束さんがあんな研究者になっちゃった原因を作り出した男とのドタバタな日常モノ? 方向性がイマイチ定まってない。
まだ純粋な頃の幼いちーちゃんと束さんを書きたかった。
(ツイッター解説より)
1つ目の話
それは私、織斑千冬が幼稚園から小学校一年になった頃に始まる。
「僕が求める者は、友でもない。親友でもない。恋人でもない。唯一、僕が求める人物は、真の理解者であるッ!!」
それは入学式を終えて、クラスで自己紹介を始めた時だった。
「僕の欲求に答えられる者を、僕はいつまでも待とう!! 僕が欲する者とは、僕を理解し、納得させ、打ち震わせる人材!! 是非とも我こそはという者は名乗りを上げてくれたまえ!!」
シン、と静まり返る教室。私はその時、ただただコイツはバカなんだと思った。思い込むことにしたのだ。
入学式等が終わり授業も本格的に始まった。
相も変わらず東は何故しているのかわからないドヤ顔のまま休み時間中小学校を歩き回っていた。クラスにいる時間なんてのは授業以外無かったと言えるくらいに。
それだけなら良かった。そう、東だけなら、まだ良かった。
実に(変に)行動的な東とは対照的に、もう一人、いつもいつも教室の隅っこで分厚い本に目を通す少女がいた。自己紹介の時、ぶっきらぼうに「篠ノ之束」とだけ名乗った、物静かというよりは周りを拒絶する少女だ。
「……しののの」
「………………………………」
「おい、しののの」
やけに“の”が多い苗字だと思ったがそれだけ。何故かクラス委員長をやることになってしまった私は、何度も何度も無反応の篠ノ之に話しかけた。そうでもしないとクラスに溶け込めない、そう思ったからだ。それにこうでもしないと周りから「なにがクラスいいんだ」とか言われそうで癪だったのもある。ともかく、篠ノ之の心をこちらに向かせなければと幼心ながら頑張ったのだ。
「……しののの、こっちをむけ」
「………………………………」
「しのののののっ」
「うっさい」
のが多くなった。自分が噛んでしまったことに恥ずかしくなるが、それ以上に篠ノ之のつっけんどんな態度に頭に血が上った。
「いいかげんにしろッ!!」
幼いから、という言葉で片付けられてしまうのが子供の特権と言えるのか。その時、私は彼女の読んでいた本を取り上げて頭を叩いた。
「ッ、何するのさ!?」
「そっちがはなしをきかないのがわるいんだろうがッ!!」
「話ッ!? そんなもの聞こえてるよッ!! 知ってて無視してるんだからどっか行けば良いじゃないか!!」
「おまえがいつもいつもひとりでいるからこっちはせんせいにまでたのまれたんだぞッ!! それをおまえは……ッ!!」
「黙れ!! て言うか、本返せッ!!」
立ち上がって体当たりをしてくる篠ノ之。突然の攻撃に身を竦ませた私は彼女と一緒に倒れ、取っ組み合いの大喧嘩になった。
本が手を離れて床を滑ったがそれどころじゃなかった。本を拾おうとする彼女に覆いかぶさり、私はそれを力のない腕で投げようとした。無論、投げれる訳が無い。しかし力が無いのは向こうも一緒でバランスを崩して床を転がった。
「~~~~~ッ、邪魔ッ!!」
「なにをぉッ!? っぁぐッ……」
転がったまま蹴って来る足が肩に直撃、痛みに顔を顰めるがそれよりもやり返してやるという思いが強く、すぐに起き上がった私は彼女に馬乗りになった。マウントポジションという奴だ。
殴ってやる。一心不乱に、周りも見えずに拳を固めて振り上げた。篠ノ之が私の下でビビって目を閉じ腕で防ごうとする。
「コラッ、二人共何やってるの!?」
その時だった。誰れかが呼んできた先生が私を羽交い締めにして篠ノ之から私を引き離したのだ。振り下ろそうとしていた腕が空振り、二人掛りで押さえ込まれた。その後はよくわからないことを自分でも叫んでいたのだと思う。
放課後には両親が呼ばれて何度も何度も頭を下げていた。私はこの時向こうが応じなかったのが悪いと言って頑なに謝罪を断ったが拳骨を落とされて涙目のまま渋々謝ったのだった。
翌日である。
「………………………………」
不機嫌な私は廊下側の机に座ったままむくれていた。昨日のことが余程納得いかなかったのだ。
教室の隅では相変わらず篠ノ之が静かに本を読んでおりそれが尚私の歯車に拍車をかけていた。
元々目つきも少々鋭い私が、不機嫌で、更にイライラから貧乏ゆすりまで始めれば、自然と周りから人が遠ざかっていく。
「む? やけに空気が悪いな」
そんな空気の中にマイペースなドヤ顔を崩さずに入ってきた東。これ以上ややこしくしないでほしいものだと思った。
「ふむ。そう言えば昨日喧嘩があったか……」
そう言って私と篠ノ之を交互に見やる東。不機嫌な私が全力で睨み返すが、奴は飄々とした態度でそれを流した。それが更に怒りのボルテージを上げていくのだが、昨日のことですぐに怒り散らしてもロクな結果が出ないと本能的に察知していた私は何とか自制心を保って席に座り続けた。
「いや、僕には関係がない話だ」
それならあんな大声で言わなくても良いだろうに。
関係がないと言ってから東は興味が失せたと言わんばかりに私達から視線を外して黒板に向かった。白のチョークで、私には理解できない幾何学模様を描き始める彼に、今度は何事だと不機嫌度マックスの視線を向けるが、やっぱり彼はそれを無視。嬉々として音程のズレた鼻歌を歌いながら尚チョークを走らせる。
「………………………………」
ふと、彼に近づく人影があった。篠ノ之だ。読んでいた本を放り投げて、彼の描く模様に強い興味を抱いた瞳を向け、ふらふらと近付くと彼女は彼と同じようにチョークを手にとった。
「む、篠ノ之束君と言ったか。手伝ってくれるのかい?」
「………………………………」
無言。しかし、篠ノ之はそのまま黒板に、彼の模様に更に線を書き足す。
「おお。そこは丁度僕が書き足そうとしていたところだ。君にもコレがわかるとは、中々嬉しいねぇ」
「………………………………」
「ではそのまま続きを頼むよ。僕はもう一次元先に進んでいるからね。出来たら声をかけてくれ」
「………………………………」
やはり、無言だった。しかし東はそれを肯定と受け取ったらしく、(気持ちの良いとは言えない)笑顔で顔を歪ませた。
そのどこかを、私は楽しげだな、と思った。そして、羨ましいと思った。
「篠ノ之君。そこは地味にするよりも、思い切って別の視点から切り込んだ方が良いぞ。例えば、こうだ」
「………………………………」
「そう、そうだ。そして、こう。そうすれば君が今まで考えていた頃よりもずっと効率的なモノが完成する」
「………………………………」
「ふむふむ。中々上出来じゃないか。……ほう、君はもうそこまで見つけたのか。素晴らしい」
「………………………………」
小学校一年生とは思えない理解の及ばない会話。いや、会話というよりは東が一方的に篠ノ之に話し掛けけているだけなのだろう。その姿が思わず、友達のように見えた。ズキンッ、と胸の辺りに鋭い痛みが走ったように錯覚したのも、この時だった。
「ふふ、むふふふふ。良い出来栄えじゃあないか篠ノ之君っ。そんな君にはこんな本をオススメしようじゃないかッ。君はどうやら読書しかやることがないみたいだからねぇ」
それはなんとストレートで失礼な言葉か。その言い方はないだろう、と思った私だが口には出さなかった。
「いずれも既に証明されたものだが、僕が言いたいのはそんな野暮で低脳なことじゃない。僕は、奇抜な発想から生まれる未来の可能性を探っているんだ。それを見つけるためのパートナーを欲しているんだ。篠ノ之君、君は現時点で、暫定的に僕としての評価が一番高い。この本を貸すから返すときにでも僕のパートナーになるかどうか返事をくれるかい? 楽しみにしているよ」
言うだけ言って、篠ノ之に数冊の本を持たせた彼は上機嫌のまま席に着くと筆箱から鉛筆を取り出すとノートにまた何か書き始めた。それは昨日もやっていたことだ。授業の話もロクに耳を傾けず、ただひたすらに自分のしたいことだけをやり通す。東のマイワールドは、誰にとっても筆舌し難いモノであった。
篠ノ之はと言うと、東に渡された本を早速、いつもの教室の隅で読み始めていた。今までのように適当に本を捲るのではなく、一ページ一ページを念入りに、舐め回すように。
本当に、私はどういうことなんだと混乱し始めたのだった。
入学式から一ヶ月が経った。
私と篠ノ之の大喧嘩は校内に瞬く間に広がったが、またあっという間に時間流されて忘れ去られた。
それよりも、東と篠ノ之の奇行な行動の方が学校中に浸透していた。休み時間は黒板や紙を使ってひたすらに生徒や先生にも理解できない計算やら何やらを二人で展開させていくサマは、皆から気味悪がられた。東はそのキャラクターというか一般人とは遠くかけ離れた感性で。篠ノ之は、東以外の他人を完全に突き放すような態度で。二人は早くも校内で浮いた存在になっていた。
そんな二人は、早くも高学年に目をつけられ、どうでも良いような理由でいじめにあっていた。
二人はそんなことどこ吹く風という態度なのだが、それが益々気に入らないであろういじめの主犯達はいじめの内容を更にエスカレートさせていったのだ。
学校側はというとそれを見て見ぬふり。二人が訴えないお陰で表立った騒ぎがないから良いものの、完全に無関係を貫く態度だったのだ。
東はともかく、篠ノ之は私も嫌いだった。しかし、それ以上に自己満足だけで他人をいじめ、それに楽しみを見出すというものは、もっと許せなかった。
とある放課後。篠ノ之と東はよく一緒に帰宅するようになっていた。変人同士気が合うのかと失礼ながら頭の片隅で思っていた。私はと言えば何故か二人の帰路が同じなので少し時間をズラして後を追うように、しかし絶対追いつかないように帰宅している。
今日も支度を終えた私はしばらく教室の掃除を手伝いながら、友達などと話をしつつある程度時間を潰してから帰路についた。
しばらく歩いていると、とある路地で高学年の男子たちが
相変わらず東は飄々と。篠ノ之は無表情で彼らを見ているが、多勢に無勢と見た男子生徒達は余裕の態度を崩すことはなかった。
「よぉお前ら。さいきん調子のってるんじゃねぇのぉ?」
「デカい顔して歩いてんじゃねぇよ」
「学校じゃだれが一番えらいか、わかってねぇみただな」
「教えてやろうぜ、オレたちが学校で一番ってことをさぁ」
「いいなぁ、ソレ!!」
汚い笑い声を上げる奴らに、思わず虫唾が走る。声も聞きたくないくらいに。だが、それでも、やはり人間として間違った行為をする奴らに無意味に絡まれる二人を放っておきたくないという本心も、確かに私の中にはあったのだ。
「……あ? 誰だお前」
と、グループの一人がこちらを見た。ずっと見ていたのがバレたらしい。
「おいおいおいおい、アイツあれじゃねぇか? この“しのの”と大げんかした」
「はぁぁぁぁ? どんだけフリョーなやつだよ。それじゃあオレたちがキョーイクしてやんないとな!!」
わらわらと数人がこっちにやってくる。拙い、と本能的に思ったが、恐怖なのか体が動いてくれなかった。私は小学一年、比べて向こう小学六年が二人掛り。もし襲われたら勝負なんてどころじゃない。一方的な暴力だ。武術の心得も何も無かった私は酷く後悔した。変な正義感に囚われず逃げ出して見て見ぬふりをいれば良かった、と。
不気味な笑顔を浮かべてジリジリと地下よって来る男子。
そんな中、一際不気味で、理解できない黒笑を浮かべた人がただ一人いた。――東だ。
全員の目が私に集まる中、東は自分の目の前の男三人の膝を瞬く間に蹴り抜いた。膝カックンの要領で崩れ落ちる男、そいつらをおしのけて地面に転がし、篠ノ之の手を取って包囲網から抜け出す。男たちが走ろうとするが、倒れてから起き上がろうとする三人に躓いて足止めを喰らっていた。ここまでも東が全て思い描いた通りだと彼は後に語る。
固まっていた私の所に来た彼は目配せでついてこいと言うとそのまま駆け出す。何が何だかイマイチ理解しきれていなかった私も取り敢えず東の言葉に従って後を追うことにしたのだった。
三人で一緒に全力で駆け込んだ場所は、大きな道場を構えた家の敷地だった。その隣には神社――篠ノ之神社が併設されている。
全力疾走で疲れきった私達は無断で道場に上がり込み、そこに座り込んだ。東と篠ノ之は喋れないくらいに肩で息をし力なく横になっていた。
「ぷっ……はははっ」
ふと、笑いが溢れた。あんなにあっさりと男たちを撒いてしまうような東が、私よりも消耗して板張りの床に張り付く光景がちぐはぐ過ぎたのだ。
「東、おまえ……くふふっ」
言葉にできないながらも、面白かった。
東はと言うと大の字に寝転がりながらもニタリとしたニヒルな笑みを崩さずにいた。
「織斑千冬君と言ったね。あの集団に絡もうなんて、なかなか度胸がある。いや、野蛮なだけかな?」
「なにおぅっ」
なんて失礼な奴だ。当時“やばん”と言われても何を意味しているのか全くわからなかったが、取り敢えずこちらを滑稽にしているのだけは直感的に理解した私は、しかし、晴れ晴れした気分で東に言い返した。
「そっちこそ、じょしにたいりょくでまけるとはオトコらしさがないな」
「褒め言葉だね。僕は運動なんてクソくらえなのさ。その分僕にはコッチでやることがある」
そう言って自らの頭を指す東は全く悪びれていないかった。
「……ほら、僕に声を掛ける暇があるなら、篠ノ之君と話したまえよ」
東で顎で示す先には、ようやく息を整え終わった篠ノ之がボーっとしていた。疲れきって放心しているらしい。
「……、っ……、」
話しかけようとして、言葉に詰まる。一体自分が何から話せば良いのか。アイツは話を聞いてくれるのだろうか。様々な疑問が浮かんでは消えるを繰り返す。
「僕が嫌いな非科学的な事を言うとだね。人間は目と目を合わせて話し合うと良いらしいよ」
困った表情で俯いていた私が東の声にハッとそちらを向くが、ヤツは視線を逸らして窓の外を見ていた。全く、素直じゃないヤツめ……。
「し、しののの」
「………………………………」
無言で、しかし、あの時よりは幾分か透き通った瞳が見える。目を合わせると、何かつっかえていたモノがスッと取れたように感じた。
「あのときは、すまなかった。わたしは、その、ついいらいらして、たたいて……、ごめんなさいっ」
今思えば、あの時は本当にやりすぎたと痛感していた。元々は篠ノ之の都合を、こっちが勝手に変えて彼女を無理矢理引きずり出そうと乱暴にしていたのだ。後悔の念が津波のように押し寄せて来て目頭が熱くなった。
――――許されなかったら、どうしよう。
許されなくても仕方ない。それだけの事をしてしまったことは確かにわかっていた。しかし、それでも、一方的に嫌われてしまうというのは、怖かった。
「…………顔、上げてよ」
たっぷり一〇秒は経った頃。小さく篠ノ之が言った。
「……私も、ちょっと突き放しすぎた」
ハッと顔を上げる。篠ノ之は顔を赤くして慌ててそっぽを向いた。その表情が、何となく可愛くて、可笑しかった。
笑いそうになるのを堪えると、むっとむくれた篠ノ之が赤い顔で睨んで来た。しかし、あの時のような邪険なものではなく、何というか、戯れあうような感情が篭っていたように感じたのは嘘じゃないと思う。
「むふふ。どうやら一件落着と言ったところかね」
ようやく、寝転んでいた東が起き上がって満足げな顔で私と篠ノ之を交互に見た。
「……東。君、これも全部織り込み済み?」
「ふふふふふ、課題を一つ一つ終われせるのは手間だからね。あの男子生徒は中々都合が良かったよ」
「なんだそれは。ただのぐうぜんだろ?」
「何を言うかね織斑君。僕はありとあらゆる事象を組み合わせて最適な行動をしただけさ。スリルがあっただろう?」
「もうあんなこわいおもいはしたくない」
「私も、かなぁ……」
篠ノ之と視線が絡み合い、どちらともなく笑みを零す。この一瞬で一気に距離が縮まったかもしれない。何となく、いや、絶対的な確信があった。東も、やっぱりドヤ顔で笑った。しかしそれに私や篠ノ之から負の感情が沸くことはなく、寧ろ晴れ晴れした気分になった。