丈夫なのかよ。もしかしたら……、」

「勘違いも甚だしい。そんな関係な訳ないだろう。回りから見てどうだ、美少女に厳つい男だぞ? 不釣り合いにも程がある」

「うーん……別に俺は本人達がそれなら周りは関係ないとは思うんだけどなぁ……」

 

 一夏の意見に「どんな聖人君子だよお前は」と言い薄く苦笑する。これは価値観の違いだろうが、流石に彼としても付き合っているだとかそういった誤解を招くような状況はあまりよろしくないんじゃないだろうかと思った。

 

「取り敢えずこの話はここで終わり。で、話は変わるがフランス・ドイツの土産と言えばなんだと思う?」

「本当にいきなりだな……。んー、ドイツならシュトーレンとかか? クリスマスとは無縁だけど」

「なるほど。じゃあそれにしようか」

「って言うかなんでそんなこと聞くんだ? まさか行ってくるとか言わないよな……?」

「ところがどっこい。企業の関係で明日から欧州巡りをする」

「……マジで?」

「大真面目な話さ。期待して待っててくれ。もし帰ってこなかったから飛行機が落ちたと思えよ」

「やめろよそんな非現実的な話……」

「冗談だ。まぁしかし予定の前後はあるだろうからな。明日から丁度1週間で帰ってくる」

 

 寄りかかっていた柵から離れ部屋に戻る。

 一夏が見守る中スーツケースと資料を入れるようなビジネスバッグを用意し、必要最低限の生活必需品を詰め込み始めた。

 

「この後俺は出るからな。留守中は男1人でまぁ頑張ってくれ」

「結構急だな……」

「仕方ないさ。お前はともかく俺は企業所属、仕事なんてものもある」

 

 荷を準備し終えたら後は出るだけだ。さっと確認をしてから荷物を持って立ち上がる。

 

「そんじゃあな」

「おう、また1週間後に。いっらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おわり
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