キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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ダンまち二次創作。
とある神様と不思議な男のスローライフ


不可思議スローライフ
1.プロローグ


 

 ガタガタと馬車が揺れる。人が四人乗ればもうスペースが無くなるだろう、その程度の簡素な馬車だ。四つの車輪に年季の入った木の板で造られた箱型の客席、年老いた御者は震える手で手綱を握り、これまた年老いた馬がえっちらおっちらと馬車を引いてゆく。

 客席は硬い板に、ボロボロになった布を敷いただけ。そこに座るのは少女が一人、擦り切れたローブを頭から被り、簡易窓から覗く景色に視線だけを向けていた。

 

 この馬車は世界で最も有数の栄えた街、迷宮都市オラリオからの馬車である。

 そして、少女はオラリオから辺境の遠い村へ向かう途中であった。

 

「…………………………………………、」

 

 窓の外には平原と林と山々が広がっている。街道を外れた馬車は辛うじて土が出ている道を進み、少しずつ人の手が付けられていない大自然の中へ向かってゆく。

 木陰に入ったところで彼女は一度窓から視線を外し、長旅で固まった体を解そうと大きく伸びをした。腕を伸ばし「うーん」と小さく唸り、すると、ローブのフードが重力にひかれて脱げ、彼女の顔が露わになる。

 

 それは、くたびれた格好には似合わぬ美貌であった。

 プラチナブロンドのショートヘアはきっちりと切り揃えられており、顔に浮かぶキリッとした表情は彼女の気の強さを象徴するかのようで、バイオレットの四白眼の瞳がそれをより強調している。

 

「……本当に、遠いところまで来てしまった……」

 

 少し肩を回し、擦れて痛くなってきたお尻を気にしながら座り直し、再び窓の外を見やった。

 

 以前のことを考えると、まさかこんなところに自分が来てしまうとは微塵も思わなかったものだ。

 ちょっとした、というには少々重いトラブルに巻き込まれてオラリオを飛び出した……少々強引に追い出された、とも言うべきか。ともかくとして、様々な経緯が重なって一人身となり、今は大した当てもないままでいる。

 これから先はどう生活していけばいいのか。ほぼ着の身着のまま出てきたが故、生活用品やそう言った類の物はほとんど持っていないのが現状だ。事前の持たされた非常食が少し、それもあと二日もしてしまえば底を尽くだろう。切り詰めて節約してこれなのだから、相当の日数が経過したのだろうと彼女は一人思うのであった。

 

 ――――と、不意にガ馬車が不自然に揺れた。明らかに普段とは違う動きだ。つんのめるような急制動にバランスを崩し、ばたばたと向かいにあった座席に転びあがった。

 何事かと目を白黒させているうちに、馬車の外から興奮した馬の悲鳴らしき甲高い鳴き声が聞こえた。

 何かトラブルが起きたのだろう。瞬時に理解し、すぐさま起き上がって馬車の扉を内側から開け放った。

 

「どうしま――――なっ!?」

 

 馬車から飛び降りようとした刹那、鼻につく鉄の錆びた臭いに一瞬顔を顰め、そして目の前の惨状に絶句する。

 停止した馬車を囲む複数の屈強な男たち。各々の手には剣やら弓やら斧やらが握られており、刃先をちらつかせて脅す様子が見て取れる。そんな彼らの表情に浮かぶのは、獲物を目の前に舌なめずりをする勝者の下卑た笑みだった。

 対して、馬車を引く二頭の馬はどちらも地面に倒れ込んでいた。首には一本ずつ矢が刺さっており、それでやられたのだろう。呼吸は出来ているらしいが、それが憔悴していく様子なのかどうかは判断できなかった。

 御者台に座っていた老人はガタガタと震えており、まとも喋ることは不可能に見える。

 

 すぐに賊に襲われたのだと判断した。そして、もう助かる見込みはないだろうとも感じた。

 

 賊の数は十を超え、大してこちらは老人一人と女一人。戦力差は圧倒的、一方的に嬲られる未来が脳裏に見える。

 

「けっ、久々にいいモンが来たかと思えば女一人か。マトモに食糧もありゃしねぇ」

 

 賊の一人、恐らくはグループ内でも発言力のあるであろう、他より一回り大きな男が愚痴のようにこぼした。

 

「まぁ女一人いればいい方だよなァ。顔は上玉だし、たまには美人を抱きてぇのが男ってモンだ」

 

 彼の言い分に他が釣られて「違いねぇ」と肩を揺らして笑った。

 彼らを見て彼女は、オラリオの住人らとは違い文化的な生活を送れなかった人々なのだろうと判断を下した。教育もされず、本能のまま生きることだけを望んだ者たち。マトモに対話をしてくれるとは考えられなかった。

 

「……目的はなんでしょうか。残念ながら貴方たち全員を満足させらる食料は手持ちにありません」

「んあぁ? 別にいいんだよ食料は。まだ備蓄もある。けど、女はもういねぇ。みーんな壊れちまった。俺たち全員の相手してりゃ、そりゃあ当たり前だけどな!!」

 

 汚い濁声をこぼす男に、彼女は思わず顔を顰めた。彼らは強姦や強盗といったことに忌避感を抱かず肯定する者たちだ。このまま捕まれば汚されるのは時間の問題と言えよう。

 

「久々の獲物だが、女だけは絶対に傷つけるなよ!! 行け!!」

 

 男の掛け声と共に賊たちが群がってくる。四方八方囲まれた状態で逃げ道はない。

 一人、男が御者へ向かって走った。その手には棍棒が握られており、拭いきれなかったのであろう血の痕があった。御者は震えたまま動けず、声すらも上げずに蹲る。

 

「死ね――――ぎゃっ!?」

 

 老人に棍棒を振り下ろす、その直前。伸びてきた長い木の棒が男の胸に突き込まれて男が地面を転がった。

 槍のように棒を持つのは少女だ。老人の前に立ち、両手で持った棒を構え、ジッと鋭い眼光で賊を睨みつけた。

 

「へぇぇ、歯向かうかい?」

「無関係の人を見殺しにはできません」

 

 少女は向かってくる男たちに向けて棒を振るう。

 剣を振り上げて来る男には手を狙って棒を振り、剣を叩き落とす。そして素早く脇腹に棒を叩き込み、怯んだところで首元を突いた。一瞬の早業に翻弄され、詰まる息と激痛に男は地面を転がった。

 

「ご老人!! 早く逃げて下さい!!」

「ハハッ、ハハハァッ!! 自分よりそんなよぼよぼの爺さんの方が大切ってか!? 大した思考だ、傑作だねェ!!」

「黙りなさい!!」

 

 我武者羅に、遮二無二に棒を振るう。

 しかし多勢に無勢、ただの少女でしかない彼女に賊を凌げるだけの体力も技量もなかった。

 

 痛みで地面を転がる男が十人になる頃、ついに少女は息を荒くして地面に膝をついてしまった。

 しかし賊はまだ五人以上いる。全く状況は好転していなかった。

 

「ただの女かと思ったら、予想以上にやるなァ? ま、もう無理なんだろうが。取り敢えず、とっとの邪魔な荷物だけ処分しようさ。オイ」

 

 リーダーの男は顎で後方に控えていた弓を持つ子分に指示する。それを受けた男は弓に矢を番え放つ。

 目が捉えるよりも速く飛び出した矢は少女の脇を通り過ぎて、その後ろへ突き立つ。

 

「ッ!?」

 

 瞬間、少女は血相を変えて振り向く。その先には、矢が深々と胸の真ん中に突き立ち、背中から崩れ落ちる老人がいた。

 

「そんな……ッ!!」

「おー流石は自称百発百中なだけあるな」

 

 崩れ落ちた老人に少女が駆け寄るが、既に老人は虫の息。矢も間違いなく心臓に到達しており、もう助かる見込みはどうやってもない。手元にエリクサーでもあれば別だが、そんなものを持つ余裕など彼女にはなかった。

 

「さて、本日のメインディッシュだ、頂戴しようか!!」

 

 リーダーの男はただただ低く笑うだけであった。手を大きく振り上げ、仕上げと言わんばかりに迫って来る。

 完全に詰みだ。反逆の手立てはなし。残るは最期の悪足掻きが精々か。

 

 そう覚悟を決めて、動かなくなってきた体に力を込め棒を握り直した。

 

「おう、メインディッシュか。ソイツはいい、最高だ」

 

 それと同時に、全く別の場所から声がした。正確には先ほど矢を放った男の後ろ。道から外れた茂みだ。

 がさがさと草木を掻き分ける音がして、それからくたびれたローブを着込みフードを被った人影が現れた。

 

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「……ん? なんだ、なんか変か?」

 

 まるで時が止まったのかと思う程に、その新たに現れたローブの人影は衝撃的だった。

 不思議そうに彼を見つめる視線を受け止め、不思議そうに首を傾げて右手の岩塊を振る。

 その岩は全長三M以上はあるだろう。そうなれば人間が片手で持ち上げるのは困難極まる。神の恩恵を受けた人間ならば十分その素質はあるのだろうが、これ程のものとなると相当の力が必要なはずだ。となればある程度の知名度もあって然るべきだと少女は思考する。

 

「別に変じゃないさ、俺にとっては。だからこれからすることも、俺が今までしてきたこと。何も変じゃない。だから食わせろ」

 

 その人影は男だった。

 そして男は笑っていた。

 ローブの下に見える口元から、鋭い犬歯を覗かせていた。

 

「イタダキマス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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