キノンの没作品シリーズ   作:いつのせキノン

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2つ目の話

 時は流れて、小学三年生になった。相も変わらず東と篠ノ之の浮きっぷりは直らないままだったが、一年の頃とは違って彼らに関わろうというものは完全にいなくなった。お陰でいじめも消えたが、最早二人に話を振るような人間はいない。

 そして、私はというとあの日以降その二人とよく一緒にいるようになった。登校や休み時間、放課後の下校時間も三人で一緒になり、東と篠ノ之のあーでもないこーでもないという理解できない科学談義を流し聴いたり、二人が独自で作ってくる玩具のような物を動かして遊んだりしていたのだ。その所為なのか、それともそのお陰と言うべきなのか。東と篠ノ之に物事を頼むには私を経由すれば良いというよくわからない暗黙の了解がシステムとしてすっかり出来上がってしまっていたのだ。

 それと、私はちょくちょく篠ノ之道場に行くようになった。篠ノ之はあんまり良い顔をしていなかったが、あの日の力不足を感じて以降自分なりに強くなりたいと思ったからだ。

 

「そう言えばちーちゃん、弟がいるんだっけ?」

「ああ、そうだな。もう少しで生まれて一年になる」

「千冬君の弟かい。さぞかし男前なのだろうね」

「おい野分、それは一体どういうことだ?」

「どうも何も、僕は正直な事を言ったに過ぎないんだがね?」

 

 本当に、コイツはデリカシーというものが無さすぎる。因みに篠ノ之――今では束と呼んでいる――の言う“ちーちゃん”とは私のこと。ちふゆ、だからちーちゃんらしい。最初は恥ずかしいから止めろと何度も言ったのだが、結局私が折れることになった。束は一度決めたら本当に頑なに変えようとしないからな。しかし何故か野分――こちらも東から名前に変えた――の言う事は聞くのだ。私も「束の渾名(あだな)を止めさせるよう説得してくれ」と頼んだのだが、「それは君たちのやりとりであって僕が介入する余地は無いよ」と断られた。何を頼もうとものらりくらりとかわされるものだから私も諦めたのだ。

 あと、野分にはアイアンクローをかましておいた。しかしコイツは全然痛がる素振りを見せないから不思議だ。手をタップするのは毎回だがアイツの表情はいつ見てもドヤ顔を崩さない。本当に神経の通ってる人間なのか……?

 

「ねぇねぇちーちゃん。今度弟君見に行っても良いかなっ?」

「ふむ、僕も興味が出てきた」

「べつにかまわないが……二人してどうしたんだ?」

「「何となく」」

「お、おう」

 

 しかし野分と束は相性が良いのか息ピッタリである。二人の間で大体の問題も発展せずに治まるのでクラス委員としては本当に助かる。

 

「じゃあ今日の放課後だね!!」

「いきなりすぎるだろ!? こっちだって家の用事がだな」

「だって今日ちーちゃん剣道休みでしょ?」

「毎週この日は君も特に何もないから家で寛いでいる日だと一年と二ヶ月飛んで三日と更に飛んで二分前に言っていたからな」

「わたしはお前がこわいよ」

 

 何故コイツはこんなに記憶力まで優れているんだ。束もそうだが、コイツらは本当に頭の作りがズバ抜けて違い過ぎる。授業中は別のことをしている癖にテストは毎回満点。一度家から適当に持ってきた難関大学入試問題を解かせたら二人は口頭だけで全部解いてしまったのだ。

 

 ……まぁしかし、この二人なら仕方ないのと割り切る自分がいるのだが。

 

 

 

 

 

 放課後、いつも通り三人で下校するが、途中で別れることはなくまっすぐ私の家に向かう。

 家では母さんが私の弟――一夏の世話をしていた。今は寝てしまっているらしく、私達は三人でベッドを取り囲んで一夏の寝顔を眺めていた。

 

「へぇ、この子が弟かぁ」

「かわいいだろ?」

「ふむ。僕的な感性だと正直どうでも良いが、答えるとすれば可愛いのだろうね。だが、これは将来格好良いのソレになるだろう。目尻が千冬君にそっくりだ」

「おぉ、ホントだ。これは将来イケメン確定だねっ」

「て、てれるな」

「僕や束君は一夏君のことを褒めているんだがね」

「照れてるちーちゃんも寝てるいっくんも可愛い。真理だねっ」

「なるほど、新しい真理だ。覚えておくとしよう」

「まて、わたしがかわいいというのはなっとくがいかない」

「甘いねちーちゃん。ちーちゃんが納得するしないはもう無意味。これは決定事項なんだから」

「中々愉快ではないか、束君」

「いやいや、のんちゃんも負けてないよ」

「「むふふふふふふ」」

「ダメだこコイツら早く何とかしないと……」

 

 もう手遅れか。

 何やら怪しい笑みを浮かべる二人だが、もういつもの事なので気にしない方向にした。いちいち気にかけていては精神的に持たないと判断したからだ。

 

「どこまで千冬君について行くのかね。彼も剣道を志すのだろうか」

(ちーちゃん)を超えるべく(いっくん)が力を求め熱き闘いに身を投じる。安っぽいけど王道な展開だね」

 

 好き勝手言ってくれる二人だが、悪い気はしない。周りからはアレな評価を貰う二人だったが、やっぱり私にとってはそこが一番楽しい居場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跳ね返らないボールを作ってみた」

 

 またまたある日のこと。放課後いつも通り集まった三人だが、唐突に野分が取り出したのは掌いっぱいいっぱいくらいのボール。

 

「はね返らないボール? かべにあたってもか?」

 

 私の疑問にやはりドヤ顔で答える野分。見慣れてしまったものだ。

 

「そう。千冬君、君は多分一瞬ボールが割れて『はい跳ね返りませんでしたー』と僕がからかうと思ったね?」

 

 正直言うと、そうだ。

 

「残念。これは正真正銘、跳ね返らないボールだ。普通なら重量を増すことで同じようなのを作れるけど、今回は中に特殊な機構を用いてみたんだ」

 

 よく言ってることはわからないが、スーパーボールみたいな材質のそのボールは跳ねないということ。

 

「壁に張り付くわけでもないんだけどね。単純に、壁に当たったら跳ね返らないで壁沿いに落ちるようになるんだ」

 

 そう言って野分が軽く壁に向かってボールを放った。普段なら跳ね返ってくるはずだが、ボールは壁に当たった後には壁を伝って落ちた。

 

「……なんだか、地味だな」

「そうだとも。こんなのは慣性制御を限定的におこなっているだけで中身はガラクタも良いことさ」

 

 壁際に落ちたボールを拾った野分が「投げてみる?」とこっちにボールを渡してきたので持ってみた。隣では束が興味津々といった様子で私の手の中を覗き込んでいる。

 材質はスーパーボールと同じだ。スーパーボールと言えば、あのよく跳ねるボール。小さい頃はアレを追いかけて遊んでいた覚えがあった。

 試しに一投、壁に向かって投げる。やっぱり先ほどのようにボールは壁に跳ね返ることなく壁際に落ちた。確かに跳ね返るような力加減で投げたはずなんだが……。

 次は束が。手の中のボールを「むむむ」と唸りながら見ているが結局また私と同じように投げた。結果はどう投げても同じ。いくら強く投げてもボールはこっちに転がって来ることはなかった。

 

「ねぇねぇのんちゃん、もしかして中に回転機構か何か使ってる?」

「ご名答。その通り、中身は極単純なものだよ」

 

 回転機構? と私が首を傾げていると野分が説明してくれた。

 

「ボールの中には中央を起点に磁力でその周りを自由に飛びまわる小さな鉄球を入れてるんだ。壁に衝突した時の衝撃を内部のセンサーで感知して、鉄球を任意の回数だけ内部で回転させる。お陰で跳ね返るはずのボールは慣性が調整されて跳ね返らなくなる。簡単に言えばこうかな?」

「…………あ、ぅ、そ、そうか」

「その顔はちーちゃん理解してないね?」

 

 束の言う通り、図星だ。そもそも慣性とは何だ。絶対それが重要なんだろう。

 

「まぁそのうちわかるとも。ただ、千冬君が理解する頃にはこれももう過去の遺物。わかったところで君の役には立たないよ」

「そうだねー。その頃ならもっとマシな奴が作られてるだろうし」

「作られていなかったら作るまでだ。どうせ暇になる」

 

 いやー楽しみだねーと笑みを浮かべる束。この二人、さらっとスゴいことを言っているのだが気付いていないらしい。いや、結局彼らにとってそれが“普通”なんだろう。私がその境地に至っていないだけで。無論ソコに行ける気は微塵もしないが。

 

「水中や宇宙空間での姿勢制御にも使えるね。まぁ重力の影響が無いところならブースターでも推進器でも使えば済む話だけど」

「それでもエネルギー効率は格段によくなるんじゃない?」

「それもそうか。ふむ、色々と考える余地がありそうだ」

 

 言ってることは相変わらずだが、取り敢えずこの会話は小学三年生のするものではないだろう。聞いてて脳が疲れる。

 

「それに、地球でやることが無いなら宇宙にでも進出すれば良い話」

「おぉーそれいいね!!」

「たしかに人間は宇宙にも行けるが……お前たち二人はムリじゃないか? あれは相当なくんれんがひつようだとテレビで言ってたが」

「だったら訓練しなくても行けるようになる物を作るまで」

「だね」

「オイッ!!」

 

 なんて無茶なことを!! そんな焦る私をからかっているのか、二人は笑いながらあれやこれやと次々に私にわかりそうもない話を振ってくる。答えられないと「こんなのもわからないのかい?」と煽ってくるし、適当なことを言えば「まだまだ甘いなちーちゃんはぁ」とやはり煽ってくる。むぅ。

 

「あ、ちーちゃんがむくれた」

「これは珍しい。写真でも撮ろうか」

「ヤメろバカもの!!」

 

 わーわーぎゃーぎゃーと、騒がしい一団が夕暮れの中を歩き始める。そこには笑顔で寄り添いながら時に冗談を言い合いながら、それでも楽しげに歩く子供たちがいたのは、確かなことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きは字数少なかったのでここで紹介

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 転機は本当に唐突だった。










 小学校六年生の梅雨の時期。その日は生憎の雨。天気予報できちんと傘を持ってきていたから良かった。

「ちーちゃん相合傘しよーっ」

 そう言って中に堂々入って来たのは、束。コイツは何故か傘を忘れていた。朝からあんなに天気が悪かったというのに。もしかして脳内が晴天の下のお花畑たる束には曇り空が見えないのかもしれない。

「仲睦まじいね」

 そう言ってニヤニヤとこちらを見るのは例のごとく野分。ああ、あのムカつく顔にアイアンクローをかましてやりたい気分だ、が、雨に濡れるのでそんなことはしない。

「むふふ、ちーちゃんと束さんは恋人だからねー」
「おっとこれはすまない。二人の恋路を邪魔しようとしていたとは、僕も気が向かなかった。それじゃあそそくさと帰らせてもらおうか」
「あ、待てッ!! ちがうっ、私と束はそういうかんけいじゃない!!」
「そんなッ、ちーちゃん、束さんとはお遊びだったの……?」





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こんな感じ。
冒頭で匂わせてるのはこの後織村家の両親が消えるって言う伏線のため。
鬱で萎えたのか続きを書く気が起きなかった。
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