キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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第1節『極東本日真夏日和也』

 

 なぁにが燦々日光午睡宮酒池肉林だッ!!

 

「あっつぅっ……!!」

 

 暑い、暑すぎる……!!

 

「寧ろ日の本ならこれが普通じゃぞ?」

「マジか日本人強すぎる……」

 

 サーヴァントが羨ましい……寒暖差があり過ぎるのは苦手だ。本当に。

 

「先輩、大丈夫ですか? 立てますか? おんぶしましょうか?」

「お姫様抱っこを所望いたす!!」

「冗談言えるなら大丈夫ですね」

 

 マシュが冷たい……。

 

「ひー。しかし暑すぎるよ……ちょっと木陰に行かせて……」

 

 サウナかってくらいにここは暑い。まだ湿気が無い方だから良いとして……いや全然良くはないんだけどさ。

 避暑地は日陰。これだけでも全然違う。風がそよそよしてるから少し気持ちいい……。

 

「本当に暑いみたいですね……サーヴァントなのでそこまで不快には感じませんけど」

「ここでバテてると後がないぞ? 何せ戦じゃ。炎天下で大運動会ってとこじゃの」

「現代じゃ考えられない……」

「でもこの日差しだと帽子が欲しいところですね……サークルさえ出来てしまえば良いのですが……」

 

 すごいな武士。何でこんなクソ暑い日に動けるの。武士道って何さ。

 

「フォォォォォ……」

「あ、フォウさん」

 

 マシュの盾からのそのそとフォウが出てきた。しかしいつもの元気はどこへやら、ぐったりした様子でわたしのいる日陰にやってきてぐにゃりと横になり始めた。その毛並は暑いだろうね、心底同情する。

 

「そのフォウとやらの毛は剃らんのか?」

「「とんでもない!!」」

 

 わたしとマシュの声が重なった。こんな綺麗なフォウの毛を剃ってしまうなんて神への冒涜!! 許さないぞ。

 

「フォウのもふもふは毎日わたしとマシュが頑張ってブラッシングしてるんだ、それを蔑ろになんてできない!!」

「そうです、フォウさんの毛並は重要文化財、いえ、世界遺産です!!」

「……とやかくは言わんが、くたばる前に対処した方が良いのではないかのう」

 

 すげぇ、ノッブが珍しく真面目だ。暑さにやられてしまったか?

 

「寧ろやられたのはそっちの頭じゃろ」

「先輩、頭大丈夫ですか?」

「ナチュラルな煽りやめて」

 

 大丈夫だから、本当に。

 

『あー、あーテステス。本日は晴天なりー。もしもしロマンだ、聞こえる?』

「本日は晴天どころか灼熱地獄だよロマン。今すぐ代わって欲しいくらいに」

『……すごいぐったりしてるね』

「日本暑すぎる」

 

 ロマンからの通信。カルデアの涼しさが羨ましいよ全く。

 

『さて、通信も出来たしまずはサークル設置に行くとしようか』

「補給に帽子とアイスも追加でお願いロマン……」

『はいはい、その辺りはきちんと彼女に伝えておくよ』

 

 ともかくとしてサークルだ。あれさえ用意できちゃえばこの暑さもどうにかなる……と信じたい。

 

「それではドクター、霊脈の位置はわかりますか?」

『バッチリ把握済みだ。と言っても結構歩く事になりそうだから覚悟しておいてくれ』

 

 日陰ルートがいいなぁ……。

 

『君達が今いる場所は日本の関東地区だ。現代で言う東京を中心とする地域だね。今は西暦1600年の8月終わり頃。記録によれば徳川軍が会津征伐を取りやめて関ヶ原に向けて進軍してる頃合いと見て良いだろう。霊脈のポイントはそこから東にある。距離にすると……軽く40キロくらいはあるのかな』

「ごじゅうぅっ!? フルマラソンレベルじゃん!!」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げてしまう。いや、嘘だ、わたしは信じないぞ!! ロマンの嘘つき!!

 

「もっと近いのないの!?」

『残念ながら、だね。日本は霊脈が浮き出る場所が局所的だ。人為的に集められていると言っても良い。多分だけど神社とかに寄り添う形になってるんだろうね』

「車欲しい……」

「この時代にそれは望み薄ですよ、先輩」

「馬があれば充分じゃろ」

「その馬がないんだよォ!!」

 

 こんなんだったらライダー連れて来るんだった……。現代最高。

 

「……はぁぁ。仕方ない。歩こうか」

「疲れたらおんぶしてあげますから、頑張りましょうね」

「わたし頑張る!!!!」

「大丈夫じゃろうか」

『マシュと合法的にくっ付く為なら恥を知らない人間だから大丈夫だよ、きっと』

 

 アーアーキコエナーイキコエナーイ。

 

 と、いう訳で3人と1匹……1人と2騎と1匹? ともかくとして東の霊脈(パワースポット)に向けて移動開始だ。アメリカの時みたくエジソンが車を用意してくれる事もないので脚が無事でいてくれればいいんだけど。

 

「しかい日の本は良い。田園風景は欧州ではお目にかかれんからのう」

 

 わたし達が歩いているのは、田んぼの脇に作られた土手道。車一台分くらいは通れる程度の道幅はあるからまだ全然歩きやすい。

 道脇には用水路が引かれ、その横に広がる田んぼ。長い穂を持つ米が青々と茂っている。

 

「日本ってお米が主食なんだっけ?」

「パンも好きじゃがな、やはり主食は米よ。漬物によく合う」

 

 ノッブの得意げな顔に頷きながら稲とやらを観察。穂先に粒々がいっぱいあって、これがあの白いご飯になるらしい。カルデアでも日本のサーヴァントはお米が好きな人が多いからよく見る。

 カルデアの地下プラントで栽培できるだろうか。

 

「む?」「っ、先輩」

 

 なんてのんびり考えていると、不意にマシュとノッブがわたし達の行く道のその先を睨んだ。

 

「? どしたの?」

『生命体の反応が200くらい近付いてきてるみたいだ。速度的には馬だろね』

 

 マシュが大盾を、ノッブが火縄銃と刀を構える中、ロマンが通信越しに教えてくれた。耳を澄ませれば遠くから蹄が地面を叩く音がいくつも聞こえて来る。音も段々と大きくなってきてるし、近付いてきているのは明白だ。

 

「ふむ、この速さじゃと斥候か、はたまた逃走か。いずれにしろ向こうは最大限警戒しておるわ」

「信長さん、わかるんですか?」

「当り前じゃ。進軍さようならこうも馬に走らせることはせん。先に馬が潰れてしまう」

『なるほど、言う通りかもね。まぁしかし敵か味方かは相変わらず不明だ。警戒だけは解かないで、でも戦闘は避けた方が良いかもね』

「? 丁度脚があるんじゃ、馬でも拝借すればよかろう」

 

 ノッブは完全にヤる気満々だ。マシュはその横でわたしを見たりしておろおろしてるけど。可愛い。

 しかし拝借って言う雰囲気じゃないよノッブのオーラ。完全に略奪する気だよこの人。恐い。

 

 軍集団の音が間近まで迫り、緩く曲がった道から戦闘の騎馬が姿を現した。後から続々と列になった騎馬達が駆けてくる。

 

「ッ、停止ィっ!!」

 

 騎馬隊が止まる。先頭で軽そうな鎧を着込んだ男がこっちを見ていた。その視線は疑惑そのもの。

 

 ……当たり前か。現代軍の軍服を着て火縄銃と刀を持った女の子と大盾持った女の子、あとわたしとその足元に謎の白い生物。西暦1600年の、それも武士達の時代を鑑みれば充分可笑しな集団だ。

 

「……着物着てれば良かったのかな……?」

「先輩、今の状況でギャグに走るのは無いと思います」

「ごめん」

 

 睨まないで……ゾクゾクしちゃう。いつぞやの「先輩、最低です」の蔑み具合は絶頂寸前だった。

 

「して、マスター。如何する?」

「穏便に事を運ぶ方法は?」

彼奴等(きゃつら)を見よ、既に構えておるわ」

 

 斥候とはなんだったのか……。

 

「外観は家康様の仰る通りだ、()くぞ!!」

「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」

 

 ひぃぃぃ!? すんごい雄叫び!!

 てか完全に敵だと思われてる!!

 

「マシュ、ノッブ!! 何か事情がありそうだから適当に無力化!!」

「了解です、マスター!!」

「小難しい注文じゃのう」

 

 とにかく自衛だ、正当防衛!! 目くらましになるかなー程度の魔術を待機させつつわたしは後方に下がる。

 反対にマシュが大盾を持って前に出た。先頭を駆る騎馬へ飛びかかり、そっと盾をかざした。

 馬は急には止まれない。

 綺麗に、乗馬していた彼だけが盾に弾かれ落馬した。衝撃も大きかったのか、怪我はないけど気絶してる。マシュも大分峰打ちが上手になったもんだ。

 

 ノッブはと言えば両手に火縄銃を構えて容赦なく発砲。弾丸がマシュの脇を通り抜けて後方の騎馬を捉えた。

 撃ったら次、撃ったら次と持ち替えて、どんどんと騎馬の数を減らしていく。戦国最強と謳われた武田の騎馬隊を征しただけあって本当に扱いが上手い。

 

 ……でもいちいちマシュのすぐ近くを撃つのはひやひやして心臓に悪い。

 

「のっ、信長さんッ!! 背中に当てないで下さいね!?」

「当てぬわ阿呆。わしの腕を舐めるでないぞ」

 

 若干涙目のマシュ可愛い……じゃなくて、ノッブ、当てないでね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分で鎮圧が完了。死者ゼロ名、重傷者もなし。

 

『うん、周囲に敵影はないよ』

「ふぅ。戦闘終了です」

「あっけないのう」

 

 馬はそこら辺にまとめておいて、乗っていた兵達を縛り上げて一ヵ所にまとめた。当初よりいくらか数が減ってる気がするんだけど。

 

「斥候であったようじゃの、いくらかは引き返して伝令に帰ったのじゃ」

「追撃しますか?」

()()せ。行ったところで無駄じゃ」

『それにとっくに感知の範囲外だ。追い掛けるのは難しいだろう』

 

 ひらひらと手を振るノッブ。ロマンもこう言ってるし、何よりノッブが言うなら追わなくても良いだろう。それに気になることもあるし。

 

「で、拷問な訳じゃが」

「ちょっと飛躍し過ぎじゃないですか……?」

 

 一理ある。

 

『一理……?』

「まぁ穏便に話し合おうよ。敵か味方かわからないのに争うのは嫌だし」

 

 って事で騎馬隊のリーダー格っぽい人のところに行く。

 

「おい、起きろ」

「!?」

「うぉぅ、ノッブ大胆」

 

 ぐりぐりと銃口を突き付けて起こすノッブぐぅ鬼畜。怯えちゃってるじゃないの。

 

「わしらの質問に正直に答えよ。さもなくば撃つ」

「ノッブ、それ質問じゃなくて脅迫って言うんだよ?」

「この方が手っ取り早いじゃろ。ほれマスター、さっさと聞きたい事を聞いておけ」

 

 撃つなよ? 絶対に撃つなよ? フリじゃないからね?

 

「えーっと、ごめんなさい、いきなりこんなことしちゃって。でも貴方達に敵対する気は()()()()()全くないので安心してほしいんです」

『強調するね……』

「シャラップロマン。……で、いくつか聞きたい事があります。貴方の上司……って言うか大将は誰?」

 

 わたしがそう言うと、男の人はきょとんとした顔に。

 

「……お前達は、家康様を狙う輩ではないのか?」

「狙う? とんでもない。徳川家康には勝ってもらわないと困るのはわたし達の方です。つまり、貴方達の大将は徳川家康で、わたしはその味方になります」

 

 味方なのに縛ったのはそちらの自業自得という事で……。

 

「俺の早とちりだったと言う訳か……申し訳のないことをした」

「あぁ、いや、そんな気にせず……一応無事ですし」

「いやしかし、味方である者を、しかも女子供を手に掛けたとなれば末代までの恥……!!」

 

 武士って面倒くせぇなぁ!!

 

「武士道とはそんなもんじゃ。礼儀を尽くし義理に生きる。それもまた大和男児よ」

 

 うむうむと頷くノッブ。主人公には持って来いな精神論かもだけど多分わたしには一生相容れないだろうね。

 

 取り敢えず敵でないとわかってくれたようなので縄は解いてあげた。敵だったらわざわざ気絶程度で済ませる筈がないと納得してくれた。

 

「それで、貴方方は家康様の軍へ合流を?」

「まぁ、そうなりますかねぇ。説明するには色々と面倒な事情がありまして……」

 

 人類史とか焼却とかその他諸々。説明の時は全部ロマンに丸投げしようそうしよう。

 

『……何か嫌な予感が』

「大丈夫だよ。後でロマンの出番が増えるだけだから」

『裏を感じる発言に変な汗が止まらない』

 

 後方支援なんだから口動かして頑張れロマン。

 

「しかしここ最近不思議なことばかりだ。先日も何人か異国の者達が家康様の元に集まっている」

「異国……?」

 

 異国ってなると基本海外。恐らくだけど欧州勢のサーヴァントとかだろう。これはラッキーだ。

 

「よし、ならば早速戻って報告せねば。案内しよう」

 

 よっしゃ、これで最初の弊害突破だ。順調で何より。

 

「何とか上手くいきましたね」

「わたしの話術も中々捨てたもんじゃないでしょ?」

「穴だらけじゃけど」

 

 武将クラスと一緒にするんじゃありません。一般人なめんな。

 

「ってか早く移動しようよ。日差しが暑くて暑くてもう溶けそう……」

「先輩、盾の下なら陰になりますよ」

「マシュと相合い()するぅ~」

 

 肩と肩が触れそうな距離……甘酸っぱい青春……今しかない!!

 

「じゃ、わしに馬を。なに、散々乗り回して来た故、問題ない」

「了解した。そちらのお嬢さん方も、どうぞ」

 

 足ゲットだぜ。

 

 

 

 

 

 

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