地底人、聖杯を求める
「――――正気を保っている人間か」
召喚して、一言目が、ソレだった。
「…………は?」
「珍しい。よもや地下に人がいるとは。ふむ、しかしそのような出で立ちで、よくも無事でいられたものだ」
そいつは、見てくれは実に騎士らしかった。
女性で、ニメートル近い身長と、真っ白な肌と髪と、アメジスト色の瞳。羽付きのハットを眼深く被り、首元には赤いスカーフが巻かれていて、黒ずんだ深緑色の外套が妙にマッチする。
――――何より目を引いたのは、右手に持った刀。
長刀と短刀が柄の底の部分で接続されていて、扱い辛そうというのが正直な感想。西洋チックな見た目に反してちぐはぐが過ぎた。
反対に、左手には実に古めかしい銃を持っている。見た目は一発ずつ弾を込める物と思われ、時代的には18~19世紀程度だろうか。
「……レディ、貴方はここで何を? まさか神秘のみで聖体を求めに来た訳ではあるまい」
「ちょっ、ちょっと待って、待ちなさい。全然話が見えないんだけど……アナタ、自分がいる状況を理解してる? サーヴァントなんでしょ?」
「初見の場所や状況の渦中に飛ばされる経験は数えきれない程してきたつもりだが……私がサーヴァントであると?」
「……………………………………………………………………………………、」
呆れた。
「嘘でしょ……完全にハズレサーヴァントじゃないの……っ」
「勝手に納得されると私も困る。貴公は何者だ。考えるに私がここに来るのを予期していたと見えるが」
「あー……じゃあ聞くけど、アナタはサーヴァントという言葉をご存知?」
「……否」
この時点で既にアウトもアウトなのよねぇ……ッ!!
「はい、じゃあもういいわ、質問終了。説明してあげるわよ、もう」
「……気が進まない様子だ。貴公にとってこの状況はそこまで納得のいかないものなのか」
「当たり前じゃない。聖杯戦争でサーヴァント召喚して華麗に戦ってあっという間に勝ち進んで、見事聖杯ゲットの予定が水の泡よ」
すっごい腸が煮えくりかえってるわ。
まぁしかし、目の前のこの女性はサーヴァントに相違なく。
パスが辛うじて繋がってるのも確認できるし、器を構成する膨大な魔力も認知できる。
「……ふむ……これは……、」
「何よ。何かあった?」
「いや、どうもここは
「獣って、ペットは飼ってないし当たり前だけど……ジョーイシャ?」
「知らずとも良いことだ、レディ。啓蒙を求めることは、結果的に、自らの身を滅ぼすことになるだろう。それよりも、この状況に詳しいというのなら説明を求めたい。対価は…………血晶石でいいだろうか」
「何それ、別に私は対価とか――――ひぃっ!? きもいっ!! 気色悪い!!」
ごそごそと懐を漁り出したかと思えば、グロテスクな放射型の塊を取り出した。血肉みたいな赤黒さ、ところどころに浮き出た吹き出物のような斑点。素直に言おう、気色悪過ぎる。おかげで鳥肌が止まらなくてぞわぞわする。
「しまって!! 即刻!! 今すぐに!!」
「そうか……。いや、妥協用だったから性能が劣るのは確かだが……」
「性能とかそういうのはいいのよ!! ただただ生理的に気持ち悪いの!!」
やばい、見た目すごい綺麗な女性なのに感性が360度…………待った、360度だと元に戻ってきてるわね。180度だわ。ともかく、このサーヴァントは人間的感性に何かしらの欠陥がある。英霊だから普通とは違うと思っていたけど……。
渋々とグロテスクな塊をしまってくれた彼女を一階の洋室に通した。
こっからはいわゆる説明。聖杯戦争、サーヴァント、マスター、その他もろもろ。
何で聖杯から呼ばれるサーヴァントに聖杯戦争の説明をしなければいけないのやら、とは思ったけど、召喚してしまった以上は彼女と聖杯戦争を勝ち進まなければならないためやむなし。出来る手段は可能な限り実行して勝率を上げなければ。
話してみてわかったけど、彼女はやはり正規のサーヴァントではない。
とある地下の探索を続けていて、帰ろうとしたらこの洋館の地下に出たらしい。
つまりはまだ存命の人物であり、魔術とは無縁の……けれど、何か摩訶不思議な力を携えた人物ということに。
名前は、無名。強いて言えば“狩人”と呼ばれているとのこと。何でもある時を境に記憶を失っており、名前を思い出すこともできないとか。
それと、聖杯から知識を授かっていないことからクラス割り当ても不明。本人は特に秀でた武勇はないとのことで、しかし見てくれからセイバーもしくはアーチャーかと思われる。ただややこしいので、狩人であるということから勝手にハンターと呼ぶことにした。
そして、重要なことをもう一つ。
「ねぇ、ハンター。アナタは何を望んでいるの?」
聖杯戦争は、あらゆる願いを成就させるという聖杯の奪い合い。呼び寄せられたというのなら、やはり叶えたい願いを持っているハズだ。私はそう考えた。
「それは願望、で良いのか?」
「何でも。さっきも言ったように聖杯はありとあらゆる願いを叶える聖遺物。アナタも何か叶えたい願いがあるからこそ参加したんでしょうし」
私がそう言うと、ハンターは一度目を閉じて口元に手をやり、しばし考える素振りを見せた。
「……まぁ、願望ならば人並みには持ち合わせているだろう」
「へぇぇ、じゃあ一つじゃなかったり?」
「ふむ……そう、だな。一つあげるとすれば、まだ見ぬ秘境を求めること、か。あとは血晶石」
「もう血晶石はいいからしまって」
「……そうか……」
ハンターはことあるごとに血晶石というあのグロテスクなものに執着する様子を見せてくる。
何やら良いモノと悪いモノがあるのはわかったけど、本当に生理的に受け付けないのでやめてほしい。
そして私が「しまってくれ」というと目に見えて落ち込んで懐に戻すのだ。もしかして布教でもしたいのだろうか。だとしたらまずはその見た目をどうにかした方が良いと切実にアドバイスを送りたい。
「話を聞いてみたが、その聖杯もまた特別製らしいな」
「特別の中の特別よ。過程をすっ飛ばして結果だけを再現するんですもの、アーティファクトになって当然」
「……儀式をしたらどんなダンジョンが生成されるのか楽しみだ」
「私が言うのもアレだけど、アナタちょっと使い方間違ってるわよね」
願望の叶え方が絶対に違う。確信できる。
「聖杯と言えば儀式、聖体を求め地下へと潜る……古から続く狩人のやり方だ。私が見つけた最後の聖杯はこれだが、まだ新たな聖杯があるというのならば、求めるのは
「これまた薄気味悪いモノを出してきたわね……」
私とハンターが挟むテーブルの上に、どっから取り出したのかは不明だけど、何か不気味なオーラを感じるモノを置いた。鈍い灰色で、形は林檎っぽく、中央には杯らしい窪み、下には
「……ねぇ、確認なんだけど……それも聖杯……?」
「ああ、そうだ。不吉なるイズの汎聖杯、というらしい。以前地下で会った同僚に聞いた」
どう見ても聖なる杯ではない。どっちかっていうと呪いの杯だ。名前からして不吉なるとあるあたりでもう嫌な予感しかしない。
「一つたずねたい、レディ。聖杯というものは願いを叶えた後にはどうなる? ガワだけでも残るのならば貰いたいところだが」
「……さぁ、どうなるのかしら。今まで聖杯が顕現したことは一度もないって記憶してるけど。手元に残るかどうかは勝ち取らない限りはわからないわね」
「なるほど……仮に消えてしまうとしたら、無理矢理取り込む他手はない、と」
「……取り込むって、どうやって?」
「……血で、どうにか。今まで大体はどうにかなった」
「不安しかない……っ!!」
確かに先ほどから色々と体積的にしまえない物まで出し入れしているのを見る限りそういう宝具か何かを保持していると考えられる。……けど、あまりに曖昧な自信過ぎて正直心配だ。
「ま、ざっとこんなものね。それでハンター、アナタはどれくらい強いのかしら。勝つからにはそれ相応の戦闘力が必要だけど」
「……そうだな。私は決して負けないし、諦めることはない。断言できるのはそれくらいか」
「何でそんなに曖昧なのよ」
「初見相手に勝ったことなど、私の経験からすれば稀だからだ。何度も何度も、回数を忘れるほどに挑み続けて、そうやって壁を超えてきた。今まで心が折れたことはない。最近自覚したばかりだが、私の強さなんぞその程度でしかない」
結局、全ては自分のためでしか戦ってこなかったから、と彼女は言う。
……ちなみに理由の八割が既に聖杯の新たなダンジョンを探索するためである。残り二割はもう昔過ぎて忘れた。
おわり