キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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第2節『セイバー』

 

 パカパカと馬の蹄の音をBGMに道を行く。馬の手綱はリーダーさんが引いてくれて、マシュの後ろにわたしが乗っている。合法的にマシュにくっついてお腹に触れる。鼻血出そうだ。

 

「あ、あのっ、先輩っ」

「ん~? にゃにかにゃ~?」

「お腹を触るのは、やめてくださいっ」

「えぇ~だってぇ~マシュのお腹最高じゃん? 触るしかないじゃん?」

「だから霊基再臨の段階1つ目のままなんですか!?」

 

 当たり前だのクラッカー。マシュの白くてきめ細かいお肌をあんな分厚い鎧で覆ってしまうなんてどんでもない!!

 

「はぁ~すべすべ~」

「ひゃぁあぁっ!?」

 

 片手は馬の手綱に、片方は日差しを避けるために盾を持っているので触り放題。おへそのスリットから手を滑り込ませる……天国かここは。

 

「もぉぉぉぉ先輩ッ!!」

「どうしたんだいマシュぅ、もっと触って欲しいの?」

「先輩なんて大っ嫌いです!!」

「ウッ」

 

 死のう。

 

「ああああああ嘘です嘘です!! そんな急に落馬して蹲らないで下さい!!」

「……ほんとに?」

「大丈夫ですから、勝手にお腹触らなければ」

 

 くっ……マシュに嫌われるくらいならお腹触るのやめる。

 

「マスター、阿呆をやっとる間にもう見え始めたぞ」

 

 マシュの後ろでぐったり運ばれてる前方のノッブが指を差して道の先を示した。

 

 小高い丘の上に見えたのは白い布に黒いラインの入った大きな幕。ある空間を区切るようにソレが置かれている。

 

「おぉっ、大河ドラマとか言うので見たことある奴!!」

「奇遇ですね先輩、わたしもです」

「わしは実際に使ったがの」

 

 三者三様の反応を交わしつつ近付いて行く。殆どの人は入る前に散り散りになっていくが、リーダーさんとわたし達だけが中に案内された。

 幕内は非常に厳かというか固い空気が漂っていて思わず緊張してくるレベル。マシュも心なしか少し落ち着きがない。

 逆にノッブは堂々構えてずんずんと歩いて行くんだけど……不意にピタッと立ち止まった。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「!? ど、どしたの!?」

「お主!!」

 

 急に声を上げたノッブ。彼女が酷く驚いた表情で指を差した先には、本陣の多分一番偉い人が座るんだろうなってところに座ってる女の子。

 

 ん? 女の子?

 

「ちょっとノッブ、流石に指差すのは失礼だよ?」

 

 諭してみるが、効果なし。代わりにこちらに視線をやった女の子がすっくと立ち上がる。

 ノッブと同じく黒髪。すごく手入れが行き届いたさらっさらのロングヘアだ。首に口元くらいまでありそうな白いスカーフのような物を巻いていて、その上の表情は氷の様に冷たい。細められた切れ目は体格を錯覚させるほどに鋭かった。

 

「……ハハハッ、まさか聖杯がお主を選ぶとは!! 運命とは数奇なモノよ!!」

「……それはこちらの言葉だ。まさか貴様と再び相見(あいまみ)えようとは」

 

 その子はするりするりとこっちに歩いて来ていたかと思えば、腰に差していた刀を引き抜いた。

 明らかに異常な殺気とオーラ。そして突然ひしひしと肌を突き刺すように感じる魔力の波動。間違いなく、確信する。この子はサーヴァントだ。

 対するノッブはすんごい悪い笑みを浮かべて刀を抜き銃を肩に担いだ。ギャグ要員がなんてシリアス顔してんの?

 

 てか完全に殺る気だよコイツら!!

 

「ちょっ、ストップストップストップ!! 待った!!」

「ぬ」「む」

 

 間に割り込んで制止。後で気付いたけど殺気出してるサーヴァントの目の前に飛び込むとかバカな真似したなぁと我ながら思った。

 

「今はそう殺気出すとこじゃないでしょ!? ノッブは一旦落ち着いて!! あ、そっちの子も!! わたし達は味方!!」

 

 ね!? と必死に説得。その子はしばらく無表情のまま殺気立っていたけど、それからすぐにオーラが霧散して刀も戻してくれた。

 ホッと一息大きく溜息。スタート直後から問題がありすぎる。

 

「命知らずの“うつけ”じゃのう、マスター。少しでも遅れておっては斬られてたぞ?」

「知ってるよもう!! いいから問題事起こさないで!!」

 

 命がいくつあっても足らないよ……。

 

「……して、何用だ。その様子ならば(それがし)とはまた違うと見る」

 

 女の子はわたし達に背を向けて席に戻った。相変わらず無表情だけどさっきまでの戦う雰囲気はなくなったからまだいいかな……。

 取り敢えず、こっからの説明に関してはロマンに任せる。

 

「ってことで出番だよ、ロマン」

『そういうことか……』

 

 貧乏くじを引くのは決まってロマンだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほう、“かるであ”、か。異国の地から来るとは酔狂な輩だ」

 

 遠回しにバカにされてる気がする。

 

『そんな訳で、人類史の焼却を防ぐために僕達がいます。彼女をマスターとしてしばらく行軍に参加させていただければと』

「……良いだろう。数があるならばそれで戦略の幅は増える。(それがし)と同じサーヴァントであるならば尚更だ。……しかしそうか。人類史の焼却……中々に狂った発想だ。だからこそ喚ばれた、と」

 

 ロマンの説明を聞いて納得した様子のサーヴァントの子。野良で聖杯に召喚された理由をしばし反芻して黙り込んだ。

 

 彼女はセイバークラスで呼ばれたサーヴァントとのこと。それ以上は全く教えてくれなかった。ノッブも知ってるみたいだけど中々口を割ってくれない。日本のサーヴァントなのは大体わかるんだけど……。

 

「……また後でじっくり考えるとしよう。目下、貴様らには此度の戦況を知ってもらわねばならない。我々東軍の現状は芳しくない故」

 

 ついて来い、と移動する。参謀らしい人にも声をかけて別の幕に移った。

 

「そこへ着け。説明する」

 

 中央に地図が広げられ、それぞれの勢力を表すコマがその上にいくつか。東京付近に分布する青の軍勢と、関西と東北に位置する赤い軍勢。

 

「青が徳川を中心とする東軍、赤が石田と上杉の西軍と見ておけ」

 

 赤い軍勢の大阪付近。こっちが石田三成と呼ばれる豊富軍の中心人物が率いる軍らしい。

 東北の軍勢は上杉家が中心。どちらも徳川家に敵対する勢力とのことだ。

 

「現状、東軍はこの二派、特に上杉家に対し防戦を敷いている状況にある。当初の予定だと会津征伐と称し上杉討伐に動いていたが、その隙を見て石田が挙兵した。徳川は軍を二手に分け対処に当たっている。本来の予定であれば本軍を西に向けておく筈だったが、思いの外上杉の軍勢が厄介だ」

『史実だと確か主力を関ヶ原に向けていたね。今回それが出来ていないとなると歪みは上杉家が抱えているのかな?』

魔術師(どくたー)の言う通りだ。彼らは異形の兵を束ね、南下を始めようとしている。現在は斥候を遣わせているのみ故、奴等を潰すだけで充分だが主力が来てしまえばわからん」

「異形の兵、ですか……」

「報告によれば、その大半が屍だったそうだ」

「ってなるとゾンビの集団か……また聖杯で増やしてるかなぁ。ってなると元を断たないと止められないね」

「聖杯……確か、願いを叶える等と言う眉唾物であったか」

 

 すごく興味なさげなこの人。特に願いもないというのか。

 

「どーせ魔力の塊じゃろ? 爆弾にするのが一番じゃよ、爆弾」

「ノッブどこと戦争する気なの」

 

 まだ国際間のいざこざじゃないんだよ。

 

「で、貴様らはその聖杯とやらを回収もしくは破壊するのが目的と言ったな」

『はい。これをどうにかしない限り、人類史の焼却は免れません』

「それはこちらとしても良い事だ。(それがし)にも目的がある」

 

 とは言うもののそれについて言及する気はないらしい。サクサクと話を進めていく。

 

「現状ではあるが、家康公は西に本軍を向ける算段だ。東北には幾らかを残してそれで対処をすると聞いている。これについては策を講じているそうだ」

『多分だけど結城秀康らだろう。牽制に最上義光、伊達政宗の名前が上げられる』

「そういうことだ。江戸に戻った家康公からもそろそろ西へ転進する命が下るだろう。我々はその行軍の殿に()()()()()()()()()()()()()

「途中まで?」

 

 わたしが首を傾げた。同様にマシュもだ。

 ついて行くならまだしも、途中で引き返すのは面倒な気がする。

 

「まるで効率が悪い、とでも言いたげだな。ただ引き返す訳ではない。我々は途中で軍を離れ北進し、越後より上杉の背を強襲する。上杉は必ずや最上義光へ軍を向ける、そこを突くのだ」

『史実では確かに上杉家は最上義光へ軍を進めて徳川軍は無視、石田光成は誤算を飲む羽目になった、とはある。けれど、それが保証されると?』

「問題ない。様相が違えど上杉家は根っこまで上杉家だ。そこを違えることはない」

 

 自信満々に答えるセイバー。心なしか表情もどこか嬉しそうなんだけど……。

 

「偉く自信満々じゃのう、セイバー。アテが外れるやもしれんぞ?」

「そう思うか、アーチャー。(それがし)の眼に狂いはない」

「それは誰が保証する?」

「言うまでもない」

 

 相も変わらず正体を伏せるようなやり取り。いい加減教えてくれてもいいのに……。

 

「ねぇ、マシュはセイバーの正体わかる?」

「申し訳ありません、わたしも全くです……。ヒントも提示しないみたいですから」

 

 唯一わかることと言えば、生前がノッブの知り合い、セイバークラスに該当する、くらい。推測できるのは戦国時代の武将ってことになるんだけど……流石に候補が多すぎる。

 織田信長と言えば日本屈指の名武将、一度は天下を取りかけた彼女の顔の広さは尋常じゃない。ノッブの生きた時代に限定したとしても、現状のヒントだけだと特定は不可能だ。

 ただ、べらぼうに強そうってのはわかる。サーヴァントは皆わたしよりずっと上だけど、セイバーの持つ力は凄まじい。最優のサーヴァントってだけじゃなくて、彼女そのものが有する実力の底が知れない。

 

「ねぇノッブ。セイバーってどれくらい強い?」

「奴か? そうじゃの、めっちゃ強い。今のわしと同じくらいじゃろな」

()()?」

「然り。まぁその内明らかになるはずじゃ」

 

 ノッブはそう言ってニヤニヤ笑うだけ。何でこうも皆面白がって事実を言いたがらないのか。上に立つ人ってわかんないや。

 

 

 

 

 

 そのまま一時解散の流れとなった訳だけど、警戒は解かない方が良いとセイバーは言っていた。

 先の話でも出た上杉の斥候の話だ。その頻度も少しずつ増えている傾向にあり、陣内では常に空気が張り詰めている。

 ここを任されているセイバーはよく見回りをして激励しており、おかげで士気は高い。が、いつまでも続くかと言われれば否。人間である以上常に緊張感を保ち続けるのは難しいし、長引けば長引くほど集中力は低下する。

 

「宿を移しつつ待機しているとは聞きますが、1ヶ月強を野宿というのはすごいですね」

『時代が時代だから衛生面もよろしくないのに、彼女はよくもたせているよ。兵士1人1人の意識が高い』

「1ヶ月野宿……」

 

 キャンプをするにしても長い。わたしは途中で音を上げる自信があるね。

 今は一度幕を出てわたしとマシュが丘の上に集まっているところ。ついでにロマン。

 ノッブはしばらくセイバーと談笑しながら陣内を回っているらしい。

 

「キャンプと言えば、まだサークルやってなかった」

「確かにそうですね。時間はあるようですし、物資の補給だけしてみたらどうでしょう?」

『賛成だ。次にいつ大きい霊脈に接触できるとも限らない。出来ることは早めにしておこう』

「よーしなら早速行こうか。わたしも帽子欲しいし。ノッブ~」

「忙しいのう」

 

 もうちょい装備を見て回りたかったんじゃが、というノッブの言葉に「後でゆっくりね」と返し荷支度をする。

 セイバーにはロマンの方から連絡をしておくとのことなので準備が出来次第出発だ。今からフルマラソン分往復移動するのはすごい嫌だけど。

 

「それじゃあレッツゴーっ」

「おー」

 

 可愛く合わせてくれるマシュに感謝しつつ一路東へ。未来道具がわたしを待っている!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えぇ、ここで間違いありません。ありがとうございました。感謝します」

 

 そこは皮肉にも霊脈の集う地であった。

 ふわりと綿のように静かに降り立った大きな槍を持つ彼女は、しばし地面をぼんやりと眺め、不意に振り返ってたおやかに礼を述べた。

 

「どうってことねーさ。で、こんなとこでいいんかい? 敵さんの目の前だがよ」

「全く……問題はありません。命令されたのならば従うまで……それが、私です」

「ふぅん……ま、俺が気にすることでもねぇな」

 

 それを受け取ったのは1人の男性。戦国時代に不釣り合いな、時代で言えば現代の軍人が着るようなフライトジャケットを着込んだ男だった。

 

「どうするよ、援護は?」

「必要ありません。殺すことではなく、意味はその先にあります」

「ははぁ……軍師殿に言われたって訳か。そんじゃあ頑張ってくれ。迎えの足は?」

「優しいのですね……そこも気にせずお帰りになられれば良いかと。貴方は西、私は東」

「なるほど、そんならさっさと帰るとするわ。じゃ、お達者で」

「はい、お達者で……優しい人」

「最後まで名前は覚えてくれねぇのな……」

 

 短いやり取りを交わし男女は別れた。

 男は広場の外、林の中に紛れて遠ざかり。女は広場の中心で静かに佇み目を閉じた。

 

「英雄……私の……英雄……。嗚呼、嗚呼、……愛おしい……」

 

 その手に持つのは槍と、小瓶。

 

 

 

 

 

 

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